4-4 閃珠と遊ぼう!
読んでくださり、ありがとうございます。
○この回の主な登場人物○
御神野 緋凰(通称 凰姫)……主人公。この国のお姫様。七歳
御神野 湧ノ進 閃珠……主人公の祖父
真瀬馬 包之介 元桐……元重臣で隠居の料理人。
瑳矢丸……緋凰の世話役。包之介の孫
次の日の夕方近く。
武術の訓練が終わって、部屋で着替えを終えた緋凰の元に、瑳矢丸が挨拶に来る。
「それでは姫様、私はお暇いたしますので」
「え? どこ行くの?」
緋凰は内心焦り始めた。
「今日から三日間、実家に帰ると前に話しましたでしょう」
あきれた顔で瑳矢丸は答える。
「あ、そっか! そうだったね」
(こうやって離れちゃう時、どうすればいいんだろう……。私が真瀬馬のおうちに泊まりに行くのも変なような……)
あれこれ悩んで佇んでいると、
「それでは、また三後日に。失礼致します」
そう言って瑳矢丸は廊下を歩いていってしまう。
(あっ離れちゃう!)
解決策が出ていないので、緋凰は慌てて追いかける。
後ろから追いついた緋凰を見て瑳矢丸は不思議に思った。
「ん? ……何か?」
「えと、見送るよ。あっ、一人で帰るの?」
「いえ、祖父と帰ります」
そう言って歩き出した瑳矢丸を追いかけながら、緋凰は一生懸命考える。
(おじいちゃんと二人か……)
包之介は背が高くすらりとしていて、姿勢よく料理をする姿はとてもかっこいい。
だが、強そうには見えない。
(どうしよう……。もし帰っている途中で人さらいに襲われたら……)
包之介がどーんと空高く吹っ飛ばされて、瑳矢丸がぐるぐる巻きに縛られ、知らない者達にわっしょいわっしょいかつがれて、持って行かれてしまう光景を想像した。
(大変だ‼︎ おじいちゃんはもう、じーさんだからやられちゃう‼︎ かわいそすぎる!)
真っ青になっていると、まもなく玄関に入る。
すると出入り口で、支度を終えた包之介が立っているのを見つけた。
「おじいちゃん! 行っちゃうの⁈」
瑳矢丸を追い越してそばまで行くと、緋凰は包之介をガシッとつかんだ。
「どっどうされましたか? あ、すみません。五日も留守にする事になってしまって……」
「え⁉︎ 瑳矢丸は三日間って……」
草履をはいている瑳矢丸を見る。
「お祖父様は五日ですが、私は三日後戻ります。不満ですか?」
瑳矢丸の方が不満な顔をして答えてきた。
「いやいや! とんでもない! お戻り待ってま〜す、へへ……」
「調子の良い事で」
そう言って瑳矢丸が外へ出ようとしたので、緋凰は包之介に聞いてみた。
「おじいちゃん、私も一緒に真瀬馬のおうちに行ってもいい?」
瑳矢丸が驚いて足を止めると、勢いよく振り向く。
包之介も目を丸くして答える。
「それは、嬉しい事です。姫様が我が家へ遊びに来てくださるなどと、みな喜びましょう」
瑳矢丸は戸惑いながら、一つ思い当たる事をひそひそと緋凰に言った。
「弓炯兄上なら、今日は不寝番の仕事だから家にいないですよ」
「そんなの知ってるよ。管理のおじさんにこっそり聞いたもん」
緋凰もひそひそ声になると、自分の軽いストーキング行為をうっかりバラしてしまう。
瑳矢丸は少し引きながら、今度は普通の大きさの声で聞いてきた。
「じゃあ、うちに何の用で?」
「これ、瑳矢丸。遊びに来てくださるのに、用事など必要ないだろう」
包之介がたしなむのを聞いて緋凰は慌てて訂正した。
「あ、違うの。家の前まで一緒に行くの」
「え? うちの前?」
今度は事情の知らない包之介が、不思議な顔をした。
瑳矢丸がもう一度問いかける。
「家の前まで来て……その後どうするんです?」
「そのまま帰るの」
「誰と?」
「ひとりで」
「……」
もう会話が噛み合わなくて、訳がわからないとみんなで固まっていた時。
館の入り口から人が入ってきた。
「あーーっ! お祖父様だぁ‼︎」
緋凰の祖父である、御神野湧ノ進閃珠であった。
「わ〜い‼︎」
大好きな祖父が現れたので、緋凰は歓声を上げて飛びついた。
「お〜よしよし。お前の強くて素敵なジジイが帰ってきたぞ〜」
相変わらず閃珠はひょうきんな男である
緋凰をなでてやりながら周りを見渡した。
「お? こんな所で集まって何してんだ?」
緋凰は閃珠に説明する。
「みんなお家に帰るから、私が家まで送っていこうと思って……」
あ、そう言う事か。と包之介と瑳矢丸はやっと今までの緋凰の言葉を理解した。
「ん? お前が包之介を送るのか? 何で?」
