4.逆境
とはいってもレベルが全然あがんないんだが。
早く上げるにはどうしたらいい?
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レベルは強い刺激により上昇値が変動する。
戦闘が最も有効手段である。
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なんかググってるみたいだな……。
やっぱ戦うのが一番なのかー。
相手がいねーし、戦う手段もねーんだけど。
目的は明確になったのはいいが、それをするための道具がねえ!!
料理するのに調理器具がないみたいなもんだな……。
地道に掃除してレベリングするしかねえのか。だが時間は迫ってきてるし。
ああ!!どうしたら!!
「わーー!!」「船だ船だ!!」
俺が懊悩煩悶としていると、子供の声が聞こえてきた。
この町の子供たちだろうか。
「こら!ここは遊び場じゃないんだぞ!」
「まあ、いいじゃないか。少しくらい。子供に色んな経験させたほうがいいだろ?」
「お前の場合はもっと父親としての威厳を保ったほうがいいと思うぞ。甘やかしてばかりじゃだめだ」
俺は掃除用具いれからこっそりと聞き耳を立てる。
ふむふむ。どうやらこの船員たちの子供らしい。
子供…いんのか。そりゃそうだよな。綺麗な奥さんもいて、幸せな家庭築いて…。
これ以上は悲しくなるからやめよう。俺には一生かないっこない夢だからな。
だがひとつだけ!!ひとつだけ言わしてくれ!!
リア充爆発しろ!!!
うん。スッキリした。この言葉ってもう古いのかな。
それはさておき、子供というのはまあ体力が無限にあるようで、子供たちがはしゃいでいることがわかる地響きがここまで伝わってくる。
おいおい大丈夫か?この船壊れるんじゃないか?そんな風に思うくらいはしゃぎまわっている。
いいな。子供は。俺も普通に異世界転生していたら今頃あそこにいたかもしれないのに。
あのギャル女神。許すまじ。
だが俺が人間に向かないというのも事実。なら別の誰かに生まれ変わらせてくれという話だが。
せっかくの第二の人生(掃除用具だけど)なんだ。何も知らない世界で知らない土地、俺のことを知ってる人は誰もいない。
できることなら悠々自適に楽しみたいじゃん?ギャル女神には善行積めとか言われてるけどそこまで重要そうにいってなかったし、無視しよ。
ま、悪いことしなければいいんだろ??気が付かないとこで案外こつこつ溜まっていくでしょ。
「あ!!いいのあったぜ!!」
そんな幻想を抱いていると用具入れに光が充満し、やがて目の前に赤毛の男の子が現れた。
いやあ、かわいい。子供ってこんなにかわいかったっけ?
俺が癒されているのを露知らない男の子はにんまりと笑顔を堪えて俺を乱暴につかみ取った。
ッ!!ちょ!!
男の子は走って甲板まで向かうと、別の男の子が黒いマントを来て振り向いた。
そして赤毛の男の子が俺を剣のようにして構え、かっこいいセリフを叫んだ。
「魔王!!やっと追い詰めたぞ!この勇者グラディウスがお前を倒す!!」
「ぐははは!!やれるものならやってみろ!!」
うわー。めっちゃかわいいな。純粋って素晴らしい。
俺も子供の頃はこんなことやってたもんなあ。
魔王と勇者でヒーロごっこ的な事をしてるんだな。
ん?魔王と勇者?異世界テンプレじゃないすか。
この世界にもしかして存在するのか?
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約二百年程前に実在していた。
グラディウス…魔物の王、魔王を倒し後世では勇者として称えられる。
魔王…魔物の王。勇者によって倒された。
後世にグラディウスの史実をもとにコミカルに書かれた小説、グラディウス冒険譚が世界的に有名。
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していたということはもうご存命ではないのですね。
だがこうして後世に名を残し、子供たちの憧れの存在になったんだな。
なんとも夢のある話だな。
赤毛の男の子は剣に見立てた俺を魔王役の子に大きく振り降ろした。
「しねえええ!!!」
おいおい、子供がそんな汚い言葉を…って。
魔王役の子は木の板を盾にし、受け止める。その瞬間びきっと嫌な音がした。
ちょ、ちょっと。君たち?
