事件とホットワイン
「リア姉の部隊の人が攫われた!?」
その知らせを持って来たのは、同行していたリト。事件を知らせるために、ウィースという足があるリトと副隊長が任命されて、里まで戻って来たのだ。
休憩中に一人でお手洗いに外れた若手のエルフの男性が、休憩時間の終わりになっても帰って来なかった。
男性が向かった方向を捜索すると、激しい戦闘の跡があり、男性が何者かに連れ去られたと判断した。
「今回の襲撃の犯人は以前にこの里を襲った冒険者達の可能性が高い。戦闘で残った衣服の残骸が、冒険者の一人が着ていた衣服に似ているそうだ。」
「リア姉達はどうしてるの?」
「俺と副隊長以外は捜索してる。同胞が人質にとられてるし、命の危険もあるからな。」
そう言ってリトも疲れたように、集会所の椅子に腰掛ける。
「あと、保守派のエルフから俺達が奴らを手引きしたんじゃないかって声が出てる。その筆頭が俺と一緒に戻ってきた副隊長だ。」
「大丈夫なの?」
「さすがにこれだけ馴染んでると、庇ってくれる奴もいる。それに手引きしたにしても、証拠が無さすぎるから、まずは監視されるだろうな。」
「監視って…」
しばらく友好的に接してきた里の人達に監視されるのは悲しい。
それが顔に出ていたのか、リトが立ち上がって勇人を抱いている私を、勇人ごと抱きしめた。
「安心しろ。別にどこか牢屋にぶち込まれたり、繋がれる訳じゃない。ゆりの生活自体は何も変わらない。俺も外の見回りが無くなるだけだ。」
そう言って頭を撫でてくれる。
「要は外の人間と連絡が取れないように、大勢のエルフの目が届く範囲で過ごすってこと?」
「ああ。」
常に見張られたりする訳でもなさそうなので、少しホッとする。
あとはリア姉達が無事に捕まった人を救出できる事を祈るのみだ。
「ゆり達に不自由な思いをさせて、ごめんね。」
夜遅くに戻ったリア姉は、律儀にも私達のテントを訪れていた。
「私たちは大丈夫だよ。それより、連れ去られた人は見つかりそう?」
力なくリア姉は首を振る。
「奴らの痕跡はいくつか見つけたが、向こうも常に動いているみたいで、なかなか追いつくことが出来ない。」
「リア姉…」
自分の隊の人が、同胞が攫われてとても心配しているんだろう。いつも明るいリア姉だけど、責任感も強いからか落ち込んでいる。
「よかったら、ご飯食べていって?ずっと捜索しっぱなしだったんでしょ?」
ぎこちない笑みを浮かべて、リア姉は頷いた。
夜も遅いので、空間収納で保管していた残り料理を振る舞う。
温めたアマドリのクリームシチュー、余りのパン。夜は寒いので、タリスさんからいただいたワインにいくつかのハーブと果物を入れて温める。
小腹が空いたらしいリトの分も合わせて振る舞う。夜ご飯もがっつり食べてたんだけどな。
「この里の生活には慣れた?」
体育会系かつ肉食女子なリア姉は、そのスラリとした体格に似合わず、もりもり食べている。
「うん。タリスさんは博識だし、教え方が上手いから薬草術のレシピも何個か作れるようになったよ。サーシャさんも里やエルフの生活をいろいろ教えてくれるから楽しく過ごしてる。」
ねー?と腕の中でうとうとしている勇人に顔を向ける。
マリアちゃんという、はじめての同年代の友達が出来て、勇人も目一杯遊ぶことが出来ている。可愛い2人が遊ぶ姿は眼福で、この世界に写真がないことが悔やまれる。ちなみに元の世界の私物であるスマホも、電池がお亡くなりになっていて全く機能しない。
「楽しんでくれてるなら良かった…あと、ご馳走さまでした。今日は遅いから帰るね。また朝ごはんもくるからよろしくね。」
そう言ってリア姉は去っていった。
「何かリア姉の力になれないかな。」
「ゆりはゆりのやり方で、サポートすればいいんじゃないか?料理だってそうだし、捜索にポーションとかは必需品だしな。」
「私なり…か。」
何か捜索の役に立つようなものが作れるといいんだけど。
考えているうちに、閃いた。
これなら冒険者達を見つける役に立つはずだ。
明日、タリスさんに聞いてみよう。




