ネコチャンがやってきた!
ついに、猫ズが我が家に。
さて、二日続けて猫と触れ合った我が家。
2019年4月22日月曜日。朝にわたしは、登校前の娘に言った。
「今日、猫たちをもらってくるから」
娘は目を大きくした。
「ホント? ホントに貰ってくるの? 二匹貰ってくるの?」
驚き半分、不安半分の顔をする娘。そう、貰って来よう。今日で、りとさんが亡くなって五十日だ。お互い、よう耐えた。
娘は、初めて飼った猫の死にどれだけ衝撃を受けただろう。りとが居なくなってから、りとの話題をほとんど口にしなかった。
わたしは、はりつめた気が何かの拍子に抜けてしまうと、泣いてばかりだった。ぼうっとして、車を二度こすった。
五キロ足らずの小さな猫の死は、我が家に大きな穴をあけていった。また家族の会話は減り、気楽に出歩けるということより、帰ってきても猫不在の空っぽの家に戻る淋しさを感じた。
我が家には、猫が必要なんだ。
月曜日、わたしの仕事が終わるのは遅いから、また娘と二人でSさん家へ行くことにした。
娘はチャリで登校、わたしは計画どおりに動いた。
作戦は、こうだ。
まず午前中にSさんへ電話連絡して、猫たちを譲り受ける旨を伝える。
わたしは猫たちのトイレ砂とご飯を用意する。それから、猫用シャンプーを必ず買う事。
貰ってきたら、まずはお風呂に入れなければならない。外猫として自由に暮らしている猫たちだから、体が汚れていたし、ノミやダニがついていたら駆除しなければ家には上げられない。
さあ、ミッション開始だ。
まずは、Sさんへ電話を……って、留守かいっ!! そういえば、りとのときも連絡つかなくてヤキモキしたのを思い出す。
もーっっ、とイライラしつつ、ホームセンターへ行って猫砂を購入。
りとが亡くなったとき、残っていたご飯は親戚の猫・トロに譲ってしまったから、パウチもカリカリも例のアレも何一つない。
二匹だから、一匹の時よりたくさん食べるだろうな、と考えて多目に購入。
さて、もう一度Sさんに電話。しかし、またも繋がらず。
わたしはあきらめて、Sさんの家に直接ケージを持って行った。そしてメモを張り付けた。
「七時過ぎに、猫たちをもらいに伺います(ハチワレと三毛)。よろしくお願いいたします。たびー」
そうこうしているうちに昼になり、わたしは午後の仕事を始めた。
仕事をしていても、落ち着かない。でも、まずは仕事を終わらせないと猫どころではない。
でも始めてしまえばあっという間で、最後のお客さんを見送り七時に終わった。
旦那はすでに帰っていた。去年までは、某ゲームに夢中で帰りはいつも十時前後だった。それが娘といられる時間が残りわずかと悟ったのか、ここのところ七時前には帰宅するようになったのだ。
わたしは娘に声をかけた。
そして旦那に言った。
「猫たちを貰ってくるから!」
「えぇぇっ?」
旦那の返事を待たずに、わたしは娘と強引に車に乗った。Sさん家まではものの数分で着く。
「ありがとうねぇ」
とSさんは猫たちの入ったケージを渡してくれた。
「メモ読んで、夕方に戻って来たところ捕まえて籠にいれたから」
猫たちは二匹入るには少しばかり小さいケージの中で大人しくしていた。ついに、ついにまた猫を飼うんだ。
渡されたケージは、ずっしりと重かった。娘に籠をわたし、また車へ。
そのまま家に帰ると、むすっとした旦那がいた。
「連れて来たよ」
娘がケージの扉を開けると、こわごわとハチワレと三毛が出てきた。
そして、鳴く・鳴く。
「にゃーーーーん、にゃあーーん」
えっ、甲高いよ。ハチワレ、なにこの鳴き声。と家族三人、一瞬ポカーン。りととは全く違う声で鳴く猫に、誰もが戸惑った。
とにかく、鳴くし、物陰に隠れる。
「あっ、そうだよ、ふつうの猫はこうなの。知らない場所に来たら、落ち着かなくて鳴くの」
すっかり忘れていた。そう、ふつうの猫は鳴くのだ。鳴いてウロウロするのだ。
りとは我が家へ来たとたんに、「あっ、はいはい、OK・OK」といった感じで全く鳴きもせず、ゼロ秒で慣れた。りとが特殊だったのだ。
「ともかく、お風呂に入れるよ」
それで、まずはハチワレを捕まえてお風呂へ行った。扉を閉めると、またにゃーにゃー。めっちゃにゃーにゃー。そのまま構わずに洗う。洗い流すと、やっぱり灰色の泡が流れる。外猫は汚れるんだな。実感しながら洗った。体はまだそんなに大きくないことと、鳴きはするけど比較的抵抗も少なくて洗いやすかった。洗いあがったら、娘に拭いてもらった。
その間に、次は三毛。鳴きもせず、ハチワレに隠れるようにしていた三毛は一見おとなしそうだった。しかし、風呂に入れると、「シャーシャーッッ」と盛んに威嚇の声を上げるのだ。骨ばった体を洗われる間、シャーシャー言っていたが、その割には暴れることもなく、ささっと入浴は終わった。
娘はまだハチワレにかかりっきりだったので、三毛はわたしが拭いた。
小さい体で、目いっぱい抵抗する。
四月の夜、まだまだ寒い。はやく乾かさないと風邪を引かせてしまう。それでドライヤーをかけようとしたが、猫あるあるのご多分に漏れず、ドライヤーの音を怖がって逃げようとする。
困ったなあ……と思ったが、それだったら蓄暖機のところで温風に当てればいいのでは、と思いつく。
蓄暖機は、オール電化の我が家の暖房機で、正式名称は「蓄熱式暖房機」。ファンがついているので、ファンを回すと、温風が吹き出してくる。
娘として、ハチワレ・三毛二匹を蓄暖機の前に抱っこしていって、温風に当てた。
すると、三毛の反応が変だった。
抵抗するような声をあげつつも、温風にあたると、逃げるのをやめたのだ。そしてタオルで拭かれる。しかし、シャーシャー言う。ハチワレに至っては、完全に無抵抗。
なんだ、これ?
それで猫たちの生い立ちを思い返した時、猫たち「温風初体験」なんだと気づいた。Sさんは、猫たちの面倒を見ていてくれたけれど、家の中で世話されていたわけではない。だから、温風が吹き出すヒーターなんて生まれて初めてなんだ。
それできっと、「なにこれ、気持ちいい。ずぶぬれで知らないところで怖いけど、気持ちいいの」って感じなのでは?
多分そうなんだろうなあ……と推測した。あらかた拭き終わると、二匹はそのまま蓄暖機の前で寛いだ。
こちらの動きにものすごくビクビクするけれど。
トイレを教え、ごはんを食べさせ、一回目のトイレを見届けると、わたしもようやく座った。
ようこそ、ネコチャン。
「名前は、どうする?」
娘に聞くと、娘はもう名前を用意していた。
「黒いのは、やと。三毛は、ちと」
旦那は、長いものには巻かれることにしたらしかった。
りとも、新しい猫たち、よろしくね。
猫たちとの生活が五十日ぶりに始まった。
旦那、口を出す余裕がないまま、猫を受け入れることに。




