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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第二章 世話役が美少年⁉︎ 〜いろいろ出会い編〜
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おまけの巻/鳳凰、朝の目覚め

読んでくださり、ありがとうございます。

○この回の主な登場人物○

 御神野みかみの 緋凰ひおう(通称 凰姫おうひめ)……主人公。この国のお姫様。

 御神野みかみの つきしん 鳳珠ほうじゅ……主人公の実兄。若殿

 瑳矢丸さやまる……緋凰の世話役

 

 銀河ぎんが……二の丸御殿での鳳珠ほうじゅの世話役

 星吉ほしきち……鳳珠ほうじゅの小姓

 雨が朝からしとしとと降り続いている。


 薄闇の中にたたずむ二の丸御殿の周りでは、小鳥達も今日は静かだった。


 さらさらと雨音が響く部屋の中で、一人の美しい少年が目を覚ます。


 「……起きるか」


 まだ完全には覚めていない頭で、布団を畳み、着替えをすませて念入りに身なりを整える。

 支度が終わると、そのまま部屋を出た。

 朝のひんやりとした空気に体を震わせながら、静かな廊下を歩いて行く。

 瑳矢丸さやまるの世話役としての一日が、始まろうとしていた。

 

 土間に入ると、美しい天女が立っているのを見て瑳矢丸さやまるの心臓がぴょこんと跳ね上がる。

 その天女は目が合うとにこりと微笑ほほえんだ。


 「おはようございます、瑳矢丸さやまるさん。いつも早いですね」


 その笑顔と声で、瑳矢丸さやまるの頭は一気に覚醒して目に映る世界が色付いてゆく。


 「おはようございます。銀河ぎんがさんもお早いですね」


 美しい銀河ぎんがと言葉を交わす、この至福のときのために生きているといっても、過言ではないのかもしれない。

 今この二人きりの貴重な時間、何を話そうか?

 瑳矢丸さやまるがドキドキしながら口を開きかけた時、


 「おはようさ〜ん」

 祖父の包之介ほうのすけが戸口から入ってきた。


 その直後に、他の使用人達も続々とあらわれ始める。


 瑳矢丸さやまるのゴールデンタイムは一瞬で終わった……。


 「おはようございます」

 銀河ぎんがはにこやかに挨拶を返すと、洗顔の為の水の入ったおけに手拭てぬぐいを入れる。


 「では若様(鳳珠ほうじゅ)の所に参ります」

 「いってらっしゃいませ。ついでに凰姫おうひめ様も起きればいいのだけれど……」


 瑳矢丸さやまるの切実な願いに銀河ぎんがはふふっと笑った。


 「わが国の鳳凰ほうおうさまは朝に弱くていらっしゃいますわ。また後から起こしてくださいね」

 そう言って銀河はひと足先に、あるじの部屋に向かって行った。


ーー ーー 

 その頃、別の部屋で星吉ほしきちが目を覚ました。

 眠い目をこすりながら、横を見る。

 すると隣の布団では、毎晩一緒に寝ている鳳珠ほうじゅが背中を向けて眠っていた。


 星吉ほしきちは寝起きがすこぶる良い。

 すぐにムクリと起き上がると、鳳珠ほうじゅを起こしにかかった。


 「おはよう若様。朝だよ〜」

 いつもの事だが、声をかけただけではこのおおとりは目覚めない。


 「若様、わ〜か〜さ〜まっ。起きて!」


 肩をガシッとつかんで左右にゆさゆさとゆするも反応はない。

 ごそごそと鳳珠ほうじゅの布団に潜り込んで、こちょこちょ体をくすぐってみても……駄目だ。


 「わかさま〜、おはよーー!」

 しまいには鳳珠ほうじゅの頭に上半身をどーーんと乗っけてみた。


 すると——。


 「うぅ……ほし……苦しいよ……」


 うめき声をあげてさすがに鳳珠ほうじゅが起きた。


 だが、目はつぶったままだ。

 次はどうしてくれようかと星吉ほしきちの魔の手が鳳珠ほうじゅに忍び寄ろうとした時、部屋の外から声が掛かる。


 「おはようございます。若様、星吉ほしきちさん」


 それを聞いた星吉ほしきちが、鳳珠ほうじゅの耳元で伝える。


 「ほら〜銀河ぎんが来たよ〜。入れていい?」


 鳳珠ほうじゅがやっと目を開いた。

 「……ん? ……分かった。起きるよ……」


 星吉ほしきちがパッと笑顔になって、そのまま部屋の外に声を掛けた。


 「ぎんが〜。若様が起きたよ〜」

 その声を合図に銀河ぎんががふすまを開けて中に入る。


 「失礼いたします。……まずはお顔を洗いますね」

 星吉ほしきちに上半身を無理やり起こされた鳳珠ほうじゅの顔を、銀河ぎんがが濡らした手拭いで優しくていねいに拭いていく。


 星吉ほしきち鳳珠ほうじゅを持ったまま、しばしぼんやりとその光景を眺めていた。


 もう手を離しても鳳珠ほうじゅは自立できそうだったので、星吉ほしきちは自分も適当てきとうに顔を洗おうと銀河ぎんがの横にあるおけまで進んだ。


 おけに沈んでいる手拭いを取り出して絞っていると、鳳珠ほうじゅの顔を拭き終わった銀河ぎんがが、横からそれを星吉ほしきちの手からそっと取る。

 手拭いをほぐすと、銀河ぎんがは微笑んで今度は星吉ほしきちの顔も整え始めた。


 されるがままになっている星吉ほしきちは、またぼんやりとして銀河ぎんがの顔を眺めている。


 「おまえ……いい奴だよな〜」

 ぽそっと星吉ほしきちはつぶやいた。


 「ふふ……ありがとうございます」

 笑いながら銀河ぎんがは応えた。


 星吉ほしきちの顔が綺麗になった時、ごそごそと音がするので二人が不思議に思ってふりむくと……。

 「あっ」

 「あら?」

 鳳珠ほうじゅが、もぐらのように布団に戻ってゆこうとしていたのだった。

 

