表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飛凰《ひおう》の姫君〜武将になんてなりたくない!〜  作者: 木村友香里
第一章 体罰子守に立ち向かえ!〜始まりの勇気編〜
10/238

9.散会のち、御神野家の孫達の集い

読んでくださり、ありがとうございます。

至らぬ点も多いかと思いますが、

皆さまに楽しんで頂けるよう、がんばります!

 すると向こうから男が一人、こちらを見つけて歩いてくる。


 「じん兄上!」

 「迅兄様じんにいさまだぁ!」


 鷹千代たかちよ緋凰ひおうはパッと笑顔になってその男、御神野みかみのじんしん玄珠げんじゅに向かって走り出した。


 「そんな所で何をしている。また虫か?」


 幼子おさなご二人が左右の腕に飛びついて来たので、微笑みながら玄珠は質問した。


 天珠てんじゅの長男である玄珠は、顔は父母のそれぞれ良い所をもらって精悍せいかんな顔つきをしているのだが、身体が父親そっくりで、縦にも横にも大きくて筋肉ムキムキである。

 あまりにでっかいので、実年齢である十二歳に見られた事など一度もなかった。


 「あれ? 皆で何をしているんだい?」


 今度は玄珠の後ろから、帰ってきた鳳珠ほうじゅ星吉ほしきちともなって歩いて来た。


 「若様!」


 鷹千代が玄珠を離れて、今度は鳳珠に飛びついた。


 キュッと抱きしめ返して頭を撫でてくれた事に嬉しくなって、鷹千代は鳳珠を仰ぎ見ると、穏やかな形の深い瑠璃色の瞳が微笑んでいる。


 「ねえ、またお星さまのお話して! 今日お泊まりしていい?」

 そうお願いしてみる。


 「いいよ。お祖父様がみやこで彗星の書物を持ち帰ってくれたから、今日はそれを読もうか?」

 「わあい! すいせー、流れるやつ‼︎」


 鳳珠と鷹千代は趣味や好みがよく似ている事から、とても仲がいい。

 隣にいる星吉もまた、鳳珠が大好きなので、仲良くしゃべっている鷹千代がうらやましくて指をくわえて見ている。

 そしてまた、緋凰もうらやましく二人を眺めていた。


 (いいな……。私も行こうかな)


 前のように兄に飛びつきたいのだが、おたねの呪いの言葉のせいで躊躇ちゅうちょしている。


 つい、しがみついていた玄珠の腕をギュッとつかんでしまった。

 その行動と緋凰の悩んでいる表情に、玄珠はわずかにいぶかしむ。

 「……どうした? 凰姫もいつもの様に若様の元へゆくといい」


 ふいにってきた玄珠の低く穏やかな声につられて、緋凰は上を向いた。


 武人らしい引き締まった顔が、優しく笑んでいる。

 玄珠の隣はなぜだか安心できるし、とても落ち着く。


 そして、その鋭い形の深い瑠璃色の瞳のその奥に感じる力強さ、優しさに背をおされるように、緋凰は兄の方へ一歩を踏み出した。


 しかし……。


 「お帰りなさい、兄上」

 鳳珠の前に立って笑う事しか出来なかった。


 「……」

 近頃急に自分に寄り付かなくなってきてしまった緋凰に、鳳珠は寂しさを覚える。


 『女の子は成長が早い。美鶴なんてあっという間に私に辛辣しんらつになってしまって……』

 いつぞやに酒の席で、そう涙していた叔父の天珠を思い出し、そういう事なのだろうか、と母に代わって娘のように可愛がっている妹を見つめた。


 だが、穏やかな性格ではあっても鳳珠はこの国の跡取り。

 彼は芯が強く、めげない。

 来ないなら、みずから行こう、抱きしめに。(季語なし、俳句風)である。


 「緋凰、ただいま」

 鳳珠は緋凰をギュッと抱きしめた。


 前に美鶴をギュッとして吹っ飛ばされていた天珠を思い出し、怒られる覚悟で挑む。


 ……キュッと返ってきた小さな手の感触に、ホッと胸をなでおろした。


 その様子を見ていた亀千代が、いぶかしげな表情で二人の元へ歩いてきた。


 「若様。凰姫には銀河ぎんがのように姫様教育をなさらないのですか?」


 え? とした顔で鳳珠は顔を上げた。


 鳳珠の世話役であるが、銀河(九歳)は使用人とは少し違う。

 元は領地争いにやぶれて逃げてきた一族の中にいた姫君で、あまりにも人の目を引く美少女だった。


 この国に受け入れた際、城下において無駄な争いを避ける為、閃珠がその一族と相談して、二の丸御殿に引き取ったのである。

 孫の誰かの嫁になるか、養女にして婚姻を利用するか……そんな考えのもとで銀河は教育をほどこされていた。


 「この御殿に来てから、凰姫はずいぶんと暇を持てあましているようですよ。さっきも台所で使用人と豆、いてたし」


 亀千代の言葉に、鳳珠はさらに驚いて緋凰を見下ろした。


 「そうだったの⁉︎ ごめんね、気が付かなかった……。後で父上に相談してみようね」

 「え? 私もお花生けたりできるの?」

 「もちろんだよ。お華でもお琴でも、好きなお稽古をするといい」


 緋凰の顔つきが、パァァと明るくなっていく。


 「やったぁ! 嬉しい!♡」

 緋凰がパッと抱きついてきた事で、退屈が原因だったのだと鳳珠は反省しつつ、破顔して喜んだ。


 忙しくなれば、おたねと一緒にはいなくなる。

 これで大丈夫だろうと、亀千代は一つ、息をついたのだった。

 

 ところが——。

 

 鳳珠が相談しても、煌珠こうじゅは『子守に任せてあるからそっちに聞け』と言い。

 おたねに相談しても、『まだ幼いのでそのうちに』と言われるだけである。


 結局、緋凰は変わらずに放置ほうちされるのであった。

ここまでお読み頂き、本当にありがとうございます。

間違った表記等は、その都度直していく所存です。


皆さまのご意見、ご感想が頂けたら嬉しく思います。

これからも、どうぞよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読ませていただきました。この国一番の姫様である緋鳳に対して、子守役のおたねの『躾』が本当に厳しいですね。しかも、相当強くて…。脱出したくなる気持ちも分かります。 一方で、緋鳳の家…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