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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第四章 私の方が守るんかい! 美しい人って大変だ 〜美童狩り編〜
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4-26 『ごめんなさい』をじっくり考えてみたよ

読んでくださり、ありがとうございます。

○この回の主な登場人物○

 御神野みかみの 緋凰ひおう(通称 凰姫おうひめ)……主人公。この国のお姫様。七歳

 御神野みかみの りつしん 煌珠こうじゅ……主人公の父。お殿様

 真瀬馬ませば 弓炯之介ゆきょうのすけ 義桐よしぎり……緋凰の兄、鳳珠の護衛

 岩踏いわぶみ 兵五郎ひょうごろう 宗秋むねあき……臣下。武将の一人

 その文には鳳珠ほうじゅらしく優美で、なおかつしっかりとした字で、緋凰ひおうをとてもとっても心配している事がよく分かる文章が書いてあった。


 「あ〜兄上ぇ〜……会いたいよぉ〜」


 小さくつぶやいた緋凰ひおうは、鳳珠ほうじゅに会いたい寂しさをまぎらわしたくて、美鶴みつるに持たせてもらったふみを広げている。


 以前、狼と戦ったことのある山で菜夜月なやづきの家臣と別れ、順調に山を越えて里山を抜け、農村の田んぼが広がっている道を、真昼の眩しい日差しに目を細めて、緋凰ひおうふみを眺めながらてくてく歩いていた。


 (お? 今日は稲刈りの日かぁ)


 手に持っていたふみを丁寧にたたんで懐へしまい込むと、ふぅ〜っと息をついて辺りを何気なく見回した。


 田んぼでは黄金色の稲穂いなほが実りの多さでこうべれており、それを農夫達がざっくざっくと刈り取っている。


 田んぼの作業は大人数でやるものなので、以前冬に通った時とは反対に、今日の農村はとても賑やかだった。


 お手伝いの子供達が笑いながら稲架掛はさかけにいそしんでいるのをみて、緋凰ひおうの脳裏に瑳矢丸さやまる鷹千代たかちよ達の姿が浮かんでくる。


 (みんな元気かな? 会いたいなぁ〜)


 早く帰りたい想いとは裏腹にずっと歩き通した為、足に疲れが出てきてしまい、自然と道の脇にある大木の元に座り込んでしまう。


 (ああ〜こうなったらもぅ、むっちゃくちゃブチ切れている父上でもいいから会いたくなっちゃう)


 怒られるのなんて大嫌いなハズなのに、こんな事を考えた自分につい苦笑いをした。


 稲刈りの風景をのんびりと観察していた時。


 どこからか馬の走る音が聞こえてきて、緋凰ひおうは顔をあげた。


 「あれ?」


 進行方向から人の乗った馬が四頭くらい駆けてくるのだが、一番前にいるの男の風貌に見覚えがある。


 「あっ! とっくり先生だぁ‼︎」


 嬉しくなって緋凰ひおうはガバッと立ち上がった。


 ……馬上の岩踏いわぶみは遠く前方の道端で妙なものを目視もくしする。


 「ん? 何だ? ちっこい何かが飛び跳ねてんなぁ……?」


 近くなってくると——笠を被った子供だと分かった。


 ——馬が走っているのが面白いんかな?


 スピードを緩めることもなく、子供の横を通り過ぎようとした時、岩踏いわぶみの耳に声が届いた。


 「お〜い! とっくり先生ぇ‼︎」


 ギョッとして、岩踏いわぶみは目を見開くと、


 ——俺を『とっくり先生』と呼ぶ者などこの世に一人だけだ!

