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でーと と 出発 sideリト

サァーーーーー


吹き続ける風に、陽の光をまとった黄金色の小麦が揺れる。


この辺りは平地なので、マンテノウス山脈からやってくる風がひっきりなしに吹いている。



朝一で起きて、アンソニーさんに連れられて小麦の収穫をする。


刈り取って両手いっぱいになった小麦をウィースに繋いだ荷台に乗せて、また刈ってを繰り返す。


男手全員で収穫をしていると、緑のスカートの民族衣装を着たゆりが勇人を連れて駆けてくる。


足元にはイナリもいる。



「皆さん、朝ご飯が出来たので食べてください!」


収穫祭当日で食堂が忙しい中、走って呼びにきてくれたみたいだ。


「ゆりちゃん、それはシャロンが昔着ていた収穫祭の衣装だな。似合ってる。」


「お姉さん可愛い!」


アンソニー一家の男性陣が一様にゆりの服装を褒める。


確かにゆりように仕立て直してくれたのか、サイズもぴったりだし…可愛い。


髪型も収穫祭用に結わえているのか、いつもとは雰囲気も違う。


「ありがとうございます。それより早く朝ご飯食べに帰ってきてくださいね。」


少し照れたように食堂へと駆けて行った。



「奥さんが可愛いからって見惚れてる場合じゃねぇぞ。」


ゆりが去った後に、にやにやしながらアンソニーさんにからかわれた。




収穫した小麦を倉庫に運んだら、俺の担当していた仕事は終わりだ。アンソニーさん達も収穫祭当日なので今日は朝で仕事は終わりだ。



そのあとは収穫祭の出店の様子を邪魔にならないように眺める。



珍しいバケットサンドは好評で、ひっきりなしにお客さんがやってくる。お客さんに笑顔で接客するゆりの姿を見て、若い男性客も多く集まる。



エプロンのリボンで男避けになるんじゃなかったのかよ。



ゆりを不埒な目で見る輩を遠くから睨みつける。


大体この地方の民族衣装は、なんであんなに胸元が開いてるんだ。


元々胸を強調する形になっているので、ゆりの大きく形が良い胸が人目を惹くほど強調されている。


俺にだけ見せるならいいが、他の野郎が見るのは苦痛だ。今すぐ外套で覆い隠したい。



悶々としているうちに、ゆりの担当の時間が終わり、一緒に収穫祭を見て回ることになった。



逸れないようにと、他の男への牽制も込めて手を繋ぐ。


ゆりが照れたように、でーとみたいだと話す。


でーと、とは恋人同士で何処かに出掛けることだそうだ。はにかみながら説明するゆりが可愛い。



とある出店の前で止まる。


収穫祭限定で売られる、妖精のお守りを販売している店だ。



「まーんま、うー。」


勇人がお守りに手を伸ばそうと腕の中で暴れる。


「勇人も欲しいの?これ?」


「やー!」


「うーん、こっち?」


「あーい!」


勇人は最近は言葉がわかるようになってきたのか、拙い言葉で会話が成り立つようになった。


まだ俺は出会って日が浅いが、それでも日々驚くほど成長している。


「はい、お守りが全部で5つだね。」


その後も勇人がお守りを選び、イナリやウィースの分も含めて購入した。


ゆりが昨夜話していた通り、刺繍の凝った巾着型のお守りだ。妖精によって贈り物にこめる力が違うため、効果はバラバラだが何かしらの御利益があるので人気が高い。


お守りを購入したついでに、皮で出来た小さなポシェットと小さなリュックを購入する。


小さなポシェットは、勇人が店先で大泣きという駄々をこねたことで購入した。全く無駄なものでもないし、ぐずり具合も半端なかったので仕方なくだったが、実際に確かめると使い心地も耐久性もありそうだったので良い買い物になった。


同じ店で、勇人とは対照的に1つのリュックを静かに、けれど熱心に見つめるイナリ。


ゆりと視線を交わして、年齢以上に大人なイナリにもリュックを買うことにした。最初は驚いていたが、購入したリュックを前脚に通して装着してやると、嬉しそうに尻尾を振っていた。



