これからのこととお買い物
リトに強烈な頭突きをかましたことで、勇人が衝撃にびっくりして泣き出した。
「あーーーーー!うぁーーーーー!」
「…俺も泣きたいくらいだ。痛ぇ。」
「わー!ごめんリト〜!ごめん勇人〜!」
そこからは2人をなだめるのに一苦労。
私も頭突きした頭が痛いんだけど…私が悪いです。文句は言えません。
ようやく勇人が泣き止んで(まだぐずついてるけど)、リトも…機嫌は治ってないけど謝り倒したら許してくれた。
「…で、とりあえず金の心配は俺がなんとかするから要らない。必要なものを揃えよう。宿や朝晩の食事はここで決まったから、食糧はいらない。ゆりが欲しいものをまずはあげてくれ。」
「えっと、オムツ、勇人の着替え、タオル…はないから布と、抱っこ紐、おくるみとか防寒できるものも欲しいな。旅に備えて勇人用のスプーン、お椀、水筒でしょ、万が一に備えて…赤ちゃん用の防具とか売ってるのかな!?」
本当はウエットティッシュとかほしいけど、そこは布を濡らしてどうにかするか。この世界の赤ちゃん用品事情がわからないから、何が揃えられるんだろう。
「勇人のものはどこで何が買えるかシンシアさんに聞こう。流石に俺も子育ての経験はないから何がどこにあるかはわからん。他は?ゆりもいろいろ必要だろ?」
「あ、そっか私の分もだね!まずは着替えの服と下着は欲しいな。この服だと歩いてたとき凄い目立ってたし。あとは荷物を入れられる鞄と、靴も少し見てみたい。あと、安いのでいいからリトが持ってたような料理に使えそうなナイフが欲しいな。リト用のナイフだと大きかったから。あとは石鹸が欲しい。」
「女性用の服や靴もシンシアさんに聞こう。鞄は旅で使うなら冒険者ギルドで聞いた方がいいだろうし明日だ。ナイフや石鹸もシンシアさんがいい店は知ってるだろう。他はないか?」
「今はそれくらいしか思いつかないや。」
「あとは俺からもゆりに買って欲しいものがある。ゆりも最低限の防具や護身用でいいから武器は身につけて欲しい。普通に街で生活しててもレベル5は平均でみんな達してる。旅に出るならレベル10くらい本来は必要だけど、俺1人で守りきれない場合もあるからいい防具は身につけといて欲しい。俺も駆け出し冒険者だし、かっこ悪い話だがまだ2人を守りきれるって自信持っては言えないからな。この先ゆりもレベルは上がるだろうけど、今はレベル1だから道具に頼りたい。」
リトは優しいし、本当に私達のことを考えてくれてる。無責任に俺が守ってやる、とか言うんじゃなくて、自分も私達も弱いと認めた上で正しい判断をしてくれる。私がどうしたいのかも尊重してくれるしね。
「こちらこそお荷物になるのはわかってるから、リトがいいなら買わせてもらうね。
あと…お金かかるかもしれないから、リトがいいならだけど、魔法って属性もあって、魔力もあったら使えるんだよね?少しでも魔法覚えたら、私も役に立てるかもしれないから、冒険者ギルドで受けられる講習受けたいんだけどダメかな?」
「護身用としてもありだし、日常生活でも使える魔法もあるから、覚えたら便利だろうしな。初級の講習なら習う人も多いからいいだろう。ただ、焦らなくてもこれから先で少しずつ覚えたらいい。明日ギルドで適正検査を受けてみて、他にも受けたいものがあったら、そっちにしてもいいしな。」
「リトありがとう!そうだね、明日ギルド行ってからどうするか決めてみる。」
せっかく魔法が使える世界だから使ってみたいし、何よりそれで少しでもリトの役に立てるなら…
「がんばるね!」
ん?でこに…ピーンッ!?
「痛い〜。」
何今のデコピン…おでこ割れたかと思ったんだけど!?
「講習受けるのは大賛成だが条件がある。絶対無理はしないこと。ただでさえこの世界に来たばっかで慣れてないし、朝は食堂の手伝いや勇人の世話もあるだろ。しんどいと思ったらまずは俺に言え。いいな?大体の講習が1〜3回だから、2週間で合計が5回以下にすること。夜もやってる講習もあるが、夜は危ないし俺も迎えに行けないから却下。基本はゆりの予定に合わせて、講習の時は俺が勇人の面倒をみる。それ以外は俺も依頼をたまに受けたりするし、旅の準備も必要だから何回か買い出しにも行こう。」
なんかリト、私のお父さんみたい…。優しくて厳しいし、いいお父さんになりそうだ。すでに勇人の呼び方はパパの位置付けになってるけど。
「じゃあまずはシンシアさんに聞いてから出かけるか。」
ということで、無事にシンシアさんから情報を得た私達は街中にやってきました。
今日はちょうど日曜日でお休みの人が多いらしく、どこのお店も賑わってる。曜日感覚が日本と同じでわかりやすくてよかった。
ただ、こちらの感覚だとお休みは日曜日だけらしい。冒険者だとあんまり関係ないみたいだけど。
下着など日用品を売ってるお店に到着。現代日本人な私の衝撃がいろいろ詰まってた。
まず、ブラジャーがない。ショーツっぽいのはあるけど、特にお洒落さとはかけ離れた白布のショーツ。
店員さんに平静を装って聞くと、ブラジャーにあたるものは貴族しか買えないような高級品らしく、既製品はないらしい。店員さんに変な目で見られました。
代わりにサラシを巻くのが一般的らしいので、とりあえずサラシと白ショーツを購入。ないものは仕方ないから適応してくしかない。あとでシンシアさんに巻き方を教えてもらおう。
今身につけてる下着達は大切に保管しようと決意した。
次はお目当てのオムツ。こちらは布オムツが一般的らしいので何枚か購入。オムツといっても、そんなに機能的に優れてる訳じゃなさそうだけど、ないよりマシ!
