ヘビ料理と迷路を抜ける方法
シュダットの森の中、木の根の中にできた空間は迷路と魔物が住むということを除けば、草原よりは風を遮ってくれる分、快適な野営地だった。
本日の晩御飯は、もちろん勇人が倒した巨大ヘビの肉。さすがにこの状況に白目になりかけた私ですが、貴重な食糧なので決意して調理に取り掛かる。
リト曰く、ヘビ料理は良質なタンパク質が取れるし、滋養強壮にもよいそうだ。なんかそういう話は日本でも聞いたことがあるようなないような。
悩んだのは調理法。リトは基本何でも焼いて食べていた人なので、聞いても答えは一択だ。特に食堂とかにもヘビ料理なかったからわからないよう。
とりあえずの基準は私が食べれるだろうステップまでヘビを持っていくこと。丸焼きとかヘビの形が生々しく残るから嫌だし、スープに浮かぶのもちょっと怖い。
結局私が選択したのは、衣をつけて揚げること。名付けて巨大ヘビの唐揚げだ。
塩とにんにく、生姜で丁寧に下味をつけて、熱い油の中に投入する。火加減もよくわからないので、とりあえずは長めに揚げてみる。
あとは朝に仕込んでおいたアマドリと野菜のスープを温めて、焼かれたパンを取り出せば完成。
ヘビの唐揚げの感想は、ヘビの美味しさを理解するには私が濃い味付けにし過ぎたのでわからないけど、食べれた。ヘビに抵抗のないその他の面々は唐揚げという万人受けする料理を絶賛していた。
また唐揚げが食べたいと言われたけど、鶏肉の方が美味しいと力説して、なんとかヘビ料理の再来は阻止した。
ウィースには私特製ブランドの干し草を少々。あとは地面に生えている草をはむはむと食べている。
食事が終わると浄化魔法で身体を綺麗にする。トレーニングと称して、リトは勇人にウィースのブラッシングをさせている。される側のウィースはいい迷惑だ。
私もイナリのブラッシングをする。
「クゥーン。」
まるで甘える犬のような鳴き声をあげるイナリに苦笑い。
日々イナリやウィースのブラッシングに励む私のブラッシングスキルは確実に向上し、いつしかイナリに「ははさまのブラッシングのないせかいなんてたえられないでちゅ。」とまで言わせるような腕前になった。
そのまま微睡んですやすや眠り出したイナリを抱いて、テントに寝かせる。
いつも従魔として気を張って頑張ってくれている小さな子狐。まだ母親に甘えたい年頃なのに、賢いイナリは我儘を言わずに我慢する子だ。甘えたいときには甘えさせてあげたい。
テントから出ると、勇人がとてとてと私の元に歩いてくる。流石にまだ頭が重くてバランスが取れず、トレーニングしていると言っても頼りない足取りだ。
「まんまー!」
たどり着いた勇人を抱っこする。
「勇人よく歩けたねー!偉いねー!」
うん、癒しをくれた勇人くんは褒めて伸ばさないと。
褒められたとわかっているのかきゃっきゃと喜んでいる。勇人もイナリには劣るかもしれないけど、なんとなく言葉は理解するから賢いんだよね。流石は勇者。私の弟。
勇人を抱っこして、火の番をしているリトの側に座る。
すると焚き火の方から、アロマのような独特の香りが漂ってきた。
「あ、あれ入れてみてくれたんだ。」
私が言うあれとは、昨日一生懸命に作った新作の薬だ。森に入ると聞いて、そういえば変な虫とか来たらやだなと思って作ることを決意した。
手持ちの薬草で作れるのは、焚き火の中に放り込んでその香りをまとって虫除けするタイプの薬だ。
本格的な液体とかになると、必要な薬草の数が格段に増えるので、少量で効果が出るこの薬を量産した。
「イナリは眠ったのか?」
リトが徐に聞いてくる。リトもイナリが頑張りすぎることを心配してくれていたようだ。
「森の中でも常に気を張らせちゃうからね。イナリには意地悪かもしれないけど、防音魔法で外の音が聞こえないようにしちゃった。」
イナリは耳がいいから、音に反応してすぐに起きてしまう。野生で生きる分には大切かもしれないけど、今は私の子だし、野生の時以上に警戒してくれてるから、たまにはゆっくり休ませてあげたい。
私の気持ちをわかってくれているリトはぽんぽんと頭を撫でて褒めてくれる。
「この森、なかなか抜けるのが大変そうだね。」
初日でこの森の複雑さは身にしみて感じた。まずは木の根に阻まれて、視界がない。あとは道がわからないので何度も行き止まりに突き当たる。むしろ正しい道があるのか不安になるくらいだ。
