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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第二章 世話役が美少年⁉︎ 〜いろいろ出会い編〜
22/244

2-7 すっごい好きになっちゃった!

読んでくださり、ありがとうございます。

○この回の主な登場人物○

御神野みかみの 緋凰ひおう(通称 凰姫おうひめ)……主人公。この国のお姫様。6歳

 御神野みかみの つきしん 鳳珠ほうじゅ……主人公の実兄。15歳

 真瀬馬ませば 刀之介とうのすけ 忠桐ただぎり……重臣。武将の一人

 真瀬馬ませば 包之介ほうのすけ 元桐もとぎり……刀之介の父

 真瀬馬ませば 弓炯之介ゆきょうのすけ 義桐よしぎり……鳳珠の護衛。刀之介の長男。14歳

 瑳矢丸さやまる……刀之介の三男。8歳

 星吉ほしきち……鳳珠ほうじゅの小姓。12歳

 屋敷の門を出て、下を向きながらトボトボと歩いていく……。

 瑳矢丸さやまるは今日の失敗を思い返してため息をついた。


 ——すると前方から声がかかる。


 「瑳矢丸? 何でここにいるのだ?」


 のそりと顔を上げると、刀之介とうのすけ弓炯之介ゆきょうのすけがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


 「父上……兄上も。どちらへ?」

 「凰姫おうひめ様のご様子をうかがいにゆくのだが……。なぜお前がここに? 姫様のお世話はどうしたのだ?」


 父の問いかけに嘘をついてもしょうがないので、瑳矢丸は正直に答えた。

 「今日の所は家に帰るように言われました。お役に立てなかったようで……」


 刀之介の顔がけわしくなってゆく。


 「何かしでかしたのか?」


 瑳矢丸は下を向いて小さくなった。

 「……姫様をおぶっていて落としてしまったり、お粥で唇を火傷させてしまい……」


 シ……ンとその場が、静まりかえってしまった。


 口をあんぐり開けて固まっていた刀之介が、わなわなと震えだす。


 「また凰姫おうひめ様のお顔に傷を付けたのかーー‼︎」


 瑳矢丸の頭上にピシャーンと雷が落ちたようだった。


 「駄目だ! やはり私がお世話して差し上げねば‼︎」

 刀之介が血相を変えて走り出そうとしたのを、弓炯之介が慌てて回り込んで止める。


 「お待ち下さい父上! 今宵こよいは私が姫様のお世話をつとめます!」

 「ええいどけっ! 私がゆく‼︎」


 錯乱気味さくらんぎみになっている刀之介に、弓炯之介は真顔でしっかりと言った。


 「父上! 私は明日仕事が休みです!」


 ——最強の説得力だった。


 明日も仕事がてんこ盛りの刀之介は徐々に落ち着いていくと、口惜くちおしげに告げる。


 「……分かった。くれぐれも凰姫様を頼むぞ」

 「はい、お任せください。では行って参ります」


 弓炯之介は一礼をすると、くるりと背を向けて二の丸御殿へ走って行った。


 瑳矢丸は、はからずも弓炯之介と会う事になって緋凰が喜ぶだろう、と少しホッとする。

 だが、家に帰るまでの間、ずーーっと刀之介にぐだぐだと説教をくらう羽目はめになったのであった……。


ーー ーー 

 (あーー……痛い。も、最悪……)

 熱が上がって体中の傷がうずき出したので、緋凰ひおうは目が覚めた。

 いつの間にか寝てしまっていてだいぶったようで、部屋の中は真っ暗だ。

 外では月が明るいのか、明かり取りの障子しょうじあわく光っているのが見える。


 (かわや……いこう)

