4-17 旅のご用心
読んでくださり、ありがとうございます。
○この回の主な登場人物○
御神野 緋凰(通称 凰姫)……主人公。この国のお姫様。七歳
若虎……西国の重臣の息子。九歳くらい
松丸……西国の北隣にある国の国衆の息子。七歳くらい
「緋凰、下がっていろ」
そう言って若虎が横からスッと斜め前に立つと、緋凰を背にして立ちはだかる。
「安全な所にいてね」
反対の横にいた松丸も、そう言って前に進み出て若虎の隣に立つと、前方で武器をちらつかせて脅しをかけている六人ほどの山賊達に睨みをきかせた。
「若虎、松丸……」
二人のその勇ましい背中を見て、緋凰はふるふる震えだすと——、
「すごい! すごいカッコイイよ二人とも‼︎ なんか私、守ってもらってるぅ! か弱い女の子ってやつだぁ〜」
憧れのお淑やかな女性になった気分を味わい、紅潮させた頬に両手を当ててきゃ〜きゃ〜喜んでいる。
「……いや、一番強いのお前だからな。もう、向こうで俺らの特訓の成果を見てろって。邪魔するなよ」
前を向いたまま呆れた声で若虎は促すと、腰の脇差(刀)に手をかける。
「後で感想聞かせてね、緋凰せ〜んせ!」
「やっだ〜松丸ってば、『先生』だなんて♡ じゃあ頑張ってね〜」
そう言うと、緋凰は少し離れた小さな岩の上にちょこんと座った。
わざとキャッキャしてふざけ合っている二人を見て、思惑通りに山賊達はイライラしてきた。
「なんだアイツら? なめてんのか! おい、もうバラすぞ」
先頭の男の指示を合図に、男達が襲いかかってきた。
若虎と松丸も抜刀して迎え撃ちに走り出す。
先に男達の前に着いた松丸は、振り下ろされた鎌を下段から振り上げた刀で弾くと、相手の空いた胴にそのまま真っすぐ横に払って倒した。
横では若虎が、相手の攻撃をかわしつつ隙を見て踏み込むと、真一文字に横へ刀を払いつつ、くるっと反転すると、斜め上段から刀を一気に振り下ろす。
それにより左右にいた敵がバタバタと倒れていった。
(松丸って穏やかな顔つきをしているのに、戦いだと好戦的な動きをするなぁ。若虎は性格どおり冷静な動きだ。う〜ん、それにしても若虎ってやっぱり……)
緋凰は行儀良く座りながら、片手を口元に当ててしっかりと二人の動作を観察している。
……間もなく、戦いが終わって刀を鞘に収めた若虎と松丸が緋凰の所へ戻ってきた。
「緋凰、どうだった?」
「二人ともお疲れ様! お見事〜‼︎ そうだね……松丸はもう少し左側を意識するといいかも」
「……あ、そうか。そうだね、こうした方がいいかな?」
「うん、そうだね〜。これなんかはどう?」
「あっ! それできそう! 今度はそうしよっ」
松丸の指導をしている緋凰の前に、若虎も進み出てきた。
「俺は?」
「——ん? 若虎はもう言う事なしで強かったよ!」
「そんな事ないだろ。直す所があるはずだ。……何だ、俺の方は見ていなかったのか?」
拗ねたような顔で若虎がそっぽを向くので、緋凰は慌ててなだめにかかる。
「違うよぉ。ちゃんと若虎もよく見ていたって……。あ、そうだ」
(それなら、ずっと気になっていたやつを……)
緋凰は後ろに下がって距離を取ると、足元にある小石を拾い、不意を突いて若虎へ投げた。
「はい、若虎」
「——えっ?」
ちょうど胸の真ん中に飛んできた小石を、若虎は咄嗟にパシッと片手で受け止めたのだった。
「え、何だ?」
石を持つ若虎の手を確認すると、緋凰は少し考えながら戻ってくる。
「若虎ってさ、もしかして利き腕、両方なんじゃないの?」
「利き腕?」
「だってさ、いつもは右手でいろいろしてるけど、今みたいにパッと出るのは左手が多いんだもん。稽古で打ち合っていても、最後の方は反対の足で踏み込んできたりするし」
「そう……なのか?」
緋凰の思わぬ指摘に若虎は意外な顔をすると、小石を握りしめている自身の左手をまじまじと見つめた。
二人のやりとりを聞いている松丸は興奮して緋凰を褒める。
「すっごい! 緋凰って若虎の事をよく見ていたんだね‼︎ 僕全然気が付かなかったよ」
「えっへん! 私、すごいでしょ♡」
鼻高々になってポーズを決めている緋凰に、若虎は自身をよく見てくれていたという事実を受け、じんわりと嬉しさが込み上げてくると、
「俺も気が付かなかった。ありがとう」
そう言って笑った。
「あ、若虎が笑った! かわいい♡」
「だよね〜。若虎の笑った顔ってかわいいよね〜」
そう言って緋凰と松丸もつられて笑う。
「なっ——可愛いとか言うな! もう行くぞ!」
恥ずかしさから顔を真っ赤にして後ろを向いた若虎は、そのまま歩き出した。
その後ろを、
「照れてる〜、アハハ」
「めっちゃ照れてる〜、アハアハ」
からかいながら緋凰と松丸は追いかけていく。
倒れている山賊達の横を軽快に通り過ぎながら三人は先を急いだのであった。
ーー ーー
上り坂と下り坂。
前方でその二つに分かれた山道にさしかかると、緋凰と松丸は迷わず下り坂に進もうとした。
「違う違う! こっちだ、二人とも」
