5-15 話術って、意識すると難しい
読んでくださり、ありがとうございます。
○この回の主な登場人物○
御神野 緋凰(通称 凰姫)……主人公。この国のお姫様。八歳
瑳矢丸……緋凰の世話役。十歳くらい
つやっつやに輝いている白い玉。
串に行儀よく並んでいるそのお団子達を見ると、店先の床几台(長椅子)に座っている緋凰は、満面の笑みであ〜ん、と口を開けた。
「一口はもっと小さく」
隣に座っている瑳矢丸の注意を受け、緋凰はピタッと止まると、大きく開けた口をススス〜っとすぼめてから団子にかじりついた。
「これでいいデスカ?」
物足りなさそうな顔で緋凰はもぐもぐしていると——。
瑳矢丸があっ、となった。
——つい、注意してしまった! 違う! 明るい話を。えっと、まずは……。
以前、平助に教えてもらった事を、懸命に思い出していると……。
「そういえばさ〜。だいぶ前に、町の道場の男の子がさ、『姫武将〜』とか言ってくるから、庭にいたでっかいバッタをぶん投げてやったら、チキチキ〜って飛んで顔にピタって付いてそいつが、ぎゃーーってなって、先生がこらーー! って怒ったときに——」
緋凰が先におしゃべりを始めてしまった。
「ま、まってくれ、緋凰。ちょっと俺の話を聞いてくれないか?」
瑳矢丸が焦って話を遮ってきたので、きょとん、となった緋凰は、
「うん、いいよ〜」
と言って、団子を片手に居住まいを正した。
少し前かがみになって膝に両腕をつき、手のひらを組むと、瑳矢丸は神妙な顔で口を開いた。
「えっと……その……。今日は、いい……天気だな……」
「……うん」
「…………」
「…………」
(あれ? 続きは?)
険しい顔で、やや下を向いたまま固まってしまっている瑳矢丸に、緋凰はわずかに戸惑い出した。
(天気の話なのに、空を全然見てないよね? 何だろう、とっても言いにくい話があるの? とりあえず、話を合わせればいいかな?)
緋凰は空を見上げてみる。
「今日の空は水色だね、ちっちゃい雲がぽつぽつあって……あ、あの雲なんて鰯みたい! 夕餉は——」
「ちょっ、ちょっとまて! まだ俺が話をしている!」
瑳矢丸が、またもや焦って話を遮ったので、緋凰は慌てて口を閉ざす。
内心で壮絶に狼狽えながら、瑳矢丸は考えていた。
——クソッ! 天気とかマジどうでもいい事を言ってしまった! どうしたら……。
平助が、
『とりあえず、ひたすら褒めるとかさ〜』
と言っていたのを思い出す。
瑳矢丸は咄嗟に、先程の緋凰の話を使った。
「『姫武将』だなんて、すごいよな。緋凰はほんと、強いから」
武術を習う者としては最高の褒め言葉で、ハハっと笑いかけたのだが……。
緋凰の顔がムスッとなると、
「全然すごくないもん! 私、武将になんてならないから‼︎ お淑やかなお嫁さんになるんだもん!」
ぷりぷり怒り出してしまった。
——しくじった! いや、俺、緋凰が武将になりたくないの、知っているのに。何言っちゃっているんだ、俺!
瑳矢丸は脳をフル回転させて、挽回できる話を探した。
『あの座布団はお前が作ったのか——』
煌珠が緋凰にかけていた言葉を思い出すと、
——単に褒めるのではなく、相手の好きな事を褒めなければ。……よし、これだ!
瑳矢丸は意を決して、緋凰の顔を見る。
「あぁ、悪い。そうだ! こないだ、俺のいない時にダンゴムシの絵を描いていただろう。上手く描けていたよな。本物みたいだった」
緋凰の顔がパッと明るくなったのを見て、瑳矢丸はホッとする。
「ほんと? 嬉しい! あれね、頑張ったんだよ。箱にいれたダンゴムシを、部屋で一生懸命に見て描いたんだ」
「え? ……じゃあ、あの日。殿の部屋にダンゴムシが這っていたのは、そのせいではないか?」
緋凰はぎくりとする。
「ち、違うよ! だってちゃんとその後、全部庭へ逃したもん。私じゃないもん」
「本当に?」
「ほんとだよ! 勝手に入ってきたんだよ」
瑳矢丸はじ〜っと笠の中の緋凰の顔を見る。
「……嘘だと分かったら、裁縫箱をひと月の間、没収するぞ」
「すみませんでした! 私です! 私がやりました‼︎ 箱をうっかりひっくり返したんですぅ〜……」
ひと月も好きな事ができなくなる恐怖に、緋凰は速攻で自白をしてしまった。
そして瑳矢丸は、ハッと気がついた。
——あれ? 楽しい話じゃなくなっている⁈ 最後にはもう、尋問じゃないか⁈
サ〜っと血の気が引いてくると、
——俺って……そんなに話のつまらない男だったのか……?
がっくりとうなだれてしまった。
(あ! 瑳矢丸が落ち込んでる⁈ もしかして、あの後、父上にダンゴムシを入れるなって怒られたのかな?)
緋凰はそっと、瑳矢丸の背をわずかにさすると、
「ごめんね。……あ、ねえ。この後、真瀬馬のお屋敷に寄っていい? 花桜ちゃん(瑳矢丸の妹)とおしゃべりしたいな」
家族と会えば、瑳矢丸も元気になるかもしれないと、さりげなく気を配った。
「あぁ……。構わない」
気持ちがいっぱい、いっぱい、になっている瑳矢丸は、その気遣いに気がつく事はなかったのだった。
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これからも、どうぞよろしくお願い致します。




