37 新装開店(その1)
昼食から帰ってきてテーブルの位置や追加の食器などの最終チェックをする俺・・・
今日は休む予定だったんだが、明日新装開店って思うと気になって仕方がない。
従業員の制服は統一にしました。
ハンティすら例外は無しでカマーベストとウィングカラーシャツ黒のスラックスだ
蝶ネクタイだけ男は黒、女性陣はワインレッドにした
サイズは計って全員分用意済み、
そして滑りにくさを優先した黒のコックシューズである。
円形シルバーのトレイも買っておいた。離れたテーブルまで運んでもらいたい。
新しくなった自分の店を見て感慨にふけるわけだが、前の店だって結局一年居なかった・・・新築なのに
土地と建物の権利はまだ持ってるから別の店を・・・やらんわ!過労死するわ!
表向き、ミスルトウ、ポーション屋、薬草農園(名義のみ)は俺が代表で責任者だし、
これ以上手を広げたら商業ギルドのギルマスに怒られるわ・・・
そんな感じでまったりと準備しながら過ごしていた。
・・・いかん、そろそろ晩飯の支度しなきゃ!
昨日は手を抜きまくって申し訳なかったんで、ちょっと手を加えていく
新装開店のお祝いも兼ねてだな。
煮物、揚げ物、スープ、サラダ、焼肉系って感じで作っていく。
今日の主食は申し訳ないがパン限定だ。新人従業員がライスに慣れるまではその方向でいく
まったりと鍋を眺めながら余裕をもって作っていると、勇者一行と荷物を持ったまま新人達が帰ってくる。
「もう少しでできるから先に荷物置いてきちゃいなよ」
と声を掛ける
「ハル~お前休んでないだろ」
「ん?半日は休んだよ、フィリアンとハンティとでジャズセッションしたし、昼飯は黒釜亭に連れてった」
「そんで飯食った後は店内の気になった所をボチボチ追加してたと・・・この労働ジャンキーめ」
ついに中毒って言われましたよ・・・
「足りなかったらその場で出せるのがアマゾンの強みだろ?行き当たりばったりでも何とかなると思うぞ」
そういやそうか・・・
でもなぁ、気になるんだよ!
なんかしてないと落ち着かないんだよ!
というわけで、ワーカーホリックである事を実感した俺だった・・・
とりあえずみんなに晩飯を食わせて明日の予定を話す。
「明日は新装開店初日だからお客様も多くなると思う。全員オールでよろしくお願いします。」
労働基準法なんて知った事かのブラックっぷり・・・
ちゃんと休憩時間作りますってば・・・
「俺とフィリアン、ハンティ、アラシャは2時間前、他のみんなは9時半までに着替えてここに集合してくれればいいよ」
「集まったら朝食を食べて仕事開始になるから」
「「「かしこまりました」」」ってみんなが言う中最初に会った時から一片も変わりがないアラシャの眼光・・・
「俺も早いのかよ!」ってアラシャが吠える
そりゃそうだ・・・正直、あんまり接客させたくないな・・・って思ってしまう。
厨房担当だよ・・・皿洗いでもしてろ・・・
例えウエイトレススキルがあろうと、あの目で客の前になぞ出せんわ!
「アラシャにはフィリアンやハンティ同様厨房にも入ってもらう」
「厨房だと余計な面倒が出そうかと愚考しますが?」
フィリアンが首をかしげて俺に聞いてくる
「いや、アレじゃ客の前に出せんよ」
俺の一挙手一投足を睨みつけるように見てるアラシャだった。
フィリアンもため息をつき
「そうですね・・・」と呟いた。
そして翌日
時間通りにアラシャも来てる。うんうん偉い偉い
まずは清掃だハンティにアラシャの指導を任せる。
掃除に関してはハンティがダントツで上手いからだ。
俺は朝食の支度を、フィリアンはランチ用のサラダを盛り付けていく
ちなみに今日のメニューはスクランブルベーコンエッグとコーンポタージュ、サラダ、パンを各種と、
コーヒーでも紅茶でもジュースでもアルコール以外なら好きに飲めって感じだ。
総菜パンや菓子パンもあるからカロリー的にも大丈夫だろう・・・と思いたい。
「なんだよ!細けーな!そんくらいいいじゃねーか!」
アラシャか・・・
「まいにちしっかりとやらないとだめなの!なまけるのがくせになっちゃうよ!」
ハンティ・・・大人になったなぁと感慨にふける俺だが黙って聞いている。
「サボったらどうだってんだよ!」
「奴隷商に買い戻させたり、最悪の場合、隷属印で首が締まる事になります」
フィリアンが助っ人に入る。
「ハル様は優しく見えてかなりドSなので首が締まる方を選ぶと思いますよ」
フィリアン・・・俺ってそんなにドSだったか?ちょっとショックを受ける俺・・・
「やる事をきちんとやっていれば奴隷でありながら、そこらの一般人よりいい生活ができるのです、
今は理解できないかもしれませんが、すぐにわかりますよ」
フィリアンはそう言って仕事に戻った。
「クソッ!」と悪態をつきながら今まで自分が掃除してきたところをやり直す
ふむ、言われれば理解はできる素直さはあるんだな・・・
その後はハンティの指摘にも素直に従いハンティの合格点で掃除を終わらせた。
掃除が終わったら厨房である。
野菜の水洗いや皮むきなんかをやって見せながら教えていく
意外と素直だ・・・口は悪いが・・・
人手が増えた事もあって予定より早く開店準備が整う。
「アラシャが来てくれたおかげで早く準備ができたな」
そう言って名指しで労う
「みんなが来るまで休憩でいいよ、冷蔵庫の飲み物とその棚のお菓子は食い放題でOK」
俺が棚を指差す・・・って間違い様がないんだよな、お菓子はあの棚にしか入ってない。
俺はコーヒーを淹れるとカウンター内の椅子に座って一息つく
「アラシャ、朝は大体こんな感じだけど大丈夫?」
「あぁ、大体覚えた」
口の悪さはそのうち治るか?ウエイトレススキルで客の前だけ大丈夫なのか?
