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飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第一章 体罰子守に立ち向かえ!〜始まりの勇気編〜
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11.初めて武術を使ってみた!(無意識だけど)

読んでくださり、ありがとうございます。

至らぬ点も多いかと思いますが、

皆さまに楽しんで頂けるよう、がんばります!

 また部屋で一人になった緋凰ひおうは、先ほどの亀千代かめちよの顔を思い出してひどく落ち込んでいた。


 (せっかく来てくれたのに怒らせちゃった。明日、ごめんなさいしなきゃ……)


 ふと、おたねにつねられた腕がジンジンと痛むのでさすっていたら、着物の肩の部分がわずかに破れているのを見つけた。


 (これくらいなら自分で直せるかな?)


 緋凰は秋くらいからこっそり針仕事にハマっている。


 本当は機織はたおりだって見てみたいのに、姫のくせに下下しもじもの仕事に興味を持つなと、おたねが殴ってくる。

 それでも興味があるので、一人の時に紡錘車ぼうすいしゃを借りて糸をつむいで遊んだり、使用人の部屋で隠れて裁縫を習ったりして持てあました暇をつぶしていた。


 (道具、借りよっ)


 落ち込んだ気持ちを引きずりながらも、緋凰は部屋を出て行った。


 ーー ーー

 「おひさ〜!」


 井戸端で他の使用人達に混じって洗濯をしている若い使用人の女は、名を呼ばれて顔をあげる。

 すると向こうから小さなお姫様が笑顔で走ってきたので、つられて笑顔になりながら一礼をして迎えた。


 「おひさ、後で針貸して! 洗濯手伝うよ、やりたい!」


 返事を待たずに洗濯棒をつかむと、緋凰はバシバシと汚れ物を叩きだす。


 この夏、熱中症で死にかけた時に助けてくれたおひさに、緋凰はなついていた。


 「お、ついに刺繍に手を出しますか〜?」

 おひさは緋凰の隣に座って洗濯を再開しながら、からかい口調で話しかける。


 「え〜! まだ無理だよ〜。私の縫い目、穴ができるくらいでっかいもん」

 「おやおや、それでは小豆あずきも逃げてしまいますね」


 周りの女達もまじえてキャッキャと談笑していたら、ふいに襟元えりもとをガッとつかまれた。

 驚く間もなく、緋凰は棒を持ったまま後ろに引き倒されてしまう。


 「姫さ——‼︎」


 周りにいた女達が、一斉に凍りついた。


 そこには、すごい形相をしたおたねが立っていたのである。


 「凰姫! あれ程いやしい仕事をするなと言ったでしょう‼︎」


 体を蹴飛ばされて、緋凰はゴロンゴロンと転がった。


 体罰に慣れてしまったおたねは、もう身分の低い使用人の前でも、平気で殴るようになっていた。


 「りつしん(煌珠こうじゅ)様に恥をかかせるんじゃない‼︎」


 おひさから棒をひったくると、おたねは緋凰に向かって振り下ろす。


 (わあ!)

 怖くて緋凰がギュッと目をつむったその時!


 バッと何かがおおかぶさった。


 「きゃあ‼︎」

 周りの女達の悲鳴に、緋凰が驚いて目を開けると、


 「銀河ぎんが⁉︎」


 苦痛に顔をゆがめている女の子が目の前にいた。


 (そんな! 銀河が、私の代わりに⁉︎)


 大好きな友達が間違って叩かれてしまった事に、緋凰は真っ青になった。


 銀河はおたねの方へ振り向くと、毅然きぜんとした態度で言葉をはなつ。


 「何をなさるのです! 姫様を、こんなお小さい子を棒でたたくなどと‼︎ お殿様がなんとお思いになる事か……」


 ぎくりとしたおたねの表情が変わってゆく。


 その目に得体えたいの知れない何かが宿やどったのを感じて、緋凰の全身に戦慄せんりつが走った。


 (ダメ‼︎ 銀——)

 有無うむも言わず、おたねは素早く銀河に向かって力強く棒を振り下ろす——!


 ———カンッ‼︎


 はじかれた棒がおたねの手を離れて勢いよく遠くへ飛んでゆき、離れた所でハラハラ様子を見ていた使用人の男の頭にゴンっと着地した。


 とっさに緋凰が二人の間にサッと入り、無意識に持っていた棒を下段げだんの構えから振り上げ、おたねの棒を吹っ飛ばしたのだ。


 「邪魔よ!」


 おくする事なく、おたねが弾かれていた手を横に振り払う。


 緋凰はとっさに片腕を上げてその手を受け止めた。


 (あ、止められ——だぁ‼︎)


 おたねは止められた手をそのまますべらせて緋凰の袖をがっしりつかむと、横に思い切り引き倒した。


 「姫様‼︎」


 血相をかえて銀河が駆け寄ってくる。


 「きちゃダメ! 銀河、向こうに——」

 おたねが再度二人の前に立ったので、緋凰は急いで起き上がると、目いっぱい両腕を広げて銀河を背中に隠した。


 「どうして⁈ 銀河なんにも悪くないじゃん! どうして叩くの⁈」


 せいいっぱい相手をにらみつけて抗議してみたが……。


 おたねの目がすわっている。

 あの日父の部屋で見たときよりも、もっと禍々《まがまが》しい感じが……。


 (こっ、怖い怖い怖い‼︎)


 身体中がブルブル震えてきて目に涙まで盛り上がってきたが、今ここで自分が逃げたら大変な事になる予感がする。


 緋凰は必死に歯を食いしばって、恐怖と戦った。


 すると——。


 「あ、おたねさま〜」

 何も知らない使用人が一人、おたねを見つけて向こうからやってきた。


 「何?」

 おたねが振り向いて返事をする。


 たどり着いた使用人が、現場の物々しい雰囲気を感じてビクッとなった。


 「え、え、とぉ、……今日は寒すぎるので、殿と若殿(鳳珠)が早くお戻りになるそうです」


 「分かったわ。各部屋の火鉢を確認しておいて」


 はい、と返事をすると使用人はわたわたと急いで消えていった。


 おたねはもう一度緋凰達に向き合う。


 「まったく……。今朝の口の悪い坊ちゃんといい、子供ってほんっと言う事を聞かないわね。嫌だわ……」


 そして銀河を一瞥いちべつすると、


 「口を開かない事ね」

 そう言ってそのまま奥の間に行ってしまった。


 「ぶあ! ……はっ……はぁ……」


 緊張が解けた緋凰は肩で息をすると、慌てて銀河の腕をつかむ。


 「大丈夫⁈ 誰か! 早く銀河を手当てして!」


 その声に従って数人の女達が、急いで銀河を部屋に連れていった。


 「銀河……こんなことなら……亀兄に……ついていけば良かっ……た……」


 その場に残った緋凰は、恐怖と強い後悔で泣きじゃくり始める。


 「姫様、姫様は大丈夫ですか⁉︎ さあ、手当ていたしましょう」


 同じく残ったおひさが、しゃがんで緋凰に言葉をかけた。


 泣き止むことができない小さな子供に、おひさは胸が潰れる思いだ。

 しかし殿が緋凰を無視しているように見える以上、うかつに加勢をすれば家族の命さえ危うい。

 感情のままに人を助ける事ができないもどかしさに、おひさは自分を情けなく思う。


 ——せめて、私にできる事は……。


 おひさは泣いている緋凰をそっと抱き上げると、緋凰の部屋へ急いだのだった。


ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

間違った表記等は、その都度直していく所存です。


皆さまのご意見、ご感想が頂けたら嬉しく思います。

これからも、どうぞよろしくお願い致します!

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