乗馬と商品化
「なんと、ユニコーンをお仲間にしたのですか!?」
夕飯をご馳走になる中で、トニーノさんの目がキラリと光る。あれは商人の目だ。
「うー。めー!!!」
本能的にウィースの危機を感じたのか、勇人が声を上げる。
「貴方、子供に見境のない姿を見せるのはやめてくださいな。」
「すまん。ユニコーンは珍しいからな、思わず反応してしまったよ。」
「ユニコーンの角ってかなり高く売れるんだよね。」
「カレンもお黙り!すいませんね。うちの家族が。」
流石カレンちゃん。トニーノさんの娘だ。娘は父親に似るって言うし、将来いい商人になりそうだなぁ。
「勇人はウィースを庇って偉いなぁ。」
「あいー!」
勇人もどんどん賢くなってるし、新しい仲間も増えるし、私も頑張らなきゃね。
(みごとにちゅっこみがだれもいないでしゅ。)
イナリだけが冷静に団欒風景を眺めていた。
「ぱー!めー!」
「小さいからって甘やかして貰えると思うなよ。勇人、パパに譲れ。」
さっきの仲の良い2人はどこに行ったの。
現在お借りしている部屋の中、シャワーも浴びて、もう寝る準備が整ったところで、このやりとりが始まった。
イナリはソファの上で、眠そうに前足で耳の後ろをかいている。
ツインのベッドの上で、片方のベッドで勇人のおしめを換えて、勇人は私の膝の上に座っている。
向かい合わせでリトが腰掛けている。
きっかけはどちらのベッドで誰が寝るか、という話からだ。本当にどうでもいい。
解決策として、ベッドをくっつけようかと思ったけど、ベッドが壁に固定されているので動かすことは出来ない。
勇人が「まんまー。」と喋っておねむモードに入るときに、リトがちょっかいかけてきた。
「勇人、パパとママは旅先でいちゃいちゃが足りないんだ。今日はママはパパに譲ってくれ。」
いちゃいちゃが足りないってなんだ。本人は深刻な表情で言ってるけど。
「お前はママのふわふわな胸にいつでも抱きしめられるけど、俺は夜しかチャンスはないんだ。勇人、頼む。」
リトさん、言ってることがしょうもなさすぎて、私引いてるよ。イケメン度が半減どころかマイナスだよ。
「やー。まんまー。ゆうのー。」
「あ?ママは俺のだぞ。」
幼児に本気になるなー!
「リト、私とリトで寝ると狭いから、私達は別れる方がいいと思うよ?」
「狭いからいいんだろうが。」
「まんまー。」
腕の中の勇人が上目遣いで見上げてくる。
と思ったら、勇人がリトに取り上げられた。
「勇人、自分が可愛いってわかってて上目遣いは狡いぞ。ゆりみたいに天然で自然とやるならガチで可愛いけど、勇人は男なんだ。自分の可愛さを武器にしても将来使えないぞ。勇人は確かに可愛いけど!」
なんかリトがどんどん残念になってる気がする。
「むー。ぱんぱ、やー!」
ガーン!
って効果音が付きそうな顔でリトが衝撃を受けてる。あれは効くね。私が勇人に言われたらショックで寝込むかも。
「イナリ〜一緒に寝よっか。」
コンッという元気な返事をして飛び込んできたイナリを抱きしめて、ふわふわもこもこに埋もれて眠りについた。なんだかんだあの父子は仲良いからね。
翌朝、久しぶりに夜泣きを続けた勇人と、それに付き合ったリトは午前中かけて眠り続けていた。
マラナちゃん達ご家族が訪ねてきて、自家製の野菜をたくさん頂いた。本当にありがたい。
マラナちゃんとカレンちゃんがウィースを見たいとのことなので、ウィースの餌を買いがてら一緒に行くことになった。
基本的にはウィースは草原なら食料に困らないだろうけど、念のためにウィース用の餌である乾草を購入した。あとで空間収納に入れよう。
ヒヒーン!