 急いで馬にブレーキをかけた。


 突然の岩踏いわぶみの行動に驚いて、後続の者達も追い越しながら慌てて馬を止める。


 「凰姫おうひめ⁉︎」


 振り向きざま岩踏いわぷまがそう叫んで馬を降りたので、緋凰ひおうは頭の笠を後ろにずらしながら走り出す。


 「とっくりせんせぇーー‼︎」

 「戻ったかぁ!」


 手前でぴょんっと跳ねて飛び込んできた緋凰ひおうを、破顔した岩踏いわぶみはがっしり受け止めると、そのままポーンと空高く放り投げた。


 (ぎゃああ! 先生のたかいたかいはマジで高すぎるよぉーー‼︎)


 よかったよかったと、何度も豆粒にしながら最後に緋凰ひおうを横抱きにキャッチすると、岩踏いわぶみは部下の方を向いて命じる。


 「おい、弓炯之介ゆきょうのすけ殿に伝えろ。まだ近くにいるはずだ」


 承知、と言う声と共に、馬が一頭走ってゆく。


 「弓炯之介ゆきょうのすけさん?」


 その名前にドキッとして、緋凰ひおうは問いかけた。


 「あぁ。お前さんがさらわれてからというもの、真瀬馬ませばの者達はずっとあっちこっち探しまわっているからな。今さっきも弓炯之介ゆきょうのすけ殿をお見かけしたんだぞ」


 ゆっくり降ろしながら答えた岩踏いわぶみの説明に、緋凰ひおうは驚いた。


 「えぇ⁉︎ 探してるって、私を? どうして? ちゃんとふみを送ったのに……届かなかったのかなぁ」


 難しい顔で緋凰ひおうが不思議に思っていると、言いにくそうに岩踏いわぶみが真相を話した。


 「あぁ、ふみね。……一応、瑳矢丸さやまるに届いてはいたがなぁ。あれだ、その……字が読めないってぼやいてたぞ」


 「えーー⁉︎ そんなに……私の字って、下手なのぉ?」


 苦笑いをした岩踏いわぶみを見て、緋凰ひおうが顔を引きつらせていると——。


 「姫様! 凰姫おうひめ様‼︎」


 あの大好きな人に呼ばれて、緋凰ひおうは胸をドキンとさせながらブンッと勢いよく振り向いた。


 「あ、弓炯之介ゆきょうのすけさん‼︎」


 馬から降りて、弓炯之介ゆきょうのすけがこちらへ駆けてくる。


 (きゃ〜‼︎ 久々に見るけど、やっぱり素敵〜♡)


 緋凰ひおうには走ってくるその姿に、後光が差しているように見えた。


 ぽ〜っと緋凰ひおうが見とれていたら……。


 「良かった! 姫様‼︎」


 目の前まできて感極かんきわまった弓炯之介ゆきょうのすけが、パッと緋凰ひおうを抱きしめた。


 (きゃああああーーーーーー‼︎ゆきょ——いい匂い〜♡)


 真っ赤になった緋凰ひおうは身体がカチン! と硬直してしまう。


 (わ、わ、私も、ぎゅ〜しなきゃ! てか……したい! ぬぉぉ! 動けぇ〜自分のからだぁ〜)


 ぎぎ……っと緋凰ひおうの腕が上がってゆく。


 ……あとちょっとで弓炯之介ゆきょうのすけの背に手が届——


 「あぁ! すみません、つい……」


 すんでの所で、ハッとした弓炯之介ゆきょうのすけがいそいそと身体を離してしまった。


 (わああ! せっかくだったのにぃ〜)

 「だ、大丈夫ですぅ……」


 肝心かんじんな時に動けなかった自分へ、内心で盛大に文句を言いながら、緋凰ひおうは赤い顔でアハハッと笑いかけたのだった。

 

 

 ーー ーー

 「送ってくださって、ありがとうございます。弓炯之介ゆきょうのすけさん、三次郎さんじろうさん」


 鳴朝城めいちょうじょううまやにて、緋凰ひおうがぺこりと頭を下げた。


 仕事に戻っていった岩踏いわぶみと別れた緋凰ひおうは、弓炯之介ゆきょうのすけの馬へ一緒に乗せてもらい、夢見心地で城に帰り着いたのだった。


 「どういたしまして。このまま若殿の所までご一緒致します」


 乗ってきた馬を預けながら微笑んだ弓炯之介ゆきょうのすけの斜め後ろで、いつぞやに緋凰ひおうが助けた真瀬馬ませばの若い護衛である三次郎さんじろうもニコッと笑った。


 うなずいた緋凰ひおうは、改めてあたりを軽く見回してみる。


 (あ〜帰ってこれた……。なんだか安心するぅ〜)


