冒険者ギルドとステータス
「ぱ〜ぱ〜!」
「お、偉いぞ勇人!俺はパパだ!」
うん、既に親バカが1人増えた。
勇人は可愛いからねぇ。
目に入れるのは無理でも、口なら頑張って入れようと思えるくらいに可愛い。
門からしばらく歩いて、右手に木造の大きな建物が見えてきた。
冒険者ギルド。
冒険者が円滑に仕事が出来るように組織化された組合のことで、様々な依頼主から持ち込まれる依頼、魔物の素材換金や解体、各地の冒険者関連の情報共有、宿、武器屋、道具屋の斡旋、能力鑑定、冒険者ランクアップ試験、各種講習会など様々なことが出来るという。
冒険者は他の職業に比べて、入会制限が圧倒的に低く、ほとんど誰でもなれるために、全く冒険をしないようなGランクの人も含めたらかなりの数らしい。身分証発行の機関としても人気だそうだ。
もちろん、私と勇人もひとまず入会な初心者さんなので安心した。勇人に至っては、まだ立つことすら出来ない赤ん坊。リトも年齢制限の下限までは知らないらしく、ここはぶつかるのみになる。
大きな木の扉をくぐると、バラバラといくつかのカウンターがあり、それぞれ天井から何の受付か書かれた木の札がぶらさがっている。
まずは『冒険者登録』と書かれた札の受付へと足を運ぶ。ギルド内はたくさんの冒険者でごった返していて、ざわざわとしている。
受付のお姉さんは、赤毛のふっくらとした女性で、促されるままに席に着く。
「この2人を冒険者登録したいんだが、手続きお願い出来るか?あと、俺も含めてパーティ登録もしてほしい。」
「それでは、まず貴方の冒険者カードをお貸しください。彼女は文字は書けますか?」
「は「いえ、おれが代筆します。」
む、何だと!私だって文字くらい…書けるのかな?え、日本語じゃないの?
ちらりとリトを見ると、顎をクイッと登録用紙に向けて動かしてきた。どうやら文字を書くから、わかるか確認しろとのことらしい。
リトがさらさらと登録用紙に文字を書く。何語かと言うと、近くてロシア語?なんかアルファベットでもない謎な文字がたくさんある。
それでも不思議なことに、リトが書いてる文字は読める。よく考えれば普通に言葉も通じるし、異世界から来たから何か特殊能力でもあるんだろうか。
ところどころをリトに質問されながら、登録用紙を埋めていく。
「ちなみにゆりは得意なことはあるか?」
「走ることと料理?」
「あー、そういうんじゃなくて、剣が得意とか、弓使えるとか、魔法出来るとかだ。」
「武器は使ったことないし、魔法はそもそも使えるかもわかんない。」
「なら適性検査でも受けるか。特に何がいいとかないんだよな?」
「それって何のための確認なの?」
「冒険者もいろんな奴がいるから、それぞれの得意分野を役割って括りにして、冒険者の情報として登録するようになってるんだ。例えば俺は『剣士』として登録してる。」
「なるほどね。特に自分が何できるかわかんないから、調べられるならありがたいかも。」
「では、登録用紙をお預かりして、能力確認と適性検査をしましょうか。」
こちらへどうぞ。という案内のもと、別の部屋へと通される。冒険者たるもの強くなるために能力の確認は必須らしく、多くの人で賑わっていた。
「それでは…あ、おトキさんがちょうど空きましたね。1番右奥から2つ目の椅子に座ってるおばあさんのところに行ってください。」
昔の日本人みたいな名前のおトキさんの元へ向かう。鑑定師と呼ばれる人たちは年齢もバラバラで、おトキさんはその中でも最高齢のようだ。
「いらっしゃい。これはまた随分と若いお客さんが来たんだねぇ。」
「あーい。」
「私のことはばぁばとでもお呼び。」
「ばー?」
「えっと、ばぁばさん鑑定お願いします。」
「誰も小娘にばぁばと呼べとは言ってないね。」
ばばぁ、私と勇人への扱い違いすぎません?
「まぁ、まずはこいつから見てくれないか?」
そう言ってリトがポンと私の頭に手を置く。
「かっこいい兄ちゃんの頼みなら仕方ないね。小娘、右手を出しな。」
拒否してもいいですか?
しぶしぶとおトキさんに向かって右手を差し出す。何やら呪文をぶつぶつ唱えると、手のひらに文字が浮かび上がっては消えを繰り返し、その度におトキさんは紙にペンを走らせる。
「ほぅ。なかなか面白い小娘だねぇ。ほらよ。」
そう言って紙を手渡される。どうやら鑑定は終わったようだ。
「俺も見ていいか?あとで俺のも見せるし。」
もちろんと頷いて、リトとともに内容を確認する。
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名前: ユリ・ナツメ
性別: 女
年齢: 16歳
出生: 不明
レベル: 1
魔力: B
魔属性: 火:ー、水:D、風:ー、土:ー、光:S、闇:S、無:B
魔法:ー
力:I
守:I
速:E
技:H
スキル:
・言語自動通訳
会話や読み書きが自動的に正しい言語へ変換される。
・料理人
料理に対するスキル補正。体力増加、疲労回復の効果付与。
・勇者の育て親
勇者の成長と共に自身の能力向上。
・魅了
優れた容姿で相手を魅了する。魔物にも効果あり。
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「ステータスってこんな感じなんだねぇ。」
「やうー。」
「この勇者って何だろうね?勇人の間違い?」
「私の仕事にケチつけようってのかい?」
「滅相もございません。」
それにしても、言語自動通訳があったから便利だったのね。料理人も悪くない。勇者の育て親は謎だけど。魅了もこの世界の基準で行くと何故か私は可愛い方らしいから…うん、自分で自覚ないから照れる。ひとまずラッキースキルとしよう。
そういえばリトさん固まってるけど、どしたんだろ?
「とりあえず次はその赤ん坊を寄越しな。後がつかえてるからね。」
くっ。なんだろう、この魔女に息子を差し出す雰囲気は。あー勇人〜!
「ばー?」
魔女の膝の上で可愛く首を傾げる勇人。
魔女と一緒でも可愛さは失われない。
私の時と同じで、文字が浮かんだら消えたりしてるんだけど、何故かやたらピッカピカしてる。
人によって差があるものなのかなー?
うん。鑑定は終わったみたい。
「勇人〜!おかえり。痛くなかった?大丈夫だった?」
「鑑定しただけで痛む訳がなかろう。…にしても、これは驚いたな。ほれ、ひとまず目を通すんじゃ。」
勇人のステータスの書かれた紙をもらう。
リトも気になるからか、今度は特に何も言わずに身を寄せてきた。
…え、うそん。