里の様子とお友達
村長さんであろう男性に促されて、3人の目の前にある素朴な木のベンチに腰掛けた。
間にあるテーブルには、妖精用のミニチュアの木の椅子があり、チュリも慣れた様子で腰をかけた。
まずはお互いに挨拶をする。
「突然の訪問をお許しください。冒険者をしているリトと申します。こっちが妻のゆり、息子の勇人、ゆりの従魔のイナリ、外にいるユニコーンが俺の従魔のウィースといいます。」
妻っていう紹介はいつもむずむずする。照れる。いい加減慣れないと。
「私はこのエルフの里の長である、ヨハン・アールヴです。妻のサーシャ、赤ん坊が末娘のマリアです。他にも娘が1人いますが、今は里の警備に出ています。」
自己紹介をしている間に、この家を警備していた人がお茶を出してくれる。
「既に聞き及んでいるかもしれませんが、先日この里で人間の冒険者による忌まわしい事件がありました。本来ならば里の住人の心境を考えて追い返そうかと考えていたところですが、我々よりも人を見る目がある妖精様のお連れの方々なので、シュダット・エルフ一同、心より歓迎致します。」
「こちらこそ、里が大変なタイミングで訪れる形となって申し訳ないです。マンテノウス山脈に入る為にシュダットの森、このエルフの里を訪問させていただきました。道中に商人の方にお会いして事件のことは聞いています。我々の力がどこまで役に立つかわかりませんが、滞在中は復興のお手伝いが出来ればと思います。」
そう言って、商人であるサルガーナさんの紹介状をヨハンさんに渡す。
「なるほど。サルガーナさんは私の旧くからの友人で、サルガーナさんの曽祖父の代から仲良くさせて頂いています。彼も商人としての目利きが鋭い。あなたがたが信用に足ると考えて、我々に紹介しようとしてくれているのでしょう。」
サルガーナさんと話した時に、実は交渉もしていた。一つは、マンテノウス山脈への案内と引き換えにエルフの里の復興を手伝うこと。二つ目はサルガーナさんの頼んだ物資を届けること。三つ目は里の住人と仲良くして欲しいということだ。
幸いリトやイナリも生い立ちから異なる種族への差別意識とは無縁だし、私なんてそもそも異世界の住人なので、むしろ私が迫害されるのではと思ってた身分だ。
「早速で申し訳ないのですが、サルガーナさんからの物資の確認と、この里の状況をお伝えします。あと、申し訳ないのですが家を失った住人もいるため、本来は外界の方の宿としている施設が満室なんです。なので宿は…」
「テントがあるので問題ないです。可能なら外敵から身を守れる里の中にテントを張ることは出来ますか?」
「それは良かった。もちろんです。あとで場所を案内しましょう。」
そう言って、まずは里の中を案内してもらうことになった。
里の長の客人と知らせる為にも、ヨハンさん一家総出で案内をしてくれる。
既に何日も経過しているので復興している部分もあるが、燃やされた家や木々の跡、忙しなく動く住人の様子からまだ途中の段階だと感じられた。
それに、私達を見る目がやっぱり鋭い。ヨハンさん達と供にいることや、あとチュリがパタパタと周りを飛び回ってくれていることから、なんとか疑念の眼差しで済んでいるような状態だ。
「あの木を拠点とする地区が最大の被害を受けました。同胞も何人か亡くなっています。」
木の枝伝いに渡った先には、他の木よりも損傷や焼失が激しい。ヨハンさんの案内でこの地区の管理をしている建物に入る。
地区の代表であるヤニスさんと顔を合わせると、サルガーナさんから預かった物資を出していく。
私が空間収納持ちであることに驚いていたが、ひとまず役割は果たした。
サルガーナ商会が扱っている、紋章の入った調味料や薬、穀物が魔石が数種類だ。
ついでに黄金道で私たちが仕入れた小麦粉も寄付する。
「これは有り難い。遠くからの運搬感謝します。」
少し疲れているようだが、本当に嬉しそうにヤニスさんからお礼を言われた。
この地区、この木は損傷が激しすぎてもう住むには危険な状態らしい。
エルフは寿命が長いので、先祖代々から住み続けた木を離れることに難色を示す人も多いそうだが、数日経った今は徐々に別の地区へ移る準備をしているらしい。
基本的には自営業が主体なので、家と同時に職を失った人も多い。元の職に復帰する為の準備や、別の職につくための準備にも人手が足りないそうだ。ひとまずは新しい木、新しい地区への道(枝)の整備と、住居の整備を主体に進めているそうだ。
