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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第二章 世話役が美少年⁉︎ 〜いろいろ出会い編〜
18/243

2-3 刀之介の謝罪。どうやって償えば?

読んで下さり、ありがとうございます。

○この回の登場人物○

御神野みかみの 緋凰ひおう(通称 凰姫おうひめ)……主人公。お姫様。6歳

御神野みかみの つきしん 鳳珠ほうじゅ……主人公の実兄。若殿。15歳

御神野みかみの りつしん 煌珠こうじゅ……主人公の父。お殿様

 

真瀬馬ませば 刀之介とうのすけ 忠桐ただぎり……この国の重臣の一人。武将

真瀬馬ませば 包之介ほうのすけ 元桐もとぎり……刀之介の父

真瀬馬ませば 弓炯之介ゆきょうのすけ 義桐よしぎり……刀之介の長男。14歳

瑳矢丸……刀之介の3男。8歳

「なんでまたあいつは凰姫おうひめ様とケンカを?」


 本丸の表御殿にて報告を受けた真瀬馬ませば刀之介とうのすけが、先を急ぎながらも後ろについてきている息子の弓炯之介ゆきょうのすけに、自身の三男である瑳矢丸さやまるがしでかした事の確認をとっている。


 「ケンカではありません。瑳矢丸さやまるがお祖父じい様の忘れ物を届けに二の丸御殿にきたら、やかたに誰もいなかったそうで……。人を探して奥の庭に迷い込んだのを、姫様が泥棒と勘違いなされて——」