 もそもそと起きて、ぎちぎちと歩き出す。


 すると、部屋が暗くてほとんど何も見えなかったので、枕屏風まくらびょうぶが置いてある事に気づかず、足にぶつかってしまった。

 バタン! と派手な音を出して、緋凰は枕屏風と一緒に倒れ込んだ。


 「姫様! 大丈夫ですか⁈ 失礼致します!」


 ふすまが開いて、何者かが中に入ってくる。


 逆光ぎやっこうで相手の顔が暗くて分からないので、緋凰は怖くなった。


 「だ、誰?」


 おびえた声で問われた相手は、自分の無礼ぶれいに気がつくと、慌てて倒れている緋凰の前でひざまずいた。


 「弓炯之介でございます。申し訳ありません!名乗らず突然お部屋に入るなど……、ご無礼を致しました」


 「え? 弓炯之介さん⁉︎こんな夜に何で……」


 ドキーン! と口から心臓が吹っ飛びそうになりながら、緋凰はわたわたと上半身を起こす。


 「今宵は、わたくしめが姫様のお世話を務めさせていただきます」

 弓炯之介が緋凰を起こす為に手を差し出そうとしたのを、両手を振って抵抗した。


 「ええーー‼︎ そんな、私、一人で、大丈夫ですからっ」

 (嫌だ! 今は、弓炯之介さんに会いたくないよぉ‼︎)


 思わず緋凰が大きい声をあげたのと同時に、隣の部屋のふすまが開く。


 「緋凰、どうしたの⁈」


 鳳珠ほうじゅが部屋に入ってくると、枕屏風まくらびょうぶの上に座り込んでいる緋凰の隣に来て、そっと背中をなでた。

 その後ろには星吉ほしきちもいる。


 「転んでしまったの? 欲しいものがあれば、義桐よしぎり(弓炯之介)が持ってくるから言うといいよ」


 鳳珠の言葉に、緋凰は力なく首を横に振る。

 「いいの……私、一人で大丈夫なの……」

 (あぁ……何でだろう。弓炯之介さんにはこれ以上——)


 目頭が熱くなってきて、涙がこぼれ出した。


 「どこか痛いの⁈」

 驚いて聞いてくる鳳珠に、緋凰はうつむいて泣きながら訴えた。


 「もう……みにくい顔、人に……見られたくない……の……」

 (何でだろう。昼間のお兄さんには見られても平気だったのに。……弓炯之介さんには、こんな顔、嫌だ……)


 鳳珠と弓炯之介がハッとなる。


 「姫様! 私はあなた様のお顔が醜いなどと、全く思っておりません!」

 慌てて言った弓炯之介を、鳳珠は手をあげて止めると、傷にさわらないように緋凰を抱き寄せた。


 「そうだね、緋凰の気持ちに気づかなくてごめんね。恥ずかしかったね」


 頭を撫でて緋凰をなだめると、

 「義桐、部屋の外に下がっていて。星吉、緋凰を——」

 そう言って鳳珠は立ち上がると、部屋の隅に歩いていく。


 やむなく弓炯之介は部屋の外に出る。


 「ほらほら、姫ちゃん。お気に入りの屏風がやぶれちゃうヨ。泣いてないでこっちにおいでよぉ」

 星吉がゆっくりと緋凰を立たせて、屏風からおろす。

 そこに鳳珠が、手に何かを持って戻ってきた。


 両手でひらりと大判のキレイな手巾を広げると、三角に折る。

 それを緋凰の鼻の上にかけると、頭の後ろで顔を包むように軽くった。


 「ほら、これなら顔の傷も隠れて見えないよ。朝になったら、ちゃんとした面紗めんしゃ針子はりこに作ってもらおうね」


 (あ、そっか。こうすれば良かったのに。泣いちゃうなんて、みっともなかったなぁ……)

 返事をする代わりに、緋凰はうなずいて見せた。


 「何か欲しかったの?」

 「ううん。厠に行こうとして転んだの……」


 これはこれで、恥ずかしい。


 「じゃあ、義桐に運んでもらいなさい」


 もっと恥ずかしい!


 だが鳳珠は、入れと部屋の外に声を掛けて弓炯之介に事情を話してしまう。

 承知しましたと、弓炯之介が目の前でしゃがんで背を向けるので、しかたなく乗った。


 すると——。


 (わ♡ 何か嬉しい! ドキドキする! 弓炯之介さんっていい匂い♡)


 緋凰は内心、喜びを通り越して変態みたいな感想をのべた。


 二人が部屋を出ると、鳳珠は枕元の明かりをともして立ち上がる。

 その間に星吉が枕屏風を整えると、二人は隣の部屋に戻っていったのだった。

 

