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最終回! 希望(エスポワール)はいつも胸の中に!!


皇の長い一日は終わった。民間人への被害も大量に出し、ユーステッド軍の介入まで行われるに至った『エスポワール事変』は国際社会から大きく非難された。……ということは無かった。

エスポワール戦隊へと武器を降ろしていたのはユーステッドの大企業であり、ジャ・アークは各国の政界にも食指を伸ばしていた為、皆がボロを出すことを恐れて、あくまで『エスポワール戦隊』と言う反社会団体が起こした凶事として片付けようとしていた。

彼らが行動を起こすに至った理由を追求しようとした者達はいたが、全て権力者達に揉み消されていた。


「結局。ヒーローなんて、誰かに良い様に使われる尖兵でしかないのよね」


 桜井と富良野は墓前で手を合わせていた。七海と共に戦場を脱して、程なくしてユーステッド軍の爆撃が全てを更地にした。

 中田の遺体は発見されたが、剣狼は帰って来なかった。唯一帰還した軍蟻だけが事の顛末を話した後、そのまま息を引き取った。


「今でもエスポワール戦隊の残党がリンチを繰り返している。リーダーが居なくなっても、意思は引き継がれて行っているよ」


 国民の多くはエスポワール戦隊と彼らのシンパを非難した。糾弾された者達の幾らかは元の生活へと戻って行ったが、拒否された者達は残党達と合流し『ネオ・エスポワール戦隊』と自称しながら、より無差別的に活動を行っていた。

 犯罪者のみならず、在皇人やマスコミへの襲撃など。中には罪を犯したかどうかあやふやな人間すらターゲットになっていた。


「これがリーダーの望んだ世界?」

「桜井様。時間です」


 背後に控えていた皇の軍事関係者が告げた。彼の言葉に小さく頷き、富良野と共に車へと乗り込んだ。

 残ったエスポワール戦隊関係者として、桜井は政府から監視されていた。もはや、彼女が外の世界で生きることは能わない。富良野もまた彼女の関係者として扱われていた。


「先輩。次は芳野ちゃんのお見舞いに行きたいですね」

「そうね」


 あの出来事以来、芳野は心を閉ざしてしまった。食事も喉を通らず、衰弱して、最終的には入院することとなった。

 残った関係者として、ハト教に連絡を取ろうとしたが許可は出なかった。直接的な接触は許されなかったが、政府関係者を通した話によると。稚内も日野も信徒として穏やかな日々を送っている。らしい。


「ご希望に添えるのは1週間以上後になるかと」

「分かった。お願いね」


 自由の無い生活にも適応していた。今の所、丁重に扱われているのは以前に痛い目を見たからだろう。そういった意味では、桜井は大坊に感謝していた。

 ひょっとして、正式に彼の死亡が判明したり、あるいはエスポワール戦隊と言う脅威が完全に払拭された暁には、自分達が最後の脅威として排除されてしまうかもしれないが、もうどうでもよかった。……ただ、一つだけ心当たりがあるとすれば。隣で気丈に振舞っている富良野のことだった。


「どうしたんですか、先輩?」

「私と一緒になったこと。後悔していない?」

「今更ですよ。先輩は、いや。桜井さんは、私の中の永遠のヒーローですから」


 状況の改善に何一つとして貢献することのない回答だったが、彼女の言葉だけで救われたような気がした。同時に言いようのない罪悪感も沸き立った。

 もしも、自分のことを責めてくれたら、共に自分を責めることで現状から目を背けることも出来たかもしれないのに。と、彼女が後悔したのも束の間。車が急停車した。ザワリと言いようのない予感がした。運転手が静かに告げた。


「エスポワール戦隊のシンパです。どうしますか?」


 前方には手製の粗雑なマスクを装着した集団が簡易のバリケードを作って立塞がっていた。彼らを一瞥した後、付き人は言い放った。


「撥ねろ」

「了解」


 一旦、バックして運転手が操作をすると。車体の前方バンパーにスパイクが出現した。桜井達はシートベルトを締めたことを確認すると、バックした後アクセルが踏み込まれた。


「嘘だろ!?」


 自分達が轢かれることは露ほども思っていなかったのか、バリケード諸共撥ねられた。苦痛に呻き、転がっている者達を傍目に、彼らが出来ることがあるとすれば罵声を飛ばす位だった。


