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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第一章 体罰子守に立ち向かえ!〜始まりの勇気編〜
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8.凰亀鷹の三者会議

読んでくださり、ありがとうございます。

至らぬ点も多いかと思いますが、

皆さまに楽しんで頂けるよう、がんばります。

 

 数日後——。

 

 「亀兄上が二の丸御殿に行くなんて、珍し〜よね」


 城の敷地内を二の丸御殿に向かって歩きながら、鷹千代たかちよは笠をあげて、そのおっとりとした顔を隣の亀千代かめちよに向けた。


 真夏の刺すような暑い日差しにうんざりしながら、兄はぶっきらぼうに幼い弟へ返事をする。


 「まあ、じいさまに話を聞きに行くだけだ」


 祖父である閃珠の旅の土産話は、孫達の大きな楽しみの一つである。

 だが……。


 「え? 昨日お祖父様、うちに泊まったからたくさんお話し聞いたのに。また聞くの?」


 鷹千代は不思議に思って再度問いかける。


 亀千代としては、本当はあれから緋凰ひおうの事がどうにも気になっていたので、様子を見に行くものなのだが……。


 「……めんどくせーな。その虫、暑いからもう死んでんじゃね?」


 彼は野暮やぼな事を言わない。

 かわりに大いに話をそらした。


 胸元に大事に持っている小さいつぼを、鷹千代はじっと眺めると、

 「土濡らしたから大丈夫だよ。それとダンゴムシは虫じゃないよ」

 と亀千代の言葉を訂正してくる。


 「……クソどーでもいい。あちー。着物脱ぎてー」


 正装にしている水干すいかんの胸をバシバシ引っ張りながら、亀千代は二の丸御殿の方を仰ぎ見る。


 以前は一緒に暮らしていたが、今や緋凰は、普段着で気軽に会いにゆけない場所で暮らしていた。


 「そもそも、凰姫おうひめ(緋凰)は国の女ん中で一番の姫なんだぞ。手土産に虫なんぞ持ってくんなよ」

 亀千代は汗を拭きつつあきれて言った。


 「だって凰姫はダンゴムシ好きなんだもん。だから虫じゃないって!」


 鷹千代の抗議に、この話題を振った事を後悔しながら、亀千代はたどり着いた二の丸御殿の門を、後ろに付いてきている自身の護衛達と共にくぐる。


 「今頃キレイな着物着て花でも生けてんじゃね? 虫なんぞデコピンだろうよ」


 意地悪な顔で言った亀千代の言葉に、鷹千代は泣きそうな顔になったのだった。


ーー ーー

 その国一番のお姫様が、台所で使用人達に混じり、簡素かんそ小袖こそで姿で豆の皮をく手伝いをしている姿を見て、亀千代と鷹千代は二度見して仰天した。


 「凰姫⁉︎ お前、一体何やってんだ!」


 二人に気がついた緋凰は、座ったまま手を振って笑顔になった。


 「亀兄かめにいたかちーだ! すごいね、キレイな服着てどうしたの〜? 二人ともすごいカッコいいよ!」


 どこからどうみても使用人にしか見えない緋凰に、体面を結構気にする亀千代はイライラしてくる。


 「お前! ちょっとこっち来い‼︎」

 「え〜? これ終わったらね」

 「いつ終わるんだよ⁉︎ それ!」


 ザルいっぱいの豆を見てキレそうになりながら、亀千代は緋凰の腕をガシッとつかむと、外まで無理矢理引っ張っていった。


 それを見て慌てて鷹千代も続いていく。

 

 「どうしたの? みんな私に会いにきたの?」


 ぐいぐい引っ張られながら、緋凰は目の前の亀千代の背中に聞いてみた。


 「うん! そうだよ」

 隣の鷹千代が笑顔で答える。


 「じいさんに会いにきただけだ」

 前をむきながら、亀千代はやっぱり建前で答える。


 「お祖父様? 昨日から帰ってないからここにはいないよ。あ! そうそう——」


 緋凰は無理矢理早足になってしまいながらも、鷹千代に興奮して話し始めた。


 「お祖父様ったらスゴイんだよ! 武術のね、お稽古がね、めっっちゃくちゃキレイなんだよ‼︎」


 「? ……武術ってキレイなもん? 怖くない?」


 鷹千代は緋凰の言っている事がよく分からない。

 だが亀千代には分かった。

 なぜなら閃珠の太刀筋や動きを知っているからだ。


 「じいさんの動きの美しさは評判だからな。神ががっているから、そこらの神社とかに剣舞を奉納させられまくっている」


 「やっぱり! 素敵だよね〜。私最近いつもお祖父様のお稽古見てるの」


 緋凰と亀千代のやりとりを聞いて、鷹千代はうらやましくなってくる。

 「ふーん、そうなんだぁ。今度僕も見よっと」


 そんな話をしていたら、突然亀千代は立ち止まると、後ろの護衛達に別の場所で待機するように命じて、また緋凰を引っ張ってゆく。


 緋凰の部屋の前の庭まで来て、ようやく手を離した。


 「何だお前、その格好は⁉︎ そもそも台所で何やってんだ? 使用人じゃあるまい!」


 振り向きざま、いきなり怒鳴り込んでくる亀千代に、緋凰はオロオロする。


 「え? だって亀兄が教えてくれたじゃん。味方つくれって……。さっきまで近くにおじいちゃん(包之介)がいたんだよ。お祖父様達の近くにいれば、おたねも殴ってこないし」


