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復活! 新生エスポワール戦隊!


「た、助けてくれ!」

「リーダー。どうしますか?」


 ビル内の一室。部屋の中心部に集められた男達は恐怖で顔を歪めていた。誰もが顔に痣を作り、あるいは血を流しながら、ブルブルと震えていた。

 彼らを取り囲んでいる者達の恰好は奇妙な物であり、誰もが全身を覆い隠すような全身タイツ『強化外骨格(ヒーロースーツ)』を装着していた。


「どうするか。だと? 七海。彼らの罪は赦されるべきだと思うか?」

「ここは振り込め詐欺に使われていた事務所。彼らに騙し取られた被害者は……」


 リーダーと呼ばれた偉丈夫の男――大坊乱太郎が装着していたスーツは、他の者達と比べて黒の深みが強かった。傍に控えていた小柄な人物が、少女の声で淡々と罪状を読み上げていた。

 老後の年金を騙し取られた。遠く離れた息子を心配した母親の優しさを利用した。罪を読み上げるごとに、周囲の者達が叫んだ。


「悪党を許すな! 正義の鉄槌を!」

「ひっ」

「お前らには幾らでも罪を反省する機会があった。七海、もしも自首をしていれば、彼らはどんな量刑に問われた?」

「詐欺罪は懲役10年以下。自首をしていれば、情状酌量の余地もあったかもしれない。でも、彼らは捕まらない様に場所を変え、末端を切り捨てて生き延びて来た」


 彼らは捕まることを厭い、法律の目を潜り抜け、司法を嘲笑いながら今日まで生き延びて来た。大坊は深いため息を吐いた。


「お前達が利用して来た末端の中には、自責の念に駆られて自首をした者も居た。彼らへの裁きは司法に任せる。だが、お前達はそうは行かない」

「ま、待ってくれ! 必ず自首をする! 罪も償う! 今まで取って来た金も返していく!」


 リーダー格と思しき男は、声を震わせながら嘆願した。だが、彼を見下ろす大坊達の視線は凍てつく様に冷たかった。


「詐欺師の言葉なんて誰が信じられる? 俺達が来た時点で、お前達の未来は決まっていたんだよ」

「準備OKです」


 カメラを構えていた構成員が合図を送ると、全員が手にしていた銃剣型のガジェットを男達へと向けた。既に引き金に指が掛かっており、自分達の未来を察して怨嗟の声を上げた。


「畜生! お前の口車に乗ったばかりに!!」

「嫌だ! 殺さないでくれ!」

「悪は須らく滅びるべきだ。貴様らを裁くのは法律ではない。俺達『エスポワール戦隊』だ!!」

「うわぁあああああああ!!」


 全員が一斉に引き金を引く。乾いた発砲音が響き、男達の身体を銃弾が蹂躙し尽くす。穿たれた穴から流れ出た血が、地面を真っ赤に染めた。

 彼らが息絶えた事を確認すると、囲んでいた者達の一人がスマホを取り出し勇壮なBGMを流すと同時に各々が思い思いのポーズを取り、異口同音に叫んだ。


「俺達『エスポワール戦隊』は悪を許さない!」

「はい。OKです!」


 カメラを構えていた男がOKのジェスチャーを取ると、彼らは直ぐに次の作業へと移った。オフィス内のPCを押収し、書類やスマホの情報を解析している傍ら、大坊は引き続き撮影を行っていた。


「皆。いつも、応援とスパチャを感謝しています。皆の投げ銭は被害者への返済などに充てられており、感謝の声も紹介していきたいと思います。お、タロタロさん。いつもありがとうございます!」


 これらの様子はLIVE映像としてネットに配信されており、凄惨でショッキングな映像が流されているにも関わらず、投げ銭や応援のコメントは後を絶たない。

 サイトの管理者も削除を繰り返し、あるいはIPや口座から住所を特定しようとするが、空回りに終わっており、エスポワール戦隊の活動の様子を流すことを許してしまっていた。


