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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第四章 私の方が守るんかい! 美しい人って大変だ 〜美童狩り編〜
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おまけの巻3/ お祭り? 軍事演習〜後編〜

読んでくださり、ありがとうございます。

○この回の主な登場人物○

 御神野みかみの 緋凰ひおう(通称 凰姫おうひめ)……主人公。この国のお姫様。七歳

 御神野みかみの りつしん 煌珠こうじゅ……主人公の父。お殿様。

 瑳矢丸さやまる……緋凰の世話役。刀之介の三男。

 岩踏いわぶみ兵五郎ひょうごろう宗秋むねあき……家臣。武将の一人

 ブォーーーーーー‼︎


 あたり一面に法螺ほらの音が力強く響き渡る。


 その始まりの合図と共に、若者達が一斉に小山の頂上を目指して走り出した。


 「うおぉぉぉ‼︎ ぜってーーおれが取る‼︎」

 「バカ言え! おれがとっておミヨちゃんを嫁にしたる‼︎」

 「え? お前、ミヨが好きなん?」

 「あぁ‼︎ しまった! 言っちまった〜」


 ゲラゲラゲラ〜、などと若者達はそれぞれに想い人を頭に浮かべながら我先われさきにと、山道を駆けて行く。


 「最初、誰が待ち構えているかなぁ。どうやってあざむける?」

 「百敷ももじき様あたりだと難しそうね……」


 「まあ、でもその辺りからくるんじゃない? 最後に(武術最高峰組の)真瀬馬ませば(刀之介とうのすけ)様や伊農いの様でしょ。ごうしん様は正面切って勝てるはずもないから、えっとぉ——」


 それぞれに予想や戦略を立てながら突き進んでいると——。


 間もなく前方で武器を持って立っている数人の人物が見えてきた。


 「え? アレって……」

 嫌な予感に、兵士達の胸がザワっと騒ぐ。


 最初の関門には——


 仁王立ちの閃珠せんじゅを先頭に、一歩下がった左右に天珠てんじゅ刀之介とうのすけ、横の岩の上には伊農いのが、他にもそう々たる顔ぶれの武将が数人、あちこちで待ち構えているではないか!


 「はああ⁈ しょっぱなから武術最強組ぃーーーー⁉︎」


 それを見るなり、若い兵士達は魂が消し飛んだ。


 ずーーんと立っている沢山たくさん猛者もさ達の威圧感たるや……半端はんぱない。もはや圧巻である。


 ——勝てる気がしねぇ‼︎


 いきなりラスボスが現れたような感じで、兵士達の士気しきは一気にだだ下がりである。


 そんな中、先頭を走っている玄珠げんじゅが闘志を燃やして、真っ先に閃珠せんじゅの元へ走ってゆく。


 「ゆうしん様ぁーー‼︎」


 名指しを受けた祖父の閃珠せんじゅはニッと笑って、


 「来い! わしの可愛い孫よ‼︎」


 今や自分よりでっかくて迫力のある玄珠げんじゅに向かって走り出した。


 互いに間合いへ入った瞬間——!


 ガキィンッ‼︎


 頭上から振り下ろされた玄珠げんじゅの練習用のやりと、中段から迎え打った閃珠せんじゅの練習用のやりとがはじいて火花が散る。


 それを見て父の天珠てんじゅは、息子から自分に声がかからなかった事に、ちょっと残念そうだ。


 ところが。


 「お〜い、叔父上ーー♡」


 めいっ子の緋凰ひおうが向こうから、髪を瑠璃色にぴかぴか光らせて、笑顔でちょこちょこ走りながら名指してきた。


 ——プフーー! か〜わいい〜♡ 名指してんだか、ただ呼んでるだけなのか……。


 近づいてくると、緋凰ひおうが持っている小さな槍を構え始めたので、おっ、となった天珠てんじゅは、ニコニコしながら小走りに寄って行く。


 間合いに入った緋凰ひおうは、グッと足に力を入れて、一気にダッシュ!


 天珠てんじゅの後ろに回り込んだ。


 「——何⁉︎」


 焦って後ろを向こうとした天珠てんじゅの視界では、大きく真横にやりを振りかざしている緋凰ひおうの姿をとらえる。


 ガンッ——


 とっさに槍を盾にして、天珠てんじゅはその攻撃を受け止めた。


 ——あっぶな〜。


 油断大敵ゆだんたいてきの文字が天珠てんじゅの頭に浮かんだのもつかの間。


 正面から別の兵士達が襲いかかってきた。


 その横を、別の兵士達が通り抜けようと走る。


 「うお! いかん、いかん!」


 天珠てんじゅは踊りかかってきた兵士の首根っこをつかむと、横を走り抜けようとしている兵士達にそのままぶん投げて当てた。


 そして次々にいどんでくる若者達を手当たり次第、ぎ払い始める。


 その向こうでは——。


 「伊農いの様ぁ! 娘さんをボクの嫁にくださーーい‼︎」

 「ほざけぇ! 誰がお前らなんぞにいとしい娘をやれるかぁ‼︎ この、ボケナスどもめぇーー‼︎」


 伊農いのが目を血走らせて兵士達を蹴散らしている。


 その近くでは、刀之介とうのすけが黙々と周りの兵士達を倒していたのだった。


 

