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グラタンとスープと里の暮らし

小学校から6年間、中学校3年間、高校数ヶ月と、基礎教育を受けてきた。


こちらの世界は識字率も低く、読み書きや簡単な計算が出来れば仕事の幅が広がるそうだ。


日本では識字率はかなり高いし、計算は計算機やレジ、パソコンがあればさほど重要ではない。


ひとまず義務教育を受けさせてくれた環境に感謝します。


だからと言って私の頭がいいかどうかは別だ。そして私がいるのは、コミュニティが狭く、また先生になれるような博識な人が周りに溢れているエルフの里。もちろんこの里の識字率は100%だし、エルフの公用語、大陸の公用語、マイナーな地方の民族言語まで扱える人もいる。


閉鎖された環境にも関わらず、知識が豊富な理由は本の普及だ。


近年この大陸は紙の大量生産に成功し、本が一般に出回るようになってきた。薬で高額な所得を得る彼らのお金の使い道は、食料や日用品、武器の研磨道具、そして娯楽だ。


なかでも人気の娯楽の一つに読書があり、この集会所の下層部分は図書館になっている程だ。


その図書館から借りてきた複数の本を広げて、頭を抱える。



タリスさん曰く、「薬草術が冒険者に不向きなのは、基礎学力がないと出来ないからだけではない。鍛錬すればいいのではなく、知識と経験を持って適切なタイミングで適切な処置が出来る必要があるからだ。しかも、敵と戦っている最中に使える技術は限られるから、経験から予測して準備すること、そしてその準備をするために膨大な知識が必要なことにある。」


冒険者はそんなちまちましたことを出来る器じゃないのさ、とイケメンエルフは語った。


そしてひとまず渡されたのは、『調合の基本』『自然と魔法の法則』と言った本達だ。


薬草術ってようは生物学と化学と数学が根底にあって、日本で言う薬学相当の知識が必要になるような代物だ。作れるものの幅が地球よりかなり大きいけど。


私が悩んでいるのは、そもそも高校1年の私は高等な教育を受けていない。化学や生物学がわからない。


でもって、こちらの世界にある魔法。高尚な薬草術を使うなら魔法の原理の理解は必須とのこと。むしろ使わないとか無能過ぎるとまで言われたので勉強中。これが難しい。私の16年間の常識は通じないからね。


ひとまず初日は自分の無能さを知って、得意の料理に頭を切り替える。



サーシャさんと共に調理室に入ると、かなりちゃんとした設備があった。表すなら大きな厨房といったところだ。


その一角に簡易的な柵を作って、敷物を引いた上に勇人とマリアちゃんを入れる。


これで調理の邪魔にはならないだろう。

2人にはマリアちゃんのおもちゃを渡しているのでしばらく目を離していても大丈夫なはず。



サーシャさんから聞くと、炊き出しをする皆さんは卵や牛乳がダメな人はいないとのこと。


炊き出しとして用意するのは、50人程の火事があった木に住んでいたエルフの皆さんの昼食と夕食。あとは外回りをしている騎士部隊の昼食だ。


「最近作った料理を教えて貰えませんか?出来るだけ違うものにしようと思うので。」


サーシャさんに聞くと、基本的には採れたての新鮮な野菜を使ったサラダ、芋料理、スープ、豆料理、パンが主流だそうだ。


調味料は塩とコショの実、メープルシロップ。

ほとんどが塩味とのこと。たまに商人から調味料を買うこともあるけど量は少ないそうだ。


あまり奇抜な料理にしても、エルフの方々の気が休まらないので、素材の味がある程度生きる料理にしたいな。


サーシャさんに今朝採れたばかりの野菜を一口大に切ってもらう。基本的に根菜が中心だ。中には私が知らない野菜もあるので味や調理法を聞くことも忘れない。


その間に、バターを敷いたフライパンで小麦粉を炒め、塩とコショの実、牛乳を加えて混ぜる。なんちゃってホワイトソースだ。


このソースの作り方をサーシャさんに教えることも忘れない。


別の大鍋でサーシャさんが切った野菜を茹でて、火が通ったらグラタン皿に入れてホワイトソースをかけて、さらに硬くなったパンをすりおろしてパン粉をかけてもらう。


本当はチーズがあると美味しいんだけど、今回はパン粉を代わりにかける。チーズは在庫が少ないそうなので、今回は使わないことにした。


あとはオーブンで焼くだけなので、サーシャさんに量産してもらう。


その間にもう一品。


小麦粉はあるので、オリブ油と卵を混ぜてパスタ生地を作る。


生地ができたら、小さくちぎって半円のパスタを量産する。


別てミネストローネのようなトマトベースのスープを作り、その中にパスタを投入する。


ミネストローネ風スープパスタの完成だ。



この2つが今日の炊き出し料理。


どちらも全く新しいものでもないが、この里では珍しい。


集会所の大広間には、木製のテーブルと椅子が沢山並べられている。サーシャさんには野菜のホワイトソースグラタンを盛り付けてもらい、私はスープパスタをよそう。


調理室と隣り合っているので、若いエルフの人が率先して料理を運んでくれた。


全員分を準備出来たら、サーシャさんに断りを入れて残りを肉食組用にアレンジする。


野菜グラタンには茹でておいたササミ肉を追加する。


スープパスタにはベーコンを加えて、塩気とボリュームをプラス。



ちなみにどちらも塩分控えめに、マリアちゃんと勇人の離乳食は分けて作ってある。マリアちゃんはもちろん肉抜きだ。


あとは大食漢なリト達には空間収納に入れていたパンを添える。





結論から言うと、昼ごはんは大好評だった。

私が作ったということで、最初は毛嫌いしている方もいたみたいだけど、空腹には変えられずに食べたら美味しかったとのこと。


なんだかいつもより元気が出たという言葉を頂いて気づいた。


あ、スキルのこと忘れて他の人に料理食べさせちゃった。


気づいた時には顔が引きつったリトの姿がある。

うん、なるべくサーシャさんに教えることをメインに他の人も追加してもらおう。私が作っちゃダメだ。




午後からも薬草術と格闘し、夕食を作り、新しい木のそばでテントの中で眠りについた。



そんな日々が5日程過ぎた。


その頃にはなんとか本の意図がわかるようになったけど、まだまだこれから。実習も始まって、簡単な薬の調合のアシスタントもさせてもらっている。


力と体力のあるリトとウィースのお陰で新しい木の住宅建設も進み、イナリの耳や野生の経験から襲撃してきた冒険者の足跡も見つかり、大きく前進していた。


勇人はマリアちゃんとすっかり仲良くなり、2人でひたすらに遊んでいる。昨日なんて別れる時に泣いてぐずったほどだ。


別れ際にマリアちゃんのほっぺにチューしていて、女子群を沸かせた勇人。


マリアちゃんと遊んでいない時には、本を読んで勉強する私の横で本をめくって遊んだり、調合の様子を見て喜んでる。


ひとまず楽しくは過ごせているのだった。



そんな折に不穏な知らせが里に届いた。

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