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カマギリバッタとトマトスープパスタ

ヒヒーンッ


アウーン


アオーン



「スピードが互角じゃキリがないな。ゆり、応戦するからウィースに防御結果張って待っててくれ。イナリは俺と一緒に来い!」


ウィースが止まり、私の後ろにいたリトは素早く降りる。その横にイナリもぴょんと飛び降りる。


その視線の先に見えるのは、こげ茶色に金色の獰猛な目をした垂れ耳の犬。名前はファングハウンド。噛み合わせは大丈夫なのかというくらいに大きな牙を持った犬の魔物だ。その魔物が群れをなして迫ってくる。




黄金道を進み、黄金色の景色に緑の草原が混じり出す。舗装された黄金道が途切れてからしばらく進んだところで、この魔物の群れに出くわした。



最初はウィースが力技で突っ切って逃げていたのだが、遠吠えで仲間を呼んだのか、どんどんと追いかける数が増えて今に至る。


ウィース単体なら逃げ切れたかもしれないけど、積荷や私達が乗っていることもあって、振り切ることが出来ない。


移動の生命線であるウィースの負担を考えて、ファングハウンドと戦うことに決めた。


「『我を守れ。防御(バリア)』」


リトの指示通り、ウィースに乗ったまま防御魔法をかける。


お椀状に薄い膜が私たちの周りを覆う。




目前に迫ったファングハウンド。数は推定で30匹程。



「うぉらー!!」


背中の大剣を抜いて、ファングハウンドへ向かうリト。大剣で斬りつけた勢いで、何匹かのファングハウンドが吹っ飛ぶのが見える。


「コンッ!」


自分より大きなファングハウンドに飛びかかり、爪で引っ掻き、噛み付いて攻撃するイナリ。


「たくさんうるさいでちゅ。」


1匹を倒した後で、少し距離を取る。



「もえるでしゅ!」


イナリの周りに複数の火の玉が浮かび上がる。


その火の玉がファングハウンド目掛けて飛んでいく。




「まんまー!」


勇人が叫ぶ中、2人が止められなかったファングハウンドが近づいてくる。



防御魔法が効いているので、膜の内側には入れない。ドシンと防御魔法にぶつかる音が響く。


壊れそうになる防御(バリア)を何度も修復する。私はまだレベルが低いので、一度防御魔法を使ったら安全とは言えない。むしろ私より高いレベルの魔物が多いので、レベルを補う魔力の多さで数を重ねることで耐久性を補っている。




…!



何か来る。



防御魔法とともに、念のために張っていた探索(サーチ)の魔法で近づく気配に気付いた。


防御(バリア)に綻びがないように集中しながら、後方を振り返る。



そこに居たのは大きな魔物。例えるならカマキリとバッタとクワガタを足して巨大化した魔物。


鋭い鎌の形をした手に、バネのある脚、虫の顔にはクワガタのようなハサミが付いている。


そんな魔物が1匹後方から現れる。



即座に察するのは、あの魔物は強い。

私の防御(バリア)じゃ耐え切れないくらいに。



「ウィース、避けて!」


手綱を握り、ウィースに叫ぶ。



ウィースが駆け出した後に、大きな身体に似合わずピョンとジャンプした虫の魔物が、パリンという音と共に私達の居た場所に着地した。



「ゆり!」


音で気付いたリトがこちらに駆けてこようとするが、まだ半数近く残るファングハウンドに阻まれる。


虫の魔物は私達に狙いを定めたらしく、こちらに身体を向ける。その態勢を見て、再びウィースの手綱を握って逃げ出す。



虫の魔物はスピードこそないが、ジャンプ力があるのである程度の距離がないと逃げられない。



あの魔物の攻撃を防ぐことは出来ない。かといって、ウィースと一緒に逃げるのも限界がある。


この杖で戦うにも、私の力量じゃ押し潰されて終わり。


となると、残るは…



キッと後方から追いかけてくる虫の魔物を睨みつける。視線を離さないように左手人差し指を向ける。


落ち着け私。


右手で手綱を握り締めながら、籠に収まる勇人を抱き締める。


「『神の子よ。我、星の使い手なり。一筋の閃光にて彼の敵を打て。光矢(ライトアロー)』!!!」


詠唱の直後、左手からビームが飛び出す。前にトレーニングした時にイメージしたのは拳銃。今回は拳銃の弾くらいじゃ倒せそうにない巨体相手なので、イメージするのはビーム。モデルは地球を守るウル○○マン。


