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仕舞い忘れた矛先 4


 自室に差し向けられた刺客達を一人残らず返り討ちにした後、大坊はホテルの外に出た。野次馬一人すらいない不自然としか言えない状況だったが、彼は戸惑う事も無く。目の前に『ピンクウィップ』以外のガジェットを展開させた。それらは組み合わせる事で機構も体積も変化させ、全てを組み合わせた時には。それは彼の専用車『レッドチェイサー』へと変貌を遂げていた。


「待ってろよ」


 スーツに浴びた返り血を熱の力で蒸発させながら、彼はゴク・アクが向かう場所に向かってエンジンを吹かした。


~~


「(連絡が途絶えたか…)」


 特殊部隊が失敗することもあらかじめ予想に入れていたのか、ゴク・アクはホテルから遠く離れた空港へと到着していた。幾ら相手が無知蒙昧な輩だとしても、その力は何一つとして衰えていない。相手をするのは分が悪いと考えていた。


「(ワシは簡単にはやられんぞ。ほとぼりが冷めるまでは『ガイ・アーク』に保護して貰うとしよう)」


 高飛びの準備を済ませて、海外への便に乗ろうとした所で空港のエントランスが騒然としていることに気付いた。まさかと思い、彼は周辺に居た人間に声を掛けた。


「何かあったのかね?」

「密輸があったとか何だとかで、色々あったみたいですね」


 それを聞いて安堵の息を漏らした。空港の警備員達が件の男を取り押さえている。その近くには密輸したと思しき金塊が散らばっていた。


「そんな事があったんですか。捕まって良かったですよ」

「はい。なんでも、検査は素通りしたんですけれど。一般市民の方がそれに気付いて取り押さえてくれていたみたいですよ」

「……え?」


 全身から血の気が引いた。走馬灯が駆け巡り、一瞬の内に自分の生涯が想起され、それらを通り抜けた先に。全身が真っ赤な悪魔が居た。


「ゴク・アク。何処に行こうっていうんだ?」

「ま、待て! レッド!!」


 レッドの行動もまた迅速であった。ゴク・アクが困惑した一瞬の内に『グリーンスピア』で、その体を貫いた。エントランスは悲鳴と絶叫に包まれ、人々が逃げ惑う。

 その拘束から逃れようと力を込め、あるいは叩き折ろうと手刀を繰り出すが。彼の懸命さを嘲笑う様にして、ガジェットには傷一つ付かなかった。


「がはっ。れ、レッド」

「一瞬、お前を信じても良いと。本当に改心してくれたのかと思っていたが。お前はあの頃から何も変わっていない。ただの悪党だった」

「ゆ、許してくれ! ま、魔が差してしまっただけなんだ! そうだ、ガイ・アークだ。奴がワシをそそのかしたんだ!」


 グリーンスピアで胴体を貫かれはしたが、怪人である彼には致命傷には至らない。されど、ここで戦った所でまるで勝てる気もしない。そこで、彼は一縷の望みを掛けて、レッドの心に訴えかけた。


「ワシは今までお前の世話をしてやったじゃないか! 恩を忘れて仇で返す事が『悪』でなければ何という!」

「先に仇で返したのはお前の方だ! 残念だよ。お前となら、新しい『正義』が築けると思っていたのに!」


 ここに来て、初めてゴク・アクは己の失策に気付いた。なんてことはない。何時までも『正義』という餌を与え続ければ良かった。それだけだった。

 なまじ、怪人として対峙した事があるだけにレッドへの恐怖が拭えなかった。何時、義憤に目覚め、自らに刃を向けえくるのか分からない焦りが今回の事態を招いてしまった。


「(こ、こんな下らぬミスで)」


 もっと単純に考えていればよかった。この男は、自分が考えるよりも遥かに単純で純粋だった。自分で『悪』を決めるだけのロジックも持たず。直感だけで裁いて回る男。狩猟本能だけが発達した獣の様な存在だった。


「覚悟しろ!  レッドソード!!」


 グリーンスピアで貫かれた体が、レッドソードで両断された。既に空港には警察官や機動隊が詰めかけていたが、そこに犯人である彼の姿はなく、また被害者であるゴク・アクが所持していた金品なども全て奪われていた。


~~


 数日後。相次ぐ議員や関係者の殺害騒動で国民達の不安は最高潮に達していた。事態を重く見た政府関係者はその対策に追われていた。その策の一つとして、政府関係者は桜井達の自宅へと訪れていた。


