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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第一章 体罰子守に立ち向かえ!〜始まりの勇気編〜
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1.御殿からの脱走

読んでくださり、ありがとうございます。

至らぬ点も多いかと思いますが、

皆さまに楽しんで頂けるよう、がんばります。

 後世、日本で戦国の時代と呼ばれるあたりの頃。

 とある国のお城の、広〜い敷地内にある二の丸御殿。

 

 ぐるりと屋敷を囲むへいの上から、何かの植物のつるがれているのを見た。


 ぐずぐすと泣いていた四歳の緋凰ひおうは、何気なく近づいてそっとつるに触れてみる。


 ……ずいぶんと太くしっかりとした感触だ。


 そう言えば昨夜は風がとても強かったので、どこからか飛んできたようだった。


 (何だこれ……)


 つるをたどって上を見上げると、小さな女の子の体にとってはどーんとそびえ立っているかのような高いへいの、屋根から垂れているように見えた。


 屋根のさらに上、空には灰色の分厚い雲が敷き詰められており、あたかもその天上からつるが垂れ下がっているようにも感じてしまう。


 緋凰ひおうはそのまま無意識につるをつかむと、グッと引っ張ってみる。


 つるは落ちてこないどころか、抵抗してこっちの手がわずかにジンジン痛くなった。

 愛らしい目を大きく見開いてもう一度見上げてみる。


 (登れるかな?)


 よく従兄いとこ亀千代かめちよ(八歳)が、かぎ縄を使って塀を登り、屋敷を脱走して遊びに行っていた事を思い出した。


 (戻ったら……また叩かれるのかな)


 緋凰ひおうは先程のおたねの所業を思い出す。

 

 ……ただ、のどがかわいたと言っただけだった。


 子守であるおたねは、急に怒りをあらわにして緋凰ひおうをつかみ、井戸までぐいぐい引っ張ってくると、自分でめとおけを乱暴に渡してきた。


 なんて事はない。


 ただ緋凰の父であり、この国のお殿様である御神野みかみのりつしん煌珠こうじゅに惚れているおたねは、娘であろうと女が煌珠こうじゅにまとわりついているのが、気に入らないだけであった。


 その気持ちがなぜか今、爆発したのである。


 今日はいつも優しくしてくれる兄や、祖父の世話役でもある仲のいい料理人の包之介ほうのすけ、兄の世話役で姉のようにしたっている銀河ぎんがが屋敷にいない日と言う事もあった。


 普段は無愛想なだけだったおたねが、急に乱暴にあつかってきたので、びっくりした緋凰ひおうは何が何だか分からず、おけを持ったまま固まってしまう。


 「さあ、早く! あんたみたいな子供が、人をあごで使うなんてもってのほか! 母親を死なせておいて、よくふんぞり返っていられるわねぇ」


 「え? 死……?」


 言葉の意味が理解できなくて、緋凰ひおうは困惑した。


 「そうよ、あんたを産んだせいで鈴星すずほ様はお亡くなりになったのよ。だから殿様も若様もみ〜んな、あんたが嫌い! 無視されてるんだからいい加減わかるでしょ」


 「兄上は、無視してないもん!」


 カッとなった緋凰ひおうはおたねをキッとにらんで言い返した。


 その態度が気に入らないおたねはさらに怒鳴ってくる。


 「心の中じゃ憎んでいるわよ! 大好きな母親を奪われたんだもの、当然よ。さあ、早く水を汲みなさい。あ、この話、誰かにしたら殿様にあんた殺されるわよ〜。ただでさえ妻のかたきをうちたくてうずうずしてんだから」


 嫌味ったらしくおどしをかけながら、べしっとおたねが叩いてきたので、さらに腹が立ちながらも緋凰ひおうはこの話に大きく動揺していた。


 (たしかに、父上が笑っているとこなんて全然見たことないからそうかも……。でも、兄上も……? あんなに優しいのに?)


 実の兄である御神野みかみのつきしん鳳珠ほうじゅも自分が嫌いだったら、と考えただけで全身の血の気が引いて、冷や汗がでてくる。


 鳳珠ほうじゅへの猜疑心さいぎしんを振り払いたくて、とりあえず水をもうと、震える手でつるべ(縄のついたおけ)の縄をつかみ、よいしょよいしょと一生懸命引っ張った。


 小さな子供なので、なかなかおけを上げることができないでいたが、時間をかけて奇跡的につるべを井戸の端に出す事に成功した。


 「やったぁ」


 急いでおけをつかもうとしたが、手がしびれてしまっていたのでうまく持てず、落としてしまう。


 バシャッと音を立てて落ちた水が、おたねの着物を盛大に濡らした。


 「何するのよ‼︎」


 怒ったおたねが、頭をおもいっきりバシンとひっぱたいたので、緋凰ひおうはその場に倒れ込む。


 「ごめんなさい! わざとじゃない‼︎」


 ムカついてはいたが、本当にわざとじゃなかったので、緋凰ひおうはあやまるのだが……。


 「生意気な子!」


 そう言っておたねは緋凰ひおうの腕をグイッとつねり上げた。


 「痛い! 痛い!」


 たまらず別の手でおたねの手を何度もたたいて落とすと、起き上がりざまもうダッシュでその場から逃げたのだった。

 

 (あの女ヤダ! 叔父上のトコに戻りたい‼︎)


 最愛の妻が亡くなった直後、一時的に正気を失った父である煌珠こうじゅの元から離され、産まれてからこないだまで預けられていた、叔父である御神野みかみのごうしん天珠てんじゅの屋敷が頭に浮かんだ。


 緋凰ひおうはとっさにぱっとつるに飛びつくと、亀千代かめちよの見よう見まねで、うんしょうんしょと塀を登り始めた。


 今日はたまたまはかまをはいていたので動きやすい。


 夢中になって、てっぺんまで登り切ると嬉しくなってきた。


 (このまま逃げよう!)


 だが、反対側を見下ろした緋凰ひおうは絶望した。

 外側の塀の高さは、内側よりももっと深かったのだ。


 小さな子供の目には、曇り空により陽の光がいつもより地面に届かない事で、まるで深い谷底のように見えてしまう。


 「こんな高いの、飛び降りれないよぉ……」


 べそをかきながら、亀千代かめちよの所業をもう一度思い出してみる。


 すると、頂上に登った亀千代かめちよは、縄をたぐり寄せていた事に気づいた。


 「あ、このつるをこっちに垂らせばいいのかな」


 真似をしてつるをたぐり寄せると、亀千代かめちよがやっていたように、改めて瓦に縛り付けて反対側に投げた。


 塀の上から慎重に頭を出して、確認してみると……、


 「……地面にはついてないけど、あの高さなら飛べる!」

 つるを持って、ゆっくりと緋凰ひおうは降りていく……。


 地面が近くなったので、とうっと飛び降りたら、失敗して尻もちをついた。


 「いったぁ〜。でもやった! 出られた‼︎」


 よいしょと立ち上がると、緋凰ひおうは初めて一人きりで出歩く事にドキドキしながら、走って行ったのであった。

 

ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します。

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