あとは、魔物との遭遇率。草原と違って出くわした魔物から逃げるだけの広さもないので、出会えば即戦闘だ。それもまた全員の疲れを増長させていた。
それにこの森の魔物はリトやイナリも初めて出逢う魔物も多く、対処もわからない場合がある。それがさらに戦闘の難易度を上げていた。
「確かに先が見えないのは、精神的にも体力的にも擦り減るからな。これだとエルフの集落にたどり着くのもいつになるのか。」
リトもどうすべきか考えているようだ。
何かしら打開策を考えないと、森の迷路で迷子になって出られなくなってしまう。
何かないもんかなー。
「あうー」
勇人は上空をぽーっと見上げている。
空を見上げると、ここ数日の雨が嘘みたいに晴れていて無数の星が輝いている。木の根の間から夜空がまばらに広がっていた。
私やリトもつられて夜空を暫く眺める。
空には無数の星と、2つの月。
うん、月が2つあるよね。
前にこの世界で空を見上げた時は、普通に1つだったと思うんだけど。
「月は最大で6個になる。ちょうど1の月から2の月に変わったんだな。」
どうやらこの世界、1ヶ月毎に月の数が変わるらしい。新月から満月、満月から新月になることは地球と一緒だが、それにプラスしてなぜか月の数もひと月ずつ増えて、減ってを繰り返すと1年だそうだ。カレンダーがいらないっちゃいらないのか。なんとも言えない世界だ。
それよりも森の抜け方だ。うーん。
「この迷路を通らずに進めれば早そうなのにね。」
「迷路を通らない?」
私の呟きにリトが尋ねてくる。
「だって迷路だから迷うし、視界も悪いでしょ?迷路を通らなきゃいけないルールがある訳じゃないなら、迷路以外に道はないのかなって。」
「それだ!」
リトが急に叫ぶ。
「木の根の中を通るから進めない。でもそれ以外、木の根の上や木の枝を通るなら、もっと視界は開けるはずだ。」
「でもそんなこと出来るの?」
木の根の上は足場は悪いし、何よりウィースと私達の重さで根っこが折れそうだ。
「木の根は頑丈だし、なんならゆりの軽量化魔法を使えばましになる。上へ出るには、勇人になんとか魔法を使ってもらえば、根っこの上くらいなら出れないこともない。」
とりあえず明日この場所で試すことになった。
そんな話をしているうちに眠った勇人をテントの中に寝かせる。イナリもまだぐっすり寝ていた。ウィースも今は寝ている。
イナリの分もということで、リトと話しながら見張りをする。
なぜか定位置となったリトに後ろから抱きしめられる格好でだ。
意気込んで見張りを買って出たのに、リトと話していると眠くなってきて、いつの間にかリト胸に寄りかかって気を失うように眠ってしまった。
すやすやと腕の中でゆりが眠る。
なんとか普通を装っていたので気づかれなかったが、眠ったゆりを見て気を抜くと、熱が滾ってくる。
俺は蛇の滋養強壮力と闘っていた。1人で旅をしていた時には、目が覚めるのでヘビを食べることもしばしば会った。今も目が覚めるという点ではいいことだが、本来の効果がそれに辛さをプラスしていた。
愛しい女に反応しない訳がない。
しかもこの蛇の力はよっぽど強力らしく、勇人と遊んで発散したりしても全く力が衰えない。
そして今も、無防備なゆりを見て、欲望に負けそうになる。自殺行為だとわかっても、許されている柔らかな唇に手が伸びる。
ゆりの吐息を指で感じた瞬間、理性が揺らされてそのまま口付けする。その瞬間にぷつりと頭の中で音が響いた。
ゆりの唇を一心不乱に貪る。ゆりの身体も正面で向かい合うように抱き直して柔らかな身体を撫でる。元気な分身もこの体勢故にゆりの身体に刺激されてK.Oされそうだ。
余程疲れていたのか、ゆりも一向に起きる気配はない。
本能に従ってさらに手を進めようとした時、
側頭部に痛みが走った。
痛みに悶えながら振り返ると、いつの間にか目が覚めたらしいウィース。
どうやらウィースに側頭部を蹴られたらしい。ってかなり危ねぇだろうが!
そうウィースを睨んだら、なぜかゴミを見るような目で見返された。主人に向ける目じゃなぬないか?
そして我にかえると、なるほどウィースに感謝しなくてはと思い直す。
本能のままゆりを襲うところだった。しかも本人が寝ている間に。
どうにか熱を鎮めて、ゆりをテントに寝かせる。
俺自身は頭と体の熱を冷ますべく、それからウィースと共に夜の見張りを続行したのだった。