 「え⁉︎ 凰姫って殴られるの?」


 鷹千代が驚いて目を丸くすると、亀千代は舌打ちをして辺りを警戒しながら見回す。

 そして緋凰の腕をまたもやつかむと、庭の目立たない所に連れてゆく。


 鷹千代は慌てて持っていた小壺を縁側の涼しい所に置くと、二人に追いついてくる。

 すると亀千代が振り向いた。


 「たか! これから凰姫が話す事を誰にも言わないと誓え! 出来ないなら、マジで来るな」


 「え? ……えと……」


 いつになく真剣な兄の顔に、わずかに怯えるも、


 「分かった! 言わない‼︎絶対誰にも言わない‼︎」


 好奇心のかたまりである子供は、こぶしをにぎりしめて言い放つ。


 三人で庭の隅までくると、亀千代は塀に背中を預けて腕を組むと、

 「話せ。何が起こっている?」

 そう緋凰に問いかけた。


 「何って……。おたねが殴ったり蹴ったりしてくるの」


 答えた緋凰に鷹千代は、またもや驚いて目を丸くする。


 「え⁉︎ そいつひどくない? ヤバいよ」

 「黙ってろ」


 亀千代がギロリとにらむので、鷹千代はいそいで両手を使って口をふさいだ。


 「それで、何でそいつはそんな事をしてくるんだ?」

 「え? ……知らない」


 目をぱちくりさせている緋凰に苛立ちながら、亀千代は落ち着いてもう一度問うた。


 「殴るのは行動にすぎないだろ? そうするには必ず理由があんだろうが」

 「こうどう?」

 「めんどくせーな、おい。どういう時に殴ってくんだよ!」


 話が進まない事に落ち着かなくなってきた亀千代を見て、緋凰は焦ってきた。


 (そんな事言ったって〜)

 う〜ん、と一生懸命におたねが殴ってくる時の事を思い出す。


 「えっと、私がお水をこぼしちゃったり……湯のみを落としたりとかいろいろ……」

 「……は? 何だそれ? 他には?」

 「えっと……」


 緋凰は下を向いてしまう。


 わずかな沈黙の後、亀千代は拍子抜けしたようにため息をついた。


 「何だ、ただのしつけかよ」


 そうなのだ。


 緋凰としても、自分が悪いから仕方がないのだとも思うので、何も言えないのだ。

 ただ……。


 「でも、すっごく痛いもん」


 小さくつぶやいた緋凰を見て、亀千代はあきれた顔をする。


 「そんなもん、俺だってクソ親父(天珠)にしょっちゅう殴られて痛いっつーの」

 「それは兄上が、すっごいヤバい事するから」

 「だまれ」


 割って入ってきた鷹千代を軽くにらむと、亀千代は壁から背中を離す。


 「大げさにするな、弱っちーな。アホくさ」

 そう言って背を向けて歩き出した。


 「そんなに痛いの? どれくらい?」


 鷹千代が何気なく聞いてきたので、緋凰はわずかに考えた後、

 「これくらい」

 と言って両手をそでに引っ込めた。


 亀千代が首だけ後ろを向く。


 なんと緋凰は、たもとから手を出したと思ったら、そのままバッと着物を割って上半身を脱いでしまった。


 「わあ——‼︎ ×2」


 どーんと目を吹っ飛ばすと、鷹千代は慌てて人に見られないように両手を広げて壁になった。

 亀千代も駿足しゅんそくで戻ってくると、緋凰の腰から下がっているそでつかむ。


 「おま、バカ! 何やって……」


 着物を戻そうとした手がぴたりと止まった。


 緋凰の身体に、青だったり黒だったりの小さなアザが無数に散らばっているのを見て、亀千代の表情がこわばる。


 「あざとかできるから、みっともなくて困ってるの」


 緋凰は心底嫌な顔をして、自身の体を眺めた。


 「わあ、痛そう。大丈夫なの?」


 鷹千代が心配して緋凰に話かける一方で、亀千代はそっと背中も確認してみた。

 背中にも同じようにアザがあって、ところどころにみみずれもついている。


 ——違和感がある。何だ……?


 亀千代は懸命に考えを巡らすが、その正体はつかめなかった。


 「亀兄、亀兄」


 その声にハッと我に帰った亀千代は、目線を緋凰の身体から顔に移した。


 「もう着物きていい?」


 両手でそでを持ったまま固まっていた事に気がついた亀千代は、あわあわと緋凰の身体に着物を着せる。


 「わ、悪い……」

 「兄上、へんたーい」

 「だまれ」


 鷹千代の言葉に若干じゃっかん動揺しながらも、着物をきちんと整えてやってから、亀千代は緋凰の両肩を持って目を合わせた。

 緋凰のあどけなさが存分ぞんぶんに出ているその深い瑠璃るり色の瞳を見ると、なぜだか不安が込み上げてくる。


 「いいか、凰姫。人の上に立つ者は強くなくちゃいけない。たがな——」


 後ろからわずかに気配を感じた亀千代は、顔を上げると話を中断して振り向いた。


ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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