2-2 間違えちゃった代償は重傷でした……
読んでくださり、ありがとうございます。
○この回の登場人物○
御神野 緋凰(通常 凰姫)……主人公。この国のお姫様で六歳の女の子
御神野 律ノ進 煌珠……主人公の父。お殿様
御神野 月ノ進 鳳珠……主人公の兄。若殿。15歳
真瀬馬 包之介 元桐……御殿の料理人。元重臣
真瀬馬 弓炯之介 義桐……鳳珠の護衛。14歳
瑳矢丸 ……真瀬馬家の三男。8歳
星吉 ……鳳珠の小姓。12歳
どれだけ吹っ飛ばされても、何度も起き上がって緋凰は挑みにいくので、両者ともにだいぶ疲れてきていた。
あせだくになり、肩で息をしながら緋凰は相手を見る。
すると、向こうも肩で息をしながら構えていた。
(ああして……こう返されたなら……)
一瞬、そんな計算をすると、緋凰は棒をぐっとにぎって突撃した。
頭の上から棒を相手に向かって振り下ろす。
やっぱり、かわされる。
そこで緋凰は素早く、くるっと後ろ手に左回転をして、その勢いで相手を横からたたこうとした。
だがやはり、またかわされたのだが、
(よし! 今だ‼︎)
右手で振り下ろしていた棒に素早く左手を添えて、力いっぱい突きを出した。
これまでの、たどたどしかった緋凰の動きに油断していた事と疲れにより、そこから突きがくるとは思ってもみなかった相手はよけきれない。
右肩あたりに突きがまともに入った。
「ぐっ!」
相手は二、三歩下がると、すぐさま反撃に出る。
「この——!」
回転した勢いで、緋凰の棒をたたき落とすとさらに回転して勢いをつけ、回し蹴りをくらわした。
蹴られた右腕がミシッと嫌な音を出し、緋凰はドッと倒れる。
(痛い‼︎ あ……)
急いで起きあがろうとしたのと同時に、追い討ちをかけようと相手がこぶしをあげるのが見えた。
(死ぬ!)
そう思った瞬間!
緋凰の前に人影がたちはだかると、向かってきたこぶしを片手で受け止めて、もう片方の手で相手を殴り倒したのだった。
(あ……弓炯之……助かっ……た)
前に立っている見慣れた弓炯之介の背中を見て、緋凰はホッとして脱力した。直後に、
「緋凰‼︎ 緋凰‼︎ 大丈夫⁈」
そう叫びながら駆け寄ってきた鳳珠が、急いで緋凰を助け起こすとその姿を見て、みるみる血相を変えてゆく。
「一体これは! どう言う事だ‼︎」
鳳珠が怒鳴りながら後ろを向くと、弓炯之介が先程の不審者の頭をつかんで地面にめり込ませながら、自身も深く深く叩頭していた。
「申し訳ございません‼︎ これなるは私めの弟、瑳矢丸にございます‼︎ なぜこのような事に……」
弓炯之介の言葉に、緋凰の目が点になる。
(ん? え⁉︎ 弓炯之介さんの……弟? え、え、ドロボーじゃない……の?)
ようやく自分の間違いに気が付くと、さっと顔が青ざめる。
「えぇーーーー‼︎‼︎」
緋凰の驚いた悲鳴が、庭にこだました。
「そんな……間違えちゃった……私……」
とにかく謝ろうと緋凰が起きあがりかけたら、ザッと隣に人影が立った。
「ちっ父上⁉︎」
庭に降りて来た煌珠は、緋凰をチラリと見た後、地面に頭がめりこんだままの瑳矢丸の近くまできてしゃがみ込む。
顔をあげろと言われて瑳矢丸はおずおずと頭を上げると、煌珠と間近で目が合って肝を冷やした。
「見せろ」
「え?」
何を見せれば良いのか分からず、瑳矢丸がおどおどしていると、しびれを切らした煌珠は、ガッと瑳矢丸の胸ぐらをつかむ。
顔面パンチだと、周りの誰もが覚悟をしたが、煌珠はわずかにその着物を剥いだだけであった。
瑳矢丸の右肩にある、先ほど緋凰が突いた傷跡を確認すると、煌珠は何もしないで立ち上がる。
それとほぼ同時に、
「おや? 殿がおみえでしたか」
帰ってきた包之介が廊下から現れたのだった。
振り向いた煌珠が、
「やぁ、悪いが医者がくるまで二人を応急処置してくれ」
そう言うので、
「え? 怪我ですか⁈二人とは……」
その足元をよく見た包之介の目ん玉が、ドーンと前に突き出たようだった。
「うわぁぁ! 姫様! どえらい事にぃ‼︎」
包之介は慌てて庭へ降りて緋凰を抱きかかえると、鳳珠の隣にいる星吉に布団の用意を、弓炯之介達には水等の用意をするよう、テキパキと指示を出して部屋に上がる。
瑳矢丸も弓炯之介の手伝いに行こうとしたら、煌珠が片手をあげてそれを止めた。
「お前も怪我をしている。包之介殿の所へ」
「え……? 大丈夫です……あの、ほんとに……」
びくびくして答える瑳矢丸に、煌珠は穏やかに言う。
「俺が忠桐(瑳矢丸の父)に怒られるから、大人しくしていろ」
そして包之介に、
「あなたの孫も怪我をしている」
と言って瑳矢丸を差し出す。
だが、包之介は瑳矢丸の様子を見て、
「これしきの怪我! 真瀬馬の男なら気合いで治さんかい!」
そう慌ただしくぷりぷり怒ると、緋凰の方に集中する。
水桶を持った弓炯之介が到着したので、仕方なく煌珠はみずから手拭いをしぼって瑳矢丸の傷の手当を始めた。
それを見て、弓炯之介は仰天すると、
「そんな……殿様! 私めに代わってください! どうか‼︎」
煌珠へ必死に願う。
瑳矢丸はあまりに恐れ多い出来事にチーンと気絶しかけているのであった。
ならばと、煌珠は弓炯之介に手拭いを渡すとそのまま立ち上がって縁側に出る。
庭をながめて先ほどの緋凰の動きを思い出していると横に鳳珠が立ち、疑問を投げかけてきた。
「ずっと前から緋凰達をごらんになっておりましたでしょう? なぜお止め下さらなかったのですか?」
大事な息子ににらまれて、煌珠はたじたじになる。
「……武術の訓練をしていると思ったからだ」
あさっての方向をみてしらじらしく言うと、部屋に戻り緋凰の近くに歩み寄っていった。
包之介の手当てをうけながら、痛さでぐずぐず泣いているボコボコの顔の緋凰をみると思わず煌珠は、
「……化け物みたいになっているな」
とぼそりと言う。
「うわあああん! 父上がひどい事言う〜」
それが聞こえて泣き叫ぶ緋凰を鳳珠は必死になだめると、
「父上‼︎」
と激怒する。
息子にド叱られた煌珠は、すごすごといったん自室へ退散していったのだった。
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