冬来たりなば春遠からじ 前編
今回の本文は、二月から三月のことが前後して書かれています。
主な登場人物
わたし……語り手。天パ。湿気が憎い。
ドクターK……かかりつけの獣医さん。物静か。
あずちゃんママ……娘の同級生のお母さん。年の近い男の子ばかり四人のスーパーママさん。
炬燵布団は、すでに古かったこともあり、捨てることにした(しかしカバーは自作だったので惜しくて捨てられず)。同じく、結婚当初から使っていた年期の入った長座布団も、燃えるごみの日に処分。
しかし炬燵布団を処分したのは三月下旬。北東北ではまたまだ炬燵が必要な季節。あわてて代わりのものを買いにでかけたが、店頭はすでに春物しか置いていない。ホームセンターを数件回るも影も形もないのだ。困ったあげく、昔からの商店街の洋品店兼布団店で尋ねると、倉庫まで案内してくれてようやく買えた(しかも格安! 化繊綿だからね!)。
しかし、それもすぐに猫の洗礼を受けることになったのだが。
そんな二月・三月を過ごしていたわたしに娘から
「いつまでも炬燵で寝ていたら、体壊しちゃう。ちゃんと布団で寝て」
ともっともなご意見をされた。
時は確定申告のコマーシャルも流れる頃。毎日の仕事に加え、申告の用意も重なり我が仕事は日々満載。旦那は相変わらず家事に非協力的なので、娘がいくらか手伝ってくれているとはいえ自分一人が動いているような状態だった。
確かに、と作戦を考え直した。ネット検索で夜入れて置けるようなケージなどをさがしたが、それなりの値段だし、だいいち広いとは言い難い我が家、置く場所が確保できない。そこで、無い知恵をしぼって、玄関に夜だけ隔離することにした。
我が家の玄関は狭いけれど、リビングとは引き戸でしっかり居住スペースとは仕切られているので、夜に三和土にトイレと夜食類を置き、上がり框のフローリングに寒くないよう古毛布をたたんだ上に電熱足マットを重ねて寝床を作った。
これで、夜間の悪戯は抑えられるようになった。しかし、今度は日中でも目を離した隙に粗相をするようなってしまった。
する場所は毎回決まっていて、炬燵の二辺。窓側とわたしが座るあたりの上掛けに毎日といっていいくらい、失敗する。予防線に、古いバスタオルなどをあらかじめかけたりするけれど、もう鼬ごっこのようになっていった。
そんな下のゆるい猫だけれど、とにかく寝ている姿は可愛いし、わたしが仕事をしていると膝に乗って来たり、三月に入るとわたしが仕事中には足元で休むようになり、お客さんたちに大人しくなでられたりと、とにかく愛らしさ満点だったのだ。
ほんと、「アレさえなければ」の痛し痒しの状態とはこのこと(とうぜんながら、捨てるという選択肢はない)。
三月の始めに二度目のワクチンで動物病院へいくことがあり、先生も気にかけてくださっていたのか、トイレのことを尋ねられ、「相変わらずです」としか答えられなかった。
ドクターKのコメントは前回と同じだったが、おおかた乳歯も抜けたようなので、四月の上旬には去勢手術をうけられそうだと診断された。
「去勢手術すれば、トイレのことは解決しますか?」
「うーん……まあ、治る場合もある、かな。うん、あるよ」
と、心もとないといえば心もとないご返答だったり。
そのうちに、三月の半ばをすぎると、りとは窓際で外を眺めるようになってきた。
やはり春の息吹を感じるのか、雄の本能が訴えかけるのか、外へ行きたいようなアクションを起こすようになってきた。
わたしは、歴代の猫たちを輪禍で亡くしているので、飼うときには家から出さないと決めていた。が、日に日に外への欲求が強まるのと、これ以上ストレスを与えていては更に失敗の回数が増えるのではと危惧していた。
リードをつけて散歩したらどうだろう、とホームセンターのペットコーナーを見ると、猫用のリードも並んでいた。
首を絞めつけないタイプのリードを試しに買ってみた。首輪の苦手な猫いるからねえ……と期待薄で帰宅したけれど、まずはお試し人生はチャレンジだ。
りとを捕まえて、首輪を難儀しながら装着。やっぱ嫌がってでんぐりがえりしたりするけれど、さてお外だよ! と玄関を開けると、あにはからんや。飛び出さない。ちょっと腰が引けて警戒している感じ。
抱っこして外へと行く、それから地面に下す。
りとはあちこち嗅ぎまわり、歩き出した。
そしてすぐに無軌道に。そうだ、猫は狭いところを通るんだった。
こうして、猫散歩の日々がスタートした。
散歩をする、とにかく一緒に遊ぶ、トイレを清潔にする。
けれど、それまでしても粗相は止まなかった。
そんなとき、わたしの仕事場にママ友が訪ねてきた。
「猫がいるってきいたんだけど……」
やってきたのは、娘の同級生のお母さんのSさん。ちょうど、うちの月齢と同じくらいの猫・あずちゃん(♂)をうちよりも少し先に飼い始めていた。
次回、後篇。
たぶん粗相は解消される?