ーー ーー

 「おはようございます。若殿」

 使用人達は一斉に挨拶をした。


 「……ん、おはよう」

 まだ眠い目をこすってあくびをしながら、鳳珠ほうじゅが居間に入ってくる。

 「おはよーぅ」

 その横から元気に入ってきた星吉ほしきちの後ろに銀河ぎんがも続いた。


 瑳矢丸さやまるは自分のあるじを探して見たが、姿はない。

 緋凰ひおうが自分で起きるという奇跡はやっぱりおきなかった。


 小さくため息をつくと、洗顔の為のおけと手拭いをもって立ち上がる。


 「凰姫おうひめ様を起こしに参ります」


 鳳珠ほうじゅ達に頭を下げると、廊下に向かう。

 「おぅ、ちゃんと優しく起こすんだぞぅ」

 すれ違いざまに星吉ほしきち瑳矢丸さやまるに声をかけた。


 「はいはい。分かりました」

 その言葉を聞く気などさらさらないが、瑳矢丸さやまるは一応返事をしておいたのだった。

 

ーー ーー

 廊下を歩きながら、これから始まる毎朝の攻防戦を考えると、瑳矢丸さやまるは気が重くなる。


 まもなく目的地に到着した。


 緋凰ひおうの部屋の前でひざまずくと、瑳矢丸さやまるは部屋の中に向かって声をかける。

 「おはようございます。凰姫おうひめ様、起きる刻限こくげんでございます」


 しーん……。


 そりゃそうだ、第一声で起きるはずもない。いつもの事だった。


 「お、は、よ、う、ございます! 起きて下さい!」


 しーん……。


 声かけなどで起きるおおとりではない。

 もはや強行手段があたりまえなのだ。


 「入ります!」

 返事を待つ気など全くない瑳矢丸さやまるは、立ち上がってふすまを開ける。


 部屋の中では布団の上に、掛け布団の夜着がミノムシのように細長く丸まっていた。

 おけを置くと、瑳矢丸さやまるは枕元の辺りの夜着をはがしてみた。


 すると尻がでてくる。


 「何でだよ! 頭どこだよ‼︎」

 ちまちま布団をはがすのが面倒になった瑳矢丸さやまるは、夜着を両手でがっしりつかむと勢いよくバサっと持ち上げた。

 すると、緋凰ひおうがゴロンと転がり出てくる。


 「ひぃ! 寒いよーー‼︎」

 半分も開かない目で布団を探すと、緋凰ひおう瑳矢丸さやまるが畳もうとしている夜着に、ぴょーんっと飛びついてひっついた。


 「バッタかよ! 離れろってぇ!」

 イラついた瑳矢丸さやまるはバサバサと布団を勢いよく振るが、緋凰ひおうは落ちてくれない。


 仕方がないので瑳矢丸さやまるは、次の手段に出る。

 手拭いをおけで濡らして軽く絞ると、緋凰ひおうの顔を無理やりべしべし拭いた。


 「ぶへっ! つめたーーい‼︎ やめて〜」

 「起きますか?」

 「おきる! 起きますぅ〜」


 降参した緋凰ひおうは、そのまま渡された手拭いで顔を洗った。

 その隙にてきぱきと瑳矢丸さやまるは布団に戻ってこないように全部畳んで、部屋の隅に積み上げておく。


 「では外で待ちますから、早く着替えて下さい」


 そう言って廊下に向かう瑳矢丸さやまる緋凰ひおうは声をかける。

 「すぐ行くから、先に行って銀河ぎんがを手伝ってきてよ」


 振り向かずにぴたりと止まった瑳矢丸さやまるは聞き返す。


 「……いいのですか?」


 緋凰ひおうはニヤリと笑う。


 「いいよ。よろしくね〜」

 「じゃあ早く来て下さいね」


 そう言って瑳矢丸さやまるは部屋を出てふすまをしめた。


 (行ったかな?)

 静かになった所で緋凰ひおうは部屋の隅に向かう。


 「その手に乗るか‼︎」

 スパーンとふすまが開いて、部屋に入った瑳矢丸さやまるは辺りを見回した。


 すると、部屋の隅に積み上げられた布団の間に、頭から上半身を突っ込んで緋凰ひおうが二度寝を始めている。

 瑳矢丸さやまるからは足と尻しか見えない。


 「また尻かよ‼︎」


 瑳矢丸さやまるはあきれながらも怒って、緋凰ひおうをガシッとつかんで布団から大根のように引っこ抜くと、やむなく最後の手段に出る。


 「いいのですか? そろそろ殿(煌珠こうじゅ)がいらっしゃる頃じゃ……」


 今日は雨なので、煌珠こうじゅはこない。


 だがその言葉に、遅刻した自分に向かって、獲物を狩る直前の虎のような形相をする父の姿を想像して、緋凰ひおうはガバッと立ち上がった。


 「ぎゃーー‼︎ 殺されるぅーー‼︎」


 パッと瞬足で着替えまでたどりついた緋凰ひおうを見て、慌てて瑳矢丸さやまるは部屋を出る。

 速攻そっこうで支度を終えて、パシーンとふすまを開けると、緋凰ひおうはわたわたと転がるように居間へ走って行く。


 「やっと起きた……」

 その後ろを、げっそりとした瑳矢丸さやまるが追いかけていったのだった。



ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します!

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