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帰還 7



 件の葬儀所に近づく毎に、血の臭いが濃くなっていく。どれだけ苛烈な戦いが繰り広げられていのだろうかと想像した時、六感が強烈に警鐘を鳴らした。

 剣狼が飛び退いたのは直感に過ぎなかったが、数瞬後。彼にいた場所に直線状のエネルギーが駆け抜けて行った。芳野が通っていた学校で見た物と同じだった。


「アイツがいるのか」


 自分に執着していた男。意識をしてみれば、アドレナリンの臭いに混じって鉄の臭いがした。擦れ違い様に引き裂いて行こうかと思考を攻撃へと向けた瞬間、体に鈍い痛みが走った。


「……!?」


 命中したのは弾丸ではなかった。幾何学状の模様が描かれた球体が、自分の体に抉り込むようにしてめり込んでいた。体を捻って弾き飛ばしたが、ただの投擲物でないことは明らかだった。


「ガジェットか!」


 休む間もなく。第2投が飛んで来た。意識を向ける事さえできれば、避けることも出来る。飛来して来た方向に進むことで避けようとしたが、彼の考えを嘲笑う様にして、投擲物は軌跡を変化させ、前足に直撃した。


「グッ!?」


 直前で刃を生やしたこともあり、折れることは無かったが、刀身は砕かれていた。この狙撃を潜り抜ける為に大回りをしている余裕はあるのか、それまで染井達は持ち堪えられるのか? と考え、覚悟を決めた。


「正面から! 打ち砕く!!」


 巨体を射線に晒しながら疾走する。スピードを上げる程、軌道は変え難くなり、被弾する可能性も上がるが、優先しなければならないことがあった。

 黒田や中田。組員の兄貴達に見送られた。自分の上司、親と言い換えてもいい存在が、3度も殺されるのは御免だった。今度こそは助けて見せる。その決意が、彼を走らせた。


~~


「報告! 剣狼。迂回を避けて、突っ込んできます!」

「野郎!?」

「流石。リーダー達と交戦したことのある猛者だな」


 遥か遠方、構成員達から通信を受けて狙撃を行っていたのは高橋とブルーだった。義手の冷却を行う傍ら、彼はカラードの実力に戦慄していた。


「(信じられねぇ。銃とかじゃなくて、ボールであんな威力を持っていやがるとは)」


 ブルーと組まされた時。彼の専用ガジェットが投擲物だと聞き、内心では馬鹿にしていたが、実際の威力を見れば、偏見は瞬く間に吹き飛んだ。

 ガジェットを握り、足を振り上げる。屋根を踏み抜かんばかりに叩き、背中から、肩、腕へと流れる力の運びが強化外骨格(スーツ)により最適化され、回転しながら砲弾の様に打ち出されていた。


「高橋。後、1発撃ったら撤退しろ。お前では、対抗できない」

「何言ってやがるんだ! 俺はアイツに……」


 諭す訳でもなく、怒鳴る訳でも無い。無言の威圧により、高橋は頷く他なかった。膝立ちになりながら、冷却された義手を再び前方へと突き出した。彼を守る様にして被膜が発生し、掌にエネルギーが収束する。


「レッドビーム!」


 強烈な閃光と共にエネルギーが走る。着弾したかどうかは分からないが、手ごたえは無かった。答え合わせをする様にして、通信が入る。


「レッドビーム。外れました!」

「ッチ!!」


 屋根から飛び降りる。交戦が始まった時から、市民達は建物の中に避難していた。警察も危険を察してか寄りつこうともしない。頭上を見上げれば、ブルーが弾き飛ばされ、地面に激突していた。高橋は直ぐに駆け寄った。