「や!!とう!!おりゃ!!」
「きかぬきかぬわー!!」
ガンガンバチバチと激しい音を鳴らし攻防を繰り広げているが、
俺にはそれよりもビキビキという音の方が大きく感じられた。
まてまて!!いい子だから!!いい子だから!一旦やめようか!!!
そんな俺の必死の叫びも届くはずが…
「ん?お前なんか言ったか?」
「え??どういうこと??」
キョロキョロとあたりを見回す赤毛の男の子。
あれ、俺の声が届いたのか!?テレパシーの効果が!
おーい!!おーい!!俺はここだぞ!!
「なんか聞こえてる気がするけど…虫の鳴き声か?」
「きっとそうだよ」
ここだって!!
しかし子供たちは再びチャンバラごっこを再開した。
いてえ!!いてえよ!!
まさかどの大人よりも子供たちのほうがひどい扱いを受けるとは…。
純粋無垢ゆえの残酷さ……とほほ。
「必殺!!」
と、男の子が俺を天に向かって大きく振りかぶる。
昼時なのかちょうど真上にはに太陽が燦燦と輝き、日光を浴びて一瞬空を羽ばたいたような、ジェットコースターに乗ったような嬉々とした気持ちになった。
あー空はあんなに広いいいい!!ぎゃあああ!!
その刹那、子供に出してるとは思えないほどの速さで俺を振り下ろし始めた。
そして
「セイクリッドブレード!!」
バキンッ!!!!
快活な音と共に俺の胴体は真っ二つに割れた。
あ。
「あ」
異口同音、俺を含め呆けた顔をして立ち尽くす。
たった一文字の言葉ですらない文字が現状の悲惨さを物語った。
体が軽くなった感覚、そして急激にくるだるさ、遠くに見える俺の半身。
これが意味することは自明である。
壊れてしまいました。うわああああああああああ!!!
男の子たちはお互いに顔を見合わせた。
「やべえぞ!!怒られる!!」
「どっかに隠せ!!」
大慌てで二人は走りさり、右往左往とし、やがて
「あそこだ!!」
と希望を見つけたように、俺を甲板に置いてあった木箱の陰に隠した。
分裂した半身と共に。
ちなみに俺ではなくなった半身はブラシがついているほうです。
え、俺今ただの棒……?
いやちゃうちゃう!!待て待て!!
二人は乱暴に俺を放り投げた後そそくさと行ってしまった。
…なにこれ。絶望なんですけど。このままずっと見つからずに放置プレイさせられる気?
遊ぶだけ遊んで無残に捨てられる道具の運命なのか。
いつかは使い捨てられる道具の気持ちがわかったよ、今なら道具を大切に使うよ。
だからどうにかしてくれよ!!賢人達の知さん!!
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曖昧過ぎる質問には答えることは出来ない。
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うわああああん!!
どっかの猫型ロボットと丸眼鏡のダメ人間みたいに行くんじゃないかと思ったが現実はそうもいかない。
というか壊れてんのになんで俺生きれてんの!!??
タコとかイカみたいにしばらくは筋肉的なあれで生きれんのか?
それともプラナリアみたいに分裂して別個体として生きれんのか?
今の俺のステータスは…
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名称 なし
種族 棒
レア度…E
レベル…7
生命力…30%
生命持続時間…一週間
力…-50
魔法力…10
防御力…-100
敏捷力…-50
進化力…10%
スキル 念話弱 洗浄 賢人達の知
称号 「壊れた棒」「魂の込められし道具」
「童帝」 「クズ」「転生者」
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……。ほんとにただの棒だよ。
あのガキども…ぜったい許せん。
大人げないとかおもうかもしれないがこっちは命掛かってんだぞ!!
子供なんだからとか言って許せるやつは余裕あるやつだけなんだよ!リア充なんだよ!!
どうせあいつらも将来リア充になって子供できんだろ??!挙句の果てには勇者の生まれ変わりだった!とかなって。
その前に俺が殺しに行ってやるよ……この恨みは絶対忘れねえ。ギャル女神に殺されるかもしれないがな…。
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スキル 暗黒魔法 を獲得しました。
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うるせえ!俺は今怒りで何も…って
は??
