勇人の魔法とソヨン到着
「魔法では病は治せません。魔法で出来るのは、復元する、取り除く、塞ぐといった物理的な関与です。魔法は傷を塞ぐことは出来ますが、失われた血を戻すことは出来ないんです。」
現在再び移動中。ミレーナさんに回復魔法について教えて貰っている。もちろん、先日あげたシャンプー代だ。
「そのため、治療に最も効果的なのは回復魔法と薬草術の併用だといわれています。国に使える医者達の使う『医術』が、その2つを極めたものです。」
この医術はかなり専門的になるので、冒険者で使える人はかなり稀で、もし使えるならばその人の取り合いに発展するレベルだそうだ。
「冒険者の常識としては戦闘中に使うのは回復魔法、長期的に治すのであれば薬草術です。回復魔法は専門的な知識はいらないので、冒険者からは重宝されています。薬草術は薬草を覚えたり、調合が必要なので直ぐに使えませんからね。」
ふむふむ。
確かに旅を続けながらだと、都度調合が必要な薬草術は面倒だし手間がかかる。物理的な荷物にもなるので、実用的なのは回復魔法なのかもしれない。覚えておいて損はないってことか。
「そこで、私がお教えできるのは、治癒の魔法です。回復魔法の中でも基本の復元をする魔法で、魔力操作に長けていれば、これだけで大きな傷を塞ぐことも出来ます。」
めっちゃ便利やんけ!
「ただ、数の大きさや程度がわからないと効果がかなり下がるので、外傷に効く程度だと思ってください。」
それ以上は医術の領域になるらしい。
ミレーナさんに呪文とイメージを教えてもらう。
うん。覚えられる長さだ。
いざ実践ってことで、リトが昨日負ったらしい小さな傷に魔法をかけてみた。綺麗に治って感動した。
使ってみて、確かに元の状態がイメージ出来ない怪我だと治せないし、骨折とか目に見えないものは想像できないから治せない。幸いにポーションがあるから、そういう場合は薬草術になるのだろう。
それでも、シャンプー代にしては素晴らしい魔法を教えて貰った。
「これでタルメアの分もちゃらでお願いしますね。それとレシピも頂けるとありがたいです。」
ミレーナさんはちゃっかりしていた。
再び夜、そしてテントの中。
「ぱんぱー。たーい?」
「ん?あー今日擦りむいたんだな。小さな傷だから大丈夫だぞ。痛くない。」
思わず魔法が試せると思ってリトに視線を向けたら、魔法の無駄使いはするなとのことです。はい。
「ぱんぱ。たーい。やー。」
それでも勇人は気になるらしい。
「は?」
「ゆーとしゅごいのでしゅ。まほーでしゅ。」
なんと?
みんなでリトの肘を覗き込む。
リトが触れる範囲から傷が治っていく。
「勇人の癒し効果?」
「普通に魔法だろうな。昼間じっと見てたから、もしかして覚えたのか?」
「あいー!」
完璧に治って勇人はご機嫌だ。
「ありがとうなー勇人。すごいぞー。」
うん、リトは勇人には親バカだ。甘い。
勇人も喜んで飛び上がって宙返りしてるよ。嬉しいんだね。
って、飛び上がって宙返り!?
ふわふわと浮かびながら、手を叩く勇人。
「勇人に下手に魔法見せると勝手に覚えていきそうだな。」
勇人の勇者な天才っぷりを目の当たりにしました。
そんな感じで旅路は進み、ソヨンの街に到着した。オリエンテの街とは打って変わって、畑に囲まれて、家畜となる魔物が放牧されている、田舎の街といったイメージだ。
オリエンテのように塀で囲まれているのではなく、ところどころに魔人形といういわゆる魔物避けの案山子が立てられている。
外からの魔物の浸入防止と、家畜の逃亡防止の2つの役割があるらしい。
乗り合い馬車は街の中心部、藁葺き屋根のお店の並ぶ一帯で止まった。
「ソヨンの街に到着だ。またのご利用お待ちしてるぜ。」
御者の2人の声を合図に、それぞれ荷物を降ろすなど身支度を整える。
「リトさん達はこのまま乗っていてください。私の荷物が多いので屋敷まで馬車で運んでもらう予定なので。」
トニーノさんのいう通りに、このまま乗せてもらうことになった。
「お姉さん、明日になったらお野菜たくさん届けるね!」
マラナちゃん達が明日野菜を届けてくれるらしい。もちろんシャンプー代だ。お礼を言って、親子を見送る。
「この街にはどれくらい滞在するんだ?」
ここ数日ですっかり仲良くなったらしい、リアスさんとリトが会話する。
「俺たちはまずはポトムを目指してるから、この街にはいても2、3日だな。食料と丈夫な馬を一頭買ったら、旅に出る予定だ。」
そう、まだ目的地までの道のりは長い。
ソヨンまでの道のりは平原が中心なので5日程で到着して、地図上は5分の1程進んでいるけど、この先は森や渓谷など起伏や複雑な道も増える。
ソヨンまでの道でずっとお世話になった川はマンテノウス山脈から流れてきているそうなので、基本的には川沿いに進めば山に着く。ただ、今回はポトムをまずは目指すので、道も含めて改めて冒険者ギルドへ相談することにした。
「ポトムを目指してるのか、武器の調達には行ったみてぇが、うちはミレーナがいるから嫌がるな。」
なんでもエルフとドワーフは仲が悪いらしく、ハーフエルフのミレーナさんも、ドワーフの人達と気が合わないらしく、好んで行き先には選ばないそうだ。
「俺らは行き先が決まるまではここにいる予定だ。また会った時には飯でも食おうぜ。」
「元気でな。」
それぞれ挨拶をしてその場で別れた。
馬車は街の中心部から奥へと進み、藁葺きだけれど他の家よりも格段に大きいトニーノさんの屋敷が見えてきた。屋敷を見るだけでも、トニーノさんが裕福なのがわかる。
馬車から荷物を降ろして、御者の2人は馬小屋と馬車を置く倉庫へと向かっていった。
バタバタと、屋敷から足音が複数聞こえる。
「パパ!お帰りなさい!」
トニーノさんとよく似た、薄いオリーブ色の髪の女の子が出迎える。
「カレン、ただいま。また大きくなったね。お土産もいっぱいあるから楽しみにしてるんだよ。」
「あなた、お帰りなさい。あら、お客様もいらしてるのね。」
赤髪の恰幅のいい奥さんも出迎えてくれた。
私達はお世話になる旨と挨拶をして、お邪魔させてもらうことになった。
1階はキッチンやリビング、ダイニングなどの団欒スペースがあり、2階が家族の寝室や私室になっているそうだ。私達の泊めてもらう3階は客室とトニーノさんの書斎になっている。地下にはワイナリーや倉庫があるそうで、トニーノさんが仕入れたものも一部は地下に運ぶ。
商品の大半は家の外にある大きな倉庫に運び、御者の2人が倉庫番として倉庫横の小屋に居住スペースを構えているらしい。
部屋に案内してもらって、一息つく。
ツインベッドにタンス、ソファーといった基本的な家具が配置されている。
手洗い場は1階に共用であり、洗濯は井戸近くの洗濯場、手洗い場に簡易シャワーがあるのでシャワーはそこで浴びさせてもらえることになった。
この数日で固い乗り合い馬車の椅子に座り続けてたから、ソファーが落ち着く。宿を探す手間も省けてよかった。
「シャワー借りてから、冒険者ギルドに寄るか。せっかくだから街の様子も見て回ろう。」
ひとまずシャワーと洗濯場を借りて、身支度を整えてからソヨンの街に繰り出した。




