集会所とエルフの薬
リトやイナリと分かれて訪れたのは昨日訪れたヨハンさんの自宅。
自宅の前に着くと、サーシャさんがマリアちゃんと共に出迎えてくれた。
「じゃあ集会所に案内するわね。」
サーシャの後ろを付いて、里の中を歩く。好意的な視線半分、懐疑的な視線半分といった感じだ。
勇人は日に日に大きくなっている。最近はずっとウィースの上だったけど、抱き上げる度に重いと感じるほどだ。リトはまだ軽々と抱き上げているけど、本格的に楽な抱っこ紐が欲しい。まだ勇人を歩かせるのは危なっかしくて気が進まない。
そんなことを考えているうちに、大きな家に辿り着く。家といっても普通のエルフの自宅の何十倍もありそうなので、ホールといってもいいかもしれない。
「ここは集会所なの。催し物や集会をするときにはここを使うんだけれど、今は復興のために作業場として使ってるわ。もともと学舎ま兼ねているから、中には薬草の調合室、調理室、木工室なんかも備わっているの。」
そう言いながら、サーシャさんは中へと案内してくれる。
「ゆりちゃんには、薬草の調合と調理をお願いしようと思ってるの。私達も誇り高い一族として、何ももてなしの出来ないままタダ働きさせるのは気がひけるから、エルフが誇る薬草術を教えるわ。」
とっても有り難い申し入れだ。私のスキルアップに大きく繋がる。
「でも、いいんですか?薬草術の技術を私みたいな部外者に教えてしまって。」
「そこは大丈夫よ。実は昨日の晩餐で、保守派のエルフは陰ながら貴方達を見てもらっていたの。騙す形で申し訳ないわ。でも、彼等も私達なら技術を悪用したりしないって判断して、こうしてこの作業をしてもらえるところまで漕ぎ着けたのよ。」
知らない間に保守派のエルフからも受け入れられていたみたいだ。長年生きているだけあって、人を見る目は備わっているとのこと。
まぁ勇人なんて人畜無害の代表みたいなものだし、リトも見た目以上に話すと本当に優しい性格がわかる。惚れたフィルターを除いてもだ。
私も側から見て悪い顔はしてないと思うので、ひとまず受け入れられたのかな。
あとは私の料理が美味しいとリトに力説されたらしいエルフの皆さんに、昼と夜の炊き出し担当を勧められたそうだ。余所者が作った料理は信用出来ないっていう人もいるので、必ずサーシャさんが監視も含めてサポートしてくれるそうだ。
サーシャさんはもともと炊き出しリーダー。里長の奥さんなのもあって、目に見える施しは好感度が高いっていう少し黒い理由もあるそうだが、純粋にサーシャさんが料理上手なのもあるらしい。
昨日の晩餐もほとんどがサーシャさん手作りだったそうだ。
炊き出し用の調理を開始するにはまだ時間があるので、薬やポーションを作る手伝いをすることになった。
私が案内されたのは、役員室と書かれた部屋。その中に入ると、銀色の髪のエルフの男性がいた。長く綺麗な銀髪を後ろに一つで束ね、丸い眼鏡をかけている。エルフの皆さんは全員漏れなく私から見たら美形なんだけど、この人はそれに知性もプラスされている。
「はじめまして。僕はタリスと言います。レディ、以後お見知りおきを。この度は我々エルフにお力添えありがとう。」
そう言って華麗に挨拶をする。
「ゆ、ゆりです。こちらこそ、精一杯頑張るのでよろしくお願いします。」
流れるような挨拶にどもりながら返す。
リトの美形を見慣れてきたけど、美形に慣れることもないんだとこの時理解した。美人は3日で飽きるっていうけど、慣れることはないみたい。
「タリス君はリアナより5つ上で、幼馴染なのよ。この里ではかなり若いけど、里で誰にも負けないくらいに薬草術に長けているから、彼から薬草術を学んでちょうだい。」
じゃあ私はこれで。といってサーシャさんは退室した。
「早速だけど、僕達が作る薬やポーションを見てほしい。外の人間の意見も聞きたいからね。」
そう言って案内されたのは倉庫のような場所だ。
麻の袋や木箱には、様々な種類のポーションや薬が入っている。
「エルフの里で作られる薬は、外の世界では高級品になる。それはエルフの高い薬草の知識と、それを薬に変える技術があるからだ。」
そう言ってタリスさんが手に取ったのは、私がオリエンテの街の薬屋で最高級の棚に置かれていた『エルフの飲み薬』と言う名の液体ポーションだ。
高位回復薬よりも品質が高く、状態以上までも回復するポーションで、冒険者でも上位ランクしか手が届かない値段。花の蜜のような爽やかな香りと甘みから、一部の貴族ではお茶会のお茶に香り付けとして入れることもあるとのこと。
「君も学べば、この薬を作ることは出来る。しかし、この里で天才と呼ばれた僕でも『エルフの飲み薬』を作れるようになるのに5年かかった。そしてこの薬は、作るのにそもそも1年はかかる。今までは少量の高品質の薬で儲けていたが、復興の為には短期間で物資を得たい。そこで、君の出番と言うわけだ。」
高級品は需要はあるが、数に限りがある。将来を見据えて量産体制には入っているけど、短期間で儲けが出る薬を作りたいとのこと。
うーん。私は商人じゃないから、世間の流行とかには疎いし、何より経験が少ない。役に立てることはあるんだろうか。
「私は商人ではないので、外の世界の薬の需要まで把握出来ていません。ただ、私が街で薬を見かけて思っていたことがあるので、役に立つかわかりませんがお伝えしても良いですか?」
もちろんとタリスさんは頷いてくれた。
「私の故郷では、薬は持ち運びやすいように錠剤、粉状かカプセルという形が主流でした。この付近では液体かペースト状の塗り薬しか見かけたことがないので、冒険者には携帯しやすい薬が売れると思っています。私も運びやすいようにカプセル化などを試みたことはあるんですが、私の技術じゃ出来ないので、エルフの皆さんなら出来るかと思ったんですが…どうでしょうか?」
「貴方の言うカプセルという概念を詳しく教えていただけますか?粉薬はイメージがつくが、商人にもカプセルと言うものは聞いたことがない。」
どうやら興味を持ってもらえたようだ。
私は自分の知る範囲でカプセルや錠剤について語る。飲み込みやすい大きさだとか、胃で溶けて中身が出るとか、わかる範囲でどう言うものかを伝えた。
「なるほど、持ち運びや保存がしやすい形態の薬を作って、元ある品質のポーションや薬とも差別化を図り、付加価値をつけると言うことですね。それならば新しい特効薬や品質を落とした薬を作らなくてもいい。」
貴方の意見を取り入れましょう。ということで復興計画、「エルフのカプセル薬開発」をスタートさせることになった。
ついでにタリスさんに倉庫にある薬やその特徴を聞いて、勉強も忘れない。タリスさん直々にエルフの作る薬の作り方も教えてくれるそうだ。