「おい。大丈夫か!?」

「心配ない。急所は外している」


 胸部が切り裂かれていたが、表面を切り裂かれていた程度だった。支給された医療用のジェルを塗ると、再び通信が入った。


「直ぐに迎いを寄こします」

「大丈夫だ。それよりも剣狼が向かった。リーダーが負ける訳がない。だが、狙撃をしている日野達が心配だ。援護に向かえ」

「了解」


 短く通信を切り上げ、ブルーは立ち上がった。近くに停めていた量産型バイク『チェイサー』へと跨り、アクセルを踏んだ。


「おい。その怪我で行くのか!?」

「この程度なら問題ない。それに、クソヤクザ共は生かしちゃおけない。お前も付いて来るか?」


 冷涼だった彼の声色にハッキリとした憎悪が混じる。現場は剣狼の様な怪人立が跋扈しているだろうが、逃げ出すことは考えてなかった。


「アイツをぶっ殺してやるんだ。俺は行くぜ」


 高橋はブルーの背後に乗り、チェイサーに乗って葬儀場を目指す。彼らが去って、暫く経った後。住民の一人が恐る恐る顔を出した。


「……何がヒーローだ。堪ったモンじゃないよ」


~~


「七海さん! 日野君! 例の怪人がブルーさん達を突破しました!」

「そうですか。分かりました」


 建物内の形勢にまでは関われないが、表での戦いはエスポワール戦隊が制していた。怪人達は後頭部で手を組み、うつ伏せにされていた。ビリジアングリーンのカラードが手にした端末で、1人1人をスキャンしていた。


「ふんふん。コイツは西園組の組員か。下っ端で、兄貴達にボコられるだけボコられていて、コイツ自身は特に悪さをしていない訳か。んで、なおかつビビッて早々に逃げていたと」

「そ、そうだ! お、俺は。帰宅も無いのに引っ張られて! 助けてくれ! アンタ。ヒーローなんだろ!?」

「その通りです。見た所、お前は悪いことしてないし。エスポワール戦隊としても助けてやっても良いんだけれどな」


 ハムスター型の怪人は、ビリジアンの提案に希望を見た。助かるかもしれない。震えながらも、縋りつくように声を上げた。


「何でもするぞ!」

「そう? おい。そいつの拘束を解いてやれ。で、これを持て」


 拘束を解かれたハムスター型の怪人は、銃剣型のガジェットを握らされた。ビリジアンの男は、うつ伏せになっている怪人を指さした。


「お前が心を入れ替えるなら、悪党を斃せるはずだ。ソイツ、お前の兄貴分なんだろ? 殴られたり、パシられたりして。ムカついたよなぁ?」

「おい! 何言ってやがんだ!」


 堪らず、伏せていたカピバラ型の怪人が声を上げるが、拘束していた構成員達に頭を叩きつけられた。引き金を握る指に力が籠った。


「俺。アニキに散々殴られたり、暴言吐かれたりして、来たくも無いのに連れて来られて……」

「ば、バカ。おい! やめろ!!」

「死にやがれ! このクソ野郎!!」


 狂った様に引き金を引いた。顔面に風穴が空き、変身が解除された後も引き金を引き続けた。痙攣して、動かなくなった死体を前に構成員達が拍手を送っていた。


「おめでとう。これで、今日から君もエスポワール戦隊の一員だ。おい! コイツを本部の方へと送ってやれ」

「こっちだ」

「へ。へへへへ……」


 ハムスター型の怪人は表に停めていた車に乗せられた。引き続きビリジアンは怪人毎の経歴をスキャンしては、弟分や罪の軽い者に組員達を処刑させていた。一定数の捕虜を捉えた後、彼らを乗せた車は発進した。


「ビリジアンさん。本当に彼らをエスポワール戦隊に?」

「アイツらは広告塔だ。降伏して、一緒に矛先を向けるなら命は助かるってな。怪人化した奴らのデータも欲しい」


 エスポワール戦隊と言う体裁を守る為。極道や犯罪組織を内部から壊滅させるため。降伏を受け入れるというスタンスを表明することには意味があった。

 ヒーロー達に対抗する怪人化のプロセスなど、技術面的にも調べてみたいことはある。彼らをどの様に扱おうと考えていると、爆音が響いた。


「なんだ!?」


 表に出ると、発信したはずの車が大破、炎上していた。運転席から引きずり出された男は瀕死の重傷を負いながらも口にした。


「あ、あの捕虜共……が。爆発したんです」

「なるほどね。裏切りは許さないって事か。おい! 早く手当てをしろ!」


 彼らが爆破事故に気を取られている間。狙撃手をしていた日野達だけが、葬儀場に侵入しようとする人影に気付いた。


「日野君。恐らく、彼が剣狼」

「駄目です。狙おうにも早すぎます」


 一瞬の内に葬儀場へと侵入して行った。内部では、大坊達を始めとした実力者もいるが、極道側の実力者もいるという報告が上がっていた。

 彼らを援護するべく、内部まで侵入しようかと逡巡した時。七海は、彼の肩を叩いた。


「建物内では、貴方の力は発揮できない。後はリーダー達に任せて」

「……分かりました」


 引き続き、彼らはスコープ越しに周囲を索敵していたが、他の者達が訪れる気配は一切なかった。

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