手作りパンと黄金道
まずは2日間かけて、草原地帯を駆け抜けた。
視界を遮るものがないので、魔物がいれば事前に避けたり、ユニコーンであるウィースが迫れば向こうが逃げ出してくれるので、特に大きな戦闘もなく日中は順調に距離を稼げた。
ウィースは夜目も効くらしいが、乗っている私達の体力にも限界があるし、緊急を要してる訳ではないので、夜は休むようにした。
ウィースは2〜3時間しか睡眠時間がいらないとのことなので、ウィースをメインに夜の見張りは時間を区切ってたてることになった。基本的に体力も魔物を追い払う力もない私と勇人は仲間外れだ。もっと鍛えよう。
その代わりに、どんなに疲れていても食事には手を抜かない。ウィースにもごはんは草原の草をメインに、私のブランドした乾草と飼料を混ぜたものを少し食べてもらうようにしている。これも料理として認められるのか、ウィースにも美味しいし疲れが取れると好評だ。
あとは身体を清めて、みんなで喋りながら過ごす。勇人が寝る頃には、リト以外は眠りにつく。夜中まではリトが見張りをして、夜中を過ぎたらウィースに声をかけて起きてもらう。リトのポジションを1日ずつイナリと交代する感じだ。
早めに寝る代わりに、早起きするのは私だ。
朝起きたら、ウィースに挨拶して約束のブラッシングをする。どうやら私はブラッシングのセンスがあるらしく、ブラシを持ってウィースに近づくと、ゴロンと大きな身体が横たわる。
気持ち良さそうなウィースを眺めて、ひと通りブラッシングを終えたら朝食を作る。
昨日のうちに、時間経過付きの空間収納で作った酵母を取り出し、小麦粉と混ぜて生地を作って寝かして置いたのだ。もちろん何回か混ぜて発酵してるか確認もした。
流石に強力粉など小麦粉の種類までわからないので、分量は今後調整していくつもりだ。酵母作り自体も環境も違うから改善が必要かもしれない。
ひとまず生地は膨らんでいる。
せっかくなのでいろいろ試そう。お昼や夜ご飯の分まで焼いたいいもんね。
ラップとかアルミホイルとかまな板とか、いろんなものがないので我慢しながら作る。何も入れないプレーンパン、ドライフルーツをいれたフルーツパン、小さく砕いたチーズをいれたチーズパン。
浄化した布の上にタネを避難させて、昨日から作っておいた石窯に、この頃には起きてきたイナリに火をつけてもらう。
鍋にパンを入れて、石窯に入れる。
鍋に入らない分はフライパンに入れて、こちらも石窯の中へ。
正直、特にキャンプの趣味がある訳でもなく、ここまで手作りなパンは作ったことないので実験に近い。
火が得意なイナリに石窯の温度を確認してもらったり、時々取り出して確認しながらパンが焼き上がった。
パンを冷ましている間に、野菜入りのスクランブルエッグとホットミルクを作ったら朝食の完成だ。
起きてきたリトがテントの片付けを終えたところで、朝ごはんを食べる。
はっきり言うと、日本で食べてたふわふわな白パンには劣る。小麦粉は製粉技術の問題なのか全粒粉だし、やっぱり発酵具合や分量がよくないのか、もそもそする。焼きたてな点では美味しいので、フルーツパンやチーズパンはなるべく昼以降に残して、プレーンパンを優先的に朝ごはんで食べた。
リトは旅中で焼きたてパンが食べれることに感動して大喜びだった。もっと練習して美味しいパンを食べてもらおう。
そんなこんなでさらに2日進むと、あたりが小麦畑で黄金色に染まった。ちょうど秋頃なので、小麦の収穫シーズンらしい。
黄金道と呼ばれるこの一帯は、この世界でも1.2を争う穀倉地帯だそうだ。そのため、近づくにつれて人の往来が増え、商人が乗る馬車が往復している。小麦が色づく黄金色の景色から、黄金道と呼ばれているのだ。
