1-3転生
「-----------訳分らん」
これまでの人生で幾度となく使ってきた言葉だが今ほど切実に思うことは無かった。
確かに少々ぐれていた時期もあったし平穏とは程遠い生活を送っていたのも事実だ。だが、少なくともマグマの池や氷の大地とは無縁の生活を送っていたはずだ、はずなんだがなぁ。
「何処の終末世界だよ!」
悦也の前を枯れ葉が吹き抜けた。
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悦也は今、背丈ほどの氷を見つめ、手を顎に当てたり、髪を払ったり、歯をきらりとさせたり、SMILEを作ったりとかなりヤバいことをしていた。控えめに言って、ちょっと手遅れである。病院を紹介されるレベルである。
一応言っておくが悦也に鏡の前で悦に浸る性癖がある訳では無い。いや、若干その扉を開きかけたことは認めるが、
「まだ一歩手前だ。まだ一歩手前だから全然ダイジョブ。」
無人の荒野で言い訳を残しつつ、最後に体を一回転。髪をかき上げ、ようやくその結論を出した。
「金髪金目の美少女に転生か!」
自分で言っても訳分らんな。
身長140程度、色白の肌にはキズ一つ見当たらない。あどけない童顔は幼さと高貴さが内在し、危ない魅力を感じるほどだ。
「やば、何度見て俺美人!」
ヤバいな。それだけは同意だ。
一頻りヤバいアピールをし終わった悦也は現状の確認へと入る。
今自分が置かれている状況は異世界転生とかゆう奴だろう。眉唾物の話ではあるがそう考えれば納得がいく。その前提で今まで起きたことを振り返るとこんな感じか?
ダンプカーに撥ねられた時俺はすでに死んでいて、あの豪華な世界に魂の状態で飛ばされた。そして、あそこは輪廻転生をつかさどる機関で、不幸にも記憶力残念なちゃらんぽらんに見つかった俺はこうして美少女に転生したわけだ。
意外と冷静に分析する悦也だが、当然と言えば当然の話。何せ彼は―――――
「異世界転生なんざライトノベルで予習済みよ!」
どや~、とムカつく顔を作り決め台詞を吐く悦也。
あと、どうでもいいけど、それツッパリが行きつく趣味じゃないと思うぞ。
どうでもいい思考はさておいて、
「これが異世界転生なら現代知識とチートを駆使して『俺TUEEE!』をやるのがおきまりなんだが、・・・・・・・こんな終末世界でどうしろと。」
そもそも人間が居ない。生物らしきものもいない。さすがにこの扱いはひどすぎる。
確かに善行など数えるほどしか積んでこなかった。その善行も消しゴム拾うとか、割とどうでもいい感じの善行だ。しかし、悪行もそこまで積んではいなかったはずだ。
「俺が何したってんだよ?・・・・・いや確かにちょっとぐれてたのは認めるけどさ・・・・・・・・。」
久しぶりにナイーブになる悦也。実際考えれば考える程、自分の置かれた状況に溜め息しか出ない。「溜息を吐くと幸せが逃げる」という格言が事実なら、今日一日で間違いなく半年分の幸せは逃げていっただろう。そんな今日何度目ともなるため息を吐き、悦也は頭を抱えていた。
「マジこれからどうしよう・・・・・。」
哀愁漂うその背中を女が見つめているのに気づかずに。