暗黒魔法…?やばそうなの手に入れてしまった。
中二心くすぐるチートスキルなんじゃねえの??
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暗黒魔法…魔法系スキルで高等魔法に分類されるもののひとつ。
あまりの危険性ゆえに魔法の使用は禁忌とされている。
もっとも使用可能者はいない。
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きたきたきたああ!!これぞ異世界転生の醍醐味だ!!
具体的にはどういうまほうなんだ?
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暗黒魔法に関しての情報は極端に少ないため、これ以上の提示は不可能。
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なるほど。相当レアなの引いたってわけだ。
暗黒魔法ってどうやって使うんだ?技とかあるよな。
とりあえず暗黒魔法って叫べばいいか。
暗黒魔法!!
そう叫んだ瞬間、自分の体の周りに大きな渦が取り付いた。
な、なんだ!!?
そして俺の中に入り込むようにして消えた。
嫌な予感しかしない……。
うっ!
急に体が全身なにかにむしばまれるような痛みが走った。
こ、これは…。
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暗黒魔法は失敗すると自身に大きなダメージを被る。
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くそ地雷スキルじゃねえか!
てかなぜそれを先に言わない!!わざとなのか!?
全身がずきずきと痛む。
やば…これ…ステータスどうなってんの?
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名称 なし
種族 棒
レア度…E
レベル…7
生命力…5%
生命持続時間…一日
力…??
魔法力…??
防御力…??
敏捷力…??
進化力…??
スキル 念話弱 洗浄 賢者の知恵 暗黒魔法
称号 「壊れた棒」「魂の込められし道具」
「童帝」 「クズ」「転生者」
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めっちゃダメージうけてるじゃん……。
パラメータが計測不能…これは絶対マイナスのほうでだよな…。
生命力5%ってのは今の俺の状況を見れば火を見るよりも明らか。
激しい熱でもあるみたいに全身だるく、意識が朦朧とする。
絶体絶命ってこのことか。
数時間くらいだろうか。しばらく体にのしかかった重圧に耐えていると。
いつの間にか子供たちの騒がしい声や、せっせと働く大人たちの声が消え、閑散とした空気が広がっていた。
あたりは薄暗くなり、涼しい風か吹く。あれ、夜…にしては俺の体内時計的に早いような。気のせいか?
ふと体に冷たい感触が広がった。
な。なんだ?水か?
それは、ぽつりぽつりと静かに音がなり、やがてそれは無数に広がり激しい轟音となった。
雨…?いやただの雨じゃない。
嵐だ!!
そういえば今日は嵐が来るとかで出航は中止とか言っていた!
弱り目に祟り目。
これは天罰なのか。あのギャル女神軽い感じで俺を転生させたが裏ではしめしめと笑っているのだろうか。
あんなに晴れ渡った快晴は一瞬にして黒く淀んだ雲で覆われ、まるで今までの俺の心境を代弁してくれているようだった。
ってリリックに浸ってる場合じゃねえ!!
この状況から生き残れる手段は何かないか!!?
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………不明。
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賢人達の知さんもお手上げだということなのか。
マゴイさんこころなしかちょっと反省してない?俺も安易に使いすぎた感はあるしな。
雨は激しさを増し滝のような豪雨が降り続け、やがて大木さえもへし折ってしまうほどの颶風が吹き荒ぶ。
船員たちは嵐の激しさを予想していなかったのか、それとも忘れていたのか、俺の目の前の置きっぱなしの木箱が突風に運ばれて行ってしまう。
それが意味することとは、
俺なんかとっくの昔に吹き飛ばされているという事だ。
ぎゃあああああああああ!!!
掴む手もなく、堪える足もなく、耐え忍ぶ忍耐もなく…
荒れ狂う嵐に逆らえず俺は水平線の彼方へと吹っ飛んでいく。
おー!俺空飛んでるよ!ずっと夢だったんだ!空飛ぶの!
無理やりポジティブ思考にしても現状が回復するわけでもなく。
朦朧とした意識はやがて光を失い、暗い深海へと落ちていた。