表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第一章 体罰子守に立ち向かえ!〜始まりの勇気編〜
3/230

2.脱走劇その1

読んでくださり、ありがとうございます。

至らぬ点も多いかと思いますが、

皆さまに楽しんで頂けるよう、がんばります。

 夢中になって走っていたら、間も無く大きな門を見つけたのでそこから外に出ようと、緋凰ひおうは登城する人々のなかにうまく混じって門を抜けた。


 だがその門は外への門ではなく、役人が政務をおこなったり会議をしたりする本丸表御殿への門である。


 前の人のお尻についていくと、大きな建物に吸い込まれそうになって、緋凰ひおうは慌ててその列から離脱りだつすると、キョロキョロ辺りを見回した。


 (あれ? 外じゃない……。どうなってるの?)


 ふと見ると、建物の入り口伝いに少し離れた所にある小さくて簡素かんそな門で、何台かの荷車を引いて入っていく人々がいた。


 (あ、あそこから外に出られる)


 緋凰ひおうは走って近くまでいくと、またお尻たちに混じって門を抜けた。


 しかし、ここもまた外に出る門ではなく、庭園への出入り口で、そのお尻たちは庭師の人々であった。


 庭師たちは緋凰が小さ過ぎて気が付かない。


 そのままいっしょに、建物にそって歩きながら緋凰ひおうはキョロキョロしていた。


 きれいに整備された見事な庭園。


 その反対側に立つ建物の中では、ちらほら人が廊下を歩いていたり、部屋では男が数人座って話をしているのが見えたり……。


 (あれ? あの人って……)


