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アウトロー  作者: ダブルシュガー
第0章 プロローグ
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プロローグ0

少女の目には全身甲冑の騎士が剣を振り上げるのが見えていた。

兜の目通しから覗く瞳は何処までも薄暗く、慈悲も、情けも、何一つ通用しないのだと少女は悟る。

少女は下唇を噛みしめ、奥歯をギりっと鳴らした。

甲冑の騎士は、なんの感慨もなく、まるで当然だとでも言うように剣を降り下ろす。

その時――――――――――


「まあ、待って下さい。まだ可愛い年頃じゃないですか?」


高く、美しい、優しげな声が、薄暗い森の中に響き渡る。

声の主はまだ少年と言えるほどの年頃で、端正な面もちをしていた。他の者が白銀のフルメタルをしているのに対し、白と青と金色でできた修道服のようなものを着ている。

金色に輝く長髪は腰まで届き、

木々の間をすり抜けるわずかなそよ風が少年の紙を揺らし、危なげな魅力すら醸し出していた。


「剣を引いてくれませんか。」


少年は僅かにダークブルーの目を細め、剣を降り下ろしかけていた騎士に頼む。頼むとは言ったが、その本質は命令といった方が良いのかもしれない。

どちらにせよ、その効果は劇的だった。


フルメタルの騎士は白銀の剣を半ばまで降り下ろし、その状態のまま、茫然自失というように固まっていた。

その様子からは彼の内心の驚愕が手に取るように分かるだろう。

そこには既に先程まであった死神を彷彿させる怖さはなく、いっそ憐れみすら覚えるほどのオーラさへ付きまとう。


そんな動くことを忘れた騎士に、少年はいっそう目を細め、


「どうしたんです?私は剣を引けといったんだよ?」


腰に吊るされた、多少過多にも思える装飾のついたオーダーメイドの短剣へと手を掛ける。


「も、申し訳ありません!」


地面にめり込むほどの勢いで剣をしまい、後ろに下がる全身甲冑フルアーマーの騎士。

少年はそれに漸く目の力を緩め、鞘から手を離すと、件の少女へと向き直った。


そして、少年はその右手を少女へと差し伸べる。

その手は今まで何の不浄にも触れてこなかったのだろう。透き通るように美しく、自分のようなげせんな者が触れてしまえば汚れてしまうと心配になるほど綺麗であった。


少年と少女の瞳が絡まり合い、思わず少女の頬が赤く染まる。それに気づいているのか、いないのか。少年は優しく少女の頭を撫で、頬を撫で、そして、――――――――――


ビリリ、ビリリリリリ


「えっ、ーーーーーー!」


理解が追い付かなかった。

何が起こっているのか、分からなかった。

困惑の表情を浮かべたまま、音の先を見ると、音の原因に気づく。

それは自分の服が破られる音だった。


少女が着ていたのは決して豪華とは言えない、軽めの赤いワンピースのような、それが上下に別れたような服だった。

貴族からすれば少し貧相、しかし平民からすれば手がでないほどの逸品。

金貨一枚――――――――――少なくとも平民の三ヶ月分の稼ぎが根こそぎなくなるほどの高価な服。

しかし、いまそれは首の根本からお腹辺りまでバッサリと破られ、

少女の年のわりには成長した乳房が晒されていた。


「キャアアアァァァァ!!!」


理解と同時に、口からは女の甲高い声が出ていた。


どうして!なんで!


こんなはずない。そうすがるように蛮行の行為者を探し、目が合い、絶望した。


「ひっ!?」


そこにあったのは先程までの優しい少年ではない。悪意と狂気が人間のかわを被ったような、隠しきれない主逆心が少年の空色の目には映っていた。


――――――――――どうして・・・・


少女の頬に暖かい水滴が伝う。それが涙だと分かり、張り裂けそうなほど胸が痛くなる。

信じていたんだ。

それがどれ程愚かな行為なのか分かっていた筈なのに。

たった数回 、言葉を聞いただけで少年は少女の心の中に容易く入ってきた。

希望など遠の昔に失った筈なのに


「それです、それ!その顔が見たかったんです。いやー、最近の魔女はどいつもこいつも諦めが良すぎてつまらなかったんですよ。昔はもっとなぶりがいがあったんですけど・・・・本当に慣れって怖いですね。

