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5.リスタート

壊れたデッキブラシもとい壊れた棒は海の中を彷徨う。

名のないそれは意識を失い、誰の目にもとまらぬであろうありふれた海の藻屑に成り下がった。

海で優雅に泳ぐ魚さえも気に留めない。

危険か安全か。その範疇にもないごみという認識だ。

ただ……一つ言えることは…


ただの棒ではないという事だ。


バッシャーン!!


激しい音と共に、海の中に突如水泡が巻き散った。

海の捕食者、巨大鮫が姿を現した。

たくさんの獲物を鋭い目つきで睨み、どれを喰らおうかと選定し始める。

それに気づいた小魚たちは大慌てで逃げ惑うが、次々と捕食され、血が霧のように立ち込める。

美しかった海の光景は一瞬にして惨劇となった。


鮫は満足そうにしながら帰路につこうと後ろを振り向くと、目の前に壊れた棒がゆっくりと通過していく。

当然それは鮫の眼中には入らなかった。

慢心…というには違うだろうが、少なくとも弱者を喰らった直後の満悦は警戒心をゆるゆると解いて行った。


つまりなにが言いたいかと言うと

自分は絶対強者であるという自覚はこの大きな海、いやこの広大な世界のほんの一部でのみ適用されるのだ。


======

暗黒魔法の派生スキル、生死の審判者(モロス)を獲得…。

======


「グギギ…?」


突如、ただの棒だったものが異様な光を放ち始めた。

薄紫色の光が広がり、やがてそれは人間?の少女の姿を象った。

少女はにやけ顔で天秤を持ち、その中にはゆらゆらと狐火のようなものが置かれていた。


わけがわからない鮫は恐怖を感じ、その場を通り過ぎようと加速するが、


天秤が静かに傾いた。


「グ!!ギギ…」


刹那、

さっきまで生きていた鮫は人形のように微動だにしなくなった。

死ぬという思考にすらたどり着けず即死したのだ。

鮫の死骸は音もなく海底へと沈んでいき、海の藻屑へと変わっていく。


そして、鮫の突然の死とは打って変わって生き残った名のない者の魂は異常なスピードで回復。

壊れた棒だったものは静かに目を覚ます……!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


======

進化力が100%に達しました。

進化先を選択してください。


・デッキブラシ

・木の箒

・木の杖

・錆びた剣

======


え??

目が覚め、開口一番にマゴイさんに告げられた。

……なにがあった!!?

し、進化の前に俺今どうなってんの!?

嵐で吹っ飛ばされて、そんまま意識失って…。

とりあえずステータス!!


==============

名称 なし

種族 棒

レア度…E

レベル…20(Max)

生命力(マナ)…50%

生命持続時間…三週間

力…20

魔法力…120

防御力…10

敏捷力…40

進化力…100%


スキル 念話(テレパシー)弱  洗浄 賢人たちの知(マゴイ) 暗黒魔法+

    魔力駆動


称号 「壊れた棒」「魂の込められし道具(ソウルアイテム)

   「童帝」 「クズ」「転生者」


===============


な、なんじゃこりゃ。

いつの間にかレベルがMaxになってるし、回復どころかパワーアップしてるし、

欲しかった魔力駆動覚えてるし。

よくみたら暗黒魔法に+が…なんだこれ?

俺がそう疑問に思っていると、頭の中の文字が切り替わった。


======

暗黒魔法ー生死の天秤(モロス)

======


謎が増えたぞ。これはどういうスキルなんだ。


======

生死の天秤(モロス)…暗黒魔法の派生スキル。

          詳細不明。

======


マゴイさんにもわからないの!!?

マジでなにがあったんだよ!教えてくれ!!


======

不明。

======


嘘つけ!絶対知ってるだろ!!

しかしこの暗黒魔法、マゴイさんが情報が少ないって言っていた通り謎が深いし危険すぎる。

しばらく強くなるまでは封印しておこう…。


そしてそして!!ついに!というかいつの間に獲得した魔力駆動を使いたい!!

体を動かしたい!!

俺は魔力駆動!と叫びながら、全身に僅かに熱が纏うのを感じた。


おー!!動けるぞ!!