普通、逆じゃないのか? と閃珠は不思議そうな顔をした。
「だって。最近町では物騒だって聞いたから、おじいちゃんが襲われたら……」
緋凰が心配そうな顔をして包之介の方を見ると、閃珠が笑い出した。
「はっはっはっ! 何だ、包之介を心配しているのか? こいつは武術の達人だぞ」
「え⁉︎ そうなの⁈」
緋凰は驚いて包之介をまじまじと見る。
瑳矢丸に似た美しい顔立ちの好々爺なので、とても武器を振り回すイメージがない。
「お? 言わなかったか? わしの護衛の中で一番強かったぞ。まあ、わしには及ばないがな!」
「そうなの⁈ スゴイ! おじいちゃんカッコいい‼︎」
緋凰が羨望の眼差しでほめるので、
「いやいや、それ程でも……」
包之介はわずかに顔を赤くして、恥ずかしがっている。
それを見て閃珠がムッとした。
「だがな〜緋凰。コイツは子供の時からすんごい色男だったから、女子がみ〜んなこいつになびくもんでよ。そのせいで隣にいるわしは、ぜ〜んぜんモテないし。マジわしとばっちり」
嫉妬心丸出しで包之介の文句を言う。
「なっ! 子供に何て事を! そもそもとばっちりは私の方で。昔は貴方に優遇されているだの出世したい奴には散々いじめられて……」
普段穏やかな包之介が怒りだしたので、緋凰と瑳矢丸はびっくりした。
「その都度助けてやっただろう。わしこんなに優しいのに、こいつばっか女にモテるんだぞ。今でも。あ〜マジわしかわいそう」
「貴方がモテないのはクソがつく程わがままだからです!」
閃珠は、子供の緋凰にすらヤバいくらい自由な人だと思われているので、
(おじいちゃん若い時、相当お祖父様に振り回されたんだな……かわいそすぎる)
と内心で包之介に同情した。
ジジイ同士、くだらないケンカがはじまりそうなので、緋凰は閃珠の袖をぐいぐいひっぱってみた。
「おじいさまっ、おじーーさまっ‼︎」
「ん? おぉ、すまんすまん」
閃珠は特に気にしてないようだが、包之介はハッと我に返って口をつぐむと、子供の前でみっともなかった、と横を向いた。
閃珠が緋凰の頭をなでながら、遊びに誘ってきた。
「まあ、そんなわけだからこいつに護衛はいらぬよ。暇ならわしと囲碁将棋でもせんか?」
緋凰は閃珠とのやりとりを思い出してみる。
囲碁では……。
『ホレ、ここの碁石の集まり。う○こに似てるだろ? 名付けてう○この陣だ!』
『ぎゃーきたなーい! 疫病のそーくつじゃん! げらげらげら‼︎』
『ちなみに名付け親はガキん時の煌珠だ』
『ええーー⁉︎ 信じらんな〜い! 父上ったら〜』
将棋では……。
『ホレ、矢倉囲いだ。ここからコイツにションベン攻撃〜!』
『きゃーー‼︎ きたな〜い! こいつは病魔のけしん(化身)だぁ! ゲラゲラゲラ‼︎』
『コレわし、マジでやった事あるぞ』
『えぇ⁈ お股が無防備であぶな〜い! ゲラゲラゲラ‼︎』
緋凰は頭を使う遊びはあまり好きではないが、面白おかしく遊んでくれるので閃珠との遊びは喜んでやった。
とは言えこの時代、汚物も立派な戦の武器ではあるが……。
そして、こんなくだらない事ばかり言う祖父を緋凰は大好きなのである。
「やるやる〜! お祖父様、おんぶ!」
緋凰は閃珠の後ろに回り込んで背中にバッと飛び付く。
「ぐえ! 首は持っちゃいかん!」
「ごめんなさ〜い! ねぇ、う○この陣やって〜」
「おっいいぞいいぞ〜。クソ戦法じゃな」
二人のやりとりを、何とも言えない顔で包之介と瑳矢丸は見ていた。
緋凰をおんぶしたまま草履を脱いで玄関から上がると、
「じゃあ、気ぃつけて帰れや」
そう言って閃珠達は部屋へ笑いながら歩いて行った。
それを見て包之介と瑳矢丸も館を後にしたのだった。
ーー ーー
瑳矢丸がいない間、閃珠がずっと緋凰と一緒にいてくれたので、鷹千代達も誘って釣りに行ったり、山で虫取りをしたり、町をぶらついたり……またのびのびとくだらない遊びをよくして過ごした。
その中で、川でとってきたサワガニを庭で競争させて水浸しにしたあげく、これがホントの泥試合だと、みんなで相撲をとってどろんこになっていた所、様子を見にきた叔母の美紗羅にド叱られたりした。
しかも、叱られている最中に閃珠が、
『お前の物言いは、死んだばあさんにそっくりじゃ』
といらん事を言うので、余計に雷を落とされたのだった……。
ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願い致します!