 部屋で座っている男達の中で、見た事のある横顔があった。

 初めての場所で、知らない人しかいない中、妙な安心感を覚えて緋凰ひおうは建物に引き寄せられていく。


 縁側まで来てよくよくのぞき込んでみると……。


 ふすまの開け放たれた部屋で、体格の良い男が三人、ややふっくらとした体つきの男と、細身の男の計五人の男達が、向かい合わせに座っていてあーだこーだと会議をしていた。


 見覚えのある男はここからだと後ろ姿で、今は奥を向いてしまって顔が分からない。


 もっと近くで確認したくて、緋凰ひおうは縁側に登って草履ぞうりを脱ぐと、それをふところにねじこんで四つんいになりながら、静かに部屋へ近づいていく。


 ふすまの影に隠れつつ男の斜め後ろにくると、バレないように気をつけながら顔を確認しようとした。


 その時。


 ふすまから見てむかいに座っていたふっくら男が一人、緋凰の存在に気がついた。


 ——子供? いやいや、こんな所にあんな小さな子供がいるはずがない。


 男は書類から片手を離すと、目を閉じて指で目頭を軽くんだ。


 ——最近仕事が立て込んでいたから、疲れているのかな? 幻覚げんかくが……。


 目をぱちぱちさせると、もう一度同じ所を見てみる。


 ……やっぱりいる。


 小動物が警戒けいかいなどしている時みたいに頭を上下にゆらしながら、自分の向いに座っている真瀬馬ませば刀之介とうのすけ忠桐ただぎりをめちゃくちゃ見ている。


 男が固唾かたずを飲んで見ていると、それに気がついた隣の細身の男がヒソヒソと声をかけてきた。


 「百敷ももじき殿、どうされたか?」


 会議が続いている中、緋凰から目を離さずに百敷ももじきもヒソヒソと返事をする。


 「……座敷ざしきわらしがおる。ほれ、真瀬馬ませば殿の後ろに……」

 「……えっ? ホンモノ⁉︎ 縁起えんぎ良くないか? ってかなんか殿に似てるし」


 「……ほんとだ。愛らしいなぁ」


 二人でついクスクス笑っていたら、さすがに向いに座っている刀之介とうのすけがその声に気がついて、怪訝けげんな顔で百敷ももじき達にたずねた。


 「何か?」


 問われて百敷ももじきが慌てて弁明べんめいする。


 「あ、申し訳ない。その、貴殿きでんの隣に、可愛い座敷わらしが……」


 「……?」


 居眠りしていて寝ぼけているのか?と思いながら、刀之介とうのすけ百敷ももじき達の目線の先を見た。


 すると……。


 ふすまから頭だけ出して自分をガン見している緋凰ひおうと目がバチッと合った。


 「うわわっ!」


 驚いてわずかに腰が浮き、手から書類を落とした刀之介とうのすけを見て、緋凰ひおうはパッとふすまの後ろに引っ込んだ。


 「え、え? 座敷……」


 刀之介とうのすけは急いでふすまの反対側をのぞいてみると……。


 そこには、手を頭で抱えて全身をダンゴムシのように丸めている子供の背中がある。


 ドキドキしながら刀之介はそっとその背中にふれてみた。


 「まあ、人だよな……」


 ふっと息をついた刀之介とうのすけは、周りを見回して保護者らしき人がいないのを確認すると、まんまるの緋凰ひおうに声をかける。


 「こら、子供。どうやってここに入ったのだ?」


 警備はどうなっているのだと内心ブチ切れながら、刀之介とうのすけ緋凰ひおうの肩を軽くつかんだ。


 ドキリとした緋凰ひおうが、おそるおそる後ろを見ると……、


 (あ、やっぱり。カッコいいおじさんだ)


 見知った顔の刀之介とうのすけに少しホッとする。


 叔父おじの屋敷で世話になっている間、何度か見かけた事があったし、お菓子をくれたりもしたので、緋凰ひおう刀之介とうのすけに好印象をもっていた。


 でも、名前は覚えていない。


 端正たんせいな顔立ちの中の凛々《りり》しい目元は、どこか武人である叔父の天珠てんじゅや父の煌珠こうじゅに形はちがえど雰囲気が似ている。


 とりあえず『カッコいいおじさん』といつも呼んでいた。


 「……ええ‼︎ 凰姫おうひめ様⁉︎」


 緋凰ひおうと分かって仰天した刀之介とうのすけがすっとんきょうな声を出す。


 「何⁉︎ 凰姫おうひめ様??」


 その声を聞いて部屋の男達がどよめいた。


 ハッと我に返った刀之介とうのすけが急いで緋凰ひおうを立たせると、


 「ささ、とりあえずこちらへ」


 と部屋の中心に連れてゆく。


 緋凰ひおう上座かみざに立たせると、男達は一斉いっせいにひざまずいて頭を下げた。


 刀之介とうのすけは顔をあげると、慌てた様子で緋凰ひおうに質問をする。


 「姫様、お連れの者はどうされたのです? はぐれてしまわれたのですか? どのようなご用件があったので? あ、殿とのに会いに来られたのですか?」


 矢継やつばやに質問されて緋凰ひおうは何から答えていいかわからなくなり、うつむいてしまった。


 「真瀬馬ませば殿、真瀬馬ませば殿、まぁ少し落ち着かれよ」


 百敷ももじき刀之介とうのすけの斜め後ろまで進み出ると、緋凰ひおうにむかってニッコリ笑う。


 「初めまして、凰姫おうひめ様。わたくしは百敷ももじき喜左衛門きざえもん博楽はくらくと申します。姫様はお一人でここに来られたのでしょうか?」


 コロンとした丸顔の、福々《ふくふく》とした優しそうな顔の百敷ももじきの質問に、緋凰ひおうはうなずいた。


 「二の丸御殿からお一人ですか?」


 百敷ももじきの次の質問に一瞬とまどったが、まだまだ嘘をつけない緋凰ひおうは小さくうなずく。


 すると——。


 「そんな! お一人で御殿から出てしまわれるなど、いけません‼︎ さらわれてしまいますぞ!」


 驚きのあまり、刀之介とうのすけはつい語気を強めて緋凰ひおうを叱りつけてしまった。


 端正な顔立ちとはいえ、刀之介とうのすけは武術に精通せいつうしている根っからの武人であり、けっこう気が荒い。


 その鋭い目つきは、正論を言われていると分かっていても、怖いものは怖かった。


 緋凰ひおうはちびりそうになりながらぷるぷるふるえると、目に涙が盛り上がってくる。


 その姿を見て、しまった! と刀之介とうのすけはうろたえた。


 「あ〜あ、泣かせちゃって……。刀之介とうのすけ様はすぐ怒るから」


 刀之介とうのすけの後ろにいる二人の男のうち、若くて筋肉がガチムキの男があきれて言った。


 「バカな! 怒ってなどおらぬわ‼︎」


 その若者もまた叱り飛ばすと、刀之介とうのすけはつとめて優しい声で緋凰ひおうに話しかけた。


 「驚かせてしまって申し訳ありません。ご安心を! この刀之介とうのすけがちゃんと姫様を二の丸御殿にお送りいたしますので」


 (いっ嫌だ‼︎ 戻らない!)

 驚いた緋凰ひおうは、ぱっと縁側から外に出ようと逃げ出した。


ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