この辺りは街や村というよりは、黄金道に沿って農家や宿屋、食堂や酒場が点在している。収穫祭も控えているとのことで、黄金道の一帯はかなりの賑わいを見せていた。
「小麦畑が綺麗だし、素敵なところだね。」
日本で小麦畑にお目にかかることはないので、私のテンションもかなり上昇した。
リトも全面が麦畑のこの状況は初めて見たらしく、ウィースに乗りながら景色と人の流れを楽しんでいた。
「この時期は各地から商人が集まるので、どこも宿がいっぱいなんですよね。」
そう言って困った顔をしているのは、集落があれば必ずあるという冒険者ギルドのお姉さん。
ソヨンの冒険者ギルドの男の子は、「今は収穫シーズンだからきっと観光としてもいい時期ですよ〜。」と呑気なことを言ってたが、実情はそれだけの人で宿が埋まっている状況だそうだ。
「食糧に困りはしないだろうから、最悪野宿するしかないな。」
せっかくの集落だけど、ふかふかベッドでの安眠は出来ないのか。ぐすん。
「あの…よろしければ、商業ギルドの依頼を受けてみてはいかがでしょうか?」
冒険者ギルドのお姉さんの案内で、穀倉地帯でがっぽり儲けている商業ギルドに到着する。穀物で潤うこの商業ギルドは集落の集会所も兼ねている。
依頼は冒険者ギルドだけではなく、商業ギルドでも扱うそうだ。収穫祭を明後日に控えて、人手が足りないので住み込みの手伝いを募集している可能性があると聞いて、ここにやって来た。
この時期は人手不足を補うために、冒険者ギルドも商業ギルドに積極的に人を流しているそうだ。
そんな現地事情に流されて、途中何軒かあたった宿屋にもことごとく振られて、商業ギルドの掲示板へとたどり着いた。
仕事を請け負うのに特に登録等は不要だそうだ。
「これは凄いね。」
掲示板には所狭しと依頼書が貼られている。
仕事内容も多種にわたる分、報酬や雇用条件もバラバラだ。
「とくに金に困ってる訳でもないし、待遇として宿の提供か住み込みさせて貰えるものを中心に探すか。あとは長居するつもりもないから、期間は収穫祭含めた3日程度だな。」
仕事内容もある程度確認しながら、手分けして探す。本当にたくさんあるなぁ。探すだけでも日が暮れそう。
「まんまー。うー。」
勇人が掲示板の端へ手を伸ばす。
「何か気になるのー?」
勇人の手を伸ばす方へ移動すると、掲示板の右端の一番下、目立たない位置に埋もれている依頼書を掴む。
「勇人!ぐしゃぐしゃにしたら、めっだよ。ママに渡してね。」
勇人から渡された依頼書を見る。
依頼者はアンソニーさん。祖父母と奥さんと2人の子供達と一緒に、家族で小麦作りと食堂を経営しているそうだ。現在奥さんは3人目の子供を妊娠中で、祖母も1週間前に腰を痛めてしまって、とにかく人手が足りないそうだ。
仕事内容は小麦の収穫、食堂の手伝い、収穫祭での出店の手伝い。
報酬は、1人あたり収穫した小麦で作った小麦粉10キロ。待遇は、屋根裏部屋での寝泊まり(ダブルベットが一台でサブベッドも用意可)、朝晩の飲食。期間は収穫祭終了まで。
うん。これいいんじゃないかな。
特にお金目的でもないし、パン作りで小麦粉は減ってきてたからタダで貰えるなら嬉しい。
リトに早速声をかけて、商業ギルドの人に話を聞く。パンが美味しいって評判の食堂で、アンソニーさんの人柄も良いらしく、直ぐにでも手伝ってあげてほしいとのことだった。
商業ギルドの人も忙しそうだったので、依頼書を持って直接アンソニーさんの家を訪ねることになった。




