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ビッグ・ブラザー 17


 グレート・キボーダー。エスポワール戦隊の象徴とも言えるガジェットであり、制圧兵器として数々の難敵を打ち倒して来た。

 その質量は出現させるだけで周りに甚大な被害を与え、合体と言う過程一つさえ武器にしてしまう。建造物への攻撃だけではなく、対地兵器も豊富に搭載しており、概ねの携行火器では通用しない装甲を持っている等。一組織が持つには過剰とも言える火力を所持していた。

 だが、弱点が無い訳ではない。巨体であるが故に攻撃を受けやすく、動きも鈍い。更に、人型と言う構造上、脚部を破壊されると身動きが取れなくなる。

 また複数の操縦者を必要とし、欠員が出た場合は機能が落ちる等。全体的に機動力が低く、一度損害を受ければ機能停止に陥り易いという、打たれ弱さを孕んでいた。


「くたばれ!!」


 シアンの肩部にマウントされた砲塔が火を噴き、バックパックから大量のミサイルが射出される。剣狼と黒田も回避に専念しているが、少しでも逃げ出そうとすれば背中から撃ち抜かれることは想像できた。


「チッ!」


 二人共。回避の合間に攻撃を入れようとするが、全て防がれていた。

 巨体であったグレート・キボーダーは動きも緩慢で好き放題に切り裂けたが、人間サイズまで縮小した影響か全体的に装甲が分厚くなっていた。動きも軽快な物となり、剣狼達の攻撃に対しても防御を取れていた。


「死ね!」

「ぐぁ!?」


 目が慣れて来たのか、擦れ違いざまの斬撃に合わせて、シアンは指先からレーザーブレードを出現させていた。剣狼の体表を覆う剛毛を焼き切り、得物である刃をも溶断していた。


「終わりだ!」

「ケン!」


 ダメージを受け、動きが鈍った一瞬をシアンは見逃さなかった。

 両腕の上部から砲塔が出現し、胸部と腹部の装甲が展開されると『E』の文字を模った装甲が赤熱した後、熱線が放射された。

 黒田は射線を逸らすべく背後から襲い掛かった。ミサイルでの迎撃も間に合わない隙を突いた攻撃であったが、一つ計算外があった。グルリと、シアンの頭部が180度回転したのだ。


「なっ!?」

「人間と同じ動きしか出来ないと思ったか?」


 頭部に搭載されたバルカン砲が火を噴く。体表を大鱗が剥がれ、表れた素肌に弾丸が突き刺さる。強化された筋肉のおかげで皮膚を突き破ることは無かったが、衝撃で臓腑が叩かれ内臓が搔き乱される。


「が……!」


 吐いたのが吐瀉物か血液かも判断が付かない。だが、黒田は進むのを止めなかった。このまま行けば、剣狼は焼き払われる。

 そうなれば、自分一人ではこの男を倒すのは不可能だ。そうなれば、自分が殺されるのも時間の問題でしかなくなる。ならば、どちらを生き残らせるべきか。


「うぉおおおおおおお!」

「栄光の勝利を掴め! E・ブレスト!!」


 銃撃の雨を突っ切った黒田は、全体重を乗せて飛び掛かった。加速も合わせた一撃はシアンの態勢を崩す事には成功し、熱線は剣狼に命中することは無かった。だが、黒田は四肢の自由が利かなくなっていることに気付いた。


「掴まえた」


 ボキリと鈍い音が響いた。鈍い痛みがジワジワと全身に広がって行く。掴まれていた右腕と左足の骨が折られた。畳み掛ける様にして、残された左腕と右足は切り飛ばされた。

 自分は芋虫の様に踏み殺される。ただ、殺されるのでは助けた意味がない。大口を開けて叫んだ。


「ケン! テメェ、何時まで寝てやがんだ!!」

「死にぞこないが!」


 顔面を踏み砕こうと足を上げた瞬間、シ人影が飛び掛かった。剣狼だった。彼は両足を組んで、シアンの頭部を固定すると腕部に生やした刃で何度も切り裂いた。


「どいつもコイツも! 何故、死なない! 死ねよ!! テメェらクズはこの世にいらねぇんだよ! 邪魔なんだよ!!」

「ただで、駆除されてやると思うな!」


 グレート・キボーダーの装甲を前に刃が欠ける。刃の鋭利さを前に装甲が欠けて行く。頭部に搭載されたバルカン砲は飛び掛かられたときに潰されていた。

 なので、シアンは剣狼を掴んだままレーザーブレードを展開した。肉体を突き破り、直接臓腑を焼くが止まらない。


「ぐ。ギッ」

「ガフッ」


 片や臓腑を焼かれて、肉体を内部から焼かれている。片や頸部を寸断されかけており、両者とも命を削り合うデッドレースが行われていた。金属を叩く音と肉を焦がす臭いだけが周囲を支配する。