馬のいななきが聞こえる。
獣舎の近くに、すでに離されて鞍をつけたウィースがいた。
「わー!お馬さん大きいねー!」
「角も大きい!」
マラナちゃんとカレンちゃんも大喜びだ。
こちらに気づいたウィースが私の側に寄ってきて頭を下げる。撫でてってことかな。
撫でると嬉しそうに尻尾をパタリパタリと揺らす。うん、可愛い。
「普通は主人に先に挨拶するだろ。」
呆れたようにウィースにリトがつぶやいている。
リトは乗馬経験があるらしく、マルセロさんにいくつか注意点などを聞いてから、ウィースと会話していた。
それから少しだけウィースに屈んでもらって、鐙っていう馬具に足をかけてひらりとウィースの上に登った。
「やっぱりでかいだけあって、高さがあるな。少し走ってみてもいいですか?」
マルセロさんに声をかけて、リトとウィースが走り出す。
「あの暴れ馬が大人しく走ってるとは、余程相性がいいんでしょうね。」
マルセロさんが言うには、ユニコーンは賢くて気高い魔物なので、いくら主人でも嫌なら本気で嫌がるらしい。リトがすんなり乗りこなしているところを見ると、リトを認めているか、かなり相性がいいとのことだ。
なんだか羨ましい話だ。
ウィースに語りかけながら走るリトは、まるで物語に出てくる白馬の王子様だ。リトはイケメンだし、ウィースも他の馬に比べてキリリとしているイケウマだ。しばらく見惚れていると、リトが戻ってきた。
「まずはゆりも勇人も慣れておくために一緒に乗ろう。」
そう言ってウィースの上から手を差し出すリトは、鼻血が出そうなくらいイケメンだった。
まずは勇人をリトに渡して、私も登ろうとする。
リトみたいな長い脚じゃないので、ウィースが少し屈んだぐらいじゃ登れない。
もう少し屈んでもらって、あとはリトに身体ごと引き上げて貰った。
た、高い。
リトの前に跨いで座らせてもらって、勇人を抱っこ紐で固定してから抱きしめる。
思わぬ高さに、私の前で手綱を握るリトの手をぎゅーっと握りしめて、リトにすり寄ってしまう。
「ウィースは賢いから振り落とされる心配もない。まずは歩いて慣れてみよう。」
う、ううう動いたー!勇人まで動かないでー!
しばらく、本当にしばらく歩いたらようやく慣れてきた。慣れてきたところでスピードアップ。
ゆっくり歩くことにストレスが溜まってたのか、ウィースの速度がかなり速い。
勇人はきゃっきゃと喜んでる。
いつの間にか乗り込んでいるイナリも、他の魔物の上に乗って移動するという未知の体験に顔を輝かせていた。
しばらくしてウィースが止まると、私は降りたらヘロヘロだった。生まれたての子鹿のように足が立たない。そしてお尻が痛い。
「お兄さんは想像以上に乗りこなしたが、お嬢さんは想像以上に乗馬が下手だな。」
マルセロさんがコメントとともに、鞍に私が掴める取手と、思ったより不安定な私の負担を減らすために、勇人をウィースに固定できる方法を検討してくれるみたいだ。ありがたい。
そのまま立てない私を勇人ごとリトが抱えてくれて…なんとお姫様抱っこだよ!
旅も近いので、魔物に襲われた時にどうするかなど、通訳のできるイナリとともに話し合った。こうやって考えると、イナリってかなり便利なスキルを持ってる。さすが私の子。
雑魚なら蹴散らすというかっこいいウィースの言葉に甘えて、基本的にはウィースが蹴散らすか逃げるかしてやり過ごす。
もし倒す必要があればイナリが主体となって魔物を倒す。あまりにも数が多かったり、不利だと判断した場合は臨機応変に、リトが助けに入ったり、ウィースで全速力で逃げる。
私は防御魔法でウィースのサポートや自衛、余裕があれば探索魔法で敵の数を把握してほしいとのこと。
旅のフォーメーションが大体決まったところで、マルセロさんにお金を払って、ウィースをトニーノさんの家まで連れて帰ることになった。事前にトニーノさんには伝えてあるし、明日の朝に馬具の最終調整にマルセロさんがトニーノさん宅に来てくれるそうだ。
「そういえば、ウィースのお金って大丈夫だったの?ウィースって魔物の中でもかなり貴重だし、お値段しそうだよね。」
慣れる目的も兼ねて、再びウィースに乗りながら尋ねる。マラナちゃん達は流石に乗るのは怖いらしく、歩くウィースの周りをくるくる回りながらはしゃいでいる。
私はウィースのたてがみを撫でながら、リトの返事を待つ。
「あぁ。払えなくはなかったけど高かったな。もともと馬を買うこと自体安くない買い物だからな。トニーノさんに泊めてもらってだいぶ助かった。」
