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チュリと森の中

花の中ですやすや眠る姿を見て浮かぶのは、妖精という言葉。


花と同じくピンク色の短いワンピースを着ていて、髪の毛はこれまたピンク色だけど、色は薄くて薄桃色で、自分の身体と同じくらいの長さはたるだろう。



「花の妖精だな。久しぶりに見た。」



リトの呟きからも、彼女は妖精らしい。


「妖精って、珍しいの?」


「まず、大人になってから見るものは稀だな。妖精は遊び好きだから、純粋な子供の前には姿を現しやすいが、警戒心が強い。大人の前には滅多に姿を現さないし、そもそも自然豊かな場所にしか住まない。」


なるほど、子供の時にだけある不思議な出会いって奴か。



「警戒心強いにしちゃあ、なかなかに堂々と眠ってるね。」


「この森に人の出入りが少ない証拠なんだろうな。」



私とリトが小声で会話していると、勇人が身を乗り出して、妖精へと手を伸ばして…



「こら、起こしちゃ可哀想でしょ。めっ。」


慌てて、勇人を抱え込んで、すやすや眠る妖精の鷲掴みは阻止した。



「う。」



う?



「うあーーーーーーーーーー!」




勇人くん、マジっすか。私が泣きたいっす。




結果的に妖精さんは勇人の泣き声にビクッと飛び起きた。



これまた花と同じ色の綺麗なピンク色の瞳がこちらを呆然と見上げる。



その視線の先には、年相応に癇癪を起こしたように泣く勇人と、あたふたと勇人をあやす私の姿。



「…人?」


鈴のような可愛らしく妖精さんが呟く。



「眠ってたところ起こしちまって申し訳ない。君を害そうとした訳じゃないんだ。」


「お昼寝してたのに本当にごめんね。」


ひとまず謝るのが先だ。



キョトンとしていた妖精さんの視線は、未だに泣き続ける勇人に固定されている。



そのままパタパタと蝶々のような薄い羽根が動いて浮かぶ。そして勇人の前で止まった。



未だえぐえぐと泣く勇人も目の前の妖精に視線を向ける。


「赤ちゃん。泣かないで。」



妖精さんは声をかけると、自分よりも大きい大量のチューリップの花をどこからともなく出現させた。



妖精さんは大きさでいうと勇人の頭くらい。

チューリップによって妖精さんの姿は見えなくなった。


ふらふらと漂う、宙に浮いた大量のチューリップ。


恐らく重いのだろうと手を差し伸べて、花束を受け取る。すると妖精さんの姿が再び見えた。



「勇人、妖精さんがくれるって。」


突然に妖精が花束に変わる場面を見て(実際は隠れてしまっただけだが)、驚きで勇人も既に泣き止んで、花束と妖精をきょろきょろと見ていた。



そして勇人は手を伸ばして



わし。



「ひょえ!」


妖精さんを掴んだ。



「あいー!!」





その後は妖精さんを掴んで離さない勇人を叱り、泣き出す勇人を宥めて、また妖精さんを追いかける勇人を押さえて…を繰り返した。




「私はチューリップの妖精。仲間にはチュリって呼ばれてるの。久しぶりにこの森で人に会ってびっくりしちゃった。」



今はちょこんとリトの肩に座る妖精さん。


こんな可愛らしい妖精さんだけど、この森では生存競争のヒエラルキーの頂点にいるらしく、この森の魔物は妖精さんを害することはない。唯一警戒すべき人類も、この森に住むエルフや滅多に訪れない旅人だけなので、このように自分の寝床を作って昼寝をするそうだ。



「外からやってくる人は、みんな森の根部を通るから、こんなところで人に見つかるとは思ってなかったわ。」


気をつけなきゃーと呟く。


見た目も可愛くて可憐なチュリが魔物よりも強いとは信じ難い。



こちらが昼寝の邪魔をしたにも関わらず、勇人を泣かせてしまったお詫びとして、チュリがこの森のエルフの村へと案内してくれることになった。


エルフは自然をこよなく愛する種族なので、妖精達との関係も良好だそうだ。



「私は探検が好きだから、この辺りまで遊びに来てたの。本当なら妖精も森のもっと奥じゃないと居ないんだよ。」



チュリは好奇心旺盛なので、この森中を飛び回っているらしい。他の妖精仲間やエルフには、気をつけろと注意されるそうだ。


「でも、勇人達に会えたから冒険もやっぱり悪くないよね。」



見つかったのが私たちでよかった。

もしこの子の仲間に会ったら、もっと探検に出るのを引き止めるようにお願いしよう。


こんなに可愛らしい妖精なら、悪い人に見つかったら確実に捕まえられる。




チュリの案内で先に進む。


相変わらずウィースに軽量化魔法をかけて、木の根の上を歩く。


勇人の使う浮遊魔法が使えればもっと歩きやすいと思うけど、使えないものは使えないからウィースに頑張ってもらってる。



ひたすらに森の中を進む。


かなり広大な森なので、エルフの村に着く前に夜を迎えてしまった。


「私たち妖精はひとっ飛びだけど、歩くと結構遠いのね。もぐもぐ。」


1つの大きな木の側で、現在は夜営中。チュリはどこにでも自分の花を咲かせられるらしく、今はチューリップに腰掛けて、リンの実のジャムを乗せたパンを頬張っている。


ちなみに妖精は雑食、とくに果物や甘いものが好物だそうだ。



今日の夕食は、カブのスープ、鹿肉のソテー、空間収納にストックしている焼きたてパンだ。



エルフの村まではこのペースだとあと2日程かかるそうだ。


チュリがいるので、魔物との遭遇率は格段に低下した。



それでも、バッタリ出くわしたり、余所者の私達の匂いに反応してか襲ってくる魔物にたまに出くわした。



「夜は私が結界を張っておくから、安心して眠って大丈夫よ。」


そう言って、チュリは昼寝をしていたはずなのに誰よりも早く眠ってしまった。



やっとエルフの村へ行ける安心からか、気づいたら私もすぐに夢の中へと落ちていった。



チュリの結界の中は、花の優しい香りがした。

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