 圧倒的な武将達の強さに、ここを通り抜けられたのは……。

 わずか二十名程なのであった。

 

 

 ーー ーー

 次の関門は……。


 包之介ほうのすけをはじめとした数名の御年配の武将(OB含む)である。


 「おっ。きよったわい。結構おるのぉ〜」

 「も、ちっと減らしてほしかったなぁ」

 「おぉ、きびきび動いとる。さあ、骨折らんようにせんと」

 「ハハ、棒を振るだけであの世へ行けそうじゃわい」


 待っている間、円座で軽く酒盛りをしていたのを切り上げて、わらわらと立ち上がると、ヨタヨタと皆配置についた。


 その光景を遠目で見た若者達は、


 ——ジジイばっかじゃん! 殴ったらうっかり三途の川までいっちまうんじゃないか?


 全盛期の彼らを見た事がないので、なめてかかってしまう。


 間もなく間合いに入った兵士達が、攻撃をしかけるが……。


 あっさり見切られてかわされてしまう。


 それどころか、上手く地形の利を得る場所へ知らぬうちに誘導されて叩かれるなど、老獪ろうかいな知恵で撃退されてゆく。



 ……結局時間内にこの場を通り抜けられたのは、かろうじてだいたい二人程であった。

 

 

 ーー ーー

 「全くあの御老体方ごろうたいがたは……。すぐ飲み過ぎるから取りこぼす——。あ〜お腹いた〜い」


 小山全体がよく見える崖の上で、この国の軍師である細身の男が、ぶつぶつ文句を言いながら戦況を眺めている。


 「もう少し残って欲しかったけど……。武将の方々の腕は全く鈍っていないのね、素敵♡」


 その横で軍師補佐の一人、紫衣那しいながコロコロと笑っている。


 そしてさらにその横では、亀千代かめちよ瑳矢丸さやまるをはじめ、後学の為、練兵場に通う少年少女達が眼下の状況を熱心に見学していた。


 「すごっ。さすが岩踏いわぶみ先生……。もう鬼神の強さだね」


 鷹千代たかちよがほぇ〜、と声をもらす。


 ——凰姫おうひめ……。


 瑳矢丸さやまるは自身のあるじ始終しじゅう、目で追っていた。


 程なくして、崖の先に立っている煌珠こうじゅ与太郎よたろうへ何かを持ってくるように指示を出したのであった。

 

 

 ーー ーー

 「あれか!」


 小山の頂上にたどり着いた岩踏いわぶみは、奥の方で盛土にぶっ刺してある旗を見つける。


 だがその前には、百敷ももじき達四人の武将が守って立っていた。


 「お前どっち行く?」


 あがった息を整えつつ、体勢を立て直しながら隣の兵士へ岩踏いわぶみは声をかける。


 じゃあ、左で、と答えた仲間達と共に、駆け出した。


 百敷ももじき達も動き出す。


 ——流石さすが! ここにいたってもなお、力強い‼︎ 見事だ!


 岩踏いわぶみやりを交えながら、百敷ももじきはこっそり感動をしている。


 ここを守る者達は、事務仕事を得意としているものだが……。


 岩踏いわぶみ達は苦戦を強いられる。


 ——チッ! 簡単にはいかないか‼︎


 得意科目は文系でも、戦国時代の優れた武将は基本的に文武両道ぶんぶりょうどう


 百敷ももじきのように、多少ふっくら体型をしていても、武術の腕はきちんと持ち合わせていた。


 ——クッソ! じりじりと体力を削られる‼︎


 自分達の力量が知られている事で、岩踏いわぶみ達は百敷ももじき達の戦略で前に進めない事に焦りが出てくる。


 ——よし、今ぁ‼︎


 武将達を吹っ飛ばした一瞬の隙をついて、岩踏いわぶみが旗に向かって走る!


 だが——


 ハッと何かの気配に気がついた岩踏いわぶみが足に急ブレーキをかけた。


 トスッ!


 はたの手前に、飛んできた一本の矢が刺さる。


 岩踏いわぶみがその、軌道きどうを確認して顔を上げると……。


 向こうの崖の上で、煌珠こうじゅが斜めに弓矢を構えている姿を発見!


 ——なぁぁ⁉︎ マジかよぉーーーー‼︎


 ヒュッヒュッと飛んでくる矢を、必死にやりで叩き落とすが、


 ——くぅ! ときが無い!

 焦りながらも、冷静にチャンスを狙っている。


 与太郎よたろうが終了の合図を出すべく法螺ほらを持ち出した。


 ——マズイ‼︎ もぅ、行ってやれ!