肌触りのいい厚手のブランケットのようなものも発見して、リトも気に入ったみたいなので購入。リトのおくるみとして使おう。
抱っこ紐になりそうな細長い布も購入。こちらの世界では身体に巻きつけるタイプらしく、旅に出るなら洗濯もしたいし、これも2枚購入。
石鹸も洗濯用と身体用の2種類を5個ずつ。旅でどれくらい使うかわからないし、リトもちょうど切らしたらしく多めに購入した。
赤ん坊の服は、すぐに大きくなるので母親が手作りすることが多く、既製品は売ってない。シンシアさんが子供達に着せていた服のお古を頂くことになった。
こうしてオムツなどの、必需品をゲットした。
合計で800リン。この世界の共通通貨で、日用品や食事などは物価が安いが、便利な魔石や武器防具などは高いらしい。
次に訪れたのは女性用の服屋さん。この街は冒険者も多く集まるらしく、冒険者用の女性服も売っている。品揃えが多くて、機能性が高い掘り出し物の服も多いから、お洒落に敏感な若い子に人気のお店だそうだ。
街の人はワンピースのような服が主流の普段着で、冒険者の服としては動きやすい服装やローブが好まれるらしい。冒険者服は、防具としての機能や丈夫さ、機能性も求められる。しかも素材の扱いが難しいので専門職の人が作ったものになると、普段着の倍以上は当たり前らしい。
かなり広い店なので、探すのが大変そうだ。
リトも最初はついて来ようとしてたけど、人気店なだけあって店内は女性客で大変賑わっていて、服の数の多さに時間がかかると悟ったのか、選んでる間に自分の必要なものを買ってくると出ていった。
私も人混みは苦手なので、近くにいる金髪の小柄な女性店員さんに尋ねる。
冒険者服は高価なので2階にあるらしく、階段を登っていく。
「可愛いお子さんですね。おいくつなんですか?」
女性店員さんから話しかけられた。
「今は9ヶ月になります。勇人って言います。」
「ユート君ですね?初めましてナタリーです。」
「なー!」
「あら、賢いですね。そういえば冒険者服をお求めですが、冒険者なんですか?」
「まだなりたてなので、いろいろ揃えたくて今日は来たんです。」
「もしかしてユート君も連れて行くのですか?」
う、なんか一気に非難めいた視線が突き刺さる。
そりゃあこんな赤ん坊連れて冒険者なんて、大丈夫かこいつってなるよね。
「えーと、いろいろと事情があって長い旅の途中なんです。この子だけ置いて行くことは出来ないんです。」
その話を聞いて、お姉さんも複雑な顔をしていたが、深く突っ込みはせずに納得してくれた。
もしあるなら勇人用にも冒険者服があればと零したら、心当たりがあるのか案内された。
冒険者服の置かれている棚からさらに奥に、工房のような場所があり、1人の薄緑色の長髪の女性が作業をしていた。
この店ではオーダーメイドの冒険者服も取り扱い、お姉さん1人で作成を請け負っているそうだ。
冒険者服は素材から丈夫なものが多いため、鍛治のスキルが必要。女性で鍛治のスキルを持つ人は少なく、この街でもお姉さん以外にはいないらしい。
店員さんのオススメはないなら作ってもらっちゃえらしい。
お姉さんは専門職なので当然値段は高くなるけど、オーダーメイド自体は一般的だからバカ高い金額にはならないそうだ。
「赤ん坊の冒険者服は、初めてだな。面白そうだ。」
お姉さんもノリノリみたいなので、作って貰えるなら高くても勇人の冒険者服は欲しい。
リトに心の中でごめんと謝りながら、勇人の冒険者服を2着ほど欲しいことを伝える。
「わかった。成長が早いだろうから長く使うならサイズ調整が出来て丈夫なものがいいだろうな。防具を身につけられるような身体でもないから、ある程度の防御できるくらいの機能は持たせよう。温度変化も含めて免疫も弱いだろうから、特殊素材を使うのも検討しよう。本当に全部こちら任せでいいのか?職人としてはありがたいが、要望があれば出来るだけ叶えるぞ。」
「素材についてはわからないのでお任せさせてください。サイズ調整とあとは脱ぎ着がしやすくして貰えるとありがたいんですが…。」
「それくらいの要望は叶えよう。予算はどれくらいだ?」
既製品の普段着が平均500リンで、冒険者服はピンからキリまで。長く使うものだし、お金を惜しむ場面じゃないから…
「2着で3000リンでお願いします。」
「それだけあればいいものが作れる。小さいから使う素材も少なくていいしな。3日後には出来るから取りに来てくれ。多少の差額が出るだろうから、お代はその時に貰うよ。」
「よろしくお願いします。」
勇人の冒険者服楽しみだなぁ。
「では、冒険者服の売り場をご案内しますね。」
そうだった。本来は私の服を買いに来たんだった。