8.魔の軍勢
魔法のほうき、地上を目指し夜の海を進行中……。
うん。全然つかない!どんだけ広いんだよこの海!
この前ひょこっと海面から顔を覗かせたが、果てしないほどの大海原が広がっていて大陸という大陸が遠くの水平線にもない。
うーん。まあ地上を目指して泳ぎ続けるしかないなあ。
あの海老ボクサー以来、襲い掛かってくる魔物は数体いたが、どれもワンパンできるほど弱かった。
お、ちょうど。
俺が優雅に泳いでいるとアイアンカサゴが襲ってきた。
こいつはその名の通り体の一部分が鉄でできており、一見手強いかと思うが。
火魔法!インフェルノ(仮)!
熱湯を浴びるとすぐにごぼぼ…と口から水泡をまき、ゆっくり海面に浮かんでいく。
こいつは熱にめっちゃ弱いっぽい。
そっちから襲ってきたんだから悪く思わないでくれよ。
さてさて、地上を目指しますか。
でもずっと真っすぐ進めばいつか地上につくかという俺の考えは安直すぎるか?
知らないうちに戦闘したり、波の流れで方向が狂っていたりしそうだな。
んー。マゴイさんなんかわかんない?
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位置情報特定機能はない。
よって不明。
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だよねー。
泳ぎ続けるしかないかあ。
にしても俺生物じゃなくてよかったわ。生物だったら今頃死んでたし。
まあそもそもデッキブラシに転生してなかったらこんなことにはなってないような気もするが……。
細かいことは考えないでおこう!!
考え事をしながら真っすぐ進んでいると、前方に俺を遥かに凌駕するほどの巨大な影が見えてきた。
な、なんだ?やばくね?
俺は警戒し、立ち止まって目を凝らす。夜だからあんま良く見えないんだよな。
でかい影……しかしよくみると複数の影が集まってでかく見えるだけっぽい。
よくあるいわしの群れとかで巨大に見せて敵を追い払ってるとかなのかな。スイミー戦法じゃん!!
俺も仲間に入れてくれー。尻尾の先とかならいけるぞ。なーんだと安心したのも束の間。
近づいてくるにつれてわかった。その一個体の影さえも俺の倍以上巨大だったのだ。
……全然スイミーじゃねえ!!
一体なんだあの魚は……。
俺は海底の岩陰に隠れ、様子を見る。
するとその魚群の正体がはっきり見えた。
俺はそれを見て驚愕した。
2メートル以上はありそうな巨大な体躯にギザギザと全てを貪り喰らうような牙。それとは相まって逆に恐怖さえ感じるつぶらな瞳。
海面につき出そうなほどの大きな背びれ。顔の両サイドにある鰓孔……この特徴を持つ魚はこれしかいない……・
さ、鮫!!?
ちょ、ちょっとやばくね?!しかも群れでこいつら泳いでやがる!!
海の絶対的王者。鮫。いや王者はシャチか。って今の俺にとってはどっちでも変わらねえ!!
と…とりあえず……マゴイさん、どれか一体のステータスを見せてくれ……。
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種族 魔物ーブラッディシャーク
危険度…B
レベル…26
生命力…100%
力…410
魔法力…62
防御力…75
敏捷力…310
スキル 噛みつき デスファング 水魔法 仲間呼び 感覚共鳴
称号「復讐心」
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つえええ!ブラッディシャークって名前からして絶対やべえだろ!
しかもマナが100%で元気百倍じゃねえか!!
それが何十体もいるんだろ?勝てん!絶対勝てん!!
過ぎ去れ……俺のことを無視していってしまえー!ああ……襲われたらどうしよう…。
いやなにかの記事で見たことがあるぞ。
鮫はじつは人食い鮫なんてほどの凶暴なやつはいなく、基本的にはだいたい大人しいと。
っつってもここ異世界だしなあー。マゴイさん、こいつの詳細って教えてくれたりする??