それぞれ購入したばかりの妖精のお守りもかばんにつける。


嬉しそうな顔を見ながら、自然と自分の顔も緩んでくる。収穫祭参加できてよかったね、と話すゆりに心から同意して頷いた。



アンソニー家の収穫祭の晩餐も豪華で、幸せなひと時だった。美味い飯と、賑やかなお喋り。


夜遅くまで、賑やかな声が絶えることはなかった。








朝、目がさめると、そこは天国だった。



まず視界に広がったのは肌色。


少しでも顔を動かすと、頬や顎に当たる柔らかな感触。


ふに、ふにゅ、ふにゅん。



寝惚けた頭で、気持ちのいい感触に顔をさらに擦り寄せる。



「んぅ…。」


耳元にダイレクトに伝わってきた声に、徐々に意識が覚醒する。


視線をあげると、ゆりの顎。


そして俺が擦り寄り、そして顔を埋めていたのは、ゆりの胸。


昨日何人もの男達が視線を注いだ天国(パラダイス)だ。



状況を理解すると、いつも以上に元気な身体の一部を鎮めるために天国を離れ、逆にゆりを胸の中に収めて呼吸を整える。



今なら、いつだったかイナリが言っていた、ゆりの胸の感想が理解できる。



流石に昨日は飲み過ぎたので、寝る前の記憶はない。服もちゃんと着ているので、とくに何かやらかした訳ではないだろう。


呼吸が落ち着いたら、また微睡み始める。

次にこんなに安心して眠れるのはいつかわからない。


今日はゆっくりと、こうして幸せを噛み締めながら過ごしたい。そう考えながら、夢の中へ再び思考が落ちていった。




結局は昨夜遅くまで騒いでいたこともあって、アンソニー家はこの日は休日となった。


食堂も畑仕事も臨時休業。俺やゆりも結局目が覚めたのは昼近くだった。



ブランチをとってからは、今回の依頼の報酬として、アンソニーさん達に小麦粉や保存用のパン、乾燥パスタを頂いた。


もともとは小麦粉だけの予定だったのだが、収穫祭の儲けから現金で報酬を渡そうとするアンソニーさんと折り合いをつけた結果、アンソニーさんの小麦を使った食材を分けてもらうことにした。


そのあとは、ゆっくりと旅支度を整えた。洗濯、旅の保存食作り、足りない日用品の補給、冒険者ギルドや商業ギルドへの報告、そしてシュダットの森の情報整理だ。



穏やかに最終日を過ごさせてもらい、翌朝は食堂で朝食をご馳走になってから、旅立ちのためにウィースに荷物を積む。


「本当にお世話になりました。」


「こちらこそ、あなた達が来てくださって本当に助かりました。ありがとう。」


アンソニーさんと握手をかわす。



ゆりは涙を浮かべるマリーちゃんにつられて、同じく涙を浮かべながら別れの挨拶をしていた。



「たくさん美味しい小麦料理作れるようになるから、また寄ってね。」


「うん、楽しみにしてるね。」



ひと通り挨拶を済ませて、ウィースに跨がる。



「ありがとう。またね!」



走り出したウィースの背の上から、後ろを振り返って手を振る。



居心地のいい家族の元を離れて、少し寂しい気持ちになりながらも、こうして黄金道を旅立った。






黄金道といえば穀倉地帯。


その黄金道で最も有名なのは、その名産である穀物の料理を提供する食堂。



穀物の買い付けに来る世界中の商人から、世界中の美食家へと噂は広まり、世界中から客が集まる人気の食堂となった。


世代を超えて、新たな料理を生み出すとある一家の作る料理は、世界中へと広まった。



ゆり達が旅立った後に、新たに名付けられた食堂の名は、「妖精の贈り物」。看板メニューはマカロニグラタン。



その食堂の周りには、勇者の再訪を待ちわびる無数の大地の妖精が飛び回り、幸せを落としていると言われている。


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