 天珠てんじゅの屋敷から戻されたばかりの頃は、おたねがいた事で居心地が良くなかった場所なのだったが、いつの間にか心が休まるようになっている事に、少し驚きがあった。


 「そうだ、兄上!」


 緋凰ひおうが慌てて歩き出したので、弓炯之介ゆきょうのすけ達もついていったのだった。

 

 

 ーー ーー

 小走りで向かっていたら、間もなく二の丸御殿の外門が見えてきて、緋凰ひおうは嬉しくなる。


 すると——


 「ああ! 父上だ‼︎ お〜い!」


 外門の中から煌珠こうじゅが出てきたので、緋凰ひおうは大きく手を振って呼びかけた。


 その声に気がついて、煌珠こうじゅがこちらを向いて足を止めたので、かぶっているかさを取りながら、緋凰ひおうは満面の笑顔で全力疾走に切り替えた。


 「父上ぇーー‼︎ ただいまぁ〜!」


 無表情で立っている煌珠こうじゅの手前で、緋凰ひおうはピョンッと跳ねた——けれど。


 煌珠こうじゅは飛び込んできた緋凰ひおうの身体をガッと持つと、そのまま後ろへポーンと放り投げて跳ね返したのだ。


 「わっ」


 とっさに緋凰ひおうは受け身を取ろうとしたら、先に弓炯之介ゆきょうのすけが身体を受け止めたので、


 (わあい! やったぁ〜)

 と、怒るどころかむしろ喜んでしまった。


 ふと弓炯之介ゆきょうのすけの腕の中で顔を上げると……。


 (ぎゃあ! 父上怒ってる‼︎ 何で⁉︎)


 無表情ではあるが、刃物のように研ぎ澄まされた雰囲気で、煌珠こうじゅがずーーんと立っている。


 「ええっとぉ……」


 なぜ父がおかんむりなのか、緋凰ひおうはその体勢のまま懸命に考える。


 動かなくなった娘を見て、煌珠こうじゅはゆっくりと腕を組んだ。


 「……さらわれろとは言っていないだろうが。馬鹿かお前は」


 (あ、仕事がちゃんと出来なかったって事かな? それで怒ってる?)


 「よりによって瑠璃をさらしておとりにするとは」


 (ぎぇぇーーーー‼︎ バレてるぅ‼︎)


 マズイ、と緋凰ひおうが焦った時、三次郎さんじろうがパッと煌珠こうじゅの前に進み出た。


 「申し上げます! それは私が——」

 「まって‼︎」


 緋凰ひおうはとっさに三次郎さんじろうの言葉を止めた。


 でも——、と言おうとしたが、緋凰ひおうがややうつむいて険しい顔をしており、弓炯之介ゆきょうのすけが目線で下がるようにしめしたので、三次郎さんじろうはやむなくひかえた。


 (私、父上に嫌われたかな?)

 ずーーんと緋凰ひおうの気持ちが沈んでしまうが……。


 『——何事も思い込みは命取りになるぞ』


 急に若虎わかとらの声が聞こえた気がした。


 (……そうだね。まずは何を怒っているのかをちゃんと知りたい)


 煌珠こうじゅは表情こそ変わらないが、無意味に怒ったりはしない。

 緋凰ひおうが父に弓術を教わりつつ接している中で、そう感じていた事だった。


 (たぶん……何かしら私がマズイ事をしたと思うから……謝ろうかな。でもこの場合、何て言うべき?)


 気を取り直して、緋凰ひおうは落ち着いて考え始める。


 [仕事がちゃんとできなくてごめんなさい]


 (う〜ん、なんか違う気が。だって、そもそものめいは、瑳矢丸さやまるを守るって事だったから、それは出来てるハズだし……)


 [さらわれちゃってごめんなさい]


 (う〜ん、コレはどうしようもなかったというか……。でも、結局はそれで悪いやつをやっつける事ができたんだし……)


 [瑠璃を見せちゃってごめんなさい]


 (コレかな? でも何で瑠璃の事でそんなに怒るんだろう)


 ふと、しずくの言葉が思い出される。


 『——激怒なされた——その瑠璃は……人に利用されやすいものなのです——』


 (そうだ。父上は昔、瑠璃が利用されたのをすんごい怒ったって……。でも何で利用されると怒るの?)