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ブラッディシャーク
赤い皮膚が特徴的の鮫。鯨飲馬食で一日に何十キロも捕食する個体もいる。
基本的には大人しい。食料にしか目がなく空腹状態でなければ襲ってこない。
単独行動する個体が主だが、レベルが低いうちは群れで行動することがある。
それゆえ、強くなって単独行動になっても仲間意識は強く残る。
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ほー、なるほど。
今は夜だから暗くてよく見えないが、月明かりでちょっと赤黒い皮膚が見える。
その一瞬だけでないはずの鳥肌がぞわっとした。
まさか鮫をこんな間近で観察する日が来るとは……映画のジョーズの中に入った気分だ。
だが大人しいというのはあってたみたいだ。
レベルが低いうちって、あれでも弱い個体なのかよ!!
井の中の蛙大海を知らず。世の中広いなあ。
だが念のため、ここで気配を消してやりすごそう!!
俺はただのほうき……ただのほうき!!誰かが落としてゴミと化したほうき!!
察知されないように体に力を入れ、マナをギリギリまで抑える。
俺は影…幻…誰にも察知されない存在。
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スキル 隠密 を獲得。
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ナイスタイミング!!!
これも幸運の持ち主のおかげ??!ありがとうございます!
早速だが隠密発動!!
……?発動してんのかこれ?マゴイさん?てかこれ俺が思っている効果なのか?
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発動中。
隠密…体のマナを体内に留め、相手に察知されにくくするスキル。
長時間使い続けると体内に留めていたマナが一気に放出されるので注意が必要。
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基本、気配を感じる=マナによる感知ってことなのか。
発動した感じの自分自身への変化はあんまないな。変わったとすれば自分の姿がなんか透けてる感じがするくらい?
だけど発動しているなら探知系のスキルがない限り居場所がバレないはず!!
来るな来るな来るな!!通り過ぎろ!!
俺は目をつむり、手の代わりに無意識に穂先の毛で祈りのポーズをする。
しばらくして視界をパッと開いて外の様子を見た。
ど、どうなったんだ??
あたりは閑散としていてたまに小魚が通り過ぎるだけだった。
岩陰からひょこっと顔を覗かすと、奥の方に鮫の群れが小さく見えた。
どうやら鮫の群れは通り過ぎていったみたいだ。
よ、よかったあああ~。
襲われる可能性は低いかもしれないが、もし襲われたら集団リンチだからな。
あのレベルが一体なら相手に出来るが十数体となると手も足も出ない。
俺はゆっくりと隠密を解く。
ふー。いつかあの群れも一瞬で倒せるくらいには強くなりたいものだ。
その前に地上でバディを探さないとな。
とりあえずあいつらが遠くで見えなくなるまでここで待機しておくか。
にしてもさっきやり過ごすことで頭一杯になってスルーしてしまったが、鮫の称号の「復讐心」ってなんだ??
親でも殺されたのか?魔物にもそういう感情あるのかよ。まして鮫とか子供の頃共食いするのに。まあ俺には関係ないか。
俺が岩陰から出ようとすると出会い頭にひょこっとアイアンカサゴがでてくる。
おーびっくりした。お前か。
アイアンカサゴは俺に噛みつこうとするが、余裕でかわす。
鉄をしょってる分、動きがすげー遅い。
ひょい、火魔法。
アイアンカサゴはボコボコと泡を吹きながら浮上していった。
こいつらも懲りねえな。
そろそろ見えなくなったか?
と思い、俺は鮫の群れの方を見るがまだいるっぽい。
俺が感覚で真っすぐ進んだルートにはあいつらがいる。
戻るわけにもいかないし、別のルートを探すか。
右左!斜め右斜め左!
どれにしようかな天の神様の言う通り!
海の知識がねえからこれで決めるしかねえ!!
というわけで斜め右に進もう。
鮫の群れはと、まだいる!!
なんか止まってないか??餌場でも見つけたのだろうか。
でも生命力100%だったしな。そういうのは関係ないのだろうか。
じーっと観察していると、俺はある事実に気づいた。
その場でとどまっていた影はだんだんと大きくなり、形を成していく。
うーん?あれ?これ近づいてきてない??
しかもけっこうなスピードでこっちに来てるよ!!
嘘だろ!!戻るなんて反則だぞ!前を向いて生きろよ!!