若虎が慌てて声をかけてくる。
「え? だってさっきからずっと下り坂を行っていたよ? なんで?」
立ち止まった二人は不思議な顔で若虎に尋ねてみた。
「ずっとそうだったからって、今も同じとは限らないだろ? 何事も思い込みは命取りになるぞ」
その言葉を残して若虎が上り坂を歩いていく。
「ひ〜、命取り〜。こわ〜」
「待ってよ〜」
緋凰と松丸は急いで後を追っていったのだった。
しばらく歩いていたら、遠く関所が見えてくる。
すると——。
「すまない、子どもたちよ。わしはあの関所を越えなければならないのだが、野盗に荷物を奪われてなあ。もう何日も飲まず食わずで……。どうかお金をめぐんでほしい」
ボロい着物を着て髪の毛ボサボサの男が、ふいにヨロヨロと三人に近づいてきた。
「かわいそうだね……」
「そうだね……」
そのあまりにもあわれな姿に、緋凰と松丸は同情して懐に手を入れようとしたら……。
サッと若虎が腕を伸ばして二人の行動を止めたのだった。
「生憎、俺達も人にやるほどのモノはないんでね」
冷酷にも聞こえるその言葉に、目を見張っている緋凰と松丸の背を押しながら、若虎は歩き出す。
「そんな! この通り足も悪くしていて……」
追いすがろうとした男の顔の前に、若虎がシャッと刀を抜いて切先を向けたので、男はビタっと止まった。
「付いてくるな。斬るぞ」
男が動かなくなったのを確認して刀を鞘に収めると、若虎は二人の手を左右で繋ぎ、連れていく。
緋凰と松丸は前に進みながらも、チラチラと後ろを振り向いている——と。
だいぶ離れた所で、男がしゃんと姿勢を上げると、このガキどもめが! と大声で捨て台詞を吐いて元気に歩いて消えていったのであった。
緋凰と松丸は口をあんぐりと開けると、
「どうして嘘だってわかったの⁈」
若虎を見上げて興奮気味に聞いた。
「何日も食ってない割には肌ツヤが良すぎるだろ。足だって両方とも筋肉しっかりついてるし。そもそも俺は、金をくれと言って来る奴は信用しない」
こともなげに答える若虎に、二人は感心しっぱなしだ。
「若虎ってすごい〜‼︎」
「むちゃくちゃカッコいい〜‼︎」
「……もう、いいから早く歩け」
惜しみなく称賛してくる二人をグイグイ引っ張りながら、若虎は恥ずかしそうにため息をついたのだった。
ーー ーー
たどり着いたこの関所は、なかなかの賑わいをみせており、人が多く行き交っていて、順番待ちの列も長く伸びていた。
「もうここを過ぎるとね、たしか僕の父親の領地なんだよ」
「そっか! じゃあ松丸のお家はもうすぐなんだね」
無事に関所を越えて三人が歩いていると……。
「おやまあ、子どもだけで旅をしているのかい?」
近くを歩いていた優しそうな顔つきの、ややふっくらとした女がにこにこと話かけてきた。
隣には緋凰達よりも少し年下であろう子どもが一人、ついていた。
「これからお家に帰るんです」
そう返事をした緋凰に、
「まあまあ、大変ね。その荷物、おばちゃんがあの坂の上まで持っていってあげるわ」
そう言って緋凰が持っている三人の食料が入った風呂敷包みを持とうとする。
その様子を後ろで見ている若虎が、何気な〜く大きめの石を拾う。
「大丈夫だよ、そんなに重くないから」
緋凰は一度断りを入れるが、
「あの坂は大変よ。私は両手が空いてるし。こんな小さい子が荷物をもってちゃいけないわ」
押しに負けて、それならばと緋凰は荷物を女に手渡した。
その瞬間!
バッと荷物を抱えて女が走り出した。
「え⁉︎」
驚いた緋凰の後ろから、ヒュッと何かが横切る。
走り去ろうとしていた女の後頭部に、若虎の投げた石が直撃した。
「ぎゃ!」
衝撃で女は前のめりになって地面に倒れ込む。
その拍子に荷物が手を離れて転がったので、追いついた緋凰がそれを拾おうと手を伸ばしたら——。
すんでの所で、女の隣にいた子どもがパッと取って、荷物を抱えて猛ダッシュしてしまった。
「返して!」
緋凰も追いかけようと走り出した時。
先回りしていた若虎が子どもの前に現れると、そのまま足を引っ掛けたのである。
「わあっ!」
ザザッと転んだ子どもの手から風呂敷包みが飛んでいって地に転がっていったので、それをようやく緋凰がさっと掴んで取り戻したのであった。
「みんな大丈夫?」
松丸が二人に駆け寄ってきた時には、いつの間にか子どもと女の姿は消えてしまっているのだった。
「ありがとう、若虎」
「全く……。女、子どもだからって油断するなよ。荷物はどうあっても手元から離すな、もう……」
若虎はまた、緋凰を右に、松丸を左にそれぞれ手を繋いで歩きだした。
「きゃ〜若虎! すてき〜♡」
「カッコいい〜。僕もう若虎から離れない〜」
「……家までにしてくれ」
左右の腕に飛びついてきて、キャッキャとはしゃいでいる二人に呆れながらも、ちょっと嬉しそうな顔でいる若虎なのであった。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願い致します!




