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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第一章 体罰子守に立ち向かえ!〜始まりの勇気編〜
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4.脱走劇その3

読んでくださり、ありがとうございます。

至らぬ点も多いかと思いますが、

皆さまに楽しんで頂けるよう、がんばります。


 「すまん、見失ってしまった」


 汗だくになり肩で息をしながら、百敷ももじき達は申し訳なさそうに刀之介とうのすけをかえりみた。


 ここは奥の間近くの縁側だったので、部屋の反対側は外にひらけている。


 「まずいな。外に出られたか」


 刀之介とうのすけも辺りをぐるりと見回していたら、さっきの武人二人も合流した。


 「しくじりました」

 「とりあえず、急ぎ門を閉めて……」


 みなが上がった息を整えつつ、次の対策に出ようとした時、



 「忠桐ただぎり‼︎ (刀之介)」



 とするどい声が聞こえて、全員が凍りついた。



 奥の間から出てきた殿とのである煌珠こうじゅが向こうから歩いてくる。


 後ろに義弟ぎてい天珠てんじゅも続く。


 「何の騒ぎだ! ぞくか⁈」


 辺りを警戒しながら、煌珠こうじゅは問うてきた。


 この殿とのは娘である緋凰ひおうに顔が激似で、案外あんがい可愛らしい顔をしているのだが、恐ろしく無愛想ぶあいそうなのと武闘派ぶとうはで気が超絶ちょうぜつ強いので、目つきはつねするどく可愛げがない。


 物言いがキツい事も多いので、恐れる者もまた多かった。


 そんな人物なので、刀之介とうのすけら五人は急いでひざまずくと慎重に言葉を選んで素早すばやく報告する。


 「申し上げます。賊はおりません。ただ、凰姫おうひめ様が迷い込まれておりまして、先程ここで見失ってしまいました。申し訳ありません」


 「は? 凰姫おうひめ? 緋凰ひおうの事か? あのチビがここにいる訳ないだろう」


 「いらっしゃったのです。二の丸からお一人でこられたようで……」


 「はぁ⁈ 一人だと? おい! 警備はどうなっている‼︎ あ? 何で逃げるんだ?」


 煌珠こうじゅはイライラしながら外を見渡す。


 その様子に、刀之介とうのすけは焦りながら早口で報告を続けた。


 「申し訳ありません! 私の怒った顔を見て怖くなってしまわれたようで……」


 「顔? それはない。あのチビは天珠てんじゅの顔を見慣れているからな。人の顔など怖くないだろう」


 「……それどういう意味?」


 煌珠こうじゅの言葉に、いかつい顔の天珠てんじゅはちょっと傷つきながら、その縦にも横にも大きな筋肉ムキムキの身体を、縁側えんがわからストンと落として地面に降りた。


 息子らが悪さをした時に逃げ込む所と言えば……。


 そう考えながら天珠てんじゅは身をかがめて縁側の下をのぞき込むと、その態勢たいせいのまま横に動いていく。


 すると、移動した所にある奥の柱の横から、小さなお尻がちょこんと出ているのを見つけた。


 「いたいた、緋凰ひおう


 天珠てんじゅが縁側の下に声をかけたのを聞いて刀之介とうのすけ達は驚くが、見つかって良かったと心から安堵あんどしたものだった。


 「お〜い、俺だ。お前のたくましい叔父上だぞ〜。出ておいで」


 その声に緋凰ひおうはパッと喜んだ。


 (やったぁ! 叔父上おじうえのお屋敷に行ける‼︎)


 「俺と一緒に二の丸御殿に帰ってお団子でも食べよう」


 (ぎゃあああ!)


 天珠てんじゅの提案に、緋凰ひおうは絶望する。


 自分の呼びかけに応じないどころか、ガタガタ震えだした小さなお尻を見て不思議に思い、何を怖がっているのか天珠てんじゅは考え出した。


 するといつの間にか横に煌珠こうじゅが、後ろに刀之介とうのすけが縁側からおりてきている。


 「姫様! 誰も怒っておりませぬ。怖がらないでお出ましになってください!」


 刀之介とうのすけも呼びかけるが、お尻はちっとも動かない。


 「クソめんどーだな」


 煌珠こうじゅが悪態づきながら、腰をかがめて縁側の下に入ろうとした。


 その首根っこをガッと天珠てんじゅがつかむと、お殿との様の体をポイっと後ろに投げてしまった。


 「おいっ‼︎」


 尻もちをついた煌珠こうじゅが怒鳴ってくるが、天珠てんじゅは気にしない。


 その様子をみて向こうにいる百敷ももじき達は、殿にこんな事が出来るのは義理の弟であるこの人と、大殿おおとの(煌珠こうじゅの父)くらいだ、とハラハラした。


 「りつしん様(煌珠)は前に、こうやって縁側の下にいた猫をひっぱり出そうとして、バリかかれましたよね」


 刀之介とうのすけが真顔になって小さな声で注意をうながす。


 「いつの話だよ! 子供がきん時じゃねぇか」


 煌珠こうじゅが座ったままグーで刀之介の肩を殴ってきた。


 煌珠こうじゅには、荒小姓としてつかえながら、学友もねてともに学問や武術等を学んだ者達がいる。


 天珠てんじゅ刀之介とうのすけもまたその一人だった。


 ふぅ、と息をついた刀之介とうのすけ百敷ももじき達に見えないように、座ったままさり気なく煌珠こうじゅの足を踏んづけてやる。


 くだらないケンカで二人がにらみあっていたら、天珠てんじゅがもう一度いちど緋凰ひおうに呼びかけた。


 「そーだ! 今日は美鶴みつるんトコにおはなの先生がくるんじゃないかなぁ。生花いけばな好きだろ? 俺の屋敷に遊びに来るか?」


 (やっったあぁ‼︎)