「厨房の早出組は閉店の一時間前に上がっていいから」
そんな話をしてるうちに他のメンバーが出勤してくる。
「はい、みんなおはよう、今日からよろしくね」
「「「よろしくお願いします」」」
「それじゃぁ、朝食の準備は出来てるからみんなで用意して、フィリアン、取り方教えてあげて」
指導役にフィリアンを付ける
奴隷って立場上、好きなパンを取っていいと言われても遠慮して取れない子もいるのだ。
そしてそれぞれがテーブルに用意を済ますと一斉に俺を見る。
ここは一応決まり事にしちゃった方がいいな・・・と
「それでは、あまねく神々に感謝をしこの食事を頂きます」
復唱させる
「いただきますって言ったら後は遠慮しないでいいから食え!俺の後とか言ってたら開店時間になっちまうぞ!」
そう言って急かす
「お客様の前で腹を鳴らされても困るからおかわりも自由だ!仕事に支障が出ない範囲で好きなだけ食え」
フィリアンもハンティもわかっているからかいただきますの後は遠慮なく食ってる。
他のみんなが勘違いしてるかもしれないから、ハンティは奴隷ではなく俺の養女だと説明しておく。
フィリアンは自分の事を筆頭奴隷と自己紹介してた
それを聞いた時、俺がなんかイラもやっとした気分になったんだが・・・
ただ、嫁っていうより妹ポジションなんだよな・・・今のフィリアン・・・
妹萌の属性も持ってんのか?俺
そう思うと不思議と笑みがこみ上げる。
そんな感じの朝食だったんだが、みんな朝食の美味さに感動していた。
一心不乱に食べる姿はまるで欠食児童・・・
俺はみんなが食べ終わったのを確認すると
「えっと、みんながやる事をやって自分なりに頑張ってくれたらそれでいいです。
衣食住は保証します病気の時はお休みもあげますってかうつされたら迷惑になるから休ませます。
早く戦力として帰ってきて欲しいので治療も薬も与えます。生活環境は劇的に良くなったと思いますので、
後は皆さんの頑張り次第です!協力してお店を盛り立てていきましょう。」
と初めの挨拶をかまし食器を片付ける。
その後、フィリアンがみんなの前に出て発声練習を一通りやる
「いらっしゃいませ」
「「「「いらっしゃいませ」」」」
「ありがとうございました」
「「「「ありがとうございました」」」」
「失礼いたしました」
「「「「失礼いたしました」」」」
「すぐお持ちします」
「「「「すぐお持ちします」」」」
「ただ今お伺いいたします」
「「「「ただ今お伺いいたします」」」」
なんてのが後10個くらい続いた・・・
フィリアン曰く、少々お待ちくださいってのはお客様に待たせることを強要してるみたいだから、
「すぐお持ちします」や「ただ今お伺いいたします」を使うよう指導する事を教えられた。
みんな色々考えてるなぁ・・・と感心する俺だった。
ハンティとアラシャが最初の皿洗い担当で店が動き始める。
接客の方は最初はフィリアンが席に案内するのを見た後、順番でやってみる事になった。
新装開店ってわけで開店前から並んでるお客様がいました。
フォーセリア公爵!ハインデル様!
エルディラント伯爵夫人にアーリア様まで!
