勇者な勇人くんと宿探し
我が大切な可愛い弟の勇人くん。
彼のステータスは以下の通り。
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名前: ユウト・ナツメ
性別: 男
年齢: 0(9ヶ月)
出生: 竜の谷
レベル: 1
魔力: S
魔属性: 火: C、水: C、風: B、土: D、光: S、闇: S、無: C
魔法: ー
力: I
守: I
速: H
技: I
スキル:
・言語自動通訳
会話や読み書きが自動的に正しい言語へ変換される。
・勇者
1万年に1人の勇者となり得る逸材。ステータス上昇幅増加。固有スキル習得可。波乱に満ちた運命。
・守護者
側にいることで最も親しい人の運気上昇。災いを避ける。
・プリティベイビー
非常に可愛い赤ん坊で、誰からも愛される。魔物に対する魅了効果あり。有効期間:3歳まで。
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えーっと、突っ込みどころとして、勇人君は勇者でした。そしてスキル的には育ての親認定された私は勇者の育て親ってスキルがついてる。
しかも、勇人の生まれ…どこ!?
もしかして勇人って元からこっちの人なの?
「…ゆり、いろいろ聞きたいことがあり過ぎるから、適正検査は明日にして、とっとと登録だけ済まして、宿でもとって落ち着かないか?」
なんだかリトが疲れてる。どうしたんだろう?
「ひゃひゃひゃ。そりゃあ、あんたの気持ちもわかるわ若いの。小娘、赤ん坊のステータスも含めて、この兄ちゃん以外に見せたらいかんよ。」
「はーい。」
「おまえ、本当に誰にも見せるなよ?…とりあえず俺の鑑定も頼む。」
「はいよ。」
同じようにリトも鑑定して、ステータスの紙を渡される。
「あんたもまぁ面白い子だねぇ。」
ひょこっと、リトの手元の紙を覗こうとすると、ひょいとしまわれた。
「見せてくれるって言ってたじゃん。けち。」
「さっきの反応見てると、なんかいろいろ騒ぎそうな気がしたからな。宿で見せてやるよ。」
「…はーい。」
なんかさりげなくバカにされた気がするんだけど。見せてくれるならまぁいいか。
「…あんたら3人、しばらくこの街に滞在するのかい?」
「まだいつまでいるかは決めてないが…」
リトが曖昧に濁す。そういえばリトがどこに向かってるのかも聞いてないなぁ。
「もし、しばらく滞在してまた鑑定を受けに来るなら、私を指名しな。鑑定師には守秘のまじないがかけられてるが、あんまり多くのもんに知られない方がいい。」
「そうさせてもらう。ありがとう。」
そう言ってそそくさと退散するリト。
私もその後に続いて、振り返りがてらぺこりとお辞儀してから立ち去った。
「ぱー!やうー。」
『ぱー』呼びにぴくりと反応して振り返るリト。
そしてそんなリトの抱っこが気に入った勇人。
むむ。私の腕じゃ不満なの?
確かにリトの方が逞しいから安定感ありそうだし、何より視線も高いし楽しそうだけど…
むすっとした顔で勇人をリトに渡す。
私の不服な顔に気づいたリトが噴き出す。失礼な。
リトを片手で軽く抱いたリトは、私の頭をポンポン撫でると片手を引いて歩き出した。
む、なんか子供扱いされてる気がする!2個しか違わないのに!
でも、少し焦った難しい顔をしていたリトが優しい顔に戻ったからよしとしよう。
難しい顔の原因は十中八九、勇人のステータスだろうけど。(実際はゆりのステータスも含む)
受付の赤髪お姉さんに再び話しかけて、鑑定でわかった情報を記載する。
ちなみにステータス情報をギルドに登録するのは任意らしく、ランクアップや依頼に必要なレベルの情報だけでいいらしい。
たまに特殊なスキルが必要な依頼のみ、そのステータスの開示が必要になるが、ギルドに強制力はないのでそこは個人の自由だそうだ。
もちろんリトはレベル以外を記載することなく、赤髪のお姉さんがいくつかの他の書類にサインして、カードが発行された。
発行されたカードに、私と勇人はそれぞれ手を置くように言われて、手を置く。
「真の主人に忠誠を。認証」
赤い糸のような光が現れたと思ったら、私と勇人それぞれのカードと手に巻きついて、消えた。
これは盗難や偽装防止の魔法らしく、もしこのカードが他人の手に渡って使用されたら、カードは燃えて、その位置をギルドに通報するようになっているらしい。カードはすぐに再発行可能で、もし無くした場合は速やかに届け出たら、即時発行して無くしたカードを遠隔で燃やせるらしい。
そこからまた手続きを経て、冒険者登録が完了した。私と勇人は最低ランクGからスタートで、茶色のカードを渡された。ランクで色が変わるらしい。カードは勇人の分もあわせて、私の財布にしまった。
リトの冒険者カード…紫色だった…も帰ってきて、パーティ登録も完了したと報告を受けた。
パーティにしてると、仲間が単独で成功させた依頼でも、パーティ全体の成功とみなして冒険者ポイントがパーティ全員に貯まるらしい。ちなみに冒険者ポイントはランクアップや一部の依頼を受ける条件、さらにはギルドで受けられるサービスが増えるので、冒険者としては貯めといて損はないポイントだそうだ。