「皆さんの声と善意が私達の力になります! いじめ、虐待、パワハラ。貴方の日々の悩みをお教えください! 私達、エスポワール戦隊は決して慣習などで流したりはしません!」


 怒涛の勢いでコメントが流れて行く。その文字列に、大坊はエスポワール戦隊と自らの存在意義を噛み締めずにはいられなかった。


~~


 『エスポワール戦隊』。かつて、人々を恐怖に陥れた悪の組織『ジャ・アーク』に対抗する為に作られた組織であり、彼らの消滅を持って解散したと思われていたが、リーダーであった『レッド』こと『大坊乱太郎』が幹部達の復活と共に活動を再開。かつての仲間達や復活したシュー・アク議員を殺害。

 その後も凶事に手を染め、海外にて消息を絶ったと思われていたが。数年の埋伏を経て、彼らは組織として蘇った。倒すべき『ジャ・アーク』が滅びた後、彼らが裁き始めたのは社会に蔓延る悪だった。


「リーダー。先日の動画、凄く好評だった」

「嬉しいな。皆が俺達の活動に理解を示してくれているだなんて」


 先日の詐欺グループの制裁現場を記録した映像は、転載も含めて動画サイトに拡散されており、まとめサイトなどにも転載されていた。

 曰く、死んで当然の奴らを殺してくれてスッキリした。曰く、これで被害に遭う人間が減る。曰く、当然の裁きだ。等の声が寄せられている反面、法を顧みないリンチ行為と批難する者達も大勢いた。


「批難している人達の大半は普通の人。中には、工作員とかが扇動しているのもあるけれど」

「ふん! 本当に俺達に助けを求めている人達の声こそが重要なんだ。安全地帯から、薄っぺらい倫理観を叫んでいる奴の声に耳を貸す必要はない!」


 装着していた強化外骨格(スーツ)のマスク部分を解除して、彼は弁当を頬張った。その後頭部には生々しい銃創が残っていた。それに合わせて、少女もマスク部分を解除して食事を始めた。その片眼にはカメラアイが埋め込まれていた。


「リーダー。他の支部からも制裁に成功したって」

「七海、成果を報告してくれ」


 七海と呼ばれた少女は淡々と成果を読み上げていく。会社のパワハラ上司、違法な労働を課すブラック企業、ネット上で誹謗中傷を繰り返すアカウント、近隣に迷惑を掛ける住民達の処理。そのいずれも『相手を倒す』と言う単純明快な方法で解決していた。分かりやすい手法と成果は、瞬く間に彼らの支持者を増やしていった。


「他には『ヒーローチルドレン』の子達も使えるって。上級構成員達の人から評価されていたよ」

「そうか。よっし、じゃあ。今度は連中も積極的に使って行こう」


 大坊がBGM代わりにテレビを付けると、特撮番組の再放送が流されていた。それを見ていた大坊の表情は不快な物へと変貌していく。


「リーダー?」

「こいつらは偽物だ」

「……偽物? フィクションって事?」


 テレビでは俳優達がドラマを演じ、随所でグッズの宣伝をするようなアクションが入り、怪人や怪獣達を倒して。勧善懲悪を示した物語を締め括っていた。


「そうじゃない。企業やスポンサー、こう言った物が好きな奴らは彼らの事をヒーローと推すが、それは違う。何故なら、コイツらは人を救わない」

「怪人や怪獣を倒すことは、人を救う事じゃない?」

「それで救えるのは一部の人間だけだ。何故、彼らは怪獣よりも被害を出す戦争を止めに行かない? 貧困問題を解決しようとしない? 人種差別に声を上げない? いじめ自殺を止めない? 犯罪者を摘発しない?」


 それは七海もよく聞いている話で、エスポワール戦隊の者達が常に話題に出す物であった。彼女にはその問題が如何ほどの物かは分からなかったが、それらを解決する度に感謝の声が上って来る為、大坊の言うことは正しいと考えていた。


「私達は、皆を救わなくちゃいけない」

「その通りだ。俺達はコマーシャルフィルムに出て来るような商業主義の偽物じゃない。監督や脚本が用意してくれた『悪』じゃない。本物の『悪』を倒しに行くんだ。この後の予定は?」