とりあえずフィリアンがお貴族組を席に案内する。
俺も席を立ち挨拶に向かう
「いらっしゃいませ、新装開店に足を御運びいただき恐悦至極に存じます。」
久しぶりに出たハルの『こいつ誰だよ』的な挨拶(笑)
「いやいや、今か今かと待っておったのだ。」
「お茶会のお話もしたかったですし」
「うむ、立派な店だな」
フォーセリア公爵は前の店に来た事は無かったでしたね
「ありがとうございます。本日はいかがいたしましょうか?」
「パスタのセットを4人前うち2つは大盛で、俺は冷たい紅茶を」
「わたくしはレモンサワーを」「ワシは冷たいコーヒーを」
「私はイチゴのジュースをくださいな」
飲む気満々のエルディラント伯爵夫人に吹き出しそうになるが堪えて
「すぐお持ちいたします」
そう言って席を離れた。
この間、フィリアンは他の子達にあの4人のお客様の事を説明している
貴族であり、フォーセリア公爵以外は常連である、もしくは常連になりえるお客様である事から全員の顔を覚えておくよう注意される。
フォーセリア公爵も通う事になるだろう・・・ってのはフィリアンの見立て
麺を茹でて、ソースをパックごと温めてかけて出すだけの簡単パスタと朝作っておいたサラダを出す
出来上がりを告げるとフィリアンを筆頭に4人が来てゆっくりと運んでいく
この辺りはウエイトレススキルがいい感じに働いてるな・・・
フィリアンの指導があればみんな即戦力になると確信した
さすが勇者達のレベリング、いい感じに仕上げてくる・・・不安なのはアラシャだけだが・・・
まぁ、こっちはこっちでやりようはある。
ってなわけで、食べ終わった頃を見計らい俺は再び貴族組のテーブルへ
「お楽しみいただけましたでしょうか?」
当り障りのない会話から入る
「うむ、満足した、」
「えぇ、相変わらずこれは美味しいわね」・・・エルディラント伯爵夫人・・・一人だけ酒って・・・
爆笑しそうになる俺が居るんだが・・・
「実は、この上の階をお茶会や小さなダンスパーティにお使いいただけるようにしようと思いまして」
そう話を切り出す。
「完全予約制にして基本的には貴族の方々、裕福層の者が貴族を招くのにも使えればという感じですね」
面白そうに聞いてるハインデル様
「どれくらいの広さがあるのかしら?」
「ご覧になられますか?」「えぇ、是非」
との事なので2階に案内し扉を開く
「まぁ!いいお部屋ね!広さも十分だわ」
「お母様、これならもう反対意見は出ないでしょ」
勝ち誇った顔のアーリア様
「そうね、どんなテーブルにしようかしら・・・」
自分でテーブルとかを考えてるらしい
「そうね、円形の大きな物がよろしいのではないかしら?」
「色は白で・・・大理石とかも素敵だわね!」
そんな感じで二人で盛り上がってる。
「この広さなら、知り合いを招いての食事会にも使えそうじゃな」
「そうですね父上、後はハルさんの腕次第ですが、そこは心配いらないと思いますし」
この親子も色々考えてるようだ。
そもそも、各自自分の屋敷にスペースがあるのだ、わざわざ市民の店に来ようなんて概念が今までは無かった
「ハル殿、ここのテーブルと椅子、調度品や食器などはワシがエルディラント伯爵夫人と相談して用意してやろう」
「ハルさん、これは父上と私からの新装開店祝いだよ、遠慮無く受け取ってくれたまえ」
ドヤ顔のハインデル様だった・・・フェアリーズネクターをねだる姿が目に浮かぶ・・・
「ありがとうございます。どんなものを用意すればいいか私には見当もつかなかったのでとても助かります。」
元々相談しようと思ってたんだ、自腹で出す気だったのが頂ける事になって恐縮だわ・・・
意気揚々とエルディラント伯爵夫人とフォーセリア公爵が話している
「さすがお兄様ですわね、ハルさんに貸し1という所かしら?」
「ミルシャはとっくにハル殿と懇意にしおって、相変わらず手が早い」
驚きです!この二人兄妹でした・・・フォーセリア家から エルディラント家に嫁に行ったんだな
貴族の血縁状況に新しい情報が加わった・・・
カーテンやシャンデリア等も順次決めて送ってくれる事になった。
この部屋は、フォーセリア家とエルディラント家の共同出資という事で話が付いたらしい・・・
勿論!俺の意見なんて最初から口に出してませんが!
下で見た楽器の演奏を聞きたいと仰られたので一度下に戻って来る。
音合わせをしたのは俺とフィリアンとハンティだけなので3人でやる事にする。
そしたらドラムのエミリアが「軽くビートを刻むだけなら私がやりますよ」との事で
急造カルテットの誕生だ
曲はこれしか練習してないという事でWaltz For Debby
勿論各パートごとにアレンジしてる
普段の貴族としての責務や仕事から解き放たれて、
心地よい生演奏を本当に楽しんでる4人だった。
おひねりで一人一人に渡すのが白金貨って・・・金持ちって凄いな・・・
3人にとっては嬉しいボーナスになったはずだ・・・日本円で100万円相当だ・・・
贈与税や所得税も無いからな(笑)
新装開店初日はそんな波乱からのスタートだった。