適正検査は明日受ける旨を伝えて、街でおすすめの宿屋をいくつか紹介してもらった。
冒険者ギルドを出て、近場の宿屋を尋ねる。
ここで早くも試練が訪れた。
「赤ん坊はちょっとなぁ。他の宿泊客もいるから、夜泣きとかされると困るんだよ。」
確かに夜泣きは大変。勇人も少ないけど、夜泣きしない訳じゃないから強く否定できない。
そんな感じで、何軒かアタックはするけど全敗。この世界は赤ん坊がいるなら、定住する人が多くて、赤ん坊を連れて旅に出る人が少ないからか、どこも想定外の客だからと門前払い状態だ。
ステータスで見た勇人の魅了効果が出ないかと、リトが交渉する間も勇人にキラキラお目々で見つめさせたけど、申し訳なさそうに断られた。
「まさか夜泣きを理由に断られるとはなぁ。」
「こりゃあ、宿に泊まることは諦めた方がいいかもな。」
「まさかのここに来て野宿!?」
「いや、俺に考えがある。」
そういってキョロキョロ辺りを見回して、通行する恰幅のいいご婦人に声をかけるリト。いきなりイケメンに声をかけられたからか、ご婦人の顔が乙女だ。時折、勇人を指差しながら、いくつか情報を聞き出して、目的地へ向かう。
場所は街の中心地から外れた一本道。通り一体が食堂や酒場らしく、狭い一本道に面して、昼間にも関わらず食事を取りにくる客で賑わっている。
その一本道の突き当たりに、一際大きくて賑わっているお店があり、リトとともにその店の中に入る。
『マダム・シンシア』という名のこの店は、朝昼は食堂、夜は酒場として、この街の住人に親しまれている。
食堂の店員に話しかけるリト。
むむ。店員の女の子の目がハートだ。
すぐに奥へ引っ込むと、すぐにとっても恰幅のいい、肝っ玉母ちゃんを絵に描いたようなおばさんが登場した。
「あんたらかい?私に用があるのは?」
「はい。はじめまして、俺は冒険者のリトと、妻のゆりに、息子の勇人です。」
そう言って私達を紹介するリト。
「突然伺った上に、急なお願いで申し訳ないのですが、こちらで2週間程、働かせて頂く代わりに、泊めて頂けませんか?」
おばさんの眉毛が少し釣り上がる。
ひょえ。だ、大丈夫なのかなリトさん。
「不躾なお願いだとは思うんですが、赤ん坊を連れてこの街を訪れたはいいのですが、泊めてくれる宿がなく途方にくれています。街でご婦人に聞いたところ、貴方ならばお子さんもたくさんいらっしゃるので、融通してくれるのではと聞きまして、こちらに伺いました。」
一通りリトの話を聞くと、はぁーっと盛大なため息を吐いて、おばさんは続けた。
「そういう頭が働くのはカリメラだろうね。」
確かに、リトが別れ際に聞いたご婦人の名前はカリメラだ。
「うちは宿屋じゃないって追い払うことも出来るんだが…そんなに小さな赤ん坊を追い出すような宿屋の連中みたいに、私は腐っちゃいないよ。金は要らないが、人手はいくらあっても足りないくらいだ。タダ働きでいいんなら、朝晩二食付きで一部屋提供しよう。」
「「ありがとうございます!がんばります!」」
リトと2人、すぐにお礼とともに返事をした。正直冷たい宿屋の人達に心を折られかけてたので、涙が出そうなほど嬉しい。
彼女がこの店のオーナーのシンシアさんで、旦那さんはすでに亡くなっているけど、10人の子供を育てたリアル肝っ玉母ちゃんだ。既に自立したお子さんを除いて、3人がお店を手伝いながらこの店の2階に住んでいるらしい。
とりあえず案内されたのは、3階の屋根裏部屋だ。娘や息子が家族で里帰りした時用の客間らしく、私達3人の部屋としても充分に広い。入り口から入ると右手に部屋が広がっていて、手前に暖炉とリビングスペース、窓側に一台のクイーンサイズのベッド、奥の壁際には衣装ダンスがあり、その奥にはトイレと水洗い場がある。天井は屋根裏なので三角形だが、宿と比べても勝るくらいに素敵な部屋だ。
「こんな素敵な部屋だなんて…本当にありがとうございます!」
思わず、涙ぐみながら、シンシアさんの手を取ってお礼を言う。
「なーに、その分あんたらには働いてもらうからね。」
そう言って豪快に笑いながら、部屋の中の案内をしてくれた。
「さて、まずは仕事の内容から決めようか。リトっつったかな?あんたは貴重な男手だし、冒険者っていうくらいだから腕もたつだろう。夕方からの雑用と店の手伝い、もし暴れる客がいたら店の外へ追い出してくれ。」
なかなかワイルドなお客さんもくるお店みたいだ。まぁ夜は酒場って言ってたからね。
「で、ゆりだっけ?あんたは何が出来る?」
んーと。
「あー、働くのは俺だけじゃだめなのか?」
「リト?私も働くよ。私もお世話になるんだから、リトだけに任せたりしないし!」
そういうと複雑そうな顔をするリト。
「はっはっは。あんたらもまだ若いねぇ。リト、女は意外と図太いんだ。この娘の好きにさせてやりな。ゆりも唯でさえ赤ん坊がいるんだ、あんたにも働いて貰うけど、朝だけにさせてくれ。」
それから話を重ねて、私は朝からの掃除洗濯、食事の仕込みを手伝うことになって、昼から夕方までは家族水入らずで過ごす、という契約内容になった。
仕事はひとまず明日からだ、と言ってシンシアさんは部屋を去って行った。
なんだかんだでそろそろ夕方だ。
ソファにドシッと座ると、隣に勇人を連れたリトも腰掛けた。