心ってさあー、不思議なことにどんな絶望にいても長くやり過ぎると絶望って感じなくなるんですよ。でも、これで思い出してくれましたか?絶望。」


何を言っているのか分からない。

どうしてこんな目に遭わなきゃならないのか。

私が何をしたと言うんだ。

人間と手を取り合おうと、手を差し伸べたこともある。

それでも受け入れられなかった。

だから、誰とも係わらず、誰とも接しず、一人で生きてきたのに。

どうしてそんな顔で人を殺せる。

どうして魔女を当然のように殺す。

とりとめのない怒りに少女の頬を涙が次々と流れる。

それが目の前に敵を楽しませるだけだとわかっていても、止めることができない。


「ひっぐ、・・・ぐす・・・・」


少年はそれを見てさらに愉悦に顔を歪ませ、今度はスカートに手を伸ばした。


「やめっ・・・・ひっぐ、・・・・あああああ!!!」


ゴキッ、・・・・ビリビリビリ


少年は抵抗に出された少女の細い腕を真逆にへし折り、無理矢理にスカートを破りきる。

少女の呻き声を聞きながら、狂気に瞳を濁らせて、そのままの流れで腰にかけてあった短剣へと手をかけ、鞘ごとそれを抜く。

そして、それを強引に少女の口にねじ込んだ。


「うっ・・・・・ひっぐ、おえっ、・・・・・うええ。」


喉がつぶれるほど強く入れられた剣に少女は息をすることも難しく、何度も何度も吐きそうになる。

少年は少女のあえぎを一通り楽しむと、少年は口から剣を抜き、フルメタルに無理矢理少女を立たせた。


ぐっちゃりと、唾液のついたそれを少女の首元からなぞるように下に動かし、少女の股へと擦るように当てる。


 ――――――――――怖い、悔しい、痛いよ・・・


 ――――――――――誰か、助けて。助けてよぉ。


誰も助けるはずがない。ここには少女の見方はおらず、どころか世界すべてを探しても残り何人いるかと言う同族を除いては、そんな物好きはいないのだ。

そう断じれるほど少女は人間と言うものを長く見てきたから。


だから始めそれが何なのか理解できなかった。


それは、もう少女の体に幾重もの切り傷ができ、もはや涙すら出なくなった頃に起こった。


絶え間なく動かされていた少年の手がピタリと止まった。


 ――――――――――漸く終わったのか


そう思い、少女はうっすらと目を開ける。そしてすぐに、それが違ったのだと知った。


少女が目にしたのは一人の騎士。白銀のフルメタルを付けた、始め少女を殺そうとした騎士だ。

その騎士は剣を引き抜き薄暗い目をこちらに向けている。

その剣先にはーーーー


「何のつもりだ、ウォッカ。」

「やり過ぎだ。ここまでやる必要は無かったはずだ。」

「魔女を擁護しますか、名持ちでありながら許されざる怠惰ですね。」

「擁護ではない!ここまでする必要はないと言ったんだ!」

「一度だけ言いましょう。今すぐ剣を引いて前言を撤回しなさい。そうすれば今の貴方の怠惰は私の中だけに留めておきましょう。何なら貴方も一回やってみませんか?」

「ふっ、ふざけるな!」


激昂するウォッカと呼ばれた男に対し、少年は冷めきった目つきである。


「愚かな。・・・・・何をしている雑兵度も!そいつは反徒だ!とっとと円陣で囲め!」


目からカッと光のエフェクトが幻視できるほどの圧力である。

その場に待機していた数十の名無し兵が次々と剣を抜き、ウォッカを囲む。


「ゲホッ・・・ゴボッ・・・うえっ。」


――――――――――待って!

少女は声を上げようとするが、喉が潰れて言葉がでない。代わりに出てきたのは赤黒い血塊。

それでも何か伝えたかった。

どうしてこうなってるのか分からない。それでも、どうしてウォッカが剣を抜いたのか、どうして激昂しているのか、誰のために命を張っているのか、それが分かったから。


「まっ、・・・て・・・・ゴボッボボ!」


止まったはずの涙が流れてくる。

何も出来ない。

少女には何の力も無いのだから・・・


「やれ!」


その言葉と共に数十の剣が一斎に振り抜かれた。


あまたの剣がウォッカを襲い、肩がそぎおとされ、目玉は潰され、喉が切り抜かれる。そんな最悪の結末が脳裏に浮かび、少女は目を閉じた。


 下唇を噛み締め、懺悔をするような少女の顔からは、これが決して臨んだ結果では無いのだと言うことは容易く分るだろう。

 強者が弱者に淘汰される。それは変わることの無いこの世の摂理だ。

 そして、少女には力がない。

 故に結末は一つで、常に弱者に最も苦しい物を与える。


 剣が振り下ろされた――――――――――


――――――――――剣檄も悲鳴も肉をえぐる音も聞こえてこない。


少女が恐る恐ると目を開けると、金髪の少年は時が奪われたように固まっている。少年だけではない。ウォッカを囲んだ数多のフルメタルも剣を振り上げた状態で止まっている。


なにが?

その答えは既に少女の目に写っていた。

瞳に写るのは金髪金目の少女だ。

身長120程の小柄ながら、女の自分ですら妖艶を感じる美しい容姿をしている。

誰なのかは分からない。それでも、少女の異常さ・異端さはこの場にいる誰もが理解していただろう。


少女が立っているのは地面ではなかった。まるで重力などありはしないと言うように、少女は、ウォッカが手に持つ長剣の切っ先に優雅に立っていたのだ。


何が起こってるのか分からず、聞こうにも喉が瞑れている。

故にそれを言ったのは少女ではなかった。


「な、何者だ!」


それを言ったのは騎士の中の誰だったのか?

フルヘイム越しでも分かるほど震えて怯えた声である。

少女はそれにめんどくさいのか手短に答えた。


「マリアナ・D・ ブラッド」



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