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第5話

 次の授業の準備を進めていると、またしても後ろにいる悪友から話しかけられた。


「やっぱり小百合ちゃん可愛いよなぁ。今度お茶でも誘ってみようかな」

「友助は本当に見境なさすぎ。いつか刺されるぞ」


 たしかに安中先生はまだ26歳らしいし、年齢的に考えても可能性がない話ではないと思うが、


「学校の先生と生徒で男女の関係になるなんてもってのほかだ」


 これは揺るぎない事実だ。

 漫画やドラマの世界では生徒と教師のイケナイ関係がモチーフになることもあるが、それはフィクションだからこそ楽しめるものだ。

 現実ではありえない。


「愛さえあればその他の障壁なんて乗り越えてみせるさ」

「しっかりと現実を見ろ。万年発情期リア充め」

「せっかくの若いリビドーを持て余してちゃ人生もったいないだろ。やっぱり直行もどんどん恋しようぜ。チャンスはそこら中に眠ってるさ。幸いなことに、このクラスは本当に女子のレベルが高い。陽子と可憐の他にもあんまり目立つ感じじゃないけど、男心をくすぐられるような魅力的な女子ばかりじゃないか。おまけに担任まで美人ときた」


 こいつほどではないが、もう少し恋愛に積極的になる姿勢が必要なのだろうか。

 そんな改善する気もない反省をしていたとき――


「ん?」


 誰かに見られている気がして辺りを見回す。


「どうかしたか?」


 友助がいつものすっとぼけた顔で尋ねてくる。

 誰も俺のことなんか見てくるはずもないか。

 最近何かの視線に敏感になっている気がする。絶対に勘違いだと思うが。

 女の子と話せないうえに視線にまで過敏に反応していたらこの先どうなってしまうことやら。


「いや、なんでもない。」


 何事もなかったかのように返答した。


「そうか。お前もやっぱりまだ気になってたのかと思ったわ」

「え、何が?」

「何がって、決まってんだろ――」


 視線が気になっていたせいで完全に不意打ちだった。

 まるでいきなりカウンターパンチを食らったかのように、悪友の口から、忘れたくても忘れられない、ずっと頭の片隅にあったある人物の名前が飛び出した。


「前橋さんだよ、前橋静香まえばし しずか。前橋さんもいればなぁ。あんま話してるとこは見たことなかったけど、かなりいい線いってたと思うんだよなぁ。結局仲良くなれる前に……」


 さっきまで元気に話していた友助は、すべてを話し終える前に口を噤んだ。

 代わりに、自分たちのいる窓際の後ろの席から、ちょうど斜迎えにある廊下側の席に視線を向ける。

 俺も合わせてその視線の先に意識を傾けた。


 そこにあるのは、もうすぐ1時限目の授業が始まろうというのにもかかわらず、誰も座る気配のない机と、その上にポツンと置かれているガラス瓶に供えられた白菊だった。


 今日でちょうど49日か……

 花を片付けないと。


 ————水を取り替える日々は、もう終わりなんだ。

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