見張りとイナリ一人旅の話 side リト
夜も早いうちに、勇人、イナリ、ゆりはぐっすりと寝てしまった。
慣れない旅で疲れたんだろう。もともと無理をさせるつもりはなかったが、これからの旅路を思うと徐々にでも慣れてもらうしかない。
テントの外に出ると、後ろからピョンと白い物体が飛び出した。
「イナリもてつだうでちゅ。」
そう言ってすりすりと寄ってきたのはイナリだ。
「起きてたのか?」
「おひるまにごえいのはなしがきこえたから、おきてたでちゅ。」
なんとも明確な答えが返ってきた。
「聞かれてるとは思ってなかった。」
「イナリはみみがいいのでしゅ。」
自分の身体と同じくらいの大きさの尻尾をぶんぶんと振って、威張るイナリ。
確かに耳がいい。
「おひるまにおひるねしてたからねむくないでしゅし、イナリはもともとよるはつよいのでしゅ。」
だから、夜の護衛に連れて行けと、言外に訴えてくる。
「ととさまはおひるまにがんばってたから、ねるでしゅ。なにかあったらイナリがおこすでしゅ。」
そうは行かないだろうと、リトは思うがイナリは真面目だ。
イナリを信用していない訳ではないが、任せきるのも気が重い。
「とりあえず行くか。」
馬車の近くに寄ると、冒険者グループの中にいた1人、浅黒い肌に高身長な女性冒険者がいた。
槍を持っているところを見ると、槍使いなのだろう。
「私はタルメアだ。短い付き合いだがよろしくな。イケメンさん。」
差し出された手を握り、こちらからも挨拶をする。
なぜかイナリが臨戦態勢だ。
「奥さんと子供を残して、女と密会…かと思いきや、ちゃんと番犬連れてきてるんだね。おっと、犬じゃないね。可愛い狐だ。」
ぐるると威嚇していたイナリだが、撫でられると威嚇しながらも尻尾がぶんぶん揺れている。
こういうところはまだ幼い。
「リーダー達とも話して来たんだが、毎晩全員で交代しながらだと、私達も全員がまともな睡眠がとれない。あんた入れてちょうど6人だから、2人ずつで3日交代で夜営の見張りだ。それでいいか?」
「もちろんだ。こっちも赤ん坊がいるから、ゆりの見張りを免除してもらって感謝してる。割り振りは任せる。」
それでは早速ということで、馬車の前後に分かれて見張りを始めた。
この夜営地の周りも、比較的に木は少ない草原地帯なので、魔物がくれば分かりやすい。
それでも、夜闇の中なので目を凝らさないと見逃す恐れがある。見落とすことがないように、二手に分かれて見張りはおこなわれる。
リトは馬車の荷台の後ろ、馬車に乗り込む段差に座った。
「ととさま、おやちゅみなしゃいでしゅ。」
そうそっとイナリに囁かれた。
いきなりかと苦笑する。
しばらくはまだ眠くないからと、見張りをすることにした。
本当に眠くなったら少しだけ甘えよう。
サワサワと草原の草が揺れる。
そよそよと草の香りをまとった心地よい風が吹き抜ける。
「イナリは、1人でどんな旅をしていたんだ?」
ふと湧いた疑問を口にする。ずっと聞きたくて聞いていなかったこと。
幸いにも葉が擦れる音が大きく、風や小川の音が大きいので、タルメアや馬車の中の人間には小声で話す分には聞こえない。
「ははうえがいたときは、きびしくもやちゃちく、たたかいかたをまなんでまちた。」
「ははうえがいなくなってからは、てきとたたかいながら、ずっとまえにすすんでまちた。」
行き先なく旅を続けてたのか。それが幼い身にはどんなに辛いことだったんだろう。
促すように、イナリの背を撫でる。
「もりをえらんですすんでたから、たべものはだいじょぶでちた。でも、あんしんできなくて、たびのひとたちに、ひとにばけてまもってもらったこともありましゅ。」
自然の中で生きるには、常に警戒が必要だ。
同じ種族の仲間もいないイナリは、満足な睡眠がとれなかったのだろう。
たまに旅人を見つけては、危険かどうかを判断し、無害と判断した時には少年に化けて保護してもらっていたそうだ。
なんかそんな話をどこかで聞いたような…気のせいだろうか。
「そんなときに、つよいてきにしつこくつきまとわれて、たたかってたでしゅ。なんとかかったけど、きがなくなったでしゅ。」
あとは嬉しそうにゆりとの出会いを話してくれた。ゆりから話は聞いていたが、イナリから話を聞くのも視点が違って面白い。
「…イナリはもうずっとひとりだとおもってまちた。ずっとにげて、たたかって、どこかをさがちてました。」
「いまは、ここがイナリのばちょでしゅ。おうちでしゅ。ととさまがなでてくれましゅ。ゆーとがしっぽをだきだきしましゅ。ははさまがわらいかけてくれましゅ。もう、なにもさがちてないのでしゅ。」
居場所を探していた。
ひとりぼっちで、行き先もないままに。
「だから、ととさまのゆめをてつだうのでしゅ。」
夢。
イナリはそう捉えたのか。使命ではなく、懺悔ではなく、夢。
確かに夢の方が希望がありそうだ。
「イナリは強いな。」
「まだまだ、ははさまをまもるからつよくなるでちゅよ!」
身体能力じゃない。
心が真っ直ぐで折れなくて、強い。
「一緒にもっと強くなろう。」
心も身体も。
俺も大切な君を含めた家族を守るから。
たまに居眠りや会話をしつつ、夜が明けた。




