表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/76

宴と出発

その日の晩は、店をあげての宴となった。



あらかじめ常連の人には断りを入れていたらしく、今日はオーダー制ではなく、シンシアさん達が作った同じ料理を全員が食べる仕組みだ。一般客もいつもより高い食事代と自分達が飲む酒代を払えば参加できるようになっている。



宣言通り、シンシアさん達が腕によりをかけた料理が運んでくる。



今日の宴が始まる前に、シンシアさんから伝えられたことがある。この数日間でゆりが作った、こちらの世界では新しい料理や調理法を研究して、密かにマダム・シンシア流に改良していたそうだ。


ゆりの料理はあくまで家庭向けだ。日本人であることや、まだ酒を嗜む年齢でないこともあって、どうしても家庭料理の域を出た料理にはならない。それはゆりが最初から伝えていたことだ。


そこで、夜は酒場として営業するこの店らしく作った料理を、ゆりにも感謝の気持ちをこめて食べて欲しいとの計らいで今日の宴となった。


客にもその前提は伝わっており、皆新しく旨い料理が食べれるとあって、多くの客で賑わっている。



まずは前菜として、塩辛いベーコンの効いたポテトサラダ、ガーリックトースト、茹で野菜のグラタンが出てくる。


ポテトサラダには昨日作ったマヨネーズもどきが少量混ぜられていて、ガーリックトーストはピザトーストからの発想、茹で野菜のグラタンはオニオングラタンスープと茹でることを教えた成果から生まれたものだ。トマトベースのソースで野菜の旨味がある。


お酒のつまみになるように作られているので、どれも味が濃い目で美味しい。リトのエールを飲む手も進む。私はこの世界で成人しているとは言っても、気持ち的にまだ飲むのは早い気がするので、勇人と一緒にオランジュースを飲んでいる。


今日は私達のための宴とのことで、イナリも従魔と紹介して参加している。



「お次はメイン料理だよ。みんなで取り分けて食べてくれ。」


運ばれてきたのは、バケットに生のレタス、トマト、オニン、ハンバーグと茹で卵が挟まれたもの。一言で言うならハンバーガーだ。ケチャップはないので、マスタードとハンバーグの味を濃くすることで味のバランスがとれている。


もう一つのメイン料理は、パイ料理だ。薄くスライスした牛肉の間に、ホワイトソースときのこが挟まれて、それが何層にも重ねられている。それをパイ生地で包んで焼いてあるので、牛肉のパイ包み焼きと言った感じだろうか。