「我々の中でも長老と呼ばれる方達は、もともと人間との交流を持っていない世代もいる。そういう方達には反対されているのですが、この新しい地区では他の地区にはない職や住居を取り入れて、この里をより良くしていければと思っています。」
ヨハンさんは改革派と呼ばれる、エルフの中でも外界との交流を積極的に受け入れ、昔から続くエルフの伝統を守り、支えながらも、時代に乗って森とともに成長したいという考えを持っているそうだ。
前里長は保守派で、強く外界との交流を絶ってきた。ただ、その為に外界の旅人から反発され、自然災害も併発した際に里が飢餓に陥ったことがあるそうだ。
「今回の事件で保守的な思想を持つエルフも増えました。いつかは乗り越えなければならない課題だとは思っていましたが、このような形で直面するとは思っていませんでした。」
それでも希望を持って前に進めるようにと、奮闘しているのがヤニスさんや、ヨハンさんの娘のリアナさんだ。
ヤニスさんは元々この里で保守派の人からも信頼の厚い人で、ヨハンさんと一緒に里の運営に携わっているらしい。
リアナさんはというと、里の人達からは超改革派と呼ばれていて、エルフっぽくないと評価される変わり者だそうだ。
「私について、外界の人との交流を持っていたので、外界への憧れが強い子に育ってしまって。あとは彼女の能力も関係するとは思いますが。」
またリアナも紹介しますね。ということで私たちもまずは到着したばかりなので休ませてもらい、明日からいろいろとお手伝いをすることにした。
テントなんでどこでもいいですということで、移動予定の木の上でテントを張らせてもらう。
「流石は長ね。この子を選ぶなんてお目が高いわ。」
「チュリ様にそう言って頂けると自信が持てます。」
チュリかいうには移動先のこの木はいいセンスしてる、だそうだ。
木の良し悪しはよくわからないけど、他の木よりも広く枝を広げている代わりに、背は一段階低い木だ。
「あーうー。」
「うー。」
同世代の赤ん坊は初めてなので、勇人は近くにいるマリアちゃんに興味津々だ。金髪に翠色の眼、真っ白なもちもち肌のマリアちゃんに、さっきから触ろうと手を伸ばすが届かない。マリアちゃんの方は恥ずかしいのかサーシャさんの胸に顔を埋めながらも、ちらちらと勇人を見ている。可愛い。
「ふふ。マリアも同世代の友達がいないから仲良くなりたいみたいね。」
お美しいサーシャさんが嬉しそうに話す。
「勇人も同世代の子は初めてなんで興味津々みたいですね。ここに滞在する間、一緒に遊ばせてもいいですか?」
「もちろんよ。何か困ったこがあれば遠慮なく言ってね。」
まさに女神の微笑みでそう言ってもらえた。内心で私は悶えましたよ。
これでサーシャさん244歳というから驚き。美魔女もショック死するレベルだ。エルフの寿命は大体は300〜400歳だそうで、ヨハンさんやサーシャさんは日本でいうところの30代後半から40代前半らしい。
他にもエルフの情報を教えてもらった。地球でいうベジタリアンの人が多くて、基本的には自分や里の畑、森の食料で自給自足をしている。
風、水、光の魔法に長けていて、人間と比べると魔力量や魔法の技術が高いそうだ。あとは先祖代々から妖精とともに薬草術を発展させているらしく、薬はこの里の主要な外貨獲得手段らしい。
あとは自然を大切にする種族なので、農耕知識が豊富で、妖精や精霊の力を借りて魔法を使う精霊魔法を使える人が稀にいるらしい。
人でいう魔物使いと同じく、精霊や妖精と契約することで、エルフのみが使える魔法とのこと。
まさにファンタジー。
夕食は晩餐を開いてくださるらしく、それまでは自由にしてよいとのこと。
「ヒヒーン。」
「あぁ、ヨハンさんには許可貰ったから大丈夫だ。」
ウィースやイナリは森の中を探検したいらしいので、ヨハンさんに里の中や外を歩かせても大丈夫か確認した。
ユニコーンは聖なる魔獣とされているみたいなので、危害を加えるエルフもいないので構わないとのことだった。
元気な従魔たちを見送って、私とリトと勇人の3人はヨハンさんの家に再びお邪魔した。
ヨハンさんとリトは復興やこの辺りの話、マンテノウス山脈の話をしている。
私はサーシャさんと一緒に、マリアちゃんと勇人が遊んでいるのを見守っている。
エルフは寿命が長い分、子供が少ないらしく、生まれた子供には最大限に愛情を注ぐ。マリアちゃんも可愛がられているのでおもちゃが充実していて、勇人も楽しそうだ。
今は2人して積み木を掴んだり、かじかじしている。