「ふん。負け犬共が」


 付き人が鼻を鳴らした刹那、車体が大きく揺れた。ルーフが凹み、破壊されようとしている。車載カメラで様子を見たが、何も映し出されていなかった。


「透過の能力を持ったヒーローか。とすれば、おそらく」

「七海ちゃん!?」


 桜井には心当たりがあった。恐らく、エスポワール戦隊で最もリーダーを慕っていた少女。あの日以来、姿を消していたが今になって現れた。

 ルーフが破られ、吹き抜けになった。姿は見えないが、誰かが居る気配はあった。声だけがした。


「桜井。最後のエスポワール戦隊のオリジンとして、私達と一緒に来て貰う」

「嫌よ! もう、私は戦わない! 何もしない! いい加減に、私をヒーローから解放してよ!!」


 彼女の懇願等、聞く耳すら持たない。シートベルトを切断して、桜井を活劇上げようとしたが、付き人がホルスターから取り出した対強化外骨格(スーツ)用の弾頭が装填された拳銃の引き金を引いた。しかし、弾丸は中空で止まることなく明日の方向へと消えて行った。

 桜井の体が持ち上げられる。富良野が彼女にしがみついて、涙を浮かべながら訴えた。


「駄目! 連れて行かないで!」


 だが、一般人の膂力など簡単に払い除けられてしまう。桜井が誘拐されようとした所で、突如として七海が車から転げ落ちた。僅か一瞬の間であったが、何者かが彼女を突き飛ばしていた。


「このまま車を走らせろ!」

「分かりました!」


 車は止まることなく走り続ける。バックミラー越しに桜井は見た。真っ赤な強化外骨格(スーツ)を装着し、身体の各所に剛毛を生やし、長い尻尾を垂らす姿を。

 瞬く間に毛の部分が刃へと変貌し七海へと向かっていく。立ち向かう七海を応援するかの様に、量産型の強化外骨格(スーツ)を装着した隊員達が現れた。


「剣狼!!」

「窓を開けるな! 死にたいのか!?」


 付き人の制動をも振り払い、桜井は叫んだ。まだ戦うのかと。互いの組織は滅びたと言うのに、誰の為に戦うのかと。答えが出されることはなく、桜井を乗せた車は遠く、遠くへと走り去って行った。ヒーロー達の戦いは終わらない。


~~


 皇に戦々恐々とした空気が流れる中。人々は不安から目を背けながらも日常を送っていた。だが、度重なるストレスを前に常軌を逸した行動を取る人間も増え始めていた。


「ギャハハ! よっちゃん、何してんだよ!」


 とある回転寿司チェーン店。中高生のグループが、店に備え付けていた醤油さしを直飲みしていた。店員も怪訝な目を向けるだけで注意はしないし、他の少年達は咎める所か動画撮影を始めて囃し立てていた。

 他の客達も顔をしかめ、足早に退転していく中。一人、よれよれのスーツを着た男性が立ち上がり、彼らへと近づいた。


「店と客に迷惑だ。今直ぐ、謝罪すれば許してやる」

「ちょ。説教マンって本当にいたのか!」


 反省し、己を顧みることなく、面白がってスマホのカメラを彼に向けた。瞬間、視界がグルリと上下反転していた、自分の体が遠く離れ場所にあった。

 他の少年達が絶句している間に、頸動脈を噛み千切り、胸を貫き、頭蓋を握り潰していた。店内が悲鳴と絶叫に包まれ、皆が我先にと逃げ出す。


「アレだけ。俺達が尽力していたのに、お前達の様な人間の心には何も響かなかったんだな」

「す、すみま…」


真っ赤な爪牙と悪事を見逃さない燃える瞳が少年を睨みつけていた。

恐怖に怯えていた少年は謝罪の言葉を口にすることが出来ずにいたが、彼には関係なかった。彼の顔面を踏みつぶしていた。頭蓋が踏み砕かれ、内容物が周囲に飛び散る。

店内から人気が消え、BGMが空々しくなり続けていた。少年達の死体を背に店から出たタイミングで彼を目掛けて車が突っ込んで来た。


「死ねぇえええええ!!!」


 先程の騒動で命辛々逃げ果せた少年が運転していた。車は男を撥ねることは無かった。ボンネットへと飛び乗った彼はフロントガラスを突き破って、少年の顔面を刺し貫いた。

 制御を失った車は壁へと激突した。予め予想されていた様に周囲に、人の気配は無かった。発達した聴覚がサイレンの音を捉えていたが、既に彼は動き始めていた。


「この皇には、ヒーローが必要だ」


 男――大坊はベルトを失ってもなお活動をしていた。ヒーローの姿を取り上げられても、彼は戦うことを止めなかった。ヒーロー達の戦いは終わらない。

 彼らが存在し続ける限り戦いは終わらない。人々が誰かを疎んじ、排除したいという希望(エスポワール)を胸に抱き続ける限り、ヒーローは何時だってそこにいる。


最終回です!! 今まで、お付き合いいただきありがとうございました!!

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