表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第一章 体罰子守に立ち向かえ!〜始まりの勇気編〜
6/232

5.亀千代のありがた〜い? 助言

読んでくださり、ありがとうございます。

至らぬ点も多いかと思いますが、

皆さまに楽しんで頂けるよう、がんばります。

 カアッと鳴いたカラスの声に、縁側で座ってあやとりをしていた緋凰ひおうは、ハッと顔を上げる。


 「……もう、こんなとき


 あれから天珠の屋敷に連れてきてもらって、兄と同い年の従姉妹いとこである美鶴みつる(十三歳)の華道のおけいこを一緒にしたり、去年産まれた叔母の末っ子の姫君と遊んだりと、楽しいときを過ごした。


 美鶴が席を外しているので、一人ひとりぼんやりと少しずつあかね色に染まってゆく空を眺めていたら、忘れていたおたねとの事が脳裏によみがえってくる。


 「帰りたくないなぁ……」

 ぽつりとつぶやいたとたん、急に横からこぶしで頬をぐりぐりされた。


 「いたたたた!」

 慌てて横を見ると、いつの間にか亀千代かめちよが隣でしゃがんでいる。

 幼いながらも叔父の天珠てんじゅに似たいかつい顔が、ムスッとしてこちらを見ていた。


 「何するの⁉︎」


 緋凰は怒って抗議こうぎするが、


 「何でお前がここに居る?」


 亀千代の問いに押し黙ってしまう。


 下を向いてしゃべらなくなった緋凰を見ると、面倒くさそうに亀千代は立ち上がった。


 「お前がここにいても邪魔なだけだからな、さっさと帰れ」

 いつものようにからかい口調でそう言うと、背を向けて歩き出す。


 (そうだった。私、邪魔になったから叔父上のお屋敷から出されたんだった……)


 先程遊んだすえの姫君が産まれた事で、煌珠こうじゅの妹である叔母が忙しくなるので元の屋敷に戻された。

 そう緋凰は思っている。


 「うん、帰る……。もう、来ない……」


 小さく聞こえた声に、亀千代の足がピタリと止まる。

 ハァーッとため息をつくと、少し苛立いらだって振り向いた。


 「来るなとは言っていないだろうが。バカじゃねぇの?」


 言葉がキツいので亀千代は苦手なのだが、わらにもすがる思いで緋凰は聞いてみた。


 「……亀兄かめにいは、人に叩かれたらどうする?」


 唐突とうとつなこの質問で、亀千代は緋凰がここに来た理由が、何かから逃げてきたのだろうとさっした。


 「殴り返すだけだ」

 またも亀千代は面倒くさそうに答える。


 「相手が強くて叩き返せなかったら?」

 「そいつより自分が強くなればいいだろ」

 「強くなるまではどうするの?」

 「めんどくせーな、自分で考えろ」

 「……」


 言われた通り、緋凰は一生懸命考えてみたが、いい案が浮かばない。

 下を向いて静かになった緋凰を見て、亀千代はまたもため息をつくと、


 「味方でも作りゃいい」


 そう言って後ろを向いた。


 緋凰は慌てて立ち上がると、ガシッと亀千代の腕をつかんだ。


 「じゃあ、亀兄が私の味方になって!」


 すがるような哀れみの目でお願いする緋凰に、亀千代は腹が立ってきてつい苛立いらだった声で答えてしまう。


 「やだね。……めんどーだ」


 最後のセリフの半分は建前たてまえだった。

 亀千代はそう遠くない未来を見つめる。

 これからいよいよ激化げきかしてゆく戦乱の世に、弱者じゃくしゃは生き残る事などできない。

 まだ八歳ではあるが、亀千代は世の流れを分かっていた。


 「お前も御神野家みかみのけの者だ。誰よりも強くなる必要がある」


 つかんでいる緋凰の手を振りほどくと、


 「今みたいに、一旦いったん逃げるのもアリじゃね?」


 そう言い残して亀千代は去って行ってしまった。


 また一人になった緋凰は、難しい顔をして亀千代の言葉を考え始める。


 (強くなる? 私も叔父上みたいにムッキムキにならないといけないのかな?)