ハンバーガーは、みんな大好きハンバーグの応用で、牛肉のパイ包み焼きはミートパイや昨日振る舞ったミルフィーユカツからアイデアを得たのだろう。


どちらも肉料理なのでこってりしている感は強いが、大抵が男所帯で訪れているのと、目新しく美味しい料理なこともあって、次から次へと飛ぶように無くなっていく。


もちろんリトやイナリも負けじと食べている。


日本にいた時も、基本的には施設で食べるご飯以外は無縁だったので、少し濃いめだがしっかり美味しいマダム・シンシアの料理はゆりも美味しいと感じた。


そこには本当の料理人の腕が詰まっていて、ゆりの作る家庭料理はまた別物で、純粋にまた食べにきたいと思える料理だった。



すべて完食をして、まだまだ夜通し飲み明かす客達とは別れて、シンシアさん達に改めてお礼を言ってから部屋へと戻った。


明日は乗り合い馬車の出発時間が早いので、早めに朝食を頂いて出て行く予定になっている。


気さくに話しかけてくれる街の人たちと喋りたい気持ちもあったが、幼い勇人もいるのでそこは遠慮させてもらった。



次はいつ浴びれるかわからないシャワーを浴びて、明日の用意をしたらすぐに横になる。


勇人とイナリは人が多くて疲れたのか、すぐに夢の中だ。




「しばらくベッドで寝ることもなくなるからな。今日はしっかり寝とけ。」


お酒が入ったからか、眠そうな声でリトが言う。


そのまま私の上に覆い被さって、顔中にキスが降ってくる。


「乗り合い馬車だと人目があるからな。明日からの分もしとく。」


もっともらしいことを呟いて、そのまま口が塞がれる。


私も嫌じゃないから抵抗するつもりは最初からない。


少しだけ明日からの日々を寂しく思いながら、眠りについた。









翌朝、シンシアさん達に見送られてマダム・シンシアの食堂を後にした。


手にはそれぞれの荷物を持っている。

私が軽量化の魔法を使えば、多少重くてもしんどくはない。



オリエンテの門の前に着くと、他の乗客もバラバラと集まりだした。


「おはようございます。予約していたリトです。」


馬車の御者だろう人に声をかける。



「お、こりゃまた美男美女の家族だな。羨ましい限りだぜ。俺はエラトーニ。この通り荷物の運搬をしながら、乗り合い馬車としてあちこちを旅してる。こっちは弟のルスタフだ。」


そう言って、ガタイが良い灰髪の牛の獣人であるエラトーニが自己紹介してくれる。エラトーニに肩を叩かれた一回り小さい青年がルスタフだろう。


「俺はリト。こっちが妻のゆりで、息子の勇人、妻の従魔のイナリだ。」



リトも手短に紹介をしてくれる。

妻のゆりだって。きゃっ。



そのまま馬車へと案内される。

乗り合い馬車だからか、かなり大きな荷車がつけられており、馬も二頭が繋がれている。



赤ん坊を連れているからか、御者台のすぐ後ろの席に案内された。


乗り合い馬車と言っても、人を運ぶのはついでで主たる目的は物資の運搬だ。馬車の中央には積荷が所狭しと積まれていて、左右の荷台の淵がベンチのように椅子が取り付けられているような状態だ。かなり密度が高いが、荷台も木枠に防水性の布が掛けられているような粗末なもので、カーテン式の窓のようなものが付いているので通気性はいいだろう。


積荷の間に何とか荷物を詰めさせてもらって、出発までは外で周囲を観察する。


先ほど挨拶した御者の2人は御者席に座ったり、他の客を案内している。


他の客はと言うと、5名の男女入り混じった冒険者のグループ。少し恰幅のいい旅商人らしきおじさんが1人。母親と5歳くらいの娘の2人組。僧侶らしき年配のおじいさんが1人。


客は合計で12人で、両サイドに6人座る仕組みだ。

ちなみに勇人とイナリは2人で1人としてカウントされている。



馬車の積荷の半分は御者が請け負った配達品、半分は旅商人のおじさんの商売品のようだ。


それぞれ簡単な挨拶をして、馬車に乗り込む。


御者台のすぐ後ろの左側にリト、私(イナリはリトの膝の上、勇人は私の膝の上)、旅商人のおじさん、冒険者の男女2人が乗っている。


積荷で全く見えないが、反対側には御者の後ろから冒険者のリーダーらしき男性、親子、僧侶、冒険者の男女2人の順で座っている。


私たちも冒険者と伝えているので、何かあった時のために荷台の前後は冒険者で固められている。



荷物乗せた時に思ったけど、なかなかの狭さだよね。膝と積荷がくっついているような状態だ。勇人が落ちにくくていいっちゃいいんだけど、あまり快適とは言えない。



「それじゃあ出発します!」


御者台からの大きな声を合図に、馬車がガタンと揺れて動き出す。



後方を見ると、だんだんとオリエンテの門が遠ざかる。



出発の実感を噛み締めながら、私達はオリエンテの街を発った。











のちに、このオリエンテの街は冒険者にとってのはじまりの街という名とともに、ある名物のはじまりの街としても話題となる。



その名物は、とある街の食堂から街中へと広がり、やがて世界中に広がった。



ハンバーガー。忙しい冒険者達の主食として有名になる。



牛肉のパイ包み焼き。冒険者達の成功を祝す宴の定番料理となる。



今はまだそんな未来は誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