 弓炯之介ゆきょうのすけの顔が暗くなるのを見て、刀之介とうのすけは再度確認をする。


 「そんなに姫様のお怪我はひどいのか?」

 「はい」

 「あいつは?」

 「ほぼかすり傷です」

 「……最悪だな」


 どうしたものか頭を悩ませていると、まもなく二の丸御殿にたどり着く。

 急いでやかたに入り、部屋の前まで案内されると廊下でひざまずいて声をかけた。


 「失礼いたします。真瀬馬ませば刀之介とうのすけ忠桐ただぎり、参りました」


 「おう、入れ」


 そう声が聞こえたので刀之介とうのすけが部屋に入ると、手前に包之介ほうのすけ瑳矢丸さやまるが、奥に煌珠こうじゅが座っているのを見た。

 弓炯之介ゆきょうのすけはそのまま部屋の前の縁側えんがわに座って控える。


 「おい、忠桐ただぎりが来たぞ」


 煌珠こうじゅが隣の部屋に声をかけた。


 すると、ゴソゴソっと音がしたかと思うと、サッと隣の部屋との境目のふすまが開く。

 そこから出て来た緋凰ひおうを見るなり、刀之介とうのすけは仰天して腰を抜かした。


 ——顔はあちこち赤黒くれてボコボコしていて、右腕は添木そえぎで固定されている。

 着物で隠れてはいるが、きっと体のあちこちにあざや傷があるのだろうと推測すいそくできた。


 予想をはるかに超えた緋凰ひおうの重傷っぷりに、尻もちをついた刀之介とうのすけは、わなわなと震えている。


 目の前まで進み出た緋凰ひおうは、ゆっくりと正座をすると、そのまま叩頭こうとうしたのだった。


 「真瀬馬ませば様……。申し訳ありません。わたし、ドロボーと間違えておにいさんを棒でたたいてしまいました」


 怒られるかもしれない恐怖や申し訳なさ、恥ずかしさなど、色々な感情がごっちゃ混ぜになった緋凰ひおうは、そのままぐずぐずと泣き始める。

 まだ腰がくだけている刀之介とうのすけは、わたわたといつくばっていって、傷に触らぬように緋凰ひおうの肩をそっとつかむと、そのまま一緒に顔を持ち上げた。


 「違います! 悪いのは愚息ぐそくの方で、姫様が頭をお下げになる事などございません‼︎ どうか‼︎」


 間近で見る緋凰ひおうの顔は、あざと涙によって見るも無惨むざんで、刀之介とうのすけは胸がしめつけられる。


 「確認もせずに人を殴るものじゃない。悪かったな、許せ」

 煌珠こうじゅが横から口を出してきたので、刀之介とうのすけは思わず勢いよく振り向いた。


 「許しをこうのは我らなのです! 何をおっしゃるのですか⁉︎」

 「だが、お前の息子も怪我をした」

 「そんな、怪我といっても大した事……」

 「右肩んトコ」


 着物で見えない位置なので、青い顔をしたまま刀之介とうのすけは、小さくなってうつむいている瑳矢丸さやまるを呼び寄せてよく見てみる。

 包帯を上げると、くっきりと棒で突いた形の大きなあざが痛々しくついていた。


 だが——。


 「これしきの怪我! 真瀬馬ませばの男なら気合いで治せ‼︎」

 包之介ほうのすけと同じ事を言う。

 

 「かわいそうだろう」

 「貴方様に言われたくはありません‼︎」


 瑳矢丸さやまるに同情した顔で言ってきた煌珠こうじゅに、刀之介とうのすけはつい荒小姓時代の口調で返してしまいながらも、もっと自分の娘を気遣えと言いたいのをぐっとこらえる。

 そして、えぐえぐと泣いている緋凰ひおうにもう一度向き合った。


 「あぁ……泣かないで下さい。お体にさわります。お許し下さい……あ、どうか、もう横におなり下さい」


 しどろもどろでそう声をかけると、今度は隣にいる瑳矢丸さやまるへ鋭く言い放つ。


 「お前は姫様のお世話を! お怪我が全て治るまで、家に戻る事は許さん‼︎」


 それを聞いた緋凰ひおうはギョっとすると、慌てて言った。


 「あのっ! お世話はいりません! おにいさんもお怪我をしています。一人で大丈夫です!」


 必死になっている緋凰ひおうを見て刀之介とうのすけは不思議に思ったが、もしやと思い、落ち着いた声で問いかけてみる。


 「すみません。瑳矢丸さやまるでは……怖いですよね」


 これだけボコボコにされたのだから……と刀之介とうのすけは考えたようだが、緋凰ひおうとしては前に追い出した子守のおたねを思い出して恐れたのだった。


 「それならば! 姫様のお世話、この刀之介とうのすけがさせていただきます‼︎」


 (なっなんですとぉぉー⁉︎)


 この突然の提案に、緋凰ひおうは驚きのあまり涙が止まってしまった。

 この国で、とてつもなくえら〜い人にお世話をしてもらうなど、胃にボコボコと穴のあきそうなくらい、こっちが気を使うであろう。


 「えぇ……とぉ……」


 もうお世話する気マンマンの顔をしている刀之介とうのすけ緋凰ひおうは困惑してしまい、内心で必死に言葉を探していると、


 「駄目に決まっているだろう。お前には他に仕事がてんこ盛りだ」

 煌珠こうじゅがまたもや横から口をはさんできた。


 (よく言ったくれた! 父よ‼︎)