くるくると回転もできるし、ビューっと加速できたりもした。

おお!!自由だ!鳥になった気分だ!!

こんなに簡単に動かせるとは!今までの苦労は何だったのか!!

地上よりも海では浮遊力がある分、動かしやすいのかな。パラメータがあがった影響もありそうだ。

俺はしばらく魚たちと一緒になって優雅に泳いでいた。


楽しい!!楽しいぞ!!人生最高!!人じゃなかった!!

息継ぎの心配もいらないし、なんかに喰われる心配もない!!ただの棒最高!!

そんな有頂天になっている俺に


======

進化力が100%に達した。

進化先を選択。


・デッキブラシ

・木の箒

・木の杖

・錆びた剣

======


めっちゃ催促してくるじゃん。

待ってくださいよ…こちとら寝起きだっていうのに。

えー進化ね進化。って進化!?念願の!!

きたきたー!!

進化先は!?


======

・デッキブラシ

・木の箒

・木の杖

・錆びた剣

======


んん?

地味なものが並んでいる。

これは進化と言えるのか。候補にデッキブラシあるし。

そうか俺ただの棒になったんだ。つまり退化したんだ。

退化からの進化。結果的に現状何も変わってないやん。一種の詐欺やん。


え…こんなかから??慎重に選ばないとな。

進化先の詳細は見れないのか?


======

・デッキブラシ

よくある掃除用具。

・木の箒

よくある箒。

・木の杖

歪な形をしたよくある杖。武器屋に売っているような魔法の杖ではない。

・錆びた剣

鉄の剣が錆びたもの。脆い。

======


普通に考えれば錆びた剣なんだけども…。剣は男の子の憧れだもん。だが、

今俺水中にいることを考えたら金属だから沈んでいかないか??だがそこは魔力駆動でどうにかなるのか。

だけどずっと魔力駆動をつかうわけにもいかないしな…。しかもデフォで錆びてんのに海水で悪化するじゃん。

脆いって書いてあるし、生命力(マナ)が恐ろしい速度で減っていきそうだから候補からは外しておくか…。無念。


デッキブラシ、これは論外である。もう二度となりたくない。軽くトラウマだし。

木のほうき。これも微妙だな。

木の杖。魔法の杖じゃないなら微妙?だが恐らく魔法の杖に進化する感じはするな。


全部ぱっとしねえ。


木の箒か杖の二択だな。

とりあえずこれからの目的はこの海でのレベリングとする。

だとしたら少しでも攻撃範囲が広そうなのが良いのか。

そう考えたら、歪な杖より、ほうきの方がいい気がする。


んー。でもそのあとの進化の事を考えると、ほうきって何に進化すんだよ。

杖はまあわかる。RPGではお馴染みの武器だもんな。

ほうき……。マゴイさんわかる?


======

数はすくないがほうきは魔道具としてもつかわれる。魔道具としてのほうきは市場に多く出回っている杖よりも希少価値が高いとされる。

======


……そう言われてしまえば選ぶしかないよな??レアとか希少価値が高いってのは男のロマンだ!

それに行きつける進化を目指すしかねえ!!


木の箒で!!


すると俺の体は光に包まれた。

うお!!なんだこれ!!

みるみるうちに光が全身に広がり、ほうきの形を成していく。


======

進化完了。

======


自分の姿をみて感動してしまった。

たしかに普通の木の箒だ。どこにでもあるような赤茶色のほうきだった。

それでも嬉しかった。

ボロボロの棒から新品になったことももちろんうれしいが。

なによりやっと一歩を踏み出せたことへの感動だ。


これでどうなった?ステータス!


==============

名称 なし

種族 木の箒

レア度…D

レベル…1

生命力…100%

生命持続時間…二年

力…40

魔法力…160

防御力…50

敏捷力…90

進化力…0%


スキル 念話(テレパシー)弱 洗浄 賢人たちの知(マゴイ) 暗黒魔法+

    魔力駆動


称号 「新品なほうき」「魂の込められし道具(ソウルアイテム)

   「童帝」 「クズ」 「転生者」


===============


自分の中でたしかにわきあがる嬉々とした気持ちがないはずの口角をあげる。

リスタートだ!!


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