 岩踏いわぷみがバッとはたに向かったのを見て、サッと煌珠こうじゅが矢をつがえる。


 ところが。


 わずかに目を見開いて、煌珠こうじゅは右手の矢を放さなかった。


 あと数歩の所、岩踏いわぶみの手がはたに伸ばされる。


 すると——。


 突然、頭の上にズンッと何かがのしかかり、前のめりになった。


 ——何だぁ⁉︎


 倒れ込む寸前すんぜん、顔をわずかに上げた岩踏いわぶみの目に、キラキラとした瑠璃色がうつる。


 岩踏いわぶみの頭を足がかりにして、緋凰ひおうが飛び込みながらはたつかんで倒れ込んだのだった。


 「やったぁぁーーーー‼︎ 取ったよぉーー‼︎」


 起き上がりざま、髪の毛ぐしゃぐしゃ、身体もボロボロになっている緋凰ひおう歓声かんせいを上げた直後、法螺ほらの音が響き渡り、演習の終了を告げた。


 「お前! たんか⁈ こら、師匠の頭を踏んづけるんじゃない‼︎」


 岩踏いわぶみがプンスカ怒ってくるが、


 「え〜? だってとっくり先生、こないだ『戦場いくさばでは俺のしかばねえてゆけ』って言ってたもの」


 何で? と緋凰ひおうは首を傾げる。


 「まだ死んでねぇよ! おい‼︎」


 大きくツッコミを入れて、岩踏いわぶみは疲れた〜、と後ろに倒れ込んだのであった。

 

 

 ーー ーー

 小山のふもとでは、兵士も武将も全員集まって終わりの反省会が行われている。


 それぞれの良かった所、問題点等を議論した後、最後に煌珠こうじゅ緋凰ひおうを前に呼んだ。


 「刻限内にはたを取った褒美ほうびだ。お前は誰を選ぶ?」


 「え?」


 問われた緋凰ひおうは、戸惑ってしまう。


 なぜなら、緋凰ひおうとしてははたを取って一等賞! みんなにほめてもらえる。といった幼子ならではの名誉めいよ欲のみで動いていた為、目に見える物品ぶっぴんでない褒美の事など、全くもって忘れていたからだった。


 「えっと……、う〜ん……」


 頭をいて困っている緋凰ひおうの後ろでは……。


 「やっぱり弓炯之介ゆきょうのすけ様でしょ。姫様、好き好きだもの」

 「え〜私は瑳矢丸さやまるくんだと思う。歳も近いし、いつも一緒だからさ」

 「おれ、弓炯之介ゆきょうのすけ様にける」

 「おれは瑳矢丸さやまるだな」

 「ふん、おろかな。俺は穴で鷹千代たかちよ様にける」

 「うお! あり得る、やべ」


 兵士達が興味津々で、予想しまくっている。


 鳳珠ほうじゅの顔が少し険しい。


 瑳矢丸さやまるは何故だか異常に緊張している自分に首を傾げている。


 興味があるのは、煌珠こうじゅも例外ではない。


 「お前は誰が一番好きなんだ?」


 わずかにその瑠璃色の瞳を深めながら、煌珠こうじゅみ砕いた言葉で、もう一度問いかける。


 その場の全員がもう、ドッキドキで耳を澄ましていると。


 ……ほどなくして、緋凰ひおうが口を開いた。


 「一番……好きなのは——」


 ドッキ、ドッキ、ドッキ、ドッキ——



 「私は、兄上が一番だいすき♡ 兄上とずっと一緒にいるんだぁ〜」



 ……だぁぁ〜‼︎



 子供かよ! と男の兵士達は、けにならなかったと残念がり、可愛い〜♡アハアハ、と女の兵士達は笑っている。


 鳳珠ほうじゅが破顔して軽く両手を広げたので、緋凰ひおうはスキップをひとつして、わぁい! とその胸に飛び込んでゆく。


 ズルい〜、と星吉がぶーれて文句を言っている。


 隣で瑳矢丸さやまるがなんとも言えない顔をしていて、玄珠げんじゅ弓炯之介ゆきょうのすけ達は、微笑んでいた。


 それを見て、


 「……良かろう。ではこれにて終わりとする‼︎」


 煌珠こうじゅが無表情で、本日の演習の終わりを告げたのだった

 


 後にこの国では、自分の本心を垣間かいま見た若い兵士達がこぞって動き出し、一時期、お見合い合戦かっせんが至る所で繰り広げられたのであった。



ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
野外演習、とても面白かったです。旗をとった者への褒美も凄いですが、なかなかハードな演習ですね…。そして、その勝者は……息つく間もない流れと、まさかの展開に、とても引きこまれました。 楽しく読ませてい…
感想遅れましたが、ここまで読んでいました。この章(プラスおまけ)も、とても面白かったです。少年から老爺(笑)まで、イケメンぞろいのよりどりみどりで目がつぶれそう~。あ、喜びの悲鳴です! それにしても、…
幼年期の出逢いが丁寧に描かれており、それらが先々の物語の布石になっているのだと思えば、ますます続きが楽しみになります。 きっと希望に満ちたものばかりではないのでしょうが、この幼き頃に縁を得た少年少女…
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