夕食と大地の妖精
「ふむ、これは美味いし、初めて食べる味だな。」
今日の仕事を終えたアンソニー一家と一緒に、遅めの晩御飯を食べる。
食堂の残り物が普段から晩御飯だそうなので、残り物をそのまま食卓に出した。
「このホワイトソースとパスタは便利ですね。小麦粉を生かせるし、何より作り置きが出来る点が助かるわ。」
シャロンさんも大絶賛だ。ちなみにほとんど事前に仕込んだので、既にレシピは共有済み。パスタについては、最後の方はマリーちゃんが主体で作ってたぐらいだ。
パンが名物なだけあって、厨房に大きなオーブンがあるのが一番の助けになった。時間がない時にはイナリの魔法という力技も使ったが、それ以上にパイなどを大量生産できるオーブンは素晴らしい。
身体を動かしてきた男性陣は、物凄い勢いで目の前の料理を平らげていく。さすが体力勝負な仕事をしているだけある。
呆気にとられて見ていると、「まんまー。」と勇人からご飯の催促。熱いと食べられないので、勇人にはちょうどいい温度にイナリが温めた晩御飯を食べさせている。人様の食卓をベタベタにするのは引けるので、今日は久々に食べさせているところだ。
「はい、あーん。」
「あー。」
最近また大きくなってきたけど、相変わらず可愛い。ちゃんと食べて、運動もして、すくすく育ってきている。もっとたくましく育つんだよと思いながら、勇人が完食するまで食べさせていた。
私の料理人スキルの効果や、リトやイナリとの効率的なトレーニング、通常ではあり得ない赤ん坊時代の戦闘による経験値獲得など、様々な要因が絡み合って、この世界で歴史的にも類を見ないハイスペック勇者に育っていることは、この時点では誰も知らなかった。
後片付けをしてから、アンソニー一家に水やおけをかりて、魔法で温めたお湯で身体を拭いてから魔法でも清めて、すぐにベッドに横になる。
旅から続けて働いていたので、疲れが溜まっていたのか、勇人やイナリはとっくに夢の中だ。
「あんまり良くないんだろうけど、また私の世界の知識で料理作っちゃった。ごめんね。」
横になりながら、リトと向かい合う。
リトが変に目をつけられないように心配してくれているにも関わらず、困っていたので形振り構わずに料理をしていた。なるべくスキルの恩恵がいかないように、教える名目でシャロンさんやマリーちゃん中心に仕込みはして貰うように努力はしたけど。
「ゆりなりに考えた上で、教えてることなら何も反対はない。特に何か害があるって判断した訳じゃないなら文句もないさ。見て見ぬ振りをするんじゃなくて、一生懸命に頑張ってるゆりが好きだからな。」
私の頬を撫でながら、リトが応えてくれた。
いつも私のことを考えて、否定するのではなく受け入れてくれる。出会ってから過ごした期間はまだまだ短いけれど、リトの優しさに触れるたびに、泣きそうに嬉しくなる。この世界でリトに会えて良かったと。
リトの顔が角度を変えて何度も近づく。唇が触れるたびに胸が甘く疼く。
もっとリトやみんなを支えられるようになりたい。そう思いながら、久々のベッドに深い眠りに落ちていった。
もぞもぞ動く小さな塊。
時刻はアンソニー一家含めた全員が寝静まった真夜中。音に敏感な白狐も、普段とは違う疲れた野生とは違う安心感の中で深い眠りについている。
ふわりと、小さな身体が浮かび上がり、少し埃っぽいために開けてあった窓の隙間から外に出る。
赤ん坊が屋根裏部屋の窓から飛び出すという、想像もつかない事態は、見る人が見たら絶叫する光景だが、時間帯もあって誰も見ることはない。
ふわりふわりと降りた先には、大きな白い身体の獣が横たわっていた。その獣の上に着地する。
(赤ん坊は大人しく寝る時間帯だぞ。)
額から鋭い一本の角が生えた、大きな獣が赤ん坊に語りかける。永く生きているために賢い獣は、他の人間には通じない言葉も、この赤ん坊には言葉が通じることを理解していた。
「やうー。」
赤ん坊自身は、まだ言葉を覚えたてなので、会話をすることは出来ない。
ふわりと浮かんで、ウィースの角をペタペタと触る。ユニコーンの角は、金色に輝き、ドリルのように螺旋状に渦巻いている。
「そのこがゆうしゃ?」
「このこがゆうしゃ?」
ふわりと羽を生やした生き物があちらこちらから飛んできた。その身体は小さく、薄っすらと緑色に光り輝いている。
(大地の妖精達か。いかにもこいつは勇者だ。)
「うー?」
「わーい!ゆうしゃだ!」
「やーい!ゆうしゃだ!」
「みつけちゃったね!」
「かわいいね!」
小さな妖精達はひらひらと勇人の周りを飛び回る。
「ここであったが、せんねんめー!」
「もっとじゃない?」
「けたがちがうよ!」
「なんでもいいよー!はやくしようよー!」
「そうだよ!いまがチャンスだよ!」
次々に喋る妖精達をポカンと見つめる勇人。
「やっぱりゆうしゃ!すてきなまりょく!」
「やっぱりゆうしゃ!きれいなこころ!」
「しゅうかくさいで!すてきなきぶん!」
「さいこうにハッピー!」
「だからみんなでプレゼント!」
「おおきくなーれ!」
「つよくなーれ!」
「ははなるだいちのおくりものー!」
妖精の掛け声と共に、無数の小さな光が1つになる。
「あうー。」
勇人が手を伸ばして、光に触れる。
光が弾けて、勇人の中へと吸い込まれる。
「これであなたもだいちのこ!」
「わたしたちがみかただよ!」
「うー?」
「あそぼーよ!」
「あそぼーあそぼー!」
「あいー!」
ふわふわと飛び回る妖精。
それを追いかけるふわふわと浮かぶ赤ん坊。
しばらく飛び回り、戯れて遊び回る。
「しゅうかくのおまじないー!」
「おまじないー!」
収穫祭の時期には、妖精達が豊かな土地を祈って魔法を振りまく。
それを真似して魔法を使う赤ん坊を見ながら、のそりと起き上がるユニコーン。
(勝手に大地の妖精が加護をつけよった…。我は知らんぞ。)
しばらく赤ん坊を見つめる。空が明るみ始めたところで、眠くなったのか勇人は窓から部屋へと戻っていった。
「またあそぼーね!」
「あそぼーね!」
ふわふわと去っていく妖精達を見送り、ヒヒーンとユニコーンはいなないた。
「ん…。」
何かの声で目が覚める。
「ぱんばー…。」
小さな身体がもぞもぞと胸の辺りで動く。
覗くと目を閉じているので、どうやら寝言だったみたいだ。
そっとすべすべな頬っぺたを触り、気持ち良さそうな寝顔に顔が綻ぶ。そっと頭にキスを落とす。
風を感じて自分の背にある窓を見ると、窓が全開になっていたので閉める。
「風で開いたのか?」
少しの疑問を感じながら、再びベッドへ横になる。まだ起きるには早いと判断し、そのまま眠りに着いた。