 「いくっ‼︎」


 ウ○コ座りで力いっぱい叫んだ緋凰ひおうは、いそいそと縁側の下からはい出てくる。


 嬉しくなって顔を上げたその笑顔が……固まった。


 座っている天珠てんじゅの隣で腕を組み、ふんぞりかえって立っている煌珠こうじゅと目が合ったのだ。


 (ちっ父上⁉︎)


 煌珠こうじゅが来ている事に全く気づいていなかった緋凰ひおうは、驚きのあまり息が止まってしまう。


 「お前、そんなに俺んトコが嫌なのか?」


 冷ややかな目をして低く出された父の声に、緋凰ひおうは魂が消し飛んだ。


 (こ、怖いよぉ……。嫌とゆーか……)



 もう、おたねが叩いた事を訴えようかと思ったのだが、あの脅し文句のせいで声すらだせない。


 (おたねの言ったこと、ホントかも。殺されちゃう……)


 自然に正座した緋凰ひおうはうつむいてこぶしをぎゅっと握ると、地面をにらんだまま動かなくなってしまった。


 それを見ている天珠てんじゅが、横にいる煌珠こうじゅに向かってまあまあ、といさめはじめる。


 「別に嫌とかじゃないだろう。今日は若様が外出そとででいないからさみしくなって追いかけただけさ」


 緋凰の兄、鳳珠ほうじゅは生まれつき病をわずらっている。

 その為、外出の時は多く人がついて行くので、御殿には人が少なくなるのだった。


 天珠てんじゅは助けぶねを出して仲裁ちゅうさいすると、


 「さあおいで、緋凰ひおう。若様が戻るまで美鶴みつると遊んでいるといい。そうしなさい」


 そう言って緋凰ひおうに向けて両手を広げた。


 (叔父上はもぅ神様だ! そうに違いない‼︎)


 緋凰ひおうの目には、天珠てんじゅに後光が差していてキラキラ輝いて見えた。


 大きなふところに飛び込もうと腰を浮かせたその時。


 突然、隣にいる煌珠こうじゅがドーンと天珠てんじゅのでかい身体ををふっ飛ばした。



 (わあーー‼︎ 叔父上ぇー‼︎)



 緋凰の動作がピタリと止まる。


 「何を……」


 上半身を起こして怒鳴りかけた天珠てんじゅだったが、次の煌珠の行動に目を見張って言葉を失った。


 刀之介とうのすけもまた同じく、驚きのあまり口をあけて固まってしまう。


 無表情の煌珠こうじゅ緋凰ひおうの前に立つと、両手を差し出してそのまま抱き上げ、そっと自分に引き寄せたのだ。


 父親の行動そのものだった。


 煌珠こうじゅが緋凰をうとんでいるらしき事は、身内である御神野みかみの家一族と刀之介とうのすけの一族である真瀬馬ませば家の一部の者しか知らない。


 百敷ももじき達は遠くから、親子だね〜と微笑ましく見ている。


 だが事情を知っている天珠てんじゅ刀之介とうのすけは、煌珠こうじゅが娘を抱いているという初めての光景に、手は自然と口元に、感動で目には涙まで出てきてしまっていた。



 (⁉︎ ……父上が抱っこしてくれた‼︎ わぁ〜い!)



 突然の行動に驚きはしたが、嬉しくて緋凰ひおう煌珠こうじゅにぎゅっとしがみついた。


 ところが。


 ハッと何かに気づいた煌珠こうじゅの顔が、みるみるけわしくなってゆく。


 ——同じ、コイツの……。


 抱き寄せてみて初めて気がついた。

 娘の緋凰ひおうは、亡き最愛の妻と同じ匂いがする。


 バッといろんな感情が一気にこみあげてきたのを、理性を使って強引にねじ伏せると、煌珠こうじゅ緋凰ひおうの体を自分からベリっとはがして半回転させる。


 そのままポイっと天珠てんじゅに向かって緋凰ひおうを投げてしまった。


 「わ、わあ⁉︎」


 感動もつか


 天珠てんじゅが飛んできた緋凰ひおうを慌てて受け止めようと気を取られているすきに、煌珠こうじゅは足早に横を通り過ぎると奥の間に消えて行ってしまったのだった。


 向こうで百敷ももじき達が驚いてざわざわしながら煌珠こうじゅの後ろ姿を見送る中、唯一ゆいいつ刀之介とうのすけだけがその横顔を見た。


 ハッとした刀之介とうのすけは腕をつかんで引き止めようと一瞬手を上げかけて止まる。

 追いかけようかとも思った。

 だがそうした所で、かける言葉が見つからない。


 いずれにしろ、煌珠こうじゅ自身がそんな事望まないのが分かっていたので、何もできずに刀之介とうのすけはその場で立ち尽くしてしまった。


 天珠もまた、顔を見ずとも煌珠の心情をさっしておもわず緋凰をぎゅっと抱きしめる。


 そのまま二人は、大切な妻を失った煌珠の悲みが、一秒でも早くえるように祈る事しか出来なかったのだった。


ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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