ーー ーー

 緋凰がかわやから出ると、気をつかって遠くで待っていた弓炯之介が走ってきた。

 もう一度緋凰をおぶると、弓炯之介はハッと何かに気が付く。

 そのまま部屋に運んだ緋凰を布団に寝かせると、気づかわしげな顔で弓炯之介は問いかけた。


 「少しだけ姫様のおでこに触れてもよろしいですか?」

 「……うん」

 緋凰はもじもじしながら承諾しょうだくする。


 ひたいに弓炯之介の手が触れると、顔がたき火でもおこしたかと思うくらいボッと熱くなった。


 「だいぶお熱が上がっておいでです。冷やす物とお飲み物をお持ちします」

 「はい……、お願いします」


 緋凰がそう言ったのを聞いて、弓炯之介が部屋を出ていくと、今度は無性むしょうに寂しくなってきた。


 (あああ……。今度は弓炯之介さんにすんごい会いたいよぉ。何なのわたしぃ〜)

 ふと文机の上にある本が頭に浮かんだ。


 (まさか、コレが……⁈ むむぅ〜)


 きちんと積み上げられている本をじ〜っと眺めると緋凰は布団から起き上がる。

 ぎちぎちと歩きながら文机の上の本を一冊とると、布団にまた戻ってきた。

 寝そべりながら、明かりの下でドキドキしつつそっとページをめくると——。


 「失礼します」

 弓炯之介が戻ってきてしまった。


 (あわわわわ!)

 ドキーン! とすると、緋凰は慌ててごそごそっと本を布団の下にねじ込んで、寝ていたフリをする。

 枕元に来て支度を始めた弓炯之介を、そっと眺めてみた。


 その端正な横顔がほのかな灯りに照らされて、なんだか大人びていて……それでいて頼もしくも見える。


 (素敵〜♡ 今までも優しくて、好きは好きだったけど……。なんか……ものすっごい好きになっちゃった感じだ!)


 ふと弓炯之介が目を合わせてきたので、ドキリとする。

 「お水、飲みますか?」

 「は、はい。飲みます!」

 「では、失礼致します——」

 弓炯之介がそっと腕をまわして、緋凰の肩を抱きかかえるようにすると、上半身をゆっくりと起こした。


 (うきゃあああーー‼︎ 素敵! カッコいい♡ ドキドキする! 傷痛い! いろんな意味で死ぬぅ‼︎)


 さまざまな感情や体調の悪さで、全身真っ赤になりながら、渡されたゆのみで水を飲む。


 (これ、もう、眠れない! ——と言うか、眠りたくないよぉー‼︎)

 今宵、緋凰の睡魔すいまとの戦いが、幕を開けたのだった。

 

ーー ーー

 ——次の日の昼近く。

 瑳矢丸が二の丸御殿の廊下を歩いていると、間もなく緋凰の部屋にたどり着いた。


 「失礼致します、凰姫様。瑳矢丸にございます」

 緋凰の部屋の前でひざまずいて声をかけるが、し〜んとして何の返事もない。


 「? ……あの、姫様、入ってもよろしいでしょうか?」

 どうしようか迷い始めた時、


 「どぉぞ〜」


 と小さく返事が来た。


 失礼しますと瑳矢丸が中に入ると、緋凰が布団の中で向こうをむいて、小さく丸まって寝ているのが見えた。


 「え! 大丈夫ですか⁈ 具合が悪いのですか?」


 瑳矢丸が急いで駆け寄ると、緋凰が小さくつぶやいた。


 「大人になんて……なりたくないなぁ……」


 それを聞いた瑳矢丸が、さては、と文机の方を向くと、机の上の本が崩れているを確認した。


 「だからまだ早いって言ったじゃないですか。もぉ〜」

 あきれた顔で言ってくる瑳矢丸に向かうと緋凰は、

 「ねぇ! 大人って、みんなこうなの⁈ 最悪じゃん!」

 と、八つ当たりをする。


 「さあ、大人じゃないので知りませんって」

 「お兄さんも光源氏みたいに綺麗だから、たんまり恋人作るんでしょ!」

 「何でだよ! 変な事言わないで下さい‼︎」


 今日もまたギャーギャー騒いでいる二人を、様子を見に来た包之介が部屋の外から見ていたのだった。


 「子供は元気だのぉ〜」



ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
一気にここまで読ませていただきました すっごい面白いです。 時涙しながら読んでおります。 最後まで追いかけます!! 楽しみをありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡
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