流石にポーズを真似する余裕はないので、イメージを最大限に膨らます。


ありがとう、施設でウル○○マンが好きだったケンシロウくん。君のおかげで魔法が使えたよ。



私が放った光矢(ライトアロー)は、虫の魔物を直撃。ジャンプした魔物の身体の中心を貫いた。


ドシンという大きな音と共に、魔物が地面へ落下した。



「…倒せた?」


私達を乗せたウィースが近づき、角でツンツンと虫の魔物を突く。どうやら死んでいるようだ。



「っはぁ、はぁ。」


緊張が解けると同時に荒い呼吸になる。

冷や汗が止まらない。


未だに戦闘は慣れないし、何よりオリエンテで修行した時の比じゃないくらいにピンチだった。本当に死ぬかと思った。



「ゆり!大丈夫か!」


ファングハウンドを倒したリトとイナリが駆け寄ってくる。



私はウィースからなんとか飛び降りるけど、着地に失敗して膝をつく。



「ははさま!」


リトよりも早くたどり着いたイナリが、膝をつく私の胸に飛び込む。そのイナリの身体も、戦ったときに出来た傷や返り血で赤く染まっている。


すぐ後にリトが到着する。


「ゆり、怪我はないか?」


到着するなり、私の身体をペタペタと触って確認する。



抱き締めるイナリの体温に、リトの熱い手に、2人の無事も感じられて座り込む。


「リトとイナリは…大丈夫?」


見たところ2人とも戦闘の結果で、返り血などで服が真っ赤に染まっている。見た目は全く大丈夫に見えない。


「多少は傷はあるな。イナリ、周囲に魔物の気配はあるか?」


リトの言葉に、イナリが耳をピクピク動かす。


「ないでしゅ。」


「それならここで少し休憩しよう。焦って進んでまた戦闘になるより、回復してからの方がいい。」


ウィースの上から軽い荷物と勇人を降ろす。


リトとイナリにそれぞれ浄化(ピュリフィケーション)をかけてから、水筒からアンソニーさん家の麦から作った麦茶を注いだコップを渡す。


お茶を手に地面に座り込んだところで、リトが後ろから抱き締めてくる。そのままリトがお茶を持っていない方の腕を私も抱き込む。未だに自分の身体が震えているのがわかる。



「怖かった…。」


言葉に出して、リトの体温を感じていると、安心して涙が出てきた。


「俺も心臓止まるかと思った。よく戦ったな。無事で本当に良かった。」


そう言って頭を撫でてくるリトにまた涙が溢れてくる。



「ははさま、まもれなくてごめんでしゅ。」


そう言ってしょんぼりするイナリ。

イナリの横では、イナリをペタペタと勇人が触っている。


「イナリは頑張ってファングハウンド倒してくれてたでしょ。謝る必要なんてないよ。頑張ってくれてありがとう。」


そもそもは戦闘力が著しく低い私に問題があるし。


それでも納得出来ないのかしょんぼりしたままだ。



「ねー、たーい?」


「ッ!そこはいたいでちゅ。ばっちくなるでしゅよ。」


どうやら勇人がイナリの傷を触ったようだ。

イナリが勇人の手を退けようとふるふると身体を揺らす。


「うー。」


「あ、ゆーとまほーつかったでしゅか?」


「ねー、たーい?」


「ありがとでしゅ。もういたくないでしゅ。」


勇人がイナリの傷を治したみたいだ。勇人って無詠唱で魔法使うから、使ったことがわかんないんだよね。


「リトはポーションかけとくね。」


「悪いな。ありがとう。」


リトは左肩を牙で傷つけられたのと、その傷の上に誤って飛び込んでイナリの狐火が掠ったことで火傷もある。


リトの肩にポーションを塗って、少しだけ自分の膝にもポーションを垂らす。これはウィースから降りたときに膝をついて出来た傷なので、我ながら情けない怪我だ。


「それにしても、ゆりはよくやったな。そのレベルでカマギリバッタを倒したのは凄いことだぞ。」


リトが言うカマギリバッタはあの虫の魔物で、本来はレベル10はないと倒せないらしい。かなり危ない戦闘だったみたいだ。


今回の戦闘で、魔法が使えて心底よかったと痛感した。そして、やっぱり私自身も強くなる必要があると、決意を新たにした。



そのまま少し休憩をしてから、再びウィースに乗って進み出した。


草原の真っ只中は、決して安全ではない。それに前に進まなきゃ旅は終わらない。


思いがけず体力も精神的にも削られた戦闘の疲れはそのままに、その後も日没前まで草原を進んだ。



疲れていても、いや、疲れているからこそ、今日も晩御飯を作る。


秋の夜は意外と冷え込む。


特にこの草原は、山から吹いてくる風と遮るものがない状態で肌寒さが一層増している。


火にかけた鍋にトマトを多めに細かく切った野菜、ベーコン、アンソニーさん家から貰ったショートパスタを入れ、塩とハーブで味付けする。


これまたアンソニーさん達に貰ったパンを火で温めて、ベーコンと野菜のトマトスープパスタとパンで夕食をとる。肌寒い夜には温まるメニューだ。


「こうして考えると、旅先で温かい料理が食べれるなんて贅沢だな。ゆりに会う前には考えられなかった。」


旅先では常に保存食だったらしいリトがしみじみと呟きながら食べる。イナリも同意しながらガツガツと食べている。


飽食の恵まれた日本育ちな私からしたら、耐えられないことだ。そして、いつもこの瞬間が自分が役に立てていると実感出来る場面でもある。


そのまま少し雑談をしたら、疲れたのですぐに眠ることにした。まだまだ弱い私は今日も見張りからは外された。ぐすん。


それでも今日は疲れたので、有り難く眠らせてもらう。そしてほんの少しだけ我儘も聞いて貰った。


どうも恐怖から人肌が恋しくてたまらないので、眠りにつくまではリトに抱きしめて貰った。


リトの温かい体温に包まれながら、すぐに深い眠りに落ちたのだった。

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