 今度はいつぞやの煌珠こうじゅの言葉が頭をよぎる。


 『……別に嫌いではない』


 あっとなった。


 (そうか! 父上は私のこと、心配していたんだ‼︎ さらわれちゃって、私が悪いやつに利用されて泣いちゃうのが可哀想だから、心配しすぎてずっと心が苦しくて怒っているんだ‼︎)


  緋凰ひおうは母の鈴星すずほに似て、スーパーポジティブシンキングの持ち主である。


  (あっちゃ〜、悪いことしたなぁ。そんなに父上って私が好きなんだね)


  そんな風に思ったら、あの煌珠こうじゅ能面のうめんのような無表情も緋凰ひおうからすると、何だか愛らしいとまで感じてしまう。


  ……黙り込んだと思ったら、急に自身を見てニヤッとした緋凰ひおうに、煌珠こうじゅは内心ビクッとした。


 「ありがとうございます、弓炯之介ゆきょうのすけさん」


 受け止めてくれたお礼を言うと、緋凰ひおう煌珠こうじゅの前に進み出て膝をつく。


 「ご心配をおかけしました、父上。もう絶対にさらわれたり、知らない人に瑠璃を見せたりしません! ごめんなさい‼︎」


 「…………」


 正直、怒られてシクシク泣くか、逆ギレしてくると煌珠こうじゅは予想していたのだが、元気に謝ってきた緋凰ひおうに意外な顔を向けた。


 「……まあいい。とにかくそんなボロい格好で帰ってくるな。今、鳳珠ほうじゅは寝込んでいる」


 「え⁉︎ 兄上が? ……そんなボロいかな」


 緋凰ひおうは自身の身なりをまじまじと見つめてみる。


 たしかに、薄紫だったはずの着物は色あせていて、ところどころが破れていたり擦り切れていた。


 (うわっ! 弓炯之介ゆきょうのすけさんにこんな格好を見られていたなんて……。恥ずっ!)


 後ろの弓炯之介ゆきょうのすけを意識して、緋凰ひおうはカァ〜ッと顔が赤くなってきた。


 「分かった! 着替えてくるね‼︎」

 (あ、でもその前に——)


 緋凰ひおうは背負っていた荷物を外すとゴソゴソと中からお土産みやげ根付ねつけけを取り出した。


 そして煌珠こうじゅの手を取ると、それを握らせて興奮しながら説明を始めた。


 「はい、コレおみやげ! ほら、みてみて! 根付けなんだよ! すごい細工でしょ? 父上って鳳凰ほうおうが大好きだって聞いたから!」


 「……」


 手のひらにちょこんと乗っている鳳凰ほうおうの彫刻がほどこされた根付けを、煌珠こうじゅは目を点にして眺めた。


 さらに緋凰ひおうは畳み掛けてくる。


 「あとね! 父上の作ったお歌を若虎わかとらがすんごい褒めてたよ‼︎ よかったね♡」


 「……誰だよ。そしてどの歌だ?」


 だが、その煌珠こうじゅの質問は耳に届かず、


 「じゃあ、行ってくるね‼︎」


 そう言って緋凰ひおうは、手を振って後ろ手に走り出したので、弓炯之介ゆきょうのすけ達が慌てて後を追う。


 「は? どこへ?」


 煌珠こうじゅとしては、二の丸御殿の緋凰ひおうの部屋で、鳳珠ほうじゅに知られない様に着替えろと言ったつもりなのだが、緋凰ひおうは外で着替えて帰ってこいと言われたのだと勘違いをしたのだった。


 「おい——」

 呼び止めようと、煌珠こうじゅが腕を上げかける。


 ところが。


 この数ヶ月、ずっと緋凰ひおうを見守っていたしのびが、一瞬わざと姿を見せて後を追って行ったので、


 ——まあ、いいか。


 煌珠こうじゅは根付けを丁寧に懐へしまうと、そのまま本丸御殿に向かって歩き出したのだった。


ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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