 暫し、単調な暴力の応酬が行われていたが、終わりは訪れた。ガタンと重量物が地面に落ちた。頸部を寸断されたグレート・キボーダーからは火花が散っていた。転がって行った頭部は、自らの体を見上げていた。


「俺の負け。だと?」

「その状態で動ける訳でも無ければな」


 意識が霞んでいく。金属に覆われていただけあって、自分は完全に機械化した訳ではなかったのだと理解した。とすれば、死が避けられない物だとも理解してしまった。


「お前達は、その力で何を守る」

「……俺達の日常だ。汚くて、正しくなくて。それでも、俺達にとっては大事な日常を」


 一瞥することも無く、剣狼は負傷した黒田を迎えに行こうとした。その様子を見たシアンは、死に体であるにも関わらず憎悪に満ちた声を発した。


「この皇に、そんな薄汚い日常は要らねぇんだよ。死ねよ」

「ケン! 飛べ!」


 胴体だけになっていたシアンの肉体が赤熱していた。何が起きるかは理解した、黒田を抱えて逃げようとするが間に合わない。


「アニキ!」

「生きろ」


 強烈な光が発せられた。爆風が拡がり、周囲の全てを呑み込んでいく。さながら、シアンの執念を表したかのような一撃だった。

 最期の一撃が収まった後。幽鬼の様な足取りで、戻って来た剣狼が見たのは、ボロボロになった黒田の怪人化リングだけだった。


「畜生! 畜生ォオオオオ!!!」


 先の自爆で、目標物であった洗脳アンテナも破壊されていた。任務は達成したと言えたが、剣狼達の被害は甚大だった。仲間を二人も失い、取り戻すはずだった兵隊達もまとめて葬られた。残ったのは、グレート・キボーダーを倒したという事実だけだった。

 暫く、その場に佇んでいたが。リングを拾い上げて、ポケットに仕舞うと剣狼は避難所へと戻って行った。


~~


「だからですね。私達は頑張って、洗脳電波を妨害して取り付けて来たのです。誰一人の犠牲も無くね!」

「カーター司令。相手にもされなかったじゃないですか」


 各地のアンテナに妨害用装置を取り付けに行く任務で、一番早く帰って来たのはカーター達だった。虚偽の報告かと思いきや、軍蟻もPCで確認する限りは設置に成功している様だった。


「ふむ。君達が上手く行くとは思っていなかったから不思議だ。どうしてだい?」

「聞いて下さい。私は連中の包囲網を潜り抜けてですね」

「いや。何故か、司令が敵から認識されなかったから楽に行けただけじゃないですか」


 部下の一人が眉に皺を寄せながら言った。何故、襲われなかったのかという理由を問い質そうとした所で、警備の者から中田達が帰還したという報告を受け取った。戻って来た彼らは、重体の男を担いでいた。背後には日野の姿もあった。


「よぅ。軍蟻、帰って来たぜ」

「無事。という訳じゃ無さそうだね。豊島さんは?」

「殺られました。代わりに、カラードの二人を捕獲しました」


 疲労困憊の中田に代わって、槍蜂が応えた。周囲に動揺が走る。この場にエスポワール戦隊のメンバーを連れ込んだのかと。彼らが放つ殺意を受けて、日野は小さく悲鳴を上げた。


「ヒッ」

「日野君、怯えなくても良いですよ。俺達の言うことを聞いていれば、無事に保護して上げますから」


 槍蜂が優しく語りかけたが、意に反する行為をすれば身柄の保障は出来ないと言う脅しとも取れた。彼は小さく頷くだけだった。


「日野君と話がしたい。警備の人達は、そこの人の治療を手伝って。彼からも事情を聞きたいから」

「分かりました」


 医療の心得のある者達が、中田達の連れて来た男に処置を始めた。

 彼としては、兄貴分を失ったことについてや状況の変化についても聞きたいことはあったが、バタリと倒れた。


「悪ィ。ちょっと、寝るわ」

「休んどいてください。何かあれば、起こしますよ」


 戦いの疲れが噴き出たのか。中田は床に転がると寝息を立て始めた。それから、ほんの数十分後。剣狼も帰還したが。余りの凄絶さに一同は言葉を失っていた。


「……剣狼。何があったんですか?」

「拳熊と黒田のアニキが殺られた」


 全身の傷は塞がりかけていたが、仲間を失ったという事実が消えることはない。座り込んだ剣狼を見ながら、槍蜂は頭を抱えていた。


「中田さんが起きたら、なんて伝えれば良いんでしょうかね」


 幹部級の人間を何人も失った。だが、エスポワール戦隊も同様に強力な手駒を失っていた上、洗脳電波も解除されようとしていた。少しずつではあるが、状況は変わり始めていた。


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