「桜井さん。もう一度、ピンクに戻って貰えませんか?」

「なるほどね。レッドに対抗するために、元のスタッフチームに声を掛けて回っていると」

「はい。既に彼の存在は『パブリック・エネミー』と化しています。彼に対抗できる存在で、残っているのは貴方だけです」


 政府関係者の男はピンクの元を訪ねていた。話しによれば、元のスタッフチームを集めて新規でガジェットを開発して、適応者も集めているということらしい。その依頼に対して、桜井は多分に侮蔑を含んだ笑顔で応えた。


「それで。リーダーを始末したら、私達はまた用済みになるわけ?」

「そんな事はありません。ちゃんとその後の資金援助も…」

「で。それは予算削減の槍玉に挙げられるんでしょ? そんで、私達はまた放逐されるんでしょ? ふざけんな。人の善意と勇気を食い物にした罰だ。一生苦しめ」


 取り付く島も無かった。芳しい反応が得られなかった事を確認した男は、それ以上、食い下がることはせず、帰っていった。

 彼を追い返した後、リビングへと戻って。後輩と一緒にテレビを見ていた。そこには、昨晩に空港で起きた惨劇の映像が流されていた。顔にモザイクは掛かっているが、犯人が誰であるかは考えるまでも無かった。


「先輩。レッドさんは、何を考えているんでしょうか?」

「リーダーの心は帰ってこれないのよ。ずっと『ジャ・アーク』と戦っている。彼の『戦い』には区切りが無いのよ」


 テレビやSNSでは、今まで好き勝手に言っていた人間達の意見が鳴りを潜めていた。何時、自分が狙われるかも分からない恐怖をようやく理解したという事だろう。


「じゃあ。彼の戦いは何時終わるんですか?」

「死ぬまで、でしょうね。悪が滅びるまで」


 そんな日がいつ訪れるのだろうか? ジャ・アークを滅ぼせば終わる。という気は到底しなかった。何故なら、既に構成員でない議員や関係者達まで狙われているのだから。その適用範囲は何処まで広がってしまっているのだろうかと思うと、身震いした。


「どうして。誰も彼から変身アイテムを取り上げなかったんですか?」

「あぁ。私達の変身アイテムって肉体とどうかしているから、取り外すのが不可能なのよ」


 下腹部を見せる様にしてシャツを捲ると、そこには白い素肌があった。しかし、桜井が目を閉じ、小さく唸ると。そこにはテレビや雑誌で幾度も見た『変身アイテム』が浮かび上がっていた。


「それって。つまり、人体改造じゃ」

「輝かしさの裏側なんてこんなもんよ。誰かの挺身で平和は守られているんだから」

「そんな。人体改造して、最前線に送り出した挙句。用が済めば放り出すって。この国、どんだけ腐っているんですか」

「いや。国の人も悪意を持っていた訳じゃないとは思うのよ」

「どういうことです?」

「必要だから作った。でもさ、私達がヒーロー戦隊だったとしても。明確に戦う相手が居ないと、誰に向けられるかって不安になるじゃない?」

「先輩はそんな事しません!」

「信じてくれるのは嬉しいけれど。他の人達はそうじゃない。それに、国としても子供達を殺し合いの現場に行かせたことは隠しておきたいでしょうしね」


 ジャ・アークと戦い始めた頃から逆算すれば。エスポワール戦隊で戦っていた者達の殆どは未成年だったのだろう。それを了承したことも考えれば、親も親で問題があったようにしか思えなかった。


「なんだか。ヒーローって言葉で誤魔化されていたけれど。創立した時からかなりヤバかったんじゃ?」

「漫画やアニメとかではさ。子供達が戦っても、面白いって思うかもしれないけれど。実際に殺し合いの現場に向かう子供達が居るとしたら、それは少年兵だよね」


 それを綺麗にデコレーションして来た協賛企業事なども含めて考えるに、後輩の胸中にはただ不快感しか湧いて来なかった。そして、そんなプロパガンダで勇気を受け取って居た事に自己嫌悪を覚えた。


「先輩。私」

「良いのよ。それでも、私はリーダーと違って。残った物があったんだから」


 レッドが事件を起こした施設は利用者達も恐怖を覚え、閉鎖せざるを得なかった。それに伴い従業員達も雇えなくなり、後輩も現在は失業手当を貰いながら次の仕事先を探している。

 目減りしていく通帳の数字を見ていると、将来に対する不安は尽きぬが。その患部に麻酔を施すようにして、二人はお互いに肩を寄せ合っていた。


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