貰い手のいない魔物ということで、割引はして貰ったらしいけど、それでも財政を圧迫するくらいの支出だったらしい。次の街までにも魔物を討伐して稼がなきゃと、リトが呟くほどだ。
「あのね、私に少し考えがあるの。」
トニーノさんの家に戻ると、リベアさん達が団欒していたので、全員に合わせて話を聞いてもらうことにした。
「お世話になっているお礼も兼ねて、トニーノさんに取引をさせて頂きたいと思ってます。」
途端にトニーノさんの顔が商人の顔になる。
「実はその取引の商品の作り方は、既にリベアさんや一部の冒険者の方に教えています。」
いきなり話題を振られたリベアさんが混乱している。
トニーノさんの前に私の手作りシャンプーを置く。
「効果はリベアさんとマラナちゃんが知っています。薬草術で出来る内容なので、オリジナルでも何でもないですが、女性の方には需要があると確信しています。」
「さっきまで丁度その話題で持ちきりだったのよねぇ。」
トニーノさんの奥さんという思わぬ援護射撃が入る。
「旅から帰って来たばかりなのに、リベアさん達の髪の毛がサラサラでしょう?オリエンテで素敵な石鹸でも見つけたのか聞いていたところだったの。」
そう言ってこちらにウインクをしてくる奥様。確信犯で応援してくれてるみたいだ。ありがたい。
「特に秘匿されているようなレシピでもないですし、材料と道具、作り方を知れば誰でも作れます。それでも、必ず売れるし利益になると思っています。このシャンプーの技術買いませんか?」
「ゆりは売っていいのか?」
リトが質問をしてくる。
「私はお金儲けよりも、このシャンプーがすぐにでも手に入る環境が整う方がありがたいです。基本は旅をしてるから、どうしても生活用品は後回しにしなくちゃいけないし。」
特にこのシャンプーやクリームって精油を作る必要があるから、ぶっちゃけ面倒なんだよね。
クリームを作った精油の残りで、このシャンプーは密かに作っていた。たまたま旅先で脚光を浴びたけど、同じようなクオリティのシャンプーが買えるなら、シャンプーを買える環境を作りたい。恐らく皆んなが使ってるシャンプーとの違いって、精油と少しの蜂蜜、シャボンの実の量ぐらいだと思う。
「リベアさんにお聞きしたいのですが、ゆりさんから聞いたレシピでシャンプーは簡単に作れそうですか?」
「精油は1からしたことはないのでわかりませんが、その他の材料はこの辺りでも手に入るものばかりです。作ってみれば出来ると思います。」
「わかりました。ゆりさん、実はこの街は野菜の他にも春になると色とりどりの花が咲くことでも有名なんです。」
うんうん。マルセロさんにそれを聞いたから、今回のことを思いついたんだよ。
「その顔を見るとご存知だったようですね。精油作りも1つの産業として最近確立してきたところでした。化粧品は高いし汎用性はないが、頭用の石鹸であれば実用性もある。その話、お受けしましょう。」
やった!
「恐らくあのユニコーンの購入で財政状況が悪くなっているのでしょう?お金は私の言い値でもよろしいですか?」
むむ。全部お見通しだったんだ。
「私は作り方はわかりますが、価値まではわかりません。その辺りはトニーノさんにお任せします。」
こうして、ゆりは旅の軍資金を手に入れた。
交渉成立後、トニーノさんの保管している精油を使って、シャンプー作りのデモをおこなった。やはり奥様方からは好評のようで、街おこしもかねて、シャンプーの売り方は検討されるそうだ。
お金は明日まとめて貰えるとのことなので、部屋に戻って旅の身支度を整える。
旅路が伸びたぶん、早めに出発することにしたのだ。
ちなみに試しで手作りしたシャンプーは、旅の餞別として頂けることになった。いろんな種類の精油を使ったので、いろんな香りがあって嬉しい限りだ。1人じゃ絶対に作れない。
シャワーを浴びて髪を乾かすと、くんくんと後ろから抱きしめながら私の髪の匂いを嗅ぐリト。
「洗い立てだけど、匂い嗅がれるのはなんか複雑な気分。」
「いや、ゆりの髪ってずっとサラサラだしいい匂いだったから、そんな理由があったのかって思って。今日初めて知った。」
確かに嗜好品に近いから、リトには伝えてなかったんだよね。
「自然とこんな香りにはならないよ。」
「ゆりだからあり得るかと思って。」
どういうこと?
ちゅっ。
「唇も肌も甘いから、匂いもあり得るかなって。」
リトの糖分が高いからだと思います。
長い旅路の前日は、穏やかな気持ちで眠りにつきました。