「今日は、午後から。残留孤児達で作られた半グレ団体を叩きに行く。苦情も被害も凄い事になっているから」

「よし。『ヒーローチルドレン』からも幾らか連れて行こう。まずは、近くの支部に居る奴らを集めよう」


 大坊は通信機で近くの支部に居る者達へと連絡を取った。1時間程すると、既に強化外骨格(スーツ)を装着した者達が集まっていた。中には、明らかに少年少女と思しき者達も居た。


「大坊さん! 俺も連れて行ってくれよ!」

「君は、ヒーローチルドレンの大門君だったね。彼のメンターは?」

「私です。多田野です」


 彼の強化外骨格(スーツ)は、他の構成員とは違い青色で統一されていた。色合いからしてかなり目立つが、誰も何も言わない。


「そうか。気負う必要はないと思うが、何が起こるかは分からない。しっかりと面倒を見てやれよ」

「はい」

「リーダー。向かおう」


 大抵の者達が車に乗り込んで移動する中、大坊は専用バイクである『レッドチェイサー』改め『ブラックチェイサー』に乗り込み、サイドカーに七海を乗せて走り出した。


~~


『怒虎会』。残留孤児達によって作られた半グレ団体であり、時には極道等の反社会団体からの依頼も受けていた。荒くれ者や、暴力も辞さない危険団体としてマークされていた団体でもあったが、あくまで人間と言う範疇の話であり。


「このクソガキャ!」

「はっはっは! 喰らえ! エスポワールストラッシュ!!」


 大門は臆することなく、手にした銃剣型ガジェットで男の眼球を突き破った。眼孔を突き抜け、脳漿を掻き混ぜ、後頭部まで貫通した。あまりの地獄絵図に、荒事に慣れているはずの男達も歯の根がかみ合わない。

 あくまで彼らにとっての暴力とは脅しであり、交渉手段であり、殺し合いに身を置いたことは殆ど無かった。


「うわぁああ!!」


 狂乱状態に陥った男が拳銃を乱射するが、強化外骨格(スーツ)には傷一つ付かない。攻撃を受けた構成員は、意趣返しの様にして銃口を向けていた。


「本当の射撃ってのはこうするんだよ!」


 人工筋肉のアシストもあり、放たれた弾丸は、吸い込まれるようにして怒虎会の構成員達の眉間に命中した。窓から逃げようとした者も居たが、背後から銃弾を叩きこまれ、地面へと落ちて行った。

 この状況もカメラで一部始終が収められていた。颯爽と悪を倒す正義の集団。その方法が如何に暴力的な物でも。むしろ暴力的であるからこそ、善良な市民達はその顛末に心を躍らせていた。


「イェーイ! 皆、見ているか―!? 俺、今日からデビューした大門って言います! よろしくな!」

「狂ってやがる! お前達。狂ってやがる!!


 腹部から血を流している構成員は叫んだ。子供まで、殺し合いの現場に引っ張って来る彼らは常軌を逸している。だが、当の本人達はゲタゲタと笑っていた。


「悪に対抗することはマトモな精神ではできない。その為に、俺達は鬼にもなろう!!」

「うわぁああ!!」


 全員が武器を仕舞うと、死に体の連中を蹴り始めた。蹴られる度に傷口が開き、また新たな傷が生まれていく。その様子もLIVE映像で流され、再生数と共に投げ銭が一斉に集まった。まるで、乾いていた喉を悪党達の血で潤したいと言わんばかりに。


「オラッ! くたばれ!」

「ギャッ」


 後頭部を一際強く蹴りつけると、男はそのまま動かなくなった。事務所内に生きている者達が居なくなった後。いつもの様に、宣伝と物色が始まった。


「今日から、俺達と一緒に戦う事になった大門君です。悪質な飲酒運転により、良心を失った彼ですが、その様な悲劇を二度と繰り返してはならないと。正義の心を持って、奮い立った彼は厳しい訓練を積み、私達と肩を並べるに至りました。初めての仕事はどうだった?」

