2-14 獅子の子はやっぱり落ちる
読んでくださり、ありがとうございます。
○この回の主な登場人物○
御神野 緋凰(通称 凰姫)……主人公。この国のお姫様。六歳
御神野 律ノ進 煌珠……主人公の父。お殿様
瑳矢丸……緋凰の仮の世話役
岩踏兵五郎宗秋……臣下。武将の一人
バキッという音と共に、ゆく手をはばんでいた小枝がバラッと落ちる。
「おじょーずですね〜、お姫さん。のみこみが早くていらっしゃる〜」
ぱちぱちと拍手をしながら、若干の棒読みで岩踏が緋凰をほめた。
「ほんと? これ面白いね! ありがとう、岩踏様!」
徳利についていた紐を少し譲ってもらい、その先に大きめの石をくくりつけた鞭を作ってもらった緋凰は、大喜びでブンブン振り回して遊んでいる。
「おわっ! ちょっ、危ないですって!」
鞭が当たりそうになった瑳矢丸が怒ってくるので、緋凰はとりあえず一度教えられた通りに腰に差し込んでおいた。
——と。
急な斜面に足を取られて緋凰がズッとよこに倒れそうになる。
「わわっ‼︎」
ガシッ!
すんでの所で瑳矢丸が緋凰の体を掴んで助けた。
「気をつけて下さい。この坂、滑りやすいですから」
「ふ〜。そうだね、ありがとう!」
礼を言うと、今度は慎重に坂を登って、少し先で二人の様子を見ている煌珠の元へ急ぐと……、
「ひゃ〜寒っむ!」
坂を登り切った途端にビュッと突風に吹かれて、思わず鼻水が出そうになる。
「そこで待て」
岩踏と瑳矢丸に命じた煌珠は少し進んでゆく。
「緋凰、来い」
呼ばれて煌珠の隣に立つと——。
「怖っわ! 高いね……」
目の前は絶壁とまではいかないが、直角に近い斜面の崖であった。
「お前、ここからどう降りる?」
煌珠のとんでもない質問に緋凰は驚いて振り向いた。
「こんなの! 降りられるわけないよ! 死ぬじゃん‼︎」
何言ってんだ?と言わんばかりに煌珠は腕を組んで冷ややかな目で娘を見下ろす。
「じゃあ死ね。ここで敵に囲まれたら即座に自害しろ」
「え? 敵? どういう事?」
何の話かさっぱり分からず、緋凰は目をぱちくりさせた。
「いざとなったら、お前が鳳珠を守るんだ」
「え? 兄上を? ……私が守れるの?」
「でなければみんな死ぬだけだ。お前は命を捨ててでも鳳珠を守れ。できないのか?」
挑発的に言ってくる煌珠にムッとする。
「そんな事! 言われなくても私は兄上を守るもん‼︎ 絶対に!」
そう怒鳴ると、緋凰はもう一度崖下をそっと見下ろした。
(こんなの……。でもここで敵? に捕まるなら降りないと……おぉ? 無理じゃない?)
緋凰は頭の中で懸命にシュミレーションをしてみる。
そんな娘を煌珠は黙って見ている。
(ええっと、あの出っ張りに足をかけて……)
緋凰が少し身を乗り出して崖の壁を観察する。
煌珠が緋凰をよく見ている。
(あそこに飛べるかな?)
さらに慎重に身を乗り出して緋凰は崖下をキョロキョロ見回して観察する。
煌珠が緋凰の足元を見る。
(あっでもあそこに木が近いから——)
首をにょーーんと伸ばして見る。
煌珠が緋凰を凝視——。
ズッと緋凰の足が滑り、踏ん張ろうとしたらボロっと足場が崩れた。
「わっ! きゃああああーーーーーー‼︎」
——あっ落ちた。
煌珠は微動だにせずに見送ったのだった。
ガガガッと足で壁を踏ん張りながら緋凰は急降下していると、さっき見た出っ張りが目に飛び込んできた。
(足をかけ——)
だが間に合わない!
とっさに片手を思い切り伸ばしたら、ガッと出っ張りを持つ事ができて、身体がガクンと一瞬止まる。
しかしその止まる衝撃で、手がズルッと滑って今度はうつ伏せで急降下してゆく。
「うぎゃああーーーーーー‼︎」
つま先と腹がガリガリと擦れていく中、急に身体がフワッと浮く感じがした。
(まずい!)
このまま投げ出されたら何にも掴まれない。
(南無さんんんーーーー‼︎)
究極の二択を一瞬で決めると、緋凰は思いっ切り崖壁を蹴っとばす。
飛んでいった身体は、そのまま常緑樹に突っ込んでいったのだった。
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