 強さとは腕っぷしの事だけではない。

 世の中にはざまざまな戦いがある。

 だが、まだ四歳の緋凰には、亀千代の話の半分も理解できなかった。


 巨人のようにでっかい身体の天珠が、武術の稽古をしている姿を思い出してみる。

 こうかな? と、フンフン言いながらパンチの練習をしてみていたら、向こうの廊下からパタパタと足音が聞こえてきた。


 「緋凰! 緋凰!」


 笑顔でかけ寄ってくる九歳ほど年上である兄の鳳珠ほうじゅ(十三歳くらい)の姿に、緋凰はドキリとした。


 「若様ぁ、走ったらお熱でるよぉ〜」


 後ろから小姓の星吉ほしきち(十歳くらい)が鳳珠をいさめながら追いかけている。

 さらにその後ろを、こないだ元服を終えて鳳珠の『小姓』から『護衛』に仕事が変わった真瀬馬ませば弓炯之介ゆきょうのすけ義桐よしぎり(十二歳くらい)も、心配した顔で追いかけている。


 息を切らして緋凰の前まで来ると、鳳珠は一旦いったん呼吸を整えてからこちらをみた。


 「おそくなってごめんね。寂しかったね、さあ帰ろう」


 優しい顔立ちの鳳珠が微笑んだのを見て、緋凰の胸がわずかにキュッと苦しくなる。


 (兄上……私の事、嫌いなのかな?)


 そんなはずはないと思いたいのだが、おたねの言った事もありそうで、どうしていいか分からず動けなくなってしまう。


 「緋凰? どうしたの?」


 いつもなら笑顔で飛びついてきてくれるのに、目線をはずして固まっている緋凰を見て、鳳珠は心配になってきた。


 (嫌いかどうかくらいなら、聞いてもいい……かな?)


 緋凰は思い切って、おそるおそる鳳珠に向かって口を開く。


 「あ、兄上は……私……」


 声が震えてうまく話せない。

 (あぁ……どうしよう。嫌いとか言われたらもう……終わりだ……)

 小さく震えはじめた緋凰の前にかがむと、鳳珠は腕をなでてやりながら、


 「大丈夫、ゆっくりでいいよ。何があったの?」


 慎重に言葉の続きを待つ。


 口が開いたまま、どうしても声が出てこないので、緋凰はもう聞くのを諦めて自分の思いを伝えようとした。

 けれども……。


 「……私は……兄上……好きだよ……一緒……」


 言い終わらないうちに、ボロボロ涙が出てきてヒックヒックと泣き出してしまった。


 鳳珠は動揺するも、落ち着いて懐から手巾をだすと、緋凰の涙を拭きながら笑いかける。


 「私も緋凰が大好きだよ」


 (ほんとかな? 母上の事、あやまれば、許してもらえるのかな?)

 怖くて怖くて、緋凰はぐっとこぶしを握りしめる。

 それでも頑張って震えながらも声を出してみた。


 「ごめ……なさい……死なせ……」

 「……え? 何?」


 か細い声でほとんど聞き取れなかったのだが、鳳珠の耳に不吉な言葉がよぎる。

 顔色を変えた鳳珠を見て緋凰もまた顔がこわばってしまった。


 (ダメだ! やっぱり私、嫌われてる⁉︎)


 いたたまれなくなって、その場から逃げようとわずかに後ろに下がる。

 それに気がついた鳳珠が慌てて緋凰の腕をつかんだ。


 「大丈夫! 大丈夫だから、もう一度……」


 しかし緋凰はもはや、泣きながらごめんなさいを繰り返すばかりになってしまった。


 その姿があまりにもあわれに感じた鳳珠は、もう追及するのをやめた。


 落ち着いた頃にもう一度聞き直そうと、鳳珠は緋凰を抱き寄せて背中をゆっくりとなでていく。

 だが、鳳珠がこの言葉の意味を知るのは、だいぶ後の事になるのだった。


ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

間違った表記等は、その都度直していく所存です。


皆さまのご意見、ご感想が頂けたら嬉しく思います。

これからも、どうぞよろしくお願い致します!


次の更新が少し遅くなります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