「うん! 正直、ちょっと緊張していたけれど。皆が頑張っているし、俺も頑張らないとって思ったから! これからもよろしくな!」

「ありがとう。心強い応援です。ほら、コメントを見て見ろ。お前を応援してくれる声も沢山あるぞ! wonダフルさんからも言われているぞ。偉いね! って」

「ありがとうな!」


 集められたコメントは賞賛ばかりではなく、むしろ子供を殺し合いの場所に立たせることに対しての批難もあったが、当然の様にフィルターが掛かっている為。彼らに届くことは無かった。


~~


 後日、善行による達成感に胸が満たされていた大坊は七海を連れて、都内の高級料亭へと訪れていた。案内された部屋には、客人が待ち受けていた。


「リチャードさん。これはどうも」

「HEY。大坊。先日の活躍はお見事でした」

「この人は?」

「七海。この人は『リチャード』さん。俺達エスポワール戦隊のパトロンさんだ。俺達が戦えるのはこの人のお陰なんだ」

「貴方が七海さんですか。フフッ、実は貴方とはお会いしたことがあるんですよ。憶えてますか?」

「憶えてない」


 金髪オールバックで青い目を持つ彼が話す言葉は流暢な物だった。皇式の礼儀作法も慣れた物であり、この国の文化に堪能であることもうかがえた。


「リチャードさん。態々、足を運んできた要件とは?」

「実は新たなヒーローガジェットの開発に成功したのです。大坊さんが使っている武器をパワーアップさせるものをね」


 彼が机の上に置いたスーツケースを開けると。そこには、四色のクリスタルが輝きを放ちながら収められていた。それらは自然と大坊に吸い込まれると、彼が使っていたガジェットに装着された。


「おぉ。力が漲るのが分かるぞ。リチャードさん。助かるよ!」

「気にしないでください。私は大坊さん達『エスポワール戦隊』の活躍に期待しているのです。これからもごひいきに。他の商品としても、実はスーツをさらに進化させた第3世代の物を…」


 リチャードと大坊が話をしている間。七海は卓上に出ている高級料理の数々を頬張っていた。その繊細で奥深い味わいに感動しながら、彼女はせっせと料理を口に運んでいた。


~~


「くっ。テメェら…」

「俺達にこんな事をして、タダで済むと思ってんのか!?」


 路地裏。カタギではない男達が血を流しながら、壁際まで追い詰められていた。彼らを取り囲んでいるのは、量産型のヒーロースーツを装着した『エスポワール戦隊』のメンバー達だった。


「お前達、社会の悪は俺達が裁く。ここで死ね」


 彼らが一斉に引き金を引こうとした時、男達は目を瞑ったが、何時まで経っても銃撃が飛んでくることは無かった。

 恐る恐る目を開ければ、悲鳴を上げるもなくスーツごと切り裂かれてバラバラにされた肉片がそこら中に転がっていた。その中で唯一立っていたのは全身の至る箇所から生やした刃を血脂に濡らしながら、仁王立ちしている赤毛の青年だった。


「おい。お前達もエスポワール戦隊なのか?」

「いや。俺達は違うが、そう言うアンタは何者だ?」

「『剣狼』。ジャ・アーク幹部『ガイ・アーク』の配下だ。復活したら、そこら中にエスポワール戦隊が溢れている。一体どうなっているんだ?」

「『ジャ・アーク』だと?」

「でも。そいつらは確か、全員滅んだはずじゃ」


 その言葉に反応して射殺さんばかりの眼光を受けた男は黙ったが、もう一人の男はそれを正面から受け止めていた。


「色々と事情がありそうだな。助けて貰った例だ。飯ぐらいは驕ってやるから、そこで事情を話してやる。俺の名前は『黒田』だ」

「お、俺の名前は『中田』だ!」

「……分かった。お前達に付いて行こう」


 全身に生やしていた刃を収納すると。剣狼は黒田達に付いて行った。背後では、バラバラになった死体から流れ出した血が地面を濡らしていた。



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