希望のない人生に猫は必要だと思う
金持ちにならなくてもいい。
猫持ちになりたい……。
そんな、ささやかな願い。
★主な登場人物
わたし(語り手)自営業、自称猫扱有段者
旦那(二歳年上)会社員。動物同居歴は、子ども時代に秋田犬とミニ猿(雉はいなかった模様)
娘、高校生。成績はともあれ手芸好き、読書とアニメも好き。動物は飼ったことないけど、好き。
希望がない人生。
自分、どうにも将来に楽しみが見いだせずにいた。
子どもの将来は気になるが、その前に互いの二親計四人の介護や看取りがあるだろうし(もっともこれは誰が先になるかは、分からない。わたしをふくめて)、そうなったら今のように小説を書いたり、年に一度の一人旅とかそういうの無理だろうし。
娘の学費も頭が痛いし、結局その先の就職とか結婚とか(←まったくの未定)。
よしんば娘が無事自立して、さて、仲の良い友人たちと旅行にでも……というのも、色々と障壁があってたぶん無理だろう(主に経済的なこと)。
お恥ずかしいことだけれど、我が家は娘が小学生から中学生のあたりまで、夫が転職・無職を繰り返し、自営と実家の手伝いとを掛け持ちして働くわたしとの間に、埋めがたい溝ができていた。
今でこそ、なんとか仕事を続けている夫だが、いつまた「辞める」と言い出すかと思うと、わたしの心中は穏やかではなく、しょうじき離婚を真剣に考えた時期もあった(ちょうど『フルサトRadio』を書いていた頃は完全に険悪な状態だった)。
娘が高校生になり、ようやく家庭調査書に夫の勤務先をかけた時には、ほっとした→小中のときには「無職」という名の「求職中」だったから。
必要最低限しか会話をしない。ことにわたしから夫へ会話をもちかけることは、ほぼなくなり、家族三人でいても、誰もしゃべらず家庭が冷え切っていたといってもいい。
なんの望みもない。
四人の親を見送ったら、なんならワタシも終了でかまわない、と日常に思うほど希望のない淵を延々と歩いている、そんな状態だった。
せめて猫を飼う、というわずかな望みもかなえられたなら。
夫は猫が柱や襖で爪を研いで、家の中をボロボロにすることを警戒して、猫を飼うことは反対していた。
娘は一人っ子なせいもあるだろうけれど、犬か猫、どちらか欲しいといつも口にしていた。
子どもの頃から猫と暮らして来たわたしも、猫が欲しいと思い続けていたし、日常生活が辛過ぎて柔らかく撫でられるものが欲しくてしょうがなった。
猫を保護しているSさんからは「いつ引き取りに来ますか」とすでにロックオンされて、わたしが飼う前提になっているようだった。わたしも、たびによく似た猫が家にいてくれたなら、どんなにかいいだろうかと思い続けた。飼うんだったら、トイレは廊下を片付けて置いてご飯は冷蔵庫の横のスペースにお盆にのせて……。もう猫が来たなら、のシミュレーションをひとり脳内で何度も何度も繰り返した。
最初に猫に会ってから二週間ほどのち、わたしは思い切って旦那に切り出した。
「猫を飼わせてください」と。
「猫が飼いたいです、猫を飼わせてください」
夫に頭を下げたこと等ないに等しいわたしが懇願したことが通じたかどうかは分からないが、なぜか夫は「きちんと家の中を掃除するなら、飼ってもいい」と了承した。
まさか、あっさりYESと言われると思っていなかったので、わたしのほうがビックリした。
「猫のあてはあるのか」と夫。
「お客さんの家に保護されいる子猫がいる、それをもらってこれる」とわたし。
それからは早かった。翌日の朝から、猫を受け入れるために猫トイレや猫砂、餌入れ、爪とぎなどをホームセンターで購入。保護先のSさんへ電話を入れるが、なぜか何度かけても不在。ちょっとイライラ。その日は夜七時くらいまで仕事だったので、連絡は諦めてとにかく仕事。しかし、気もそぞろ。
帰宅した娘は、玄関先にあふれる猫グッズに絶句。
「ほんとに猫飼うの? いつから?」と聞かれ、ようやく連絡がとれたので「今日、貰ってくるよ」と仕事が終わってから娘と二人して、猫を迎えに行ったのだった。
2018年2月8日木曜日。
猫が我が家へやって来た。
ようやく、猫が家族の仲間入りした。
ちなみに、今も家の中は片付いていない状態です( 一一)