 普段はムカつく人なのだが、今だけ緋凰ひおうは父に感謝した。


 「りつしん様! もう貴方様は黙っていて頂きたい‼︎」


 もはや少し正気を失っている刀之介とうのすけ煌珠こうじゅにどなりつけると、とにかく緋凰ひおうを寝室に運ぼうと腰をあげかけた。


 すると、


 「刀之介とうのすけ殿」


 穏やかな声がそれを制する。


 皆が顔を向けると、鳳珠ほうじゅ緋凰ひおうの隣に進み出てきたのだった。


 「一度この瑳矢丸さやまるを家に戻して下さい。きちんと身なりを整えて、明日からこの二の丸に来るように」


 そして今度は緋凰ひおうの方を向いて説得をする。


 「そのままではろくに食事もできないよ。傷が治るまでで良いから、この者に手伝わせてあげなさい」

 「……はい、兄上」


 父の煌珠こうじゅにはさからう事ができるのだが、優しい兄の鳳珠ほうじゅには頭が上がらない緋凰ひおうは、しかたなく承諾しょうだくした。


 「承知致しました、若殿。明日からこの瑳矢丸さやまる誠心誠意せいしんせいい、しっかりと凰姫おうひめ様のお世話をさせて頂きます」


 そう言った刀之介とうのすけと共に、瑳矢丸さやまる包之介ほうのすけ弓炯之介ゆきょうのすけも一緒になって頭を下げている。


 そして鳳珠ほうじゅは父の方を見た。


 煌珠こうじゅはふうっとため息をついて立ち上がると、


 「好きにしろ」


 と言って、部屋を出て行ったのであった。



 ーー ーー

 今日の所は包之介ほうのすけが付きっきりで緋凰ひおうを看病する事になったので、刀之介とうのすけ瑳矢丸さやまる弓炯之介ゆきょうのすけを連れてやかたした。


 門をくぐって、あまり人の通らない場所までくると、くるっと振り向いた刀之介とうのすけ瑳矢丸さやまるをバシンとひっぱたいて叫んだのだった。


 「おろか者! お前はなんて事をしてくれたのだ‼︎ 即刻そっこく首をはねられていても、おかしくはなかったのだぞ‼︎」


 瑳矢丸さやまるは急いでひざまずく。


 「お許し下さい‼︎ まさか、あの方が凰姫おうひめ様だとは全く思わず……」


 どんな言い訳も通用しないのは分かっているのだが、言わずにはいられない。


 「あのような小さなお子をかように傷つける為に、お前に武術を学ばせているのではない‼︎」


 烈火れっかのごとく怒っている刀之介とうのすけの言葉に、瑳矢丸さやまるも懸命に言い訳を続ける。


 「分かっております! でも、その、強かったので……」

 「何を言う! 姫様は武術はおろか、刀一つ握った事のないお方。嘘をつくでない‼︎」

 「そっ、そんなはずは——!」


 瑳矢丸さやまるには信じられない言葉だった。

 あの時の緋凰ひおうの動きを思い返してみても、少しは武術を学んでいるとしか思えなかった。


 「はじめはたしかに素人に見えましたけど、だんだん強くなっていって……最後は、攻撃も早くて……」


 まだ言うか、と刀之介とうのすけが手をあげかけた時、


 「お待ちください、父上」

 二人の間に弓炯之介ゆきょうのすけが割って入った。


 「最後、凰姫おうひめ様が瑳矢丸さやまるの肩を突いた所を私も見ました。たしかにあの時の動き、とても素人とは思えません」


 真剣な顔の弓炯之介ゆきょうのすけに、刀之介とうのすけは手を下げて問いかける。


 「では凰姫おうひめ様も、武術を学んでおられると言うのか?」

 「……分かりません。お庭で、若殿や大殿(閃珠せんじゅ)のお稽古をごらんになっているのはお見かけしますが……」


 わずかに沈黙ちんもくした後、刀之介とうのすけ瑳矢丸さやまるを見てため息をつくと、


 「義桐よしぎり(弓炯之介ゆきょうのすけ)、こいつを家まで送れ。ついで奈由桜なゆさ(刀之介とうのすけの妻)に、事情を説明して明日からの支度を整えるよう言っておいてくれ」


 そう言付ことづけて歩き出した。


 「分かりました」


 弓炯之介ゆきょうのすけ瑳矢丸さやまるは頭を下げて、仕事に戻る父親を見送ったのだった。



 後にこの話を聞いた瑳矢丸さやまるの母である奈由桜なゆさは、あまりの出来事にその場で卒倒してしまったのであった。

ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。


これからも、どうぞよろしくお願い致します!

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