俺はあたふたと狼狽していたが、一呼吸置いて冷静を取り戻しさっきの岩陰に隠れ、すぐさまスキル「隠密」を発動させる。
その数秒後、鮫の群れが再び現れた。
心なしかさっきよりも眼力や動作が機敏で怒っているような感じがする。
あわわ!!
何でこいつら戻ってきたんだよ!おかしいだろ!!
もしかしてアイアンカサゴに気が付いてこっちに戻ってきたのか?捕食するために!
だがそれだったら海面に浮かんでいるはずのアイアンカサゴを喰いに行っているはずだ。
キョロキョロとあたりを見回している。なんか探してる?忘れ物?
数分たったように思うが、鮫たちはそこをうろうろするだけで一向に去っていく気配はない。
うーん。しばらくこの岩陰でやり過ごすしかねえか。
お!ちょうどこの岩に穴が空いてる!ラッキー!この中に隠れれば見つかる確率をぐっと下げられる。
俺は岩穴に入るが、すぐにガン!となにか硬いものが柄の先にぶつかった。
いって!なんだ?穴かと思ったが凹んでるだけ?
暗闇の中を凝視していると、闇からアイアンカサゴが現れた。それも数体いる。
またおめえかよ!おれは忙しいんだ!!
ここぞとばかりにこいつらが現れるとは何なんだ。嫌がらせか?
いや待てよ。もしかしてここ君たちの住処??
邪魔してたのは俺??
……俺もここで死ぬわけにはいかない。悪いが死んでもらう。
数体のアイアンカサゴは俺に噛みつこうとする。
が俺は華麗に避けてよっ!はいっ!はっ!と火魔法を連打する。
あーあ。なんか悪いなー。ま、しょうがないしょうがない。
ここは弱肉強食の世界だし、俺にもそのルール適用されるよね?
俺はそのまま岩穴に隠れやり過ごそうと思った……だが。
更に数分が立ち、俺はそろそろいなくなったんじゃないかと外を覗こうとした。
さすがにもういないだろ。そこまで執拗になる意味がわからない。あ、もしかして復讐心ってやつか!
となると……アイアンカサゴに自分たちの子供を殺されたとか!?でも共食いしてるだろ!しないタイプの鮫なのかな。
だが仇はすでに俺が倒した。ならこの場に留まる理由はもうないはずだ。
俺はおそるおそる穴から顔を出した。
すると……。
鮫の巨大な顔が眼前に迫っていた。
やあ、こんにちは。
……。あれ?隠密は?
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隠密状態で魔法を使用すると、強制的に隠密は解除される。
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それ先に教えてくれよおお!!
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賢人たちの知 派生スキル 警告を獲得。
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ちがうちがう!!そういう事じゃねえの!!
だけど魔法使うってことはマナを出すってことだ!よくよく考えたらわかることだな!
俺って馬鹿だ!
だけどアイアンカサゴに魔法なしで勝てるかって言ったら多分無理だ。結局こうなることはきまっていたも同然か。はは。
鮫は歯をぎしぎしと鳴らし、睨み、こころなしかすごく怒っている様に思える。
え、いや俺なんもしてねえじゃん!!勘違いしてんのか!?鮫ってたしか視力弱いんじゃなかったっけ?
俺はすぐさま死んだふり……というかただのゴミのふりをした。
俺……ただのほうきっす。アイアンカサゴじゃないっす。なので行ってくださいっす。
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警告。
ブラッディシャークの敵意を確認。
勝率低。逃亡を推奨。
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早速使われたけども……。
これ俺を狙ってるってことでオーケー??
「グガアアア!!」
いやあああ!!
鮫が大口を開けて噛み殺そうとしてきた。
俺は猛スピードで穴から抜け出し、回避する。
こえええ!!鮫こえええよ!!
だが間抜けな事に、鮫は勢い余って穴に顔がはまってしまい、悶えている。
よし、計画通りだ!
「グギャ!!」
しかし別の鮫が俺めがけて突進してきた。
すれすれで回避する。
周りを見渡すと鮫が俺を囲んで、一心に睨んでくる。
明らかにこいつら俺を狙って、攻撃してきている。
それも捕食するためじゃない。殺す気でいる。
弱肉強食。自分の発言に墓穴掘ってしまったな!