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まずいわ。
私テオドラは急に前世の記憶を思い出した。頭をぶつけたわけでも、高熱が冷めたわけでもなくて、ベッドで髪をとかしていたら急に思い出した。ここは乙女ゲームの世界で私は典型的な悪役令嬢。ヒロインをいじめた私は今から24時間後に婚約者の王子から断罪されて、一族郎党は離散、私自身は修道院送りになってしまう。
24時間・・・
この際、私の前世の死に際がどうだったとかどうでもいい。なんとかしても現世では生き残りを図るのよ。
ヒロインはもう王子ルートの攻略に成功してしまっているみたい。さっきまでは家の力でなんとかなると思っていたけど、断罪が待っていることを思い出したら急に絶望的な気分になった。
王子との関係修復は不可能。記憶を取り戻すまでは王子が世界のすべてだったけど、前世の私からしたら線が細い美男子の王子はそこまでタイプじゃない。目指すは罰金刑と合意された婚約解消、つまりソフトランディングよ。
さてどうしよう。
情けに訴える?でもヒロインいじめの罪状が読み上げられたら私に同情する声は弱くなってしまうと思う。
王子か周りの官吏を買収して示談に持ち込む?でもうちの財産は没収されるはずだから、私のオファーに旨味がないかもしれない。
こうなったら色仕掛け?テオドラの見た目はボディも含めて一級品だけど、王子は今更動揺しないだろうし、前世の私にその方面のテクニックもない。
テクニック・・・
そういえば一つだけ前世で大得意だったことがあった。それは耳かき。私の弟妹に至福のひとときをプロデュースしていたと思う。
あれを駆使すればひょっとしたら・・・もう少し人道的な婚約破棄を頼めるかしら?
でも問題は、耳かきが存在しない現世で、どうやって耳かきをする展開に持っていくかということ。ましてや王子との仲は、懇願しても膝枕もできそうにないほど冷え切っていると思う。
でもとりあえずツールがないと始まらない。メイドを呼ぶ鈴を鳴らす。
「アグリッピナ、庭の竹を伐採してきて。それと、竹を削れるナイフをお願い。」
「竹・・・ですか?」
「そうよ、可及的速やかにお願い。それから、連隊の叔父様にこのメッセージを渡して。」
混乱するメイドを急かすように追い出すと、私は羊皮紙を広げて設計図を書き始めた。
前世は美大生だったプライドにかけて、美しく